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『巡り巡る明日』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

 王の脅威を退け、個人的にはセンター試験という難関も突破し。日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)のエージェントとしての日常にも一区切りがついて、学生らしい日々をようやくに謳歌し始めた。無論学業や友人同士の付き合い、いずれH.O.P.E.の法務部に籍を置くに際しての社会勉強等々。やるべきこともやりたいことも尽きない。しかしながら強さを目指し続けるという誓約を第一に歩めど、誕生日を迎え十九になった仙寿と誕生日を控える二十歳のあけびだ。歳が若く経験も浅い恋仲の二人がすることといえばそう、デート以外にない。五月には情を交わし、とうに互いの心が通い合っていたことを確かめた身なれども、それが終点というわけではなく。むしろ若い時分のうちに、他愛ない経験を重ねておくべきなのだ。
「――と、私は思うんだけど!」
 どうかな仙寿と、言葉を足さない代わりに対面に座る仙寿の目をじっと見返すあけび。一秒二秒と心の中で数えていると、ぴったり十秒で耐えきれなくなったように彼は大きく視線を外した。微妙に顔を逸らし前髪で頬を隠したはいいが、ちらりと覗く耳が仄かに色付いているのが分かってあけびは仙寿から見えないのをいいことに微笑んだ。剣術的にも精神的にも追いかけっこを続けている間に彼の一挙手一投足にやり込められる――当然愛おしさや照れという意味で――回数は増えていったけれども、歳の差は常に間に横たわっていて。主従意識は消えてもお姉さん感覚は今も時折顔を覗かせる。関係が変化したのである程度違いはあるが。
「それで、お前はどこに行きたいんだ?」
 じきに平静を取り戻したらしく、真正面のこちらへ向き直ると仙寿はそう問いかけてくる。どちらが言い出したことでもいつも希望を訊いてくれるその優しさに甘えっぱなしでいるつもりはない。しかし、今回はと大人しく甘えることにした。
「あのね――」

 喫茶店とか公園とか展望台とか。デートといえるようなお出掛けは何度かあって、それも大元はまだギクシャクと二人の考えが噛み合わなかった頃に、苺の日にかこつけてショッピングモールに出掛けたあの日だろうか。その一年後、去年の秋頃に行ったのが厳密にいえば初デートなのだが。自らが手繰る胸元に着物の生地越しの指輪の感触。絶えず身に付けたいけれど万が一吹っ飛んでしまったら泣くに泣けない。その折衷案で奥へと潜ませた。
「次はあれに乗ってみたいな! ほら仙寿、ぼさぼさしてたら置いてっちゃうよ!」
「……あけび、お前元気だな」
「二十歳と十九だってそんな変わらないでしょっ?」
 と僅かに語尾が跳ね上がるのは師匠との仕合に決着がつき、サムライガールの留年期間も終わった微妙なお年頃だから。大人になる為に前へ前へ肩肘を張らなくたってなるようになると、漠然とだが解り始めていることだし。過去を愛しく思って、未来への展望に胸を膨らませ、そして瞬間瞬間を楽しく幸せに生きる。そんな気持ちが欲深くも世界をより一層鮮やかに彩る。
 アトラクションを指差した手で仙寿の腕を抱き込めば、彼も歩き出した。勿論あけびとて仙寿の嫌がることを押し付ける気など毛頭ない。実際彼も嫌がっているわけではなくて。ただ一日中楽しもうと計画を立てたまでは良かったが、最近こなれてきた仙寿の運転でと移動した結果、残党の従魔と鉢合わせた。そのお陰で被害なく倒せたのだから、万々歳ではあったものの、スケジュールはあえなく破壊され。全国的に有名な遊園地を満喫するというデートの目的を果たす為に、思い切り詰め込んでいるのである。後日改めてと思う気持ちが半分、いっそ行き当たりばったり感を楽しみたい気持ちが半分。なので今回は後者を選んだのだった。
 ジェットコースターの最後尾で髪をはためかせながらあけびは悲鳴より歓声に近い声をあげる。と、こんな時でも戦いに身を置いてきた者の性か、視線を感じ顔を隣へと向ける。――不意打ちの仙寿の微笑に心臓が止まるかと思った。
(ジェットコースターじゃなくて、私の反応を楽しんでるやつだ、これは)
 自惚れでなく、確信を持ってそう察する。大人の顔だ、けれど師匠とは笑い方が結構違う。二人が別々の人間だから? それとも自分が、あるいは彼らが抱く感情が違うものだから? 答えは分からない。
(けど、なんだっていい)
 今一緒にいるのは、独占欲じみた執着を抱くのはお互いだけだから。その事実さえあれば良かった。

 締めに観覧車に乗れば、閉園時間が近付いていることもあって日が暮れつつある。今度はパレードがあるときに夜まで、と早くも次を考えながらあけびは眼下の町並みではなく、真正面に座る仙寿の顔を見つめた。透き通るような髪が夕日色に染まり、肌や瞳さえそれを溶かし込んだようで。無造作に足を組んで窓の向こうを眺める様子も含めて、まるで青春映画のワンシーンを切り取った一枚。絵画じみた静謐さも感じなくもない。けれど、それは遠過ぎるように思えた。外見が全くの無関係とはいわない。しかし、愛おしさが滲み出ればこそ、美しく感じるに違いないのだ。
「あんまじろじろ見るな。……照れるだろ」
 声にハッと我に返ると、仙寿は少し困ったように笑う。顔を手で仰ぐ仕草に頬の赤みが夕日のせいばかりではないのだと知った。
「だって凄く綺麗なんだもん」
「お前の方がよっぽど綺麗だ」
 さらりと返される惚気に羞恥心が花開く。対する仙寿は余裕綽々――に見えて言ってから照れが追いついてきたようで、口元を手のひらで覆った。無自覚のタラシっぷりは自分に向けられる分には嬉しいけれども、他の誰かにもしないかと心配になる。浮気を疑う余地はなくとも気になるものだ。やがて、どちらともなく吹き出し笑って、あけびは再び口を開いた。ちらりと窺えばいつの間にやら天辺に近い。
「そのうち結婚して、子供が生まれて……年を取っておばさんになっても、たまにはデートしたいな」
「まあ子供が小さいうちは中々難しいかもだけどな。そのときは誰かに預かって貰うか」
 情勢が落ち着いて、人間と英雄の間に子供が生まれる事例も報告され始めた。英雄の生涯がいつまで続くのかはまだ不明だ。少なくとも二十年は生きられると仮定して、その先は分からない。そう考えれば躊躇も生じるけれども。
「私、仙寿に似た子がいいな。不器用でも真面目で優しくて、誰かに手を差し伸べられるような」
「俺はあけびに似る方がいい。明るく周りの人を引っ張って、真っ直ぐ明日に走っていく感じの」
 互いに好きに言い合い、まじまじと相手を見つめ。結局は、
「元気に生まれて幸せになってくれれば何でもいい」
「だね」
 という結論に至る。
「でも、男の子も女の子も欲しいかな。女の子だけだったら、お嫁に行って寂しくなっちゃうし」
「嫁……そうか嫁か……」
 何やら感慨深く呟く仙寿に、先の心配が出来るのは幸せなことだと改めて思った。
 天辺を通り過ぎた観覧車は地上へ向かい下っていく。日が明けては暮れるように。親から子へ世代が移り変わるように。あけびが席を立てば仙寿も何も言わずとも察し隣を空けてくれる。彼の左肩に自分の右肩を押し付けるようにくっつき目を閉じた。当たり前の今日がこんなにも愛おしい。仙寿と同じ色に染まりながらあけびはそんなことを考えていた。

 ◆◇◆

「――なんて話したこともあったよね」
 としみじみとした声で言って回想を終えると、あけびは日本酒入りのグラスを傾ける。描かれた染井吉野が照明を浴び、透明と黒のコントラストを鮮明に描き出した。何とは無しに仙寿も自らの手元へ視線を落としてみる。八重と染井吉野が並んで食器棚に飾られるようになって随分と久しい。
