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『to home of the heart』
神代 誠一ka2086)&クレール・ディンセルフka0586)&アリオーシュ・アルセイデスka3164)&クィーロ・ヴェリルka4122)&雨を告げる鳥ka6258)&浅緋 零ka4710)&鞍馬 真ka5819)&ラスティka1400

「打ち上げと言ったら花火だな!」
 怪我を癒しきらないうちから、そんなことを言い出した小隊長が居たとか、居なかったとか……


「私は準備しておく」
 雨を告げる鳥(ka6258)が日の高いうちに用意しておいた軟膏は火傷に効くものだ。火の扱いに長けた者はいるけれど、今回のメインは花火なのだ。
 置いたものに着火して打ち上げるもの。手に取って間近で楽しむもの。火を扱うのは参加者全員である。備えはあって悪いものではないはずだ。
 虫よけの香草が使われたお香もまた、香炉と共に運んできている。
「……私は願う。皆が、そして皆と、楽しい時間を過ごせることを」
 煩わしいものが少しでも減らせる助けになれれば良いと思う。
(私は楽しみにしている)
 皆とみる花火は、どれほど美しいものだろうか。
 帽子にぶら下がるてるてる坊主が揺れて視線を向ければ、小さな対の金が笑みで細められている。
「私は察する。ルルフェも楽しみということを。……火の近くは危ない。楽しむ際は私から離れないよう……くれぐれも、気を付けるように」

 デッキチェアから見下ろせる景色を整えることも、重要な仕事だと思うのである。
「……うん、大丈夫そう……かな」
 花壇と畑に夕方の水やりを終えて、みつけた雑草を抜いて。以前の掃除で見落としたものがないか、もう一度窓際まで寄っていく浅緋 零(ka4710)。
「……あ、ぐま」
 これから収穫する野菜を入れる籠の中に、見慣れたウサギが陣取っている。飼い主であるはずの神代 誠一(ka2086)と離れているのも当たり前の光景だ。
「野菜……」
 耳がピンと立って見上げてくる。
「でも、クィーロ達が、料理してくれる……よ」
 目をあわせる為にしゃがみ込んでそう言えば、ふすふすと頷きのような音が返った。

 大量の枝豆を数回に分けて塩で揉み、茹でた後にもう一度塩を振る。塩加減は食べる時に各自で調節できるから大丈夫だということにする。アリオーシュ・アルセイデス(ka3164)自身はそう多く呑む方ではないが、それでも酒に合うものというものは良くわかっているつもりだ。
 あらかじめ味を漬け込んでおいた鶏肉も串に刺していく、手軽に食べられるようにというのは重要だと思う。定番のタレは後から絡ませる分もしっかり残してある。
 モモ肉は勿論二大巨頭の味付けで。定番のタレには葱を、塩のシンプルな味付けには玉葱を挟む。
 特製のフルーツソースで漬け込んで柔らかくした胸肉にはアスパラ。レバーはタレでにんにくの芽、砂肝は塩にはピーマン、一見野菜が見えないつくねはタネの段階でゴボウを混ぜ込んでおいた。
 ……他にも合う野菜はないだろうかと視線を巡らせたところで、目に入ったのは胸肉の皮である。あとで皮だけの串にするつもりだったのだけれど、ここまでくると仲間外れみたいだ。
 出汁で炊いた大根と人参をくるりと巻いて、串を数本差して留める。塩胡椒で馴染ませておいて……焼くときにタレを塗ろう。食べる前に串の数で切り分ければいいだろう。
(これは……野菜として扱うべきか、そうじゃないような)
 首を傾げたけれど。生ニンニクは切らない方がほっくりと焼き上がるので、なるべく大きさを揃えて串にさしておく。

