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『美女狩り・1 』
白鳥・瑞科8402

 白鳥・瑞科(8402)は美しい顔に困惑の表情を浮かべながら、片手に持った小さなメモを見ては立ち止まり、キョロキョロと周囲を見回す行動を繰り返していた。
「あっ、ありましたわ」
 メモに書かれた住所を頼りに、瑞科はとある地域の警察署を訪れる。
 新しい3階建ての警察署は、瑞科にとってはあまり来たくない場所ではあったが……。
(【教会】の命令でなければ、自ら来ようとしない場所ですわね)
 上からの命令は絶対服従――。心の中でそう自分に言い聞かせて、瑞科は敷地に足を踏み入れる。


(やっぱり警察署では、この姿は目立ちますわね)
 受付の女性警察官に話を通すと、二階の会議室に案内されることになった。
 だがシスターの恰好をしている瑞科は、いろんな意味を含んだ視線を集める。
 ある者はシスターと警察署というアンバランスさが珍しいから、ある者は瑞科の美貌に惹かれて、そしてある者は瑞科が犯罪に関わったのかという疑惑の感情を込めて。
(居心地悪い事この上ありませんが、まさか夜に訪ねるわけにはいきませんもの)
 太陽が上っているうちは一般的なシスター、夜には武装審問官としての顔を持つ瑞科にとって、夜よりは昼間の方が時間が取りやすかった。
(それにしても警察が我々にお声をかけるなんて……。余程のことが起こっているのですね)
 警察という組織は瑞科が所属する組織を黙認していて、表向きは関わらないようにしているらしい。だからこそよっぽどのことが起きているんだと、瑞科の勘が告げる。
 会議室の前で女性警察官は立ち去り、瑞科は声無く軽いため息を吐くと扉を2回ノックした。
「失礼します。シスターの白鳥・瑞科でございます」
「どうぞ」
 中から中年女性の声が返ってきたので、瑞科はドアノブを回して扉を開ける。
 室内は昼間なのにカーテンが敷かれており、蛍光灯の明かりがついていた。規則正しく長机とイスが置かれていて、室内にはスーツ姿の中年女性と女性警察官の制服を着た若い女性の二人しかいない。
「お忙しい中、お越しいただいてありがとうございます。私はこういう者です」
 中年女性が警察手帳を広げて見せると、若い女性警察官も慌てて広げて見せる。
 中年女性は警部、若い女性警察官は巡査の地位にいることが分かった。
「まずはこちらの席に座っていただきますか?」
「はい」
 指定されたのは、ホワイトボートが目の前にある一番前の中央の席。
 瑞科が座ると、二人はホワイトボートを間にはさんで左右に立つ。
「本来ならば我々の方がそちらに赴くのが正しいのでしょうが、やんわりとお断りされたもので……」
「こちらの事情もありますから気にしないでください。まずはご説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。それではこちらをご覧になってください」
 二人の視線がホワイトボートへ向かったので、瑞科もそちらを見る。
 ホワイトボートにはこの地域の大きな地図が貼られており、5ヵ所には赤い丸印が付けられていた。
「最近、この地域で不思議な事件が起こっています。深夜、女性が一人で歩いていると襲われるという事件なのですが……」
 女性巡査は言い辛そうに、瑞科から視線を背ける。
「実はその事件の犯人が、どうも人間以外の存在が見え隠れしていましてね。我々は人間相手ならば平気ですが、それ以外の存在とはやりあえません。ですから協力していただきたいのです」
 女性警部のしっかりとした説明で、瑞科は心の中で大きなため息を吐く。
(やっぱりですか)
「その事件の内容とは?」
 瑞科が尋ねると、女性警部と女性巡査は意を決して説明をはじめる。
「襲われたのはいずれも容姿端麗で、二十歳を越えた女性ばかりです。最年少で二十二歳、最年長で二十八歳、三十歳を越えた人は今のところはいません」
「彼女達はミスコンやモデルとして活躍したことがある経歴の持ち主で、他人から見ても美を認められるほどなのですが……」
「深夜、学校帰りや仕事帰りに家へ向かっていた時のことです。何者かの気配を感じて振り返ると、黒い布を全身にかぶった人物がいつの間にか後ろに立っていたそうです」
「その人物は両手に死神が持つような大きな黒い刃の鎌を持っていまして、突然振り上げて切りかかってきたそうです」
 そこまで聞いて、瑞科はゴクッと喉を鳴らす。その後の襲われた女性達の悲惨な姿を想像したからだ。
 しかし二人の口から語られたことは、瑞科の想像を上回る。
「その人物は『美しい部分が欲しい……』と呟きながら、女性達の肉体を鎌で切ったそうなんです」
「ところが冷たい感じがしても、痛みは全く感じない。恐ろしさから眼を閉じていた女性が恐る恐る目を開けると、切られた部分からは血などは一滴も出ていなかったそうなんです」
(――んんっ? 何かちょっと変な話になってきましたわ)
「それってどういうことですか?」
 首を傾げる瑞科に、女性警部は手に持ったファイルの中から数枚の写真を取り出して長机の上に置く。
 その写真を見て、瑞科は眼を見開き、納得した。
「コレは……黒く染まっていますね」
「はい……。何とも不思議な現象ですが、コレが真実です」
 女性警部は瑞科と同じく困惑した表情を浮かべている。
 二人は「切った」と説明したが、正確には「切り削がれた」と言うのが正しいだろう。
 恐らくだが、刃が触れた部分は黒く変色してしまう効果があったのだろう。手を切られた者は手が真黒くなり、足も同様、顔にいたっては黒いのっぺらぼうのようになってしまっている。
「ちなみに切られた部分の感覚などは、どうなってしまったんですか?」
「それが不思議なことに存在はあるようなのですが、痛覚などは無くなってしまったようです。感覚が麻痺している状態なので、手を切られた人は物が持てませんし、足を切られた人は歩けません。顔を切られた人は見た目はああですが、どうやら目が見えて、息も吸えて、耳も聞こえることが救いですね。飲食も可能ですが、口の中も真っ黒に染まっています」
「中には喉を切られた人もいまして、こちらは声が出なくなってしまったようです。美声の持ち主の女性だったのですが……」
(つまりもっと正確に言うと、『切り削がれた』と言うのもちょっと違うようですわね。『切り取られた』と言った方が正しいのでしょう)
 美しい女性ばかりが狙われるこの事件の担当者として、何故【教会】が自分を指名してきたのかだんだん分かってきた瑞科は、無意識に自分の顔を手で触れた。


<続く>

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございます(ぺこり)。
 シリーズ第一話になります。
 楽しんで読んでいただければ幸いです。

東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年08月26日

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