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『ずっと一緒にいよう』
小宮 雅春aa4756)&Jenniferaa4756hero001

 愚神の王との戦いが終わり、2人のエージェントとしての活動はずっと減った。

 戦いのない生活は静かで、平和で、穏やかだった。

 数年後、小宮 雅春(aa4756)は自分の過去にまつわる真実を知り、そして決別した。

  ***

「雅春」

 Jennifer(aa4756hero001)に名を呼ばれ雅春は振り返る。

「どうしたの? Jennifer」

 木偶人形を手放してから雅春は徐々に彼女をジェニーとは呼ばなくなった。

 どうしてか、と尋ねる人には

『なんとなく、こっちの方がしっくり来るようになったから』

 と笑う彼だが、あの人形が関係しているだろうことにJenniferは気が付いていた。

「話があるの」

「ん? 何」

 雅春の優しい茶色の瞳が真っすぐJenniferを見つめる。

「誓約を破棄してもいいのよ?」

 我ながらずるい言い方だと仮面の下で彼女は自嘲した。

 言い方ならいくらでもあっただろうに、無意識ながらにこの言い方を選んだ自分は本当にずるい。

「き、急にどうしたの?」

 戸惑う彼に、Jenniferは答えを返さない。

「僕、何かしたかな? 何か嫌なことがあるなら言って?」

 慌てながらもどこまでも優しい声音に、Jenniferは前言撤回しそうになる自分の唇を、閉じることで抑えた。

「そうではないわ。でも、貴方が人形を手放してからずっと考えていたの」

 自分がいるせいで大切なものを手放させてしまったのではないか、と。

 あの時、彼女には人形が恨めしそうに自分を見た気がした。

 お前がいるせいで捨てられるのだ、そう言っている気がした。

「あの時からずっと何かを振り切ろうとしているように見えるわ」

 それは自分と何か関係があるのではないか、と彼女は続ける。

(……怖い)

 言葉を紡ぐ度に恐怖がJenniferの身体を蝕んでいく。

 この話をすればきっと捨てられる。

『捨てられる』

 それは彼女が最も恐れ、忌避することだ。

(それでも……いや……)

 だからこそ、自分のせいで彼に何かを捨てさせるようなことはさせたくなかった。

(いつから……?)

 こんなことを思うようになったのだろう。

 ただの観察物に過ぎない、それはずっと変わらないはずだった。

(それなのに、いつの間にかここまで……)

 無意識に噛み締められている唇と自分の感情の変化に気が付いて仮面をしていて良かったと心から思った。

 今の自分の表情はきっと目の前の相手を困らせる。

「もしそうなら、そんなことしなくていいのよ」

(あぁ、僕は……)

 Jenniferを見つめながら雅春は胸の痛みを感じていた。

 仮面をつけていても彼女の痛みが、悲しみが伝わって来る気がした。

 それ程にJenniferの手はきつく握られていた。

 確かに、人形をあの場所に供えてからあの人の面影を追わないように雅春は努めていた。

 だが、それは目の前の英雄とちゃんと向き合おうとしていたからで、それ以外の他意など欠片もない。

(それなのに……)

「ごめんね、そんなつもりじゃなかったんだ。あの人形はね……」

 Jenniferの手を取り、優しく開かせながら雅春は人形の事を話し始めた。

 人形をくれた女性のこと。

 彼女とJenniferを重ねてしまっていたこと。

 2人で言ったあの場所は彼女の終着点であったこと。

「僕があそこで人形とお別れしようと思ったのは、Jennifer、きみとこれからも一緒にいたいと思ったからなんだ」

 Jenniferは何も答えない。

 沈黙の中、雅春は考え考え言葉を続ける。

「Jenniferの中に彼女を重ねるんじゃなくて、きみだけを見たいって思ったんだよ。……あ、変な意味じゃなくてね、上手く伝わるかな。えっとね、誰でもないきみと一緒にいたいって思った。っていうか……」

「……そうだったのね」

「Jennifer はどうしたい?」

「え?」

 突然の問いに驚いたように彼女の指が小さく跳ねる。

「酷いことをしたって自覚はあるんだ。正直、今もたまに彼女の面影をきみに重ねちゃうときはあるし……あ、いや、気を付けてはいるんだけどね。だから、そんな男と一緒にいられないってことなら、その……」

『きみが望むなら誓約を破棄してくれてもいい』

 歯切れの悪い言葉ではあったが、彼の言いたいことがJenniferには伝わったようだった。

(捨てる? 私が?)

 捨てられることばかりでJennifer自身が捨てる立場になるなんてこれっぽちも考えたことはなかった。

「そうね、本当にひどい人だと思うわ」

 少しの間の後、Jenniferはそう口を開いた

「じゃあ、やっぱり……」

(考えるまでもない)

 答えは最初から決まっている。

「冗談よ。それに、これは私から申し出た誓約。そう簡単に破ると思うの?」

「Jennifer ……いいの?」

「ええ。その代わりちゃんと私だけを見てね」

 少しだけ笑いを含んだ声につられるように雅春も微笑む。

「うん、勿論だよ! あ、でももう癖みたいなものだから暫くはちょっと多めに見てくれると……」

「ふふ、たまにならいいわ。今はね」

「うん、ありがとう」

  ***

 それは柔らかな日が差し込む日の事だった。

「Jennifer」

 窓際のベッドに横たわっていた雅春の口が長年連れ添った女性の名を呼ぶ。

「おはよう、雅春」

「夢を見てたんだ」

「どんな嫁?」

 どんなに年を経ても変わることのない、陶器の様な細い指が皺だらけの彼の指に絡められる。

「誓約を破棄してもいいってJenniferが言った時の夢だった」

「そんなこともあったわね」

「あの時、僕、本当にびっくりして、悲しくて……それ以上にすごく後悔したんだ」

「後悔?」

「うん、もっと早くきみに話していれば、あんなこと言わせなくて済んだのにって。あの時は本当にごめんね」

「もう過ぎたことだわ」

 相変わらずJenniferの口調は淡々としている。

 それでも、その口調は柔らかく愛に満ちているように雅春には感じられた。

「ねぇ、Jennifer」

「何かしら?」

「顔が見たいんだ」

 Jenniferが仮面を外すと、ゆっくりと雅春の手がその頬に触れた。

「色々あったけど、きみと出会えて、一緒にいられて幸せだった」

「私もよ」

 重ねられる手の柔らかさに雅春の笑みが深くなる。

「……生まれ変わってもまた出会えるかな」

「ええ、きっと」

「そっか……嬉しいなぁ……ありが……と……」

「おやすみなさい、また会いましょう」





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa4756 / 小宮 雅春 / 男性 / 24歳 / 最後はきみの隣で 】

【 aa4756hero001 / Jennifer / 女性 / 26歳 / 最後まで貴方と共に 】
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
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2019年09月09日

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