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『Are You Hangry!?』
華倫la0118)& アキレイアla2618)& ネムリアス=レスティングスla1966

●命知らずども
 グロリアスベースの隅っこに設けられた、多目的スペース。めいめい二つ三つのクーラーボックスを担ぎ、アキレイア(la2618)とネムリアス=レスティングス(la1966)はそのスペースの隅っこにやってくる。バンダナを頭に巻いた華倫(la0118)は、コンロを団扇で扇ぎながら彼らを出迎える。
「ようこそ、アキレイア様にネムリアス様。歓迎いたしますわ」
 ぺこりと頭を下げる華倫。アキレイアも仏頂面のまま会釈した。二人の獣耳がふわりと揺れる。
「こちらこそ誘ってくれたことに感謝している。興味はあっても、実際に挑戦してみる機会というものは中々存在しないからな」
「他の連中にも声をかけてみたんだが、嫌だって言われちまった。……まあ、こいつを食べようって言って、素直に応じる奴はなかなかいないよな」
 ネムリアスはクーラーボックスを人工芝の床にどさりと下ろし、次々その蓋を開く。中に納まっていたのはサシの入った美味しい牛肉……ではなく、見るも奇妙なナイトメア肉ばかりである。アキレイアが背負ってきた肉も同じだ。基本的には空を剥いた甲殻類のような肉質のソレばかりだが、中には動物のような肉質のモノも混ざっている。何を隠そう、今日はバーベキューパーティーなのだ。ただし、ナイトメア肉を使っての。
「しかし、戦場ではしばしばある事だと聞き及んでいたのだがな。ナイトメア肉を食べるという事は。もう少し人が集まるものだと思ったが、来たのはボクとネムリアスだけか」
「あれだろ。戦いで出た脳内麻薬でハイになってる間に、ノリで食っちまった……って感じなんじゃないか? 美味くない事も多いし、第一、俺も一回喰った後にぶっ倒れたからな……」
 今もネムリアスはしっかり覚えている。大量に押し寄せた巨大なガザミ型ナイトメアの肉を食った後、どうした事か眩暈を起こして倒れてしまったのだ。
「こうして平時に冷静になって考えたら、普通に焼肉食うしってなるだろ」
「それでもネムリアス様はこのバーベキューに参加してくださったのですわね」
 プラスチックのまな板で付け合わせの野菜をさっさと切り分けていく。今日の華倫はホスト役に専念だ。
「ナイトメアの体組織をライセンサーが摂取したらどうなるか、ってんだろ。確かにそいつは俺も興味があるからな。……もしそれで、例えばIMDの出力に有意な差が出るんなら、俺は喜んで食べる」
 コップ一杯のお茶を呷りながら、ネムリアスは決意に満ちた眼差しで呟く。清酒の瓶の口を開きながら、アキレイアは首を傾げる。
「ボク個人としては、もう少し道連れが欲しかったけどな。例の博士は来ないのか? あの博士なら、実験と聞いたら喜んで飛んできそうだと思ったんだが」
「いえ……一応お誘いはしたのですが、絶対に嫌だとおっしゃいまして。一応、食べても問題なさそうな種類のナイトメアをリストアップして、検体を提供してくださったのですが……」
 尋ねた時の真ん丸に見開かれた眼を見た時、華倫は思わず縮こまってしまった。あの博士のあんな表情を見たのは、後にも先にも自分だけではないかと思った。クーラーボックスから肉を引っ張り出しながら、ネムリアスは華倫を見遣った。
「じゃああの、ナイトメア食専門家とかいうヤツは? それこそ、こんな場には飛んできそうなもんだが」
「えっと、用事があるらしくて」
 病院で入院という名の。とは言えず、華倫は頬だけひくつかせて何とかごまかした。最初から多少の体調不良は起きるかもしれない、と了解は取り付けているのだ。ここまで来て『やっぱりやめた』は困る。ネムリアスもどうやら納得したらしい。
「ま、それだけで食ってるわけじゃないだろうしな」
「そうですよ。ですから今日は、お二人の事を助けるくらいの心持ちで堪能していただけると嬉しいですわ」
「ああ。今日は食べるぞ」
 こうして、世にも稀なるナイトメアのバーベキューパーティーが幕を開けたのであった。