「でもまあ、やると思ってた。実際あの子が小さいときから嫁にはやらないって言ってたもんね」
「俺は俺で動揺してたんだよ」
「うん、分かってる」
 にこにこ顔のあけびは上機嫌な様子で、しかしながら自分より呑んでいないのだから酔っていないのは明らかである。夫がいて子が大きくなり、相当若く見えるとはいえ実年齢もそれなりだ。なれど女は女で、色恋沙汰――微笑ましいものならば尚更――を好む生き物らしい。例えそれが自分の娘の話だとしても。
「まさかまさか、だよな……」
 未だに感情が消化しきれず、独り言のように呟く。有言実行しワープゲートの実用化に漕ぎ着けた仁科 恭佳(az0091)にこの事実を報告したらどんな反応をすることやら。向かった異世界で運命の人を見つけてくるというところまでは想定の範囲内かもしれないが、それがまさか長女がリベンジすると公言していた男の息子だとは思いも寄るまい。友人たちは平気だが、仕事上の付き合いだけの相手にはあらぬ誤解を受けそうだ。――とまあ、そんなことはどうでもよくて。無闇に揺らしていたグラスを踏ん切りをつけるように煽り、テーブルに置いて息を吐く。
「何だかあいつの気持ちが解った気がする」
「……お師匠様のこと?」
「ああ。お前を娘みたいに感じてたわけじゃないんだろうけどな。似たような気持ちはあったのかもしれないと、そう思った」
 例えば初めて相対したときの平静の裏で煮え滾るような敵愾心。執着心と呼ぶ方が近いかもしれない。最後の挑戦の後には自分たちの絆を見届け、彼は彼で帰るべき場所へと帰っていったが幾らかの寂寥感もあったのではないか。あの瞬間仙寿とあけびもまた一つ大きな地点に辿り着いた。その後歳を取るにつれて得たものもあった。だから長女が男を連れてきたのを見て、あの頃の“あいつ”と今の自分がほんの少し重なって見えたのだ。人外の彼と比べれば、四十を過ぎてもまだ若造だろうが。
「青臭くて、大事な存在の人生を預けるにはまだ頼りなくて――けど、悪い気はしないんだよな」
 どこまでも駆け抜けていけるだけの道が続いていて選択肢も無限大に広がる。苦労を進んでするべきだとは思わないが、苦い経験も引っくるめて日暮仙寿を形作っているのだと思う。長女の恋人が気に食わないわけではない。ただ、同じくらいの年頃だった自分を振り返ってみると、どうしても余計な比較をしてしまう。時代はおろか、生まれた世界さえ違うのだからナンセンス極まりない話だ。
「いい子だよね。向こうの私とお師匠様の育て方が良かったのかも?」
「俺たちだって、負けてないぞ」
 ふふ、と口元に手を添えてあけびが笑う。子供の頃は刺客として暗殺任務を行なう日暮の在りようもそれを是とする家の人間もたまらなく嫌いで、自らが当主となった際にはそちらは終いにした。それでも、親として当主として思い返せば、私利私欲に溺れたわけでも思考停止し漫然と引き継いだわけでもなく、親は親なりの考えがあることを知った。反面教師にしている部分も多少はある。が、こちらはこちらで前より近付けたような気もするのだった。
「あのね。仙寿は後悔したこと……ある?」
「何だよ、急に。話もそこそこにいきなり勝負を吹っかけたことか?」
「ううん、そうじゃなくて……何だかちょっと寂しそうに見えたから」
 そう言うあけびの方こそ、瞳の奥に彼女が口にした感情が僅か陰る。酒を注ぐ熟れた所作さえ仙寿が酒に弱いことを利用して誤魔化そうとしているようだ。仙寿は唇の端をあげてみせる。
「ならあけびはどうなんだ」
「私!? 少しもそんな風に思ったことないよ。……最初の頃だって、お師匠様がどうなったのかは気掛かりだったけど、辛いこともあったけど……でも全部良かったと思う」
 子供へと受け継がれた凛とした眼差しが仙寿を真っ直ぐに射抜いた。可愛らしい笑顔より澄んだ声より、この心を掴んでやまない意志の強さが宝石のようにきらりと輝く。
「お前と一緒になって山程幸せは貰ったが、不幸は少しもなかったし、これからもない」