 夕方とはいえ、まだ蒸し暑い時間だろう。呑めば暑さを紛らわせることはできるだろうが、メンバー全員が飲酒するというわけでもない。
 必要なのは涼し気なもの、肴になるもの、腹にたまるもの、そしてなにより……祝い事らしさを含むものだろうか。そんな事を考えながらもクィーロ・ヴェリル(ka4122)の手は迷いなく動いている。
 手早く食べられるサラダは必須だろう。生で食べられるものと一度茹でた野菜、どちらもつまみやすく同じくらいのスティック状にカットしたものは時間が来るまで冷やしておく。物足りない者の為にと味噌にすりおろした柚子皮を混ぜて出汁でゆるめたもの、ケチャップに玉ねぎのみじん切りを入れて煮詰めたもの、粒マスタードを混ぜたマヨネーズもつくっておく。
(ポテトなりウインナーなり、使う人はいるだろうしね)
 更にはポテトを揚げるだけは勿体ないと思ってしまう。定番の鳥は既に焼き鳥があるので、白身魚のフライと赤身の竜田揚げ。衣があるならと気付けばとんかつと薄く切ったハムも揚げていた。

「何か、手伝う……こと、ある……かな?」
 キッチンに顔を出した零は時間のかかるお茶の下準備をしてから、洗い物に手を出していく。
 集中している二人に声はかけたが、丁度よく手が足りないというわけでもないのだ。

 果物のカット方法も考え始めたクィーロだけれど、先ほど野菜をしまう際に見た魔導冷蔵庫の中を思い出して、伸ばしていた手を止めた。
「……」
 元々が大きすぎて、そして慌ただしすぎて。食べきれなかったスイカの残りがまだ。随分と場所を占めているのだ。
 もう一度、用意した果物を眺める。硬めだけれど甘い桃、小ぶりだけれど瑞々しい梨、粒の大きい種なしブドウ。おまけで偶然見つけたバナナ。全てを同じように食べやすくするために……そうだ。
「アリオーシュさん、串、余ってる?」
 焼き鳥を作っているアリオーシュに尋ねて。
「ねえ、レイ。くりぬいてもらっていいかな」

 一通り片付いたところで声がかかった。
「……わかった。一口サイズ……だね」
 示されたスプーンを見て頷く。串を一つ借りて種を取り除いて、なるべく穴が目立たないような場所を選んでくりぬいていく……
 クィーロはも残りの果物へ向き直る。
 一口、もしくは二口で食べられる大きさに揃えてから、ひとつずつ串に刺していく。一本で全ての果物が食べられるようなるはずだ。
 大きめの透明なボウルに、数が揃わず串に刺せなかった分の果物とレモン果汁入りの炭酸飲料を放り込む。先ほど整えた串も一緒に浸けこんで、そのまま冷やしておけばいいだろう。 何よりスイカをどかしたので、場所に余裕もできたのだから。

「思ったより、とれた……?」
 穴の沢山あけられたスイカは随分と食べ散らかされたような状態になっている。念のために残っている種も全て取り除き、ついでに皮も切り外しておいた。正真正銘、赤い果肉部分だけになったのだ。
 すごく、ボロボロに見えるけれど。丁寧にやってもこれなのである、もともと割ってから切り分けたものなので、崩れやすかったのもあるだろう。
「どう、しよう?」
「……それは、手間になるけど集めて、ジュースにしようかと」
 尋ねる零にクィーロが示すのはミキサー。お酒に使う分のレモンもあるしね。そう続けようとしたところで家主が台所にやってきた。
「なあ何か飲むもの……」
「「……」」
「どうした、二人とも?」
「丁度いいところに」
「先生、これ」

 無事にスイカの処分先も決まったところで、零は他の飲み物の仕上げも始めた。
 水出しの茶葉を取り除いてボトルに詰め替えたり、ジュースの在庫を確認しておく。炭酸類は他より多めに。そのまま飲むだけでなく、酒飲み勢がつかったりもするだろうから。
「飲み物揃えてきたぜ」
 大きなクーラーボックスを抱えてきたラスティ(ka1400)が到着する。
「だって外だろ? 冷蔵庫に取りに戻るよりすぐに冷えたのが飲めるようにだな」
 誰かしらの好みにひとつでもひっかかれば。そんな構えで揃えた品は多種多様。在庫チェック中のタイミングだから完璧ですらある。
「すごいなー切らしてた奴まで入ってる!」
「丁度よかったなら良かったぜ。担いできた甲斐があったな!」
 笑顔で礼も告げる誠一に、役に立てて良かった、とほっとした様子の台詞。
「今日はパァーっとやるんだからなっ勿論、ラスティも!」
 景気づけに一杯やるか? と誠一が差し出すのはスイカジュース。ミキサー直通で少々温いせいか進まないのである。
「待ってそれ何!?」
「スイカジュース……?」
「せめて氷入れて混ぜれば良かったんじゃね?」
 クーラーボックスの中の溶けかけの氷を出し始める。隙間を減らそうと飲料水を小分けにしたものも使っているので、そのまま冷水としても呑めるのだ。
「それだ! ラスティ流石!」
「飲み切らなきゃならねーの? 凍らせたら?」
 酒に使えそうだとの指摘までついて来た。
「……天才?」
「いや、むしろなんで今飲んでんの?」
「喉乾いてたから……でも余らせてて……あれ?」

「あと、は……」
 キッチンに来るまで、視線を逸らしていた色々に向き合うことにする。
 定期的に片づけている筈なのに、気付けば謎の山が増えている室内。せめて必要なものは見つけ出しておこうと腕をまくった。
「前は、確かここに」
 救急箱は流石に大きな移動をしていないだろうと思うのだけれど。怪我人が出そうな予感を前に、零は黙々と手を動かしていく。目につく品物を仲間ごとに分類して、空いた場所に片付けて……それだけでも随分と広さが違ってくる。
「……よかった」
 無事に見つけた救急箱を抱え上げたところで、陽もだいぶ傾いてきたようだ。
 そして逸らせない現実、罅が目立つ窓ガラスに目が細くなってしまう。
「いつ、直すんだろうね……?」
 時間が出来たのだと思うけれど、今なお罅ありガラスと網戸のままなのだ、きっともうしばらくはこのままなのだろう。
「……今日も、どこか、燃えそう……だなぁ……」
 まだ時間もあるしと、バケツを多めに用意しようと誓った。


 見つけ出された簡易テーブルや折り畳み出来る椅子を運ぶのも手伝っておく。完成した料理をどう盛付けるかの下見にもなる筈だとアリオーシュが思考を巡らせる向こうで。
「使用済み花火を漬けるお水汲んできますねー!!」
 到着早々、高らかに声をあげるクレール・ディンセルフ(ka0586)に零が集めておいたバケツの山を示す。
「わ、たくさんありますね?」
 悪い事じゃないですけど、と言いつつクレールの肩が少し引いている。
「……でも、何で同じバケツがいくつもあるんでしょう?」
 なんとなく鞍馬 真(ka5819)に視線が集まっていく。
「え、私?」
 焼き網を見事に見つけた件で、どうやら誠一の行動解説担当になっている……かもしれない。
「……あくまでも予想だからね?」
 まずバケツを買おうという意欲があって、店で一つ目を買う。
 忙しいからと、まず適当な場所に置いておく。
 そのまま忙しかったり別のことを考えていたりして、買ったことと置いた場所を忘れる。
 外出先で見覚えのあるバケツを見つけ、『そう言えば前に買おうと思っていたんだっけ』と思い出す。この時『買って家にある』はずの記憶が『売っている店を見つけたけど急ぎだった何かの理由で買わないでいた』記憶と上手にすり替わっている。
「……で、以下繰り返し……なん、だけど……」
 クレールと零の視線がなんだか冷えているのに気付いてしまった真の声が少しずつ途切れがちになっていく。
「私は決定する。あとでお説教である」
 レインに至ってはお話内容を決め始めている。
(ごめん、誠一さん、私はそんなつもりじゃ……!)
 自分は別に今更だけれど、手遅れらしい空気に内心焦る真だった。

「水を汲むんじゃなかったかな! 私も手伝うから行こうか」
 真のフォローによって準備も終わりに向かっていく。
「私、花火を水につけた時の『ジュッ』って音がなにより好きなんですよ!」
 焼き入れの音と似ているからですかねー、なんて楽しげに話すクレールの声が跳ねている。
「だからシンプルな手持ちすすきが一番ですね! なんなら、眼を閉じていてもその音聴くだけでオッケーなくらいです!」
 実際にバケツに放り込む身振りも添えている。
「勿論入れ間違えたりしませんよ! 鍛冶師が火事起こしたら洒落になりませんからね!」