●曲者揃い
 先に野菜の付け合わせを焼きながら、華倫はとうとうナイトメア肉の処理へ取り掛かる。まず手に取ったのは、元は猪型であったというナイトメアの死骸。中身の肉も獣らしい見た目になってはいるが、脂肪の入り方がどうにも変だ。斑模様になっている。そんな肉と向き合い、華倫は岩塩を手に取る。
「さて、まずはシンプルに塩で下味をつけた牡丹肉をお二人にはご賞味いただきますわね」
 岩塩用のおろし金を手に取り、彼女は塩を擦りおろしていく。赤身に掛かっても無反応だったが、その塩が斑に浮かんでいる脂肪に振りかかった時、突然悍ましい変化が起きた。突然脂肪が泡立ち、どろどろと融け始めたのである。脂肪が融けるに合わせて、赤身もどんどん融けていく。華倫が目を白黒させている間に、肉は液状化して流れ出し、人工芝を赤く汚していった。
「これは、一体どうした事でしょうか……」
「まあ……ナイトメアの擬態って、相当自由だしな……その一端がここにあるのかも?」
 ネムリアスがぽつりと呟く。焼けた玉ねぎを箸で摘まみながら、アキレイアは猪口をそっと傾けた。
「見世物としては面白い……が、こうなっては食べられないな」
「仕方ありません。替えはありますので……この脂肪を切り落として焼いてみる事に致しましょう」
 スライムをぶち撒けたようにべたべたとなってしまったまな板をゴミ箱に放り込む。自分の命が懸かっているのだ。こんな事ではへこたれない。もう一切れ肉を取り出し、新しいまな板も載せて、華倫は耳をピンと立てる。
「さあ、今度こそ、無事作り上げて見せますわ」
 包丁で丁寧に白い脂肪のような何かを削ぎ落すと、赤身だけに軽く下味をつけて焼き始める。ネムリアスとアキレイアがじっと見つめている間に、肉にはこんがりした焼け目が付いていく。華倫はトングで肉を掴み取り、ネムリアスの皿にそっと載せる。
「さあ、とりあえず焼けましたわ」
「わかった。さて……食べてみてどうなるか……実験だなぁ……」
 ネムリアスは姿勢を正し、肉とじっと向かい合う。見た目はタダの肉と変わりない。しかし、彼は今まさに脂肪と塩が凄まじい化学反応を起こした瞬間を見てしまっていた。深呼吸すると、割り箸を取って向かい合う。
「いただきます」
 ネムリアスは素早く手を合わせ、勢い任せに肉を頬張る。油をしつこく削ぎ落したせいで、どうにも肉がぱさぱさしている。塩加減はまともだったが。
「うーん……肉としてはこう……安物っていうか、普通に美味しくない肉だなぁ……食べるか?」
 彼はアキレイアに肉を差し出す。既に緑色の肌を僅かに黄色く染めつつ、彼女は箸で肉を摘まむ。
「これが、ボクの初めて食すナイトメア肉というわけか。さて……」
 アキレイアは大きく口を開き、肉を一切れ丸々口へと放り込む。眼を閉じて、無心で肉を噛みしめる。
「ふむ。全く旨味を感じられないな。塩味があるから辛うじて食べられるが……」
 そして感想は正直に言う。悪いのは食材だと分かっているから、特に遠慮も必要ない。結果をタブレットのメモにさらさらと書き留めながら、華倫は二人の顔色をじっと窺う。
「どうですか? 何か気分として変わったところはあります?」
 今日の目的は、別にナイトメアを美味しく食べることではない。それを食べてどうなるかを知るのが仕事だ。ちょっとした応急処置セット以外にも、こっそりとAEDを準備しているほどだ。
「うーん……いや。今のところは何も起きてないな?」
「そうだな。まだ全然食べられるぞ」
 二人は互いに顔を見合わせる。まだまだ顔色は良さそうだ。華倫は笑みを浮かべて頷く。
「わかりましたわ。では次のメニューに参りましょうか」