 先の見えない未来のことすらもきっぱりと言い切った。取り分けあけびには包み隠さず数多の想いを伝えてきた身だが、未だに酔わないと羞恥心が先を行って、躊躇してしまう場合があるのが情けないところだ。今は酔っているからと自己暗示のように意識しつつ、酒で口を湿らせて続ける。
「あの頃の俺は本当ガキだったとは思うけどな。それもあけびがいたから変われたんだ」
 一呼吸。
「――愛してる。お前を、お前だけを」
 家族愛や友愛、愛とつく感情は他にもあって、それは何人もの人に対し抱いているものだ。けれど隣に在るのはただの一人。言葉にし尽くせないから愛を別の形でも伝えたくて、身体の隅々まで触れて己を刻みつけたくなるのだ。見返しているうちにあけびの目が泳ぎ、やがて瞳に睫毛が被さる。この歳になっても誤差にならない年上女房の余裕を崩せるのが楽しいだなんて意地の悪いことを考えた。
「……仙寿の馬鹿。でもそういうところも好き」
 自分が告げたのと全く同じ言葉は夜と朝の間に溶けた。今日眠れなかったのは衝撃より実のところ感慨深さの方が大きかった。親元を離れるどころか世界も渡ってしまった長女に生涯を遂げる相手が出来て。別れた後自ら追いかけてきたというのだから驚きだ。仙寿も同じ立場だったらそうする。とはいえその胆力は賞賛に値するものだ。宿縁は親から子に継がれ、そして縒り合わされたのが面白い。
「下の子たちはいつになるだろうね?」
「おい馬鹿やめろ。今は考えさせるな」
「結婚式、私より泣いてたら流石に笑っちゃうかも!」
「冗談……になるかどうかは正直怪しいんだよな……」
 子供は三人とも等しく愛おしい。しかし相手が相手だ。特別感傷的になっても不思議ではない。
「もう一度あいつと顔を合わせるのが結婚式になるとか、世の中何があるか分かったもんじゃねえな」
「そうしたら私の両親も来ることになるのかな。じゃあ仙寿、挨拶しなくちゃ」
 何年越しだ、と呻くように呟く。孫の結婚式で自分たちの結婚の挨拶なんて気まずいにも程がある。
「そろそろ夜が明けるね」
 あけびの言葉を聞き窓を見やる。今日は休みだったと社会人の性が脳内でスケジュールを確認した。長女も任務はないと言っていたがきっとデートだろう。長男と次女もそれぞれに用事があった筈だ。いつもどおりに子供と寄宿生を送り出したら、家事を手伝ってそれから。
「……たまにはデートでもするか」
「え!」
 恐るべき反応の速さに仙寿は笑いを噛み殺す。が、すぐに耐えきれず笑い声をあげた。
「行きたい。どこでもいいから!」
「なら、俺の行きたいところとあけびの行きたいところを一箇所ずつだな」
 了解、と彼女はぐっと親指を立てた。昔自身が口にしたことを憶えているのかどうか。どちらにせよ喜んでくれたのだ、いいことに違いない。片付けを手伝う為に立ち上がれば軽く身体がふらついて、寄り添うあけびの温もりを背中に感じながら、この先も彼女に酔わされ続けるのだろうと仙寿は思った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
今回仙寿くんあけびちゃんのお話を書かせていただくのは
最後になるとのことで、二人きりのノベルは超ざっくりと
ですが一通り拝見して、改めて歩んできた道を確認したり。
時系列や解釈がガバっている点があったら申し訳ないです。
初めましての時や前回の内容を意識しつつ、結構状況的に
似通ってしまった部分もあるかもですが最後の話としては
これがベストかなと個人的にはそんなふうに思っています。
後半は多分きっとIFでも想像するのが凄く楽しかったです!
今回も本当にありがとうございました!
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2019年09月20日

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