「ふふ、みんな燥ぎ過ぎて破壊活動にならない様にね」
 言いながら火花も音も小さいものを選んだクィーロは、皆が見える場所に陣取って一本ずつ火をつける。
 盛り上がるその中に居るより、こうして眺める方が楽しいと感じる。だからと言って離れているというわけではなくて。
「こうしてみんなと一緒にいれるのは楽しいね」
「いくぞーラスティ! 最初っから大きい奴だ!」
 締めに相応しいはずの連発打ち上げ花火に着火する誠一が見えるけれども。
「えっもう着いてる!? 誠一それ近」
「そら逃げろー!」
「待って俺思いきり座って……誠一ぃぃ!?」
「ほらほら引っ張ってやるから!」
「あーもう火傷したら誠一のせいだからなー!?」
「万が一があっても大丈夫だ、怪我してもアリオーシュが治してくれるしさ!」
「いやそれ絶対言っちゃ駄目な奴だろおぉぉぉ!?!?!?」

 楽し気な叫び声を背景に、いつもなら勧められても嗜む程度に留めるアリオーシュは盃を重ね始めていた。
「今日は特別な日だからね」
 戦いの区切りがついたからだ。少しくらい気を抜いてもいいだろうと、自分に許可を出せるようになった。
「私は振り返る。こうして花火を皆でするという経験はなかったからな」
 隣にはすぐにその瞬間を切り取れるようにと、魔導カメラをしっかりと構えているレイン。勿論レンズ越しではなく、レイン自身の目で見て感じとったものそのものではないかもしれないけれど。
「私は断言する。空に咲く炎と花も。手の先に輝く小さな光の花も。どれも素晴らしいからこそ、忘れ難いものとなるだろう」
 だからこそシャッターを切っていく。少しでも鮮明な記憶のまま、この光景を、長く残していたいから。
「……レイン、食べてる?」
 零が料理を取り分けてくれるのもあって、心おきなくカメラに専念できるのだ。
「私は感謝している。そして同時に、レイとの思い出も鮮明に残して見せる」
 そんな二人の持つコップはどちらもノンアルコールだ。なにせ、わかりやすい反面教師がすぐ傍に居る訳なので。
 お互いに微笑みあって、手持ち花火を選び合う。気になったものを二つ取って、一つずつ交換するのだ。

 手筒花火を抱えたクレールが空に舞い上がっていく。始めは勢いよく、次第に落ち着いた速度へと。同時に花火の最も美しいタイミングが重なっていく。
「さあさ、これぞ打ち上げ……いえ、打ち上がり花火です!!」
 威勢のいい声と一緒に舞い降りる火の粉は皆人のいない方へと向かっている。風向きの計算もばっちりだ。勿論舞い方も同様で、脳内シミュレーション通りに回転させたり、花火の点滅タイミングに合わせて横移動をあわせたり。職人ならぬ芸人の域である。
「さっすがクレール! 俺ももう一回行くか!」
「やっぱり俺もなのか誠一!?」
 問答無用で引っ張られていくラスティ。
「あ、でもこれは……おぉ!?」
 しかしカラフルなスパークを前に選ぶ楽しみを感じたらしい。しっかりと指の間に挟んでいく。手の指は五本、指の間は四本、それで両手なので……八本!
「奥義、八刀流! どうだ誠一、これ面白いな! ……ってうぉお!?」
 指に挟んでから火をつける、なんて手順で出遅れたラスティの視線の先ギリギリのところを、噴き出す火花が通り抜けた!
「それくらいお見通しだ!」
 誠一、指の間に数本ずつというまさかの……数十刀流?
「いっきにひをつけるなんてーさすがですねー、てぎわがいーですねー」
 ほわほわと、お酒を片手に眺めていた真の解説が妙にタイミングバッチリである。
「大丈夫、みねうちだ!」
 花火=刀という流れなので、ギリギリ=みねうち扱いらしい。
「かっこいーですねー」
「真、酔うの早くないか……?」
「よそ見してると当たるぞラスティ!」
 勿論避けると信じてやっている誠一ではあるが、念のために声をかけるのは忘れない。
「っ! そっちがそうくるなら……!」
 一時撤退! 回避と同時にジャンプするラスティの足元には電子データのようなマテリアルが渦巻いていた。

