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『もう一つの最終決戦』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

 大勢の騎士達が、北の荒野へと向かう。掲げられた旗印は色も紋章も様々だ。大陸全土の王国から地方君主までが全て手を取り合い、世界を混沌へ沈めんとしていた“王”へ最後の決戦を挑まんとしていた。盟主アディーエ――日暮仙寿(aa4519)は自ら馬を駆ってその先頭に立ち、決戦の地へ向かう。その傍らには、将来を誓い合った少女エーディン――不知火あけび(aa4519hero001)が寄り添っていた。普段は踊り子の晴れ着に身を包んでいる彼女も、今日ばかりはその高貴な身に相応しい白い鎧に身を包んでいる。
「いよいよ戦いが始まるんだね、アディーエ」
「ああ。……必ず勝とう。俺達の未来のために」
 あけびは仙寿の横顔を見遣る。気難しく顰め面ばかりだった彼も、今では世界を導く英雄に相応しい面立ちになっていた。外套の背中に刺繍された白鷲の紋章も、太陽の光を浴びて眩く輝いている。
 荒野の彼方から、黒い外套に身を纏った弓騎兵が十騎、轡を並べて駆けてくる。先頭に立つのは仙寿の盟友、セーラ――澪河 青藍(az0063)だ。彼女は仙寿達の前で手綱を引くと、フードを脱いで黒い髪をさらりと流す。
「見てきたよ。敵の数はざっと十万……ってところ」
「十万……決戦に相応しい数を揃えてきたな」
 仙寿はちらりと背後を振り返る。彼に付き従った軍勢はおよそ六万。兵数の上では敵が圧倒的。しかし今更怖気づく者など誰もいない。今よりよほど苦しい状況をいくつも乗り越えてきた英雄達が先頭に立っているのだから。青藍は不敵な笑みを浮かべると、仙寿の肩を軽く小突く。
「ちゃんと気取った演説は考えてきてあるんだよね?」
「演説……?」
「当たり前でしょ? 今やアディーエはこの大陸の英雄なんだから。君が引っ張らないで、誰がこの軍勢を引っ張るっていうのさ」
「……そうだな。飾った言葉はつかえないが、全力は尽くす」
「その意気だよ。期待してるから……報酬もね!」
 青藍はサムズアップを送ると、再び馬に拍車を入れて荒野へと走っていく。勇猛果敢なアンカー傭兵団は、何より危険な斥候役に自ら志願したのである。その背中を見送り、仙寿はすぐ背後に付き従う女騎士――イザベラ・クレイ(az0138)に振り返る。
「イサベル、進軍ペースを上げるぞ。軍楽隊に喇叭を吹かせろ。聖歌隊に高らかに歌わせるんだ。全ての恐怖という恐怖を絞り落としておきたい」
「承知した」
 イザベラは手綱を引くと、軍勢の後方を目指して走り抜ける。やがて、平野の端から端まで高らかに喇叭の旋律が響き渡った。その喇叭に乗せて、修道女達の高らかな歌い声が聞こえてくる。地の平和への祈り。その為に立ち上がる人間達への讃歌。兵士達の足取りも自然と軽くなっていく。仙寿は北の空を埋め尽くす暗雲を睨みつけた。
「待っていろ。今日こそ、決着をつけてやる」

 木々も草も枯れ尽くした荒野。岩山を切り出して築き上げられたかつての王都も、今や魑魅魍魎の跋扈する伏魔殿と化していた。元は天上にて自由を謳歌する天使であり、今や地の底に封じ込められた混沌に囚われた堕天使の群れが異形と化して徘徊していた。
「全テヲ、一ツニ還ス……」
 人間の顔を模した仮面を被った竜が、巨大な黒い天使の翼を広げて低く唸る。その唸りに呼応して、嘗て天使であったモノは呻き声を上げた。地の裂け目から這い出る闇が、次々にバケモノの群れを作り上げていく。
「全テハ混沌ニ還ル。新タナ世界ノ糧トナル」
 色とりどりの御旗を掲げた人類の軍勢が、荒野の彼方に現れる。轡を並べて、槍を構えて、果敢な闘志を瞳に込めて、堕天使の群れを見つめている。異形の竜は王都の頂上から飛び立つと、荒野のど真ん中に飛び降りる。仮面の奥から覗く、深紅の光が先頭に立つ仙寿の姿を捉えた。
「運命ニ抗ウナ」
 仙寿は押し黙ったまま、腰の刀を抜き放つ。あけびと小さく目配せすると、横隊を組んだ軍勢の前を走り始める。外套が翻り、分厚い闇の狭間から微かな光が降り注ぐ。それは仙寿が、かつて天使と交わり力を得た王家の末裔である証だった。
「聞け! 確かに俺達は、永遠の存在じゃない。人間である以上、誰でもいつかは混沌の海へ還る時が来る。しかし、それが奴らの手によって齎されるような事は、決してあってはいけない!」
 前線の兵士が槍の穂先を掲げる。仙寿は振り上げた刀で槍の穂を甲高く打ち鳴らし、兵士達を鼓舞していく。
「世界も永遠ではない! どんな栄華を誇った王国もいつかは終わりを迎える時が来るだろう。だが、それは人間達の選択によってでなければいけない! それが奴らの手に委ねられるというなら、全力で抗わなくてはいけない!」
 彼の叫びに呼応するように、兵士達は一斉に叫ぶ。叫びは一つのうねりとなり、群れ集った混沌の大群を揺るがせる。それらは一斉に隊列を組み、鉤爪や牙を剥き出しにした。仙寿は騎馬を正面へ向け直し、刀の切っ先を天へと掲げる。
「さあ進め! この世界の全てを人間の手に取り戻すぞ!」
「行くよ、みんな! アディーエに続いて!」
 あけびも刀を抜き放つ。二人は馬を並べると、先陣を切って突撃した。押し寄せる有象無象の怪物を馬で蹴倒し、二人は荒野に鎮座する巨大な竜へ向かって突撃する。二人に続くように、彼らの旅を支えてきた仲間達が一斉に先陣を切った。
「仕方ねえ。ここまで来たらもう乗り掛かