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『美女狩り・2 』
白鳥・瑞科8402

「すでに三ヵ月の間で5件もの事件が発生していまして、警察も動いてはいるんですけど……」
「相手が人外であれば、どうすることもできず……。そこであなた方、組織の協力を得ることにしたのです」
 若い女性巡査と、中年の女性警部は、白鳥・瑞科(8402)を真面目な表情で見つめる。
「白鳥さんでしたら襲われる女性の条件にピッタリだということで、選ばれたそうです」
「実際に今日お会いして見ましたら、確かに狙われるタイプですね」
「あっありがとうございます……」
(褒められているはずですが、何故か嬉しくはないですわ……)
 容姿のことを褒められるのは女性としてはもちろん嬉しいのだが、どちらかと言えば戦闘能力を認められたいという気持ちも正直ある。
(――まっ、ここは気持ちを切り替えましょう)
 冷静に考えれば、要は瑞科が囮役として犯人を誘き寄せるという作戦を遂行しろと言うことだろう。
 下手に一般市民を囮役にすると万が一のことがあるし、戦闘中は足手まといになる可能性が非常に高い。
 警察を無能だと言うわけではないが、やはり戦う専門が違えば、一般市民と変わらぬ無力さはある。
(まあ命を狙われるという危険性は低いようですし、わたくし一人でも大丈夫そうですわね。敵は恐らく呪物使い――。若く美しい女性の部位を集める原因……と言うより理由は分かりませんが、とりあえず行動が分かっているだけ動きやすいですね)
 深夜、この地域を一人で歩いていれば出会える可能性は高いということが分かっているだけでも、作戦は立ちやすい。
(夜更かしはお肌の大敵ですし、とっとと済ませますか)
 思考を戦闘モードへと切り替えた瑞科は、同性でも胸を高鳴らせるほどの魅力的な笑みを浮かべて見せた。
「それでは犯人の今までの行動パターンを教えてもらえますか?」


 ――数日後の深夜、瑞科は一人で街中を歩いている。
 しかし街中と言っても畑や田んぼ、山が目立つ田舎だ。それでも近年、大型ホームセンターやショッピングセンター、大学や専門学校、映画館や室内テーマパークなどの娯楽施設も建てられたので、若い人達が移住することが多いらしい。
 人が増えたおかげで、瑞科が行ったあの警察署ができたぐらいだ。
(被害者達はこの街の大学生だったり、働いていたようですけど、地元民ではなかったという話でしたね)
 移住者だった為に、地元民達はこの地域の悪い話がこれ以上広まるのを恐れているようだ。
 なのでワラにもすがる思いで、【教会】を頼ってきたのだろう。
 【教会】の調べによると、この地域の山の中には廃病院がある。しかもかなりの大きさで、歴史もあるらしい。
 廃病院になった理由は昔は駅からバスが出ていたが、それでも三十分はかかったようだ。患者が通うには不便だった場所なので、今は駅近くへ移転した。
 だがどうやらその廃病院は、末期患者を受け入れて最期を看取るという病棟があったらしい。
 移転した新しい病院では無くなったのだが、そういう特殊な病棟があったせいで、ホラースポットとして扱われているようだ。
 ゆえにこの土地へ移住してきた若者達は娯楽の一つとして、肝試しと称して廃病院にしょっちゅう出入りしているみたいだ。
(しかし【教会】の調べでは、どうも【本物】らしいんですよね。ですが生き人に害を成すことはなさそうなので、放置されているようですが……)
 いくら【教会】と言えども、依頼人無しのタダ働きは喜んで引き受けない。ましてや被害報告が上がってこないのならば、なおさらだ。
「その廃病院と美女狩りの犯人に関わりがあるのかどうかまだ分かりませんが、とりあえず引っかかってくれると良いのですけどね。――この恰好でも」
 瑞科はいつもの戦闘服に着替えており、いつでも戦える準備を整えていた。
 はじめは襲われそうな露出が激しい服装をしようかと思ったのだが、そうなると武器が隠し持てない。
 迷った挙句、女性仲間達の助言もあり、いつもの戦闘服でも大丈夫という結論になったのだ。
「まあ一番慣れ親しんだ戦闘服が一番ですよね」
 瑞科の首から下は全身を覆う光沢がある黒のラバースーツに身を包み、胴体を守る為に軽く薄い鉄入りのコルセットを腰に巻いている。更に太ももまである二―ソックスを履き、その上には膝まであるロングブーツを身に着けていた。
 その上から黒い生地の修道服を身に着けており、スカート部分は足を動きやすくする為に両脇にスリットが入っている。両手にはロンググローブ、肩を覆うような白のケープ、頭には白いヴェールを着けていた。
 スリットからは時折、太ももに巻き付けたベルトに挟まれたナイフが見え隠れしている。ロンググローブに包まれた手には愛用の剣が握られており、戦いの準備は万端だ。
 街灯が点々と置かれた道を歩いているが、時々車やバイクが通り過ぎるぐらいで自転車や人とすれ違うことはない。
 例の事件のせいで、一人で夜道を歩く人が減っているのだろう。
「早く事件を解決しなければなりませんね」
 瑞科は端麗な顔を険しく歪め、ぎゅっと唇を噛む。
 二人の女性警察官から見せられた被害者達の写真には、嘆き苦しむ女性達の表情がハッキリと映っていた。
 他者からもその美しさを評価されている女性達は、それらを失ったことによって苦しんでいる。
 人前には出られず、家の中に閉じこもって日々泣き暮らしていることを聞いた時、瑞科は犯人への憎しみの炎が豊満な胸の中で燃え広がるのを感じた。
「同じ女性として、許されざる行為にはキツイ断罪を下しましょう」
 ニヤリと笑うその表情は、これから出会う犯人をどのように罰するかという想像を膨らまして、楽しんでいる証。
 廃病院への山道の付近で、瑞科は異変に気付く。ここら辺は空き地が広がっており、街灯の明かりさえ届かない。
 唯一月明かりのみが頼りだが、分厚い雲が時折隠してしまい、闇の世界がチラつく。
「……はあ、こうも簡単に引っかかっていただけるとは。ありがたいような、拍子抜けもしますね」
 鞘から剣を引き抜きつつ、瑞科はゆっくりと振り返る。
 瑞科から5メートルほど後ろにいつの間にいたのか、全身を黒い布で覆い、両手には黒い刃の死神のような鎌を持った人物が立っていた。

『美しい……部分が欲しい……』 

 地の底から響くような暗い女の声を聞いて、瑞科は柳眉をひそめる。


<続く>

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございます(ぺこり)。
 シリーズ第二話になります。
 いよいよ犯人との戦いがはじまります。
 白熱する戦いは、第三話に続きます。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年08月26日

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