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『一つ、また一つとお揃いは増えていく』
魂置 薙aa1688)&皆月 若葉aa0778

 うだるような暑さの中、暑いねと言葉を交わしながら、日陰の中を魂置 薙(aa1688)と皆月 若葉(aa0778)の二人は歩いていた。目的地はショッピングモール。
 薙の英雄が結婚し、薙の家を出た。それを機に若葉が彼の家に引っ越してくることが決まり、じゃあ必要なものを買いに行こうということになったのだ。
「いいのあるといいね」
「なかったら、もう少し遠くに足を伸ばすっていう手もあるし」
 早くいいのが見つかって一緒に暮らす時間が増えるのも、探すのに少し遠出のデートするのも、どちらもアリだなと話す。
「まずは何から買う?」
 買うものは事前に相談していたが、順番はまだ決めていなかった。二人でショッピングモールのマップを眺めながら、相談する。
「大きいものを先に買っておいた方がいいかな」
「そうだね。そのほうがゆっくり見られていいかも」
 購入予定の大きなものはベッド。薙の家は1LDKの1室になるのだが、ベッドを2つ置ける余裕は十分にあった。そのため、若葉の分のベッドを購入するだけで十分なのだが、買い物リストを作成する際に薙の強い要望で既存のベッドを大きめのベッドに新調すると相成ったのだ。
「えっと、寝具売り場は――」
「あ、薙、あったよ。ココ」
「あ、ホントだ」
 マップを指差し、今自分たちがいる所はココだからこういくのがいいかな、こっちに面白そうなお店もあるよと言葉を交わしながら、ルートを確認する。そして、先程見つけた店舗をチェックをしながら、向かう。
「あ、珈琲専門店だって」
「道具とかも売ってるんだね」
「薙、後で寄ってみる?」
「うん」
 入り口から内装まで洋館風に仕立てられた専門店。そっと窓から覗けば、瓶に入った珈琲豆がずらりと並び、ミルやドリッパーなどの道具まで揃っている。
 喫茶店開業を目指す薙に話を振れば、キラキラとした目でその珈琲専門店を見つめていた。寄ると決めたら、練習用に1セット買って帰ろうと買い物リストに予定を追加する。

「うわ、沢山ある!」
 色々と店舗をチェックし、寝具店に到着すると、ずらりと並ぶベッドには思わず、若葉も声が出る。
 折りたたみベッドからスチール製、木製のベッドまで取り揃えられていた。他にも売り場近くには設置はしていないが販売しているベッドの一覧が置いてあった。ベッドを見ながら、どういうのがいいかと二人で寝具を見ながら、言葉を交わす。
「ヘッドボードは、欲しいな。若葉は?」
「俺は収納も欲しいかな」
 ぐっぐっとマットレスを押して、その感触を確かめたり、撫でて肌触りを見ながら若葉は答える。
「よっと」
 ぼふっと若葉は二人の条件の揃ったいい感じのベッドに寝転がってみる。あ、これいいかもと寝心地を確かめる若葉の姿が可愛くて思わず抱きしめたくなる衝動に駆られる薙。
「薙も寝てみなよ」
 薙がうずうずとしている中、若葉にポンポンと隣を叩いて呼ばれる。
 グッと薙がベッドに乗った感触に若葉はまたベッドの感触に意識を向ける。そんな中、薙はどのあたりに寝転がろうと考えていた。
(やっぱり、実際に寝るあたりの方が、いいよね?)
 あまりに離れて寝るのもおかしいし、と肌と肌が触れそうな程、近くに寝転がる。
「わ、これは、いいね」
 乗った時もそれなりに沈む感覚は面白かったが、寝転がるとよりわかる。体に沿って沈み込むのは思った以上に楽しい。
「でしょ、これがい……っ」
 想像以上に薙が近くに居て、若葉は言葉に詰まる。若葉を見て、こてんと首を傾げる薙に若葉は照れ笑い。そんな若葉を薙は可愛いなと感想を抱きながら微笑んだ。
 ベッドを決め、運送と既存ベッドの引き取りなどの手配を行い、次の買い物に向かう。勿論、その途中で、見つけた珈琲専門店にも立ち寄った。
「自分でもブレンドできるんだ」
「じゃあ、そのうち、薙のとこでしか味わえない珈琲が飲めるわけか」
 楽しみだねという若葉に気が早いよと言いつつも満更でもない薙。店員にも相談しながら、焙煎済みの珈琲豆とミル、初めてならこれからとおススメされたハンドドリップのセットを購入した。
 珈琲専門店を後にし、日用雑貨の店舗を周る。
「あとはコップかな」
 箸、茶碗、洗面用具など二人でこれなんてどう? あれもいいんじゃない? と話しながら決めていった。他に買ってないのはとリストを見て確認した。そして、それぞれでマグカップのコーナーでいいのを探し始める。
 若葉は黒地と白地のペアマグカップに目を留める。珈琲を飲んだりするのにいいかもと想像しながら手に取ってみる。そして、すぐ近くにあった緑とピンクのペアマグカップ。ちょっとしたくびれがあり、先程手に取ったマグカップとはまた雰囲気が違う。
「これもこれで、いいな」
 若葉は2種類のマグカップを手に悩む。
 その一方で薙は若葉が犬猫が好きだからと動物が描かれたマグカップを見ていた。そして、あ、これいいなと思った犬マグカップに手を伸ばそうとしてぴたり。手が止まった。目に飛び込んできたのは赤と青の色違いのハートが飛んでいるペアマグカップ。手は自然と降りていて、薙はジッとそれを見つめる。
「浮かれ過ぎかな」
 犬猫のマグカップの方が若葉は喜んでくれるかもしれないのに、目が離せない。ダメもとで聞いてみようかなそう思っていると横からひょいっとそのマグカップが手に取られた。あ、と思ってみればその手の主は若葉。
「いいね、これにする?」
 若葉は薙に聞いてみようと振り返った際、ハートのマグカップを見て、悩んでいる薙を見つけた。そっと先程悩んでいた2種類のマグカップを元の棚に戻し、薙の傍にあるハートのマグカップを手に取った。そして、笑顔で話しかけた。
「うん」
 それだけで迷いは吹き飛び、若葉の取っていない青のハートのマグカップを手に取った。

