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『美女狩り・4 』
白鳥・瑞科8402

 事件後から数日後の昼間、白鳥・瑞科(8402)は再び若い女性巡査と中年の女性警部に呼び出されて、警察署の会議室に訪れていた。
 以前と同じ場所、ホワイトボートの両脇に二人の女性警察官が立ち、瑞科はイスに座っている。
「まずはご協力、ありがとうございました」
「おかげさまで、被害に合った人達は元の肉体を取り戻すことができました」
 二人は感謝を込めて、深々と頭を下げた。
「顔を上げてください。わたくしはただ、あなた達と同じように被害者を救いたかっただけですから」
 瑞科の言葉で顔を上げた二人に対して、今度は瑞科が問いかける。
「あの、それで廃病院の件を調べていただきましたか?」
「はい。白鳥さんのご想像通り、被害に合った女性達はそこへ肝試しとして行ったそうです」
「その後に被害に合ったので、呪いや祟りではないかと内心おびえていたそうです」
「……そう、でしたか」
 瑞科は敵の最期の言葉が引っかかっており、二人の女性警察官に例の廃病院のことについて調べてもらっていた。
「そして大分昔のことになりますが……。あの廃病院にあった末期患者を引き受ける病棟には、一人の女性医師がいたそうです」
「その女医は懸命に患者のお世話をしていたそうですが、当時は流行病などで大勢の人が亡くなったそうです」
 やがて女医自身も流行病にかかり、亡くなってしまった。
 女医は生前、主に女性患者の担当をしていたらしい。
 まだ若く美しい女性患者達が病気や事故によって醜く自分の容姿が崩れていくことを嘆き悲しみ、時には自ら命を絶った者さえいた時代だった。
 たとえ生き延びていても、家族や親族、友達や愛する人から見放されたり、憐みや同情の眼差しや感情を向けられてはたまらなかったのだろう。
 そんな患者達の気持ちを感じ取り、女医が死後、あんな化け物に転じてしまったというのは納得ができる。
「……でも何で美女限定だったんでしょうね? 他にも女性はいたんですけど……、やっぱり美しい方が良かったんでしょうか?」
 若い女性巡査は不思議そうに呟くが、瑞科は何となくその原因は分かっていた。
「まあ化け物の考えなんて、生きている人間が納得できるわけがありませんよ。それよりこの後、わたくしは用事がありますので、他にご用件が無ければ失礼したいのですが……」
「ああ、これは失礼しました。今回は事件後の報告ということで……」
 慌てて女性警部は説明をはじめるも、瑞科は顔では微笑みを浮かべながらも、思考は違うところへ向けられていた。


 その夜、瑞科は普通の修道服から、戦闘用の修道服へ着替えている途中にポツリと呟く。
「いくら見かけが美しくても、中身がそうでなければ……ねぇ」
 女の美しさは、時に傲慢さを強める。確かに被害に合った女性達はみな、美しかった。
 だがしかし、その性格はどうだったのだろう?
 ミスコンやモデルをやっている全ての女性がそうとは言わないが、美を競っている女性は時に残酷な存在に成り果てる。
 自分の美をトップにする為に、他の美女達を蹴落とすことを考える人は少なくはないだろう。
 また美しさを保つ為に、あらゆる手段を取る女性だってこの世にはたくさんいると断言できる。
 それが悪か罪かと聞かれれば、瑞科は複雑な笑みを浮かべるしかないだろう。
 人間、何が一番かは自分自身で決めなければならない。他人に評価されることが一番と考える人間がいたとしても、それを誰も何も否定することは難しい。
 何故ならそれが生きがいだと言われてしまえば、生きる理由を奪ってしまうことになるからだ。
 人間の長い歴史上、美の為にいくつもの醜い事件が起きていることを瑞科は知っている。今回の事件だって、その一つだと言えよう。
「今回の事件は【美女狩り】と言うよりも、【性格の悪い美女狩り】と言った方が正しいのかも知れませんわね。……アラ、イヤだわ。これじゃあわたくしが自分のことを【性格の悪い美女】だと認めているようなものですわね」
 コロコロと笑いながらも、瑞科は内心では当たっていると思う。
 着替えの為に置いてある等身大の鏡の前に立つ。まだラバースーツだけを身に包んだ若い女体は、隠しきれない色と艶を放っている。
 瑞科は自分の美貌が老若男女問わず、惹き付けることを良く知っていた。
 しかし花が咲き誇る期間が短いように、瑞科が若くいられる時間も限られている。
「若さに囚われていては、老いることを激しく拒絶するのでしょうね。でもわたくしは楽しみなのです。この強く美しい魂を保ちつつ歳を重ねていく悦びの方が、老いる恐怖に勝ります」
 見た目は老いていても、中身が誇り高く強いままならば、その美は永遠不滅なのではないか――。
 それを生きて証明することが、悦びと化す。
 胸の高鳴りを抑えるように、両手を胸の上に置く。すると違和感を覚えた。
「――アラ? 何だか苦しいですわね。もしかして……まだ成長期なんでしょうか?」
 二十歳を越えても成長する身体を持っている人はいるが、瑞科も同じなようだ。
 身体の至る所が何だかきつく、締め付けられている感じがする。
 この特殊な戦闘服は、瑞科の身体のサイズピッタリに作られていた。それが合わなくなってきたということは、以前よりも成長している証になる。
「太った……とは思いたくありませんわね。戦いの日々のせいで、筋肉がついた可能性の方が高そうです。はあ……ヤレヤレ。また作り直しになりそうですわ」
 同性からしてみれば羨ましいことこの上ない肉体を持つ瑞科だが、新たな戦闘服ができるまではこのキツイサイズで我慢して戦わなければならないことが悩みとなる。
「他の女性からは『贅沢な悩み』だと言われますが、戦いにおいては動き辛いことが一番の欠点なんですけどね。ふう……。人より勝ることは、苦労も勝っているような気がしますわ。結局、良い事尽くしの人生なんてあり得ませんものね」
 ブツブツ言いながらも着替え終えて、武器を身にまとう。
 そして表情を引き締めて、夜の街を歩き出す。
「さぁて、次はどんな敵と相まみえるのでしょうか?」
 期待と興奮を胸いっぱいに抱きながら、瑞科は今夜も街を行く――。


【終わり】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございます(ぺこり)。
 これにて【美女狩り】事件は終了となります。
 美にまつわる良し悪しを、楽しんでいただければと思います。

東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年08月26日

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