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『美女狩り・3 』
白鳥・瑞科8402

「できましたら自己紹介と、美女狩りを行っている理由を教えていただけませんか?」
 お互いに武器を持っているというのに、白鳥・瑞科(8402)は親しみすら込めた優しげな表情と声を敵へ向ける。
 しかし黒に塗りつぶされた顔に、突如目のような丸く赤い二つの光りが宿った。
『くれっ! その美しさをっ、ワタシに!』
「激しくお断りします」
 ギィンッ!と闇の世界で、瑞科が持つ剣と敵が持つ鎌の刃がぶつかった音と火花が広がる。
 剣越しに鎌に宿る闇の力を感じ取った瑞科は、一瞬だけピクッと口元を歪めた。
「随分と恨みや憎しみがこもっていらっしゃるのですね。一体何故、美しい女性を狙うのですか? 部位を集めて、どうするのです?」
『ワッワタシのモノにする! 美しくなるのだ!』 
「全身整形手術でも受けた方が、お望みの姿になると思いますけど?」
 瑞科はニコニコと笑いながら、剣に雷の力を宿す。
『ヒィッ!』
 ビリビリッと鼓膜を震わす音と振動、そして黄金色の火花に敵は驚き身を引く。
 すると敵は全身を覆う黒い布をバサッと翼を広げるように動かすと、内側からいくつもの美しい女性の手が出てくる。まるで美を追求して作られたマネキンのような手だが、それらにはちゃんと生きた持ち主がいることを瑞科は知ってしまっていた。
「アレがただの呪物であれば、平気で攻撃できるんですけどね。流石に戻りを待つ人がいることを知っているのに、下手な攻撃はできません」
 顔では笑みを浮かべつつも、内心では舌打ちをする。
 何せ現れた複数の手には、黒いサバイバルナイフが握られているからだ。
『まっまずは顔を剥ぐ!』
「嫌です」
 人ならざるモノにすら求められる美顔の持ち主はにっこりと笑みを深めると、剣をその場の地面にザクっと刺す。
 そしてすぐに足を大きく広げるとスリットの隙間から二本のナイフを取り出し、両手で握り締めた。
 キンッ、キィンッ、バキィンッとサバイバルナイフとナイフが弾き合う音と光が続く。しかし一度でも瑞科のナイフに触れた手は、地面にボトッと落ちる。何とか動こうとするが、見えざる力で地面に押し付けられているようで、ビクビクっと動くのみ。
「重力を使う能力を持っていて良かったです。あまり傷を付けたくありませんからね」
『くぅっ……! つっ次! アイツの動きを止めろ!』
 布の内側から今度はスラっとした美しい足が出てくるが、太ももから下に黒いハイヒールブーツのようなモノを履いている。
(資料ではああいう靴を履いている女性はいなかったようですし、武器と見て間違いないでしょうね)
 瑞科の予想通り。
 ハイヒールブーツを履いた足は瑞科を踏み潰そうとするも、身軽にヒラリっと避けられる。するとヒールの先が、地面をドカッとえぐった。
(……攻撃力が高過ぎますわ。下手をすると、欲しい部位が潰れてしまいますよ?)
 しかし敵にはそんなことを考える余裕は無いのだろう。
 次から次へと武器と化した足が襲ってくるものの、瑞科は先程と同じくナイフを当てることによって重力で動けなくする。
『キイイッ! 次ぃいい!』
 金切り声を上げるところを見ると、瑞科の予想以上の強さに焦りを感じているようだ。
 しかし次に布の内側から出てきたモノを見て、精神的にも体力的にも余裕が残っていたはずの瑞科は一瞬呆気に取られる。
「はっ……? 人間の……皮膚、ですか?」
 きめ細かく肌色の布のようなモノの正体は、恐らくは美肌。
 しかし報告書の中には、皮膚に関する被害者の情報は無かった。それはつまり――。
「……他の所でも集めていたんですね。迂闊でした。数を数えなかったのが失態ですね」
 今まで出てきた手や足の数は、5件以上だった。
 美女狩りの被害に合いながらも誰にも相談できずに苦しみ続けている女性がいることを知り、瑞科は憎しみの感情が殺意へと変わっていくのを感じる。
 瑞科は笑みを消し去ると、ゾッとするような真剣な顔付きになった。
 呪物使いにどんな悲しい過去があったとしても、今を生きる女性達の幸せを奪って良いはずが無い――。
 瑞科は素早くナイフをベルトに戻すと、剣を地面から引き抜き構える。
 そして自分に覆い被さろうとしてきた皮膚に向かい、電撃をまとった剣で切りかかった――が、実際は切り裂かれておらず。電撃に痺れた皮膚は、バタバタと暴れながらも地面に落ちた。
「奪った部位を攻撃に使うとは、呆れた行為ですね。美しくなりたいならば、大事にするはずじゃありませんか?」
『うううっうるさい!』
 四番めに出てきたのは、美女達の顔。しかしその両目は敵と同じく赤く染まっており、歪んだ笑みを浮かべている。
(うわぁ……。夢に出てきそうですわ)
 悪夢めいた攻撃に、瑞科は無意識に頬が引きつった。
 顔達は瑞科を囲むように動いた後、真っ赤な唇をパカッと開くと『ぎぎゃああああああっ!』と甲高く鳴く。
「くっ……! 超音波のような声の攻撃ですか……!」 
 脳がグラグラッと揺さぶられて、視界がぶれる。顔を歪めながらも瑞科は剣に重力弾を込めて、地面へ向けて放った。
 ドカッと大きな土埃が舞い散り、顔達は驚いて声を出すのを止める。
 その間に重力弾の力を使った瑞科の肉体は空中に浮かび、顔達を飛び越えて敵本体に剣で切りかかった。
「もうあなたの腐った性格が入り混じった攻撃を受けるのは飽きました。勝負を付けましょう」
『くっ……うわああ!』
 敵は鎌で何度も切りかかるも、戦闘に慣れている瑞科にとっては素人の攻撃そのもので、軽く避け続ける。
 だが破壊するのは敵本体ではないことを、華々しい戦歴を重ねてきた瑞科は気付いていた。
「あなたを倒すのは、この鎌を破壊することですね!」
 瑞科は剣に重力と電撃を込めた一撃で、鎌の刃を真っ二つに切る。
『あっ……いぎゃああああっ! うっ美しくなるんだ! そうすればっ……ワタシの……患者……た……ちは……』
「えっ……? 『患者たち』?」
 ボロボロと崩れていく敵の姿を見ながら、瑞科は最期の言葉に引っかかっていた。
 真っ二つに切られた黒い鎌は地に落ちると、黒い煙を出しながら形を崩していくも、最期に一本の手術用のメスの姿を現して消える。
「呪物の正体は……手術用のメスだったんですか」
 メスが消失していくのと同時に、地面に押し付けられていた美しい部位達は光の粒子となって消えていく。
「……とりあえず、これで一件落着――ですよね?」
 ふわっ……とふいた風で、全てが消え去った。
 ただ一つ、事件の謎を残して――。


<続く>

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございます(ぺこり)。
 シリーズ第三話になります。
 激しい戦いが終わり、最後の第四話は謎解きになります。
 ある意味、どんでん返しのストーリーが待っています。
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年08月26日

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