 次に華倫が取り出したのは、蟹の脚をやたら大きくしたような肉だった。ネムリアスが持ち込んできた肝入りの肉である。以前の任務では、この採れたてほやほやの肉をほぐし、鍋にして食べたのだ。
「そいつは一応美味かったぜ。味噌も含めてな」
「それは興味がありますが……でも、カニミソはお持ち寄りにならなかったのですね?」
「ああ。食べた後に倒れちまったからな。カニの身だけを食べてた時は大丈夫だったから、もしかするとそれが危なかったんじゃないのか、って思ってさ」
「カニか……缶詰はつまみによく合うよな。楽しみだ」
 アキレイアは猪口を手放し、盃に清酒を注いでいた。普段は仏頂面の彼女が、すっかり頬をゆるゆるとさせていた。華倫は微笑みその身を両手でほぐし始める。
「焼いたカニの身も美味ですわよ。とりあえず食べてみましょうか」
 先程の肉とは違って、料理はスムーズだった。身を解して、アルミ箔で作った皿の上に乗せて熱していく。途中でバターをひと塊入れて溶かし、ついでに醤油も垂らす。ちょっと一捻り入れたバター焼きだ。匂いは完全に蟹である。アキレイアは深々と匂いを吸い込み、ほんわかと笑みを浮かべた。
「ふむ。……これは旨そうだな」
「では、お召し上がりくださいませ」
 アルミ箔ごと皿に乗せて差し出すと、早速アキレイアがそれを引ったくった。盃で酒をぐいと飲み、箸でカニの身を摘まんで口へと運ぶ。彼女は目を輝かせた。
「うむ。美味いぞ。ネムリアスも食べるといい、ほら」
「そうだな……おお、これは中々だな」
 笑みを浮かべるネムリアス。二人の様子を見ていた華倫も、ほんの少し摘まんで食べた。
「なるほど。確かにこれは美味しいですわね……」
「これは当たりだな。……普通過ぎて、それ以上の何かがあるってわけでもなさそうだが……」
「では、また新たなメニューを……」

 コンロの金網を鉄板に変え、華倫は新たなナイトメアの下処理に入る。幾つものナイトメアの肉を一口大に切り分けると、ホルモン焼きのように纏めて野菜と焼き始める。しかしこれが散々だ。ある肉は焼いたら急にフランベしたように発火するし、別の肉は急に破裂するし、もう一つはヘンな匂いを放ち始めるし、もう散々だ。
「こ、これは……料理をしているだけで目や鼻に訴えるものが……」
 両手の篭手を振り回しながら、眼をしょぼしょぼさせる華倫。ネムリアスは軽く眉を顰めた。
「いやー、これは結構、きつそうな……」
 警戒心はMAX。しかし実験に協力するといった手前、逃げる訳にもいかない。ごくりとつばを飲み込んだ。熱を加えた結果すっかり七色に染まってしまった毒々しい肉を、華倫は引きつった笑みを浮かべて差し出す。
「や、焼けましたわ……」
「うーん、マジか……」
 思わず溜息を零すネムリアス。しかし、その隣で日本酒を紙コップに注いで飲んでいたアキレイアは、胡乱な眼をして皿を引っ手繰った。
「これは面白い料理だなあ……ボクは貰うぞ?」
 言うなり彼女は一欠け二欠け口へと放り込む。ネムリアスは思わず息を呑んだ。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫だぞー。これは中々舌がひりひりして、刺激的な味がするな。ほら、お前も食べろ」
 そういって、ネムリアスの開いた口に肉を放り込む。広がる刺激に、思わずネムリアスはむせた。
「いや、これはちょっと辛すぎて……? うわっ! 呑み込んだ後も辛いのが来る!」
 むせ返るネムリアスに、その反応を見てからから笑うアキレイア。一頻り笑った後、不意に二人はどさりと倒れた。
「ネムリアス様? アキレイア様!」
 華倫は慌てて駆け寄り二人を揺すぶる。