 帰宅するとテーブルの上に買ってきたものを広げ、二人でこれはあそこにと片付けていく。
「あ、そうだ、折角だから1杯、作ってみようよ」
「うん、やってみよう」
 ある程度片づけを終え、若葉が思い出したように提案すれば、薙もいいねと頷く。使用しないものはそのまま食器棚などに仕舞い、テーブルの上にはハンドドリップの道具一式とペアマグカップ。
「暑いし、アイスにする?」
「うーん、折角だから、ホットで」
 説明書にはアイスとホットで多少珈琲豆の量や煎り方が違うことなどが記載されている。それを見ながら、相談し、最初ということもあり、今回買ったのは深煎りのものではなかったこともあってホットで淹れようと決めた。
「中細挽きはグラニュー糖ぐらいの大きさ、か」
「丁寧に書いてあるおかげで助かるね」
「うん」
 手動のミルに豆を入れてカラカラと豆を挽く。時折、蓋を開けてこのくらい? と二人で首を傾げる。もう少し時間がかかるとわかると、説明書に書いてある美味しい珈琲の淹れ方を読み、抽出器具や道具を温めておく。
「ドリッパーやフィルターだけでも色んな種類あるみたいだね」
「舌触りや風味が変わるみたいだから、いつかは試してみたいな。あ、その時は、飲んでくれる?」
「勿論! 今から楽しみだよ」
「若葉、気が早いよ」
 そう言って、笑い合いながら、工程を進めていく。
 蒸らしの際にはぽとぽととサーバーにお湯が落ちるの見て、じゃあ次はと抽出作業に入る。珈琲の真ん中に小さくのの字を描くようにお湯を注いでいく。
 そして、サーバーに珈琲が2杯分溜まると温かいうちに先程買ってきたマグカップに珈琲を注ぐ。
「どう?」
 若葉に赤いハートのマグカップを渡し、尋ねる。
「……うん、美味しい」
「よかった」
「ほら、薙も飲んでみなよ、美味しいから」
「うん」
 そういえば、飲んでなかったと薙も珈琲を味わう。そして、美味しいと感想を零せば、でしょと若葉は顔を綻ばせる。珈琲を味わいながら、付録としてついてきたドリッパーやフィルター、抽出時間の違いなどの解説を二人で覗き込みながら、今度はこれを試してみようかなどと語り合う。

 思う存分、語り合い、ふと気づけば部屋に夕日が差し込んでいた。そろそろ、という若葉の言葉に薙は気づいた。若葉の帰る家はまだここじゃないと。寂しそうな薙に若葉ももっと一緒に居たいけどと同じように寂しく思う。それじゃあと一歩踏み出そうとしたが、不意に抱き締められた。
「今日は、帰したくない」
 寂しそうに甘えるような言葉に驚きで赤くなっていた若葉は驚き以上に愛おしさが込み上げる。
「うん、俺も帰りたくない」
 薙も一緒に居たいと思ってることに幸せを感じ、若葉は返事と共に抱き締め返した。
 今日はずっと一緒に居よう、その言葉に薙は嬉しそうに微笑みを返した。



 食器棚に並んだお揃いの食器たち。それを見て、薙と若葉は顔を見合わせ、笑みを零した。



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2019年09月17日

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