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『●もっと一緒に 』
赤城 龍哉aa0090

 梅雨も明け、清々しいほど晴れた夏の日。
 赤城 龍哉(aa0090)は小洒落た郊外のショッピングセンターに足を踏み入れた。
「……早めに来たつもりだったんだが」
 苦笑する龍哉にはにかんだ笑みを向けるのは恋人のミュシャ・ラインハルト(az0004)だ。
「お仕事、お疲れ様です」
 動きやすいショートパンツにニットのタンクトップ、レースガウンを羽織ったミュシャはすっかり休日モードだが、午前中は確かこの近辺で仕事をして来たはずだ。龍哉も急な依頼で呼び出されて前日まで東京支部で拘束されていた。会うのは実に一週間ぶり。
「あれ? エルナーは?」
「逃げられました。敷地内には居ると思うんですが」
 彼女の英雄エルナー・ノヴァ(az0004hero001)の名を挙げるとミュシャが俯いて口を尖らせる。どうやら、今のミュシャのデートに付き合うのは身内として勘弁、ということらしい。
(それは……なんとなくわかるが)
 龍哉が複雑な思いでモール内の時計を見る。もうすぐ十二時だ。
「うちの英雄もその辺にいるはずだから、声かけて先に昼を済ませ──」
「まっ、待ってください!」
 歩き出した龍哉の指先が掴まれた。振り向くと、三十センチ近く下から龍哉を見上げるミュシャの顔があった。
「そ、その……しばらくは……二人で回りませんか。龍哉さん」
 頬は赤かったが、その目は真直ぐに龍哉を見ている。
 わかった、と彼が了承すると落ち着いた茶色の腰までの長いポニーテールが嬉しそうに跳ねた。
 龍哉の告白で付き合うことになり、ふたりの関係もそれなりに進んだ。
 だが、ずっと恋愛を含めた日常と縁遠かったミュシャはいまだどこか慣れないのか、思い出したように恥じらいを見せてぎくしゃくとする。
 そんな彼女だから、今日の話は長年の保護者のような英雄同伴で話した方が良いのかと思ったが。
「……ん?」
 隣を歩いていたミュシャの足が止まったことに気付いた。
 振り向くと、彼女はロビーにディスプレイされている浴衣に目を奪われていた。
 ──今まで、華やかに装う機会があってもそれに目を向けないようにしていたことを龍哉はなんとなく知っていたので、思わず目を見張る。
 爆音がしたのはその時だった。
「東と西に……イントルージョナー!」
 状況を確認して叫んだミュシャの顔は、そして自分の顔も、すでにH.O.P.E.のエージェントとしてのそれだった。即座にそれぞれの英雄を呼び出して迷いなく別々の方角へと顔を向ける。
「そっちは任せた!」
「了解です!」
 だが、つい、頭の片隅に思うこと。
(せっかくのデートもちょっと台無しか……)
 喧騒目指して駆けながら、そんなことを思ってしまうのは許して欲しい──そう思った瞬間、くいっとミュシャが袖を引っ張った。
「龍哉さん! 終わったらたくさん……デートしましょうね!」
 頬を赤くしたミュシャはそう言って掠めるようなキスをした。

「被害が広がらなくて良かったです」
 共鳴を解いたミュシャは汗を拭いながら龍哉を見上げた。
「折角の休日だったのに散々だったね」
 エルナーは大きく息を吐いて、ミュシャではなく龍哉を見る。
「でも、この後花火大会はやるみたいだから、もう少し休んで来たらどうかな?」
「だけど、明日も依頼が」
「日本を発つのは夕方だから問題無いよ」
 寂しさをうまく隠せないまま口を挟むミュシャへエルナーはやんわりと答える。
「増援で来た他のエージェントたちも見回りをしているようだし、僕はこれ以上戦う力も残って無いから先に帰るよ。ミュシャをよろしくね」
「──ああ。安心してくれ」
 エルナーが躊躇うミュシャの手を龍哉の前に引くと、龍哉はその手を取った。
 その後、自分の英雄とも別れた龍哉はもう一度ミュシャを振り返る。
「……約束、花火にでも行こうか────ん?」
 真新しいレースガウンが無残に裂けていた。
 しょんぼりとしたミュシャへ、モールのスタッフが声をかける。
「もし、よろしければ何かお召し物を贈らせて頂いてもよろしいでしょうか。今日のお礼です」
「えっ、いえ」
「じゃあ、頼むか」
 龍哉はにっと笑ってロビーを指した。

 土手で身を寄せ合って花火を眺める。
 イントルージョナー騒ぎのせいで観客はさほど多くなく、河面に移った火花までゆったりと眺めることが出来た。
 並ぶ二人は涼しげな浴衣を着ている。
 打ち上げの合間、少し長く開いた静かな時間にポニーテールに挿した簪を気にしながら、ミュシャは龍哉をちらりと見る。
「あの、浴衣、ありがとうございます」
 仲が深まっても、未だたまに見せるはにかんだ顔。紅潮した頬は恥ずかしさなのか。
 謝礼の一部として商品を提供するという申し出を「恋人への贈り物だから」と断って龍哉は浴衣を買い、代わりにスタッフに浴衣に慣れないミュシャの着付けを頼んだのだ。
「本当は、初めて見た時に、龍哉さんに……似合うかなって……見ていたんです」
 予想外の言葉に思わずきょとんとする龍哉。
「それは……」
「やっぱり、とってもお似合いです」
 はにかむミュシャにたまらなく愛おしさを感じて、龍哉は彼女を抱きしめた。
「お互い忙しいのはわかるけどな。……もう少し、いたい。道場で一緒に住まないか?」
 今日までずっと考えていた。都内にある赤城波濤流道場支店からなら仕事があっても互いに不都合はないと思う。
 同じ場所に帰って、同じ場所からいってきますを言う。
 それだけで、きっと互いの胸に宿ったこの熱はもっと心地よいものに変わると思う。
 濡れた瞳で龍哉を見上げたミュシャは、ぐしぐしと頭を彼の胸に押し付けた。
「──おねがい、します」
 今日一番大きく華やかな花火が二人を明るく照らした。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物
赤城 龍哉(aa0090)
ミュシャ・ラインハルト(az0004)
エルナー・ノヴァ(az0004hero001)

龍哉さんはミュシャが悩むような依頼でずっと頼もしい姿を見せて声をかけ続けて下さったので、ミュシャにとっては長く尊敬する憧れの人でした。
不器用なミュシャですが、赤城さんと結ばれて幸せだと思います。
ご依頼ありがとうございました!
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2019年08月29日

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