「……よってませんよー?」
 かくん、と首を傾げる真はいつも以上に小動物である。体格ではなく仕草からくる雰囲気の話だ。宴会現場でうっかりお持ち帰りされそうな女子に見えなくもない。
「さっき飲んだの、なんだったのかな?」
「きれーなとうめいの、おみずですー、おいしかったですよー」
 尋ねたアリオーシュに素直に指さす先。ウォッカの瓶である。
「そうだね、でも飲み物だけじゃなくて、しっかり食べないと駄目だからね」
 幼児化を疑うレベルのふわふわな真に釣られたのか、アリオーシュが母性らしきものを発揮し始める。
「これとかお勧めだけど、うん、危ないから串は外しておこうか」
「ありがとーございますー……むぐむぐ……おいしーですー」
「それはよかった」
「……たのしーですねー?」
 タレ味の元焼き鳥、モモ肉を咀嚼して真の表情が緩む。
「……うん、そうだなあ、楽しい……ふふ……♪」
 お互い、なんだかつられてしまったらしい。

「これは予想できないだろう! くらえ誠一、花火ランチャー!」
 連発打ち上げ花火を両手に構えて、撃ちだされる度に狙撃ポーズを決めていくラスティ!
「なんのこれしき!」
 誠一は着火直後のねずみ花火を手裏剣宜しく投げ返す!
「どわぁぁぁ!?」
 予測不能な動きに翻弄されたラスティの狙いが外れる!
「狙い通りだ!」
「ぐま。花火、怖く……ない?」
 うずうずしている白兎の様子を気にかけつつ、零は自身の持っている花火の向きを変える。
「危ない……から、近付きすぎちゃ、ダメ……だよ?」
 見て楽しむならあっちかな、なんてぐまの身体をそっと抱き上げる。
「はははっ♪ 空に昇る滝になれー!」
 打ち上げ花火を並べたのは火をつけやすくするというだけでなく、一斉に楽しみたいから。着火の時だけ真剣な目で、素早く確実に。
 誤差も少なく打ち上がっていく炎の軌跡、アリオーシュの即席花火アートが鮮やかに皆の視界を彩る。

「ここに取り出したるは……!」
 以前に自作で揃えたカクテルセット。まずは見本にと作るのは職人魂のダブルクロス。なにせここは酒のみの集まる場、材料には困らないのである!
 東の清酒、西のティーリキュールに各種のハーブ。氷はミルクで作っているが、今回は少し手をくわえて、丸く作れる製氷皿を使ったものだ。
「オススメはこれ! と言いたいところですが好みもありますし、お好きなものを言ってくだされば作りますよー!」
「私は注文する。酔い覚ましのノンアルコールカクテルが最優先だと」
 遅すぎるかもしれないが、とレインの言葉に女性三人集まって頷く。飲酒を先にした上であの大立ち回りの二名がふらふら、小動物一名は無害なので問題はない、残り二名はそもそも暴れていないのでノーカウント。
 なおクレールは紅一点の酒飲みな状況だが、大きく動くのを見越していたのでまだ飲酒前である。最初の一杯はダブルクロスと決めていたのだ。
「……あぁ……うん、頼む。氷沢山つくっといたし、効く奴を……」
 のそのそとラスティが寄ってくる。大掛かりな花火を使い切ったところで、酒も回りきったのである。
 クレールのカクテルに使うミルク氷を見たラスティが、零と一緒に追加で作った飲料氷。つまりはソフトドリンクの類を氷にした者が多数あるのだ。同じ飲み物に入れれば薄まらずにいつまでも冷たいし、別のものにあわせてミックスジュースを楽しんでもいい。特に今ならクレールがシェイカーを振ってくれるので、状況は完璧である。
「了解しました、気分はお酒、実際は良い冷まし! ハーブティーの氷と酸味の強い果汁、発砲成分でサイダーを……ジンジャーって香辛料かな? 入れちゃいましょう!」
 耳障りのいい音が続く中、誠一ものんびりと歩いてくる。手には各種お酒のアテの料理達だ。
「俺は迎え酒で頼む」
「せんせい、飲み過ぎは、ダメ……だよ」
「私は追加する。説教時間は二倍であると」
「おせっきょー……っ! あれ……えーと……?」
 覚醒ワードによってちょっぴり正気の戻った真が周囲を見渡せば、皆、思い思いに料理を楽しむ流れになっていた。


