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『新しい形を、この街で』
レオーネ・ティラトーレka7249)&セシア・クローバーka7248

 レオーネ・ティラトーレ(ka7249)にとっては見慣れて馴染んだ街並みの中で、少し前を歩くセシア・クローバー(ka7248)が物珍しげな様子で周囲を眺めている。
「これだけ店が並んでいると壮観だな!」
 つい声をあげてしまってからレオーネの存在を思い出したのか、慌てて隣に戻ってきた。
「すまない……今住んでいる村には、商店街なんてものも、ましてや屋台なんてなかったからな」
 見るからに肩が落ちている様子に微笑ましさを感じて、つい笑みが漏れる。
(村、ということは店も限られたものしかないってことかな)
 それならはしゃぐのも無理はないだろうと思う。
 オフィスの職員に暇かと声をかけられたときは、はじめこそ何事かと思ったけれども。
 既に面識があり、実際に大規模作戦を共にしたことがある仲。そしてこれから同じ街で暮らすことになる者同士だ。不慣れなセシアに街案内をしてあげて欲しい……そんな頼みくらい、仕事じゃなくても引き受ける。いつもオフィスでの仕事選びで相談に乗ってもらっているのだから当然だとレオーネは考えている。
 しかし、だ。実際にこうして案内してみれば。セシアはうてば響くように反応を返してくるのだ。だから本心から告げておかなければ。
「気にすることはないさシニョリータ・セシア。それだけ楽しそうにしてもらえるなら、案内を引き受けた甲斐があるってものだぜ」
 実際、見ていてこちらも楽しくなってくるのだから。

(恥ずかしい姿を晒してしまったか)
 今まで過ごしていた場所は村だ。住人皆顔見知りが当たり前な環境から、急に人口も建物も密度が高い場所に変わる。土地勘もないし、越してから手探りで生活圏を広げていくことに不安がある。そんな事を世間話がわりにオフィスで話してから数日もたっていなかった。いい人がみつかったから紹介すると職員に呼ばれて来てみれば、以前も職員の紹介で共に行動したレオーネが待っていた。
 職員の人選に不安はなかったが、急に決まったこともあって緊張していた。顔を合わせた瞬間、知った顔だったことに随分と安心したのだ。
(もう遅いか?)
 家族内ではしっかりしている方だと自覚もあるし、そう扱われている自負がある。しかし街を知る度にどうしても……気が逸るというか、心が躍ってしまうというか。
 実際、レオーネはとても理想的な案内役なのだ。
 実用的な、新生活に必要な場所を優先してくれている。それが一番セシアの求めていることで、それだけでもう感謝の気持ちでいっぱいだ。
 さっきも店員と親し気に言葉を交わしていた。彼自身が普段から懇意にしている、それだけ信頼できる店だと示してくれたのだ。近々顔を出すようになるからと、セシアの事を紹介だってしてくれた。どこまで手厚いのだろう。
 とにかく事務的になる、なんてことが一切ない。常にセシアが楽しめるように気を配ってくれている。自分でも落ち着きなく視線を巡らせてばかりだと自覚があるのだけれど、その視線の先にもしっかりつきあってくれるのだ。こちらが尋ねるより先に、知っていることがあればすぐに話してくれるのだ。それも押しつけがましくなく、自然な流れで。
「気付いてしまったか……本当、あの店はいつもいい香りがするんだよ。俺もついつい立ち寄ってしまうんだよね」
 言いながら屋台に寄っていく。急かすでもなく、セシアに無理のない速度なのはずっと変わらない。
「シニョリータ・セシア、そんなわけだから一緒につきあってくれるかい?」
 食べ歩きが嫌じゃなければ、と気遣いも見せられる。手軽に摘めるボールドーナツには複雑なデコレーションではないが、グレーズがかかっている。ドーナツに絡める時に広がる甘い香りが通りがかる人々の嗅覚を刺激しているようだ。ほら、今もまた一つ売れていった。
「なるほど、6個入りで2人ならどのようにでも分けられるな」
「俺が居るから、残すなんて心配もしないで済む。食べたいだけを、気にせずどうぞ?」
 手早く一つ購入したレオーネが、厚紙の容器ごと差し出してくる。スティックが刺さっているので手を汚すこともない、食べ歩きに優しい品だった。