 彼らはすっかり気を失っていた。

●宴もたけなわ
 夕暮れ。木陰に寝ていたネムリアス達は、静かに目を開いた。半身を起こしたネムリアスは、顔を顰めて呻く。どうにも寒気がして仕方が無い。傍に座って団扇を扇いでいた華倫は、彼にそっと飲み物を差し出す。
「ううん……? どうした? 何があった……?」
「ナイトメア肉を食べている間に、急に体調を崩して倒れてしまったのですわ。どうやら何かが中ってしまったようですわね……」
「なるほどな。ナイトメアを食うっていうのはやっぱりリスクがあるのかもしれないな。それで、俺が倒れてから起きるまでの間に、俺に何か変わったところはあるか?」
 紙コップの中身を一気に飲み干し、ネムリアスは華倫に尋ねる。タブレットの画面を彼に差し出し、彼女は首を振った。
「心拍数その他をチェックしてみましたが、有意な変化は見られませんでしたわ。長期的に見ればわかりませんが、今のところはナイトメア肉を食べても何かライセンサーに変化のようなものが現れるわけではなさそうですわね……」
 レポートを手早く纏めていく華倫。うんと呻き、アキレイアがようやくその身を起こした。着物の襟がずれ、鎖骨がちらりと露わになる。緑の顔を僅かに青くして、彼女は頭を押さえて呻く。
「そうだろうか。今ボクはとても頭が痛いぞ」
 水をくれ、とアキレイア。ネムリアスは苦笑した。
「それは酔ってたからだろう? ほら、悪酔いは良くないから飲んどけよ」
 彼は手元にあったペットボトルの水を彼女に差し出す。受け取って飲みつつも、彼女は怪訝な顔をしている。
「酔った? ボク、あまりよく覚えていないんだが、そんなにたくさん飲んでいたのか?」
「飲んでましたわ。私達は構いませんが、どこでもそう羽目を外し過ぎませんよう、お気をつけて……」
「うむ……何だかやたら気分が良かったという事だけは覚えているのだが……」
 寝て起きるとすっかり記憶が飛んでいる。改めるべきだろうか、なんて事をちらりと思いながら、彼女は乱れた襟をそっと直す。
「ともかく、華倫にとって満足のいく結果は出ただろうか? というよりも、華倫自身は食べたのか? 覚えている限り、きみはもてなしてばかりだったように思うが……」
「ええ。皆さまをそこに寝かせてから、少しいただきましたわ。わたくしまで倒れてしまっては、看護する人がいなくなってしまいますから、本当に少しずつでしたが」
 彼女はレポートを書き終える。被験者二人が体調不良で倒れた事を除いては、まともな反応は得られなかった。彼女は溜め息をつく。
「やはり経口摂取では問題と限界があるのでしょうか……?」
「ああ。これ以外にも何度か食べたが……だからって別に強くはなれなかったし、限度はあるかもな」
 ネムリアスは義手の両腕を一頻り見つめた後、顔を顰めて両手を握りしめる。
「なんとか、ナイトメアの力を奪ったり吸収したりできればな……」
「まだ調査は始まったばかりですわ。よろしければ、お二人とも協力してくださいませ」
「ああ。前向きに考えとく。今日は誘ってくれてありがとな」
「何だかんだ、未知の体験は興味があるしな。出来る範囲でやらせてもらうぞ」

 かくして、ナイトメア肉バーベキューによる、経口摂取実験は幕を閉じた。一つの実験が芳しい結果を得られなかったからと言って、そこで諦める華倫ではない。一人また一人と理解者を増やしつつ、己の目標を達成するため智慧を絞るのであった。



 つづく?


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
 華倫(la0058)
 アキレイア(la2618)
 ネムリアス=レスティングス(la1966)

●ライター通信
影絵企我です。この度はご発注いただき誠にありがとうございました。
ナイトメア喰いパーティーという事で、色々書かせて頂きました。お楽しみいただけたら幸いです。安全そうなお肉は一つだけでした。ここから実験はどのように発展していくのでしょうか……? こちらも楽しみにさせて頂きます。

ファンレターもいただきましてありがとうございます。中々返信できず、申し訳ありません。ではまた、ご縁がありましたら……
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2019年09月09日

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