 確かに身体はふらつくし、きっと明日は二日酔いの気がするけれど。折角の打ち上げなのだからと、すぐにも始まりそうだった説教を回避した誠一は皆の顔を眺めている。
 もともと、一人でいた人達に声を掛けて集めたのが射光という小隊だった。一人で居るには理由があったはずだ。
(実際、全員。出会った当初はどこか寂しさや、影を落としたところがあったよなあ……)
 だからこそ目を惹いた。だからこそ声をかけた。だって放っておけるはずがなかった。
 要らぬお節介なら伸ばした手を取らなければいい。もし、この手を取ってくれるなら……そんな誠一に応えてくれたから、今、皆はここに居る。
(だから、余計にさ)
 一人ひとりの出会いを思い出して、勝手に零れ堕ちそうな言葉と一緒に持っていたコップを傾ける。
「……皆の笑顔を見るのが俺は大好きなんだよなぁ……」
 寂しさがなんだ。影がなんだ。ありのままのその人を肯定すればいい。それだってその人の一部で、魅力のひとつなのだから。
 笑顔を引き出したいから声をかけた。理由が無くても集まれる、帰れる場所があると伝えるために、皆が揃う度当然のように出迎えた。
 残り少なくなった花火を穏やかに楽しむ仲間達は今、確かにこの場所に、木漏れ日の家に居る。
「俺が作りたかったのはさ。皆が当然のように“ただいま”を言える場所なんだよな……」
 酒は、口を滑らせるものである。

「……ただいま……か」
 皆に線香花火を配りながら真が呟く。帰る場所があってはじめて言える言葉。相棒達が待ってくれる部屋に帰るときに言えるようになった言葉。
「そっかー……ここでも、いっていいんだ……」
 嬉しいなあ。口はそう動くけれど、声にはならない。ずっと仕事に、戦いに明け暮れてきた時間を、労わる時間が、場所が、他にもあると思っていいだろうか。
「……そうかぁ……」
 居場所は確かにここに在ると、思っていてもいいらしい。見つからなくて走り回っていた自身を、休めてもいいらしい。
「この場所に誘ってくれた誠一さんと、皆さんと。一緒に戦ったことは、私にとって充実した時間でした」
 気付けば皆に聞こえるように、声が大きくなっていた。酔いは覚めていて、瞳には真剣さが宿る。
「突然かもしれないけれど。ありがとうございます……皆さん」

「戦いを楽しいと思った事は、一度もないけど……それでも、皆と共に戦い抜いた記憶は、俺の誇りです」
 ぽつり、と呟くように。けれど届けたいと思ったから。アリオーシュも言葉にしていく。
「こんな未来を得る為に出会ったのなら、悪くない、と……そう、思います」
 皆の顔を順にみる中、誠一に向ける視線には特に篤い感謝を込める。今、アリオーシュがこの場に居るのは誠一が誘ってくれたからだ。
「またいつかこうして集まって、笑い合える日が何度でもあればいいな、と」
 本心からである証拠に、微笑みが自然に浮かぶのだから。

「俺だって!」
 力んだせいで、受け取った線香花火がぐしゃりとなった事にも気付かずにラスティが声をあげる。
「今まで、皆と一緒で楽しかったぜ」
 それ以外の言葉なんていらない。
 何があっても、それを快く受け入れてくれる仲間達。だからこそこうして馬鹿みたいに騒げるし、戻ってこれる。
 一緒に居て楽しめる存在だと、楽しかったと、その言葉に全てを込める。
「過去系じゃありませんよ、今だって!」
 どこか楽し気に教師の真似事をして、クレールの声が続く。
「今も、現在進行形で、“楽しい”……違いますか?」
 違いませんよね! その笑顔が全てを示しているから、皆がそれぞれに頷いた。

 ほんの少しでも気に入る何かがあれば、積極的に四角の枠に収めていた。シャッター音は花火の音、賑やかな笑い声の邪魔をすることもない程度。何より気の置けない仲間達しかいないので、遠慮なく撮ることができている。
「私は」
 咄嗟に言葉にしようとしたレインだが、続きが出てこない。慌ててシャッターを切って、出てきた写真を確認して……そこでやっと、安堵が零れた。ブレずに、撮りたかったものがそうとわかるように撮れている。
「レイン……撮れた?」
 尋ねてくる零にそっと見せる。零も安堵の息を零した。
(私は決める。これは、当人に必ず渡さなければならない)


