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『心恋、来し方行く末 』
蜜鈴=カメーリア・ルージュka4009


 散り、と、爆ぜゆく火の粉が蝶のように舞う。
 幽かに伸ばした爪先で捕らえようとすれば、それは死の淵へと昇っていった。



 ひらひら。
 はらり。



 逃げていく。
 露と、消える。

 ――お前には触れられない。

 漆の黒に濡れた色が、薄い掌へ朱を刻む。

 ――お前には触れさせない。

 紅を引いた唇が歪に震える。

 ――お前の想いは、全てを殺す。

 それを呪いと言わずして、何と言うのだろうか。



「愛しいと想う者ばかりを喪うなれば……妾は、妾という存在は――……」



**



 焼け野原の郷に、夜が落ちる。
 深深と、心心と。

 見えるものを隠し、見えないものを見せる異の刻は、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)の心に棲まう恐怖を曝した。

 歪虚に滅ぼされた、龍神信仰の地。
 伝承による始祖と同じ髪、同じ瞳を色持つ黄泉還り――そう崇められた巫女は、脆いものが何時壊れるか、予言することが出来なかった。

 愛する竜。
 信を成した騎士。
 喪った過去。

「前を見て、進むことしか知らなかった……そうしなければならなかったのじゃ。でなければ、折れそうな心が誠に折れ、粉々に散ってしまいそうだった……」

 しかし、それは己の行動を正当化する為の言い訳。
 心を寄せた友すら、邪神が死するまで保つか否かの“刻限”を背負った。その命はまるで、刈り取られるのを待つ稲穂のようだ。

「風は黄金の漣となり、尊い息吹を奏でることだろう……最期の瞬間まで、気高く――……っ」

 しかし、その選択は、未来は、誰の所為でもたらされたのだろうか。

「妾の想いが死を招くと言うなれば、これ迄の妾の魂は如何程の業を背負うたと云うのじゃろうか……?」

 歩み来る者を全て拒めばよかったのか。
 触れ合う温もりを振り払えばよかったのか。
 只只、命尽きるまで何人も慕わず、愛さず、孤独の奈落へ沈んでいけばよかったのか――。

「(妾の想いは“誰か”を殺す……人々の目に映る妾は差し詰め、禍つ神かのう)」





 夜の海に浮かぶ海月を見上げる。

 その揺蕩いに、色に想いを馳せるは、騎士。
 頬を、髪を撫でる風を感じては想いを寄せる、友。

 蒼に映る月。
 滲む輪郭。
 伏せる睫毛。
 盃へ移る月――逆月。

 その双つの月はとてもよく似ていた。
 だからこそ、月と逆月の“生き方”が全く違うことを、蜜鈴は弁えていた。

「其方は言うたな……何が有ろうと“生きろ”――と……」

 言の葉には力が宿る。
 しかし、騎士の言霊は呪いへ姿を変え、蜜鈴に死ねぬ呪縛を刻んだ。

 一生を、後悔と共に添い遂げることすら出来ない。

「死ぬ事すら許されぬ妾に、不器用にも生きる風の様な友の姿は……愚かにも、愛しく映ったのじゃ……」

 禍に身を焦がされた身。然れど、民の為にと自身の命を削り生きる彼を護りたい――そう想うことすら許されなかったのか。
 狂おしい程に仕直しを願った。
 今更と叶わない、叶わなかった願いを求め、唯ひたすらに。

 蜜鈴は唇をきゅっと噛み締めると、漂ってくる悲風から身を守るように肩を窄めた。
 折れそうな心は、傷だらけの心は、治ったふりをしていただけ。

 ――お前の心など何時でも砕くことが出来る。

 耳許で睦言のように囁きかけてくる呪詛。

 逃げ場はない。
 逃げる気も毛頭ない。

 立ち止まれば、保てない。

「歩き続けなければ……顔を上げて……進み続けなければ……」

 強く祈っても届かない願いがある。

「愛しい者だけでなく、大切な友人達にこの呪いが及ばぬ様に」

 立ち止まれば、容易く砕けてしまう。

 ならば、自分の手で成し遂げねばならない。
 足掻いた日々が例え無意味だったとしても、運命が結末を選ばせてくれなくとも――

「彼だけでなく、彼女達迄喪わぬ様に……」





 それが蜜鈴の生きる意味なのだから。















 季節外れの春待ち花が一輪、首を垂らしポトリと落ちた。
 その囁きに、蜜鈴の睫毛が、ふ、と、緩慢に持ち上がる。微睡み明ける蒼に映る世界。何故と問うよりも早く、懐旧の情が動いていた。

「此処は……妾の寝所で在った場、か……?」

 横たわっていた身体を半身、やおらに起こす。

 其処に、過去の形は既に無い。
 しかし、確かに残っている空気と情景。

「妾は郷の外に居ったはずじゃが……はて、のう……――」

 蜜鈴は吐息で語尾を掻き消すと、再び半身を沈ませる。
 思考を放棄したわけではない。只、突き詰めるには野暮なような気がした。

 青々と茂った草の香を感じながら、夜空に浮かぶ御月へ瞬きを落とす。

「……む?」

 何時の間にか握り締めていた蜜鈴の手の中には、硝子玉のような石が付いた根付が眠っていた。
 それは、幼い頃に騎士から受け取った、最初で最後の贈り物。

 苦笑を漏らした口許が僅かに震える。

 過去の幸せは全て喪った。
 穢れたこの手が掴める己の幸せなど、僅かなものだろう。しかし――



「再会とは、顔を合わせるだけではない……か……――のう? “   ”よ……」



 蜜鈴の意識で“黄泉還る”彼の背中は、此の地に残された慈悲だったのかもしれない。

 溢れる慈しみに、閉じる瞼。
 その身を月の光に青白く照らされながら、蜜鈴は掌の根付を、そっ、と、胸へ寄せたのであった。





 何時か“許された”その時、蜜鈴の隣には――……



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
平素よりお世話になっております、ライターの愁水です。
幽世に隠された夏一夜、《海風のマーチ》ノベルお届け致します。

過去が在るからこそ現在(いま)が在る。現世でも常世でも、繋がりは永遠です。
解釈しきれていない部分がありましたら申し訳ありません。

此度のご縁、誠にありがとうございました。
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2019年08月26日

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