 美味しそうに頬張る様子が可愛らしいと思う。これまでも屋台や、食べ歩きが可能なメニューに気をひかれていたのは気付いていた。視界に何か新しいものが映る度に気を逸らす様子からも好奇心旺盛な小動物みたいだと思っていた。さぞ食べる時も微笑ましく感じるに違いないと思っていたのだ。
 しかし折角の案内なのだ、どれもこれも試すよりは、確実に美味しいと思うものがいいに決まっている。これから住む街を気に入ってもらえれば、その助けになれたらいいと思う。
 案内をしながら好みを知ろうとしてみたけれど、セシアはどれも物珍しく思っているようで、逆に好みが読めなかった。だったら女性受けも良いだろう甘いもので、自分も気に入っているものにしよう。もし好みから外れたとしても、甘いものなら歩き続けている今の疲労回復になるだろうし、残っても自分が美味しく食べられる。勿論喜んでもらえるのが一番だけれど……そう考えたレオーネは、案内の順を少しだけ変更して、この店に寄ったのだ。もともと教えるつもりだったので、少し予定が早まっただけでもあった。
「……ん、私も好きな味だ。また立ち寄ってしまいそうだが……しかし、少し不便だな」
 二つ目をスティックにさして眺めはじめたセシアが、心底残念そうな声になった。
「ここなら寄り道しやすいと思うけれど?」
 味は勿論、価格も手ごろ。確認した通り帰宅の際に立ち寄りやすい場所にある。心底不思議そうな声が出てしまったようで、セシアの目が少し細くなった。
「? シニョリータ・セシア?」
「……失礼。そうだな、知らないのだから伝わるはずがなかった」
 謝罪に気にしていないと首をふれば、疑問の答えがもたらされる。
「私は5人家族なんだ。こうして私が気に入ったのだから、きっと家族もこの味を気に入るだろう。そう思えばこそ皆にも食べさせたいと思うわけだが……さて、その場合はいくつ買うべきか困ってしまう」
 試しに一つ買うのが普通だろうけれど、余った一個は誰のものになるのか。もし全員が気に入ったら取り合いになったりしないだろうか?
 ならばと始めから五人で割り切れる数を……そうすると今度は随分と数が増えてしまう。
 説明を終えて二個目を食べるセシアは、三個目には手を伸ばさなかった。
「今はレオーネ、あなたがいるからこうして気軽に食べられる。なにせ他にも気になるものもあることだし」
「勿論それにも付き合うさ……ん? ああ、そうか」
 確かにレオーネも妹達に食べさせたくて買って帰ることがある。その際は二つだ。一つは妹達が三人で二個ずつ食べる。レオーネは平等にと三個目を勧めるのだが、妹達は絶対に手を伸ばさない。キリのいい数のつもりでいたが……あれは、そういうことだったのか。
(確かに、分けて食べるから丁度いい量とも言えるか)
 手土産なら食事の後のドルチェがわりが相応で、多すぎると、今度は食事が入りきらないかもしれない。特に女性は気にすべきところが多いわけだ。勿論そのまま言葉にするつもりはなかった。
「何か気付きがあったようだが?」
「そうだな、シニョリータ・セシアと呼吸を合わせやすいと思っていた、その理由が分かったところだ」
 嘘ではない。ただ少しだけ、妹達に感じていた疑問の氷塊の衝撃が大きかっただけなのだ。
「俺は6人兄弟でね。家族が多いと、こうして数が決まってしまっている土産は買いにくい、その考え方がすごくよく分かったものだから」
 今は四人暮らしだけれど。
「下に妹がいてね、年は……ああ、彼女と近いから、それもあるかもしれない」
 もう一人、大規模で共に動いていたセシアの妹を思い出す。するとセシアの目が輝いたように見えた。