「さて、では最後の最後に!」
 じゃーん! とクレールがクロッシュを取り除く。伸びる二本の枝葉が縁に沿って描かれた皿の上に、淡い黄色の油紙を折ったものが敷かれている。そして彩り豊かなマカロン達!
「このお皿見つけた時にビビッと来たんですよね! なので、お昼のうちに作っておきました!」
 レモンの黄、鮮やかなラズベリーの緋、キャラメルの亜麻、ブルーベリーの蒼、ブルーマロウの青、ミントの淡青、マンゴーの太陽、ソーダの夜……ピスタチオの若草、苺の赤、桃のピンク等もあるけれど、其々が手に取ったのはこれが自分のものだと分かる色。
「……」
 手を伸ばす前に戸惑いを見せる真に、誠一がソーダと、プレーンなひとつを差し出した。アーモンド本来のやわらかな白。
「真はこれもな! これから先、どれだけでも好きな色に染まれるって凄いだろ?」
「……なるほど、そういう考え方も……ありますね」
 決まらない、見つからない、じゃなくて……何にでもなれる、なんて。

 クィーロの隣に座る誠一の手には二人分のコップ。
「相棒」
 片方を受け取ってもういいんだ? と目で問えばにかりと笑みが返された。
「堪能した……そう、思う!」
 そのせいで遅くなったがとぼやく誠一に首を傾げながらコップの中身を干せば、ミードのお湯割り。体調不良には蜂蜜、とかそんなことを前に聞いた覚えが……あったような。
「……気付かれてた?」
「やっぱりか、そんなんで料理させて……無理はしてないみたいだけどな」
「そりゃぁね。戻ったら早く寝るよ」
 軽い頭痛くらい問題ないと平然と口にするクィーロである。
「ったく……レイン、ちょっといいか?」
「誠一?」
 どうやら風邪に効く薬の調達を頼むらしい。
「……私は理解した。これから寒くなる。気候に弱い者もいるかもしれない。気は早いだろうが、備えておくに越したことはない」
 そうクィーロに告げた後。呼ばれたついでだと言いながらレインが差し出すのは、慌てて撮った、けれど無事に写しとれた一枚の写真。
「私は告げる。誠一。貴方は今、そして今日。とてもいい表情をしていたと」
 ではまた後でと離れるレインを二人で見送る。
「……過保護な相棒だね」
「相棒なんだ、これくらいさせろって」


「ぐまー、どうした? 戻らないのか?」
 片付けの途中で寝ていたと思ったが。どうやら目が覚めてしまったらしい。ふすふすと鼻の鳴る音に誠一が気付く、慣れた場所だ、夜闇程度で迷う事もない。慣れた足取りのつもりで歩いては居るのだが、実際は酒のせいで少しばかり不安定だ。
「……ああ。去年も見ただろ?」
 近付くほどに目的地が見えてくる。花壇の一角、去年の支柱を立ててもう一度再現するように丁寧に整えた朝顔を見るのは二回目の筈だ。今年は青と紫に加えて、差し色混じりの花も咲いた。まだ咲いていない蕾もあるから楽しめる期間はもう少しあるはずだ、なんて言おうとしたところで誠一も変化に気付く。
 今年もまた、新たな種が出来ていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
【神代 誠一/男/32歳/疾影越士/be/その手が届く限り】
【クレール・ディンセルフ/女/23歳/鍛機導師/get/その陽をもって笑顔を】
【ラスティ/男/20歳/機導縦士/prop/輪の中を当たり前に】
【アリオーシュ・アルセイデス/男/20歳/聖白導士/guard/自分なりの友愛の伝え方】
【クィーロ・ヴェリル/男/25歳/騎闘狩人/fly/その空気が何よりも】
【浅緋 零/女/15歳/猟影越士/feel/幸せの欠片と思えばこそ】
【鞍馬 真/男/22歳/闘技狩人/seek/道を見出す切欠】
【雨を告げる鳥/女/14歳/魔術巫女/tell/故に説教が示す手段】

『海風のマーチ』
イベントノベル(パーティ) -
石田まきば クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年09月10日

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