「皆、私にとってとても愛しい者達なんだ」
 劇作家の父の書く物語は、脚本の段階で面白い。劇になったらその臨場感が加わり更に盛り上がって壮大なものになる。
 元歌姫の母は、今でこそ歌姫の講師として働いているが、その腕は鈍っていない。日々の暮らしの中で聞こえてくる鼻歌でさえ人の足をとめてしまうほど。
 姉の生み出す衣装は舞台上でその人を更に輝かせるけれど、普段着だってその人の魅力を引き出してくれる不思議な魔法がかかっているようにしか思えない。
 妹は自分より先に覚醒者としての素養を見せる程だが、どこでも眠る昼寝大好きな性質で、よく行方をくらましていたせいで探すために苦労したこと。
「私の夢は、皆が好きなことを滞りなくやれるように、マネージャーとしてサポートすることでな」
 妹に対しては少し方向性が違う気もするが、なんて苦笑いが混じりもするけれど。レオーネが微笑みながら聞いてくれることが嬉しくて、愛しい家族の素晴らしいと思うところをこうして誰かに話せることが嬉しくて、セシアの言葉は今も続いている。
「それが今回の引っ越しで、前に進むことになるんだ」
 どんなに素晴しいものが揃っていても、それを広める手段が限られていては意味がない。
 家族が街に来れば、村に完成品を取りに来る者、技術を習いに来る者達が助かる。子育てを一段落させた母もまた舞台に立つことができるようになる。ハンターとして活動する自分達もオフィスに通いやすくなる……
「全員マイペースだし、きっと忙しくなるだろうけど。何だかんだ私は家族が好きで、こういう仕事をずっとやりたいと思っていたんだ」
 夢が近づいている。すぐそこに手が届きそうなくらいに。吐息とともにそう締めくくれば、レオーネが熱心に頷いてくれる。
「……わかる、いいものだからこそもっと皆に知ってほしいな。出来る事はやりたいって思うよな」
 実家の手伝いも進んでやったな、なんて声に。近い価値観に嬉しくなった。
 けれど。
「長話をしてしまったが……しかし、レオーネ?」
「?」
「恋人に嫉妬されたりしないのか?」
 かつていた恋人は、家族の話をすると呆れたような態度を見せた。レオーネの価値観が近いなら、似た経験があるのではないかと思うのだ。
「それに、今日のことだって。情報は役に立つものばかりな上、私自身も楽しませてもらったが……ここまで気が回るんだ、パートナーは気が気じゃないだろう。必要なら私からも弁解をするので、その時は遠慮なく呼んで欲しい」
 言葉を重ねるほどに、目が見開いたようになるのはなぜだろう?
「いや、ここの所、決まった相手はいないな。表情は仕事しないけど素直で可愛い、年下の友達はできたけど。あくまでも友達だし」
 まさかの返答。引く手数多だろうと思っていたからこそ驚きが抑えられない。きっと今の自分は先ほどのレオーネと同じような表情をしているのだろう。
「俺は最初から恋愛したいから、友達は恋愛対象じゃない」
「……?」
 首を傾げるが、答えではなく、予想外の言葉が降って来た。
「君が恋愛対象になってくれると、俺としてはとても嬉しいんだが」

「!?」
 驚きで声が出ない様子に、微笑ましさだけでなく、愛しさが過るのは気のせいじゃない。可愛らしいと思っていたのもその予兆だった筈だ。
 くすりと笑うのは抑えられないけれど、気分を害しているわけでもないようだ。そのまま近寄り、セシアの前にゆっくりと膝をついた。
「恋愛前提で交流してくれないか?」
 金の瞳に自分が映っていることを確かめる。もう笑みはなりを潜めていて、自分でもあまり見ない表情だと思った。
「俺は君のことがもっと知りたいし、同じ時を過ごしたい……セシア」
 そっと手を取ってみる。抵抗がなかったことに安堵しながら、ゆっくりと顔を近づける。セシアが簡単に振りほどけるくらいの力で、逃げられる程度のはやさで。
「!」
 甲に唇が触れた瞬間、微かな奮えが伝わってくる。もう一度請うために見上げて口を開きかけたところで、小さな声が返ってきた。
「……お試し期間、からだ」
「! ……なら、セシア。このあとは初めてのデートに変更するかい? それとも、改めて別の日にしようか」
 これ以上脅かさないように細心の注意を払いながら立ち上がり、セシアの隣へ。耳まで真っ赤で、けれど冷静に振る舞おうとする彼女を愛しく感じる。
(これから、どれだけこの子を好きになっていくのか……楽しみだ)

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【レオーネ・ティラトーレ/男/29歳/猟撃影士/紡ぎ出す/甘やかしたい存在への、愛の言葉】
【セシア・クローバー/女/19歳/魔符術師/歩き出す/充実した未来と、過去が色褪せるほどの恋】
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2019年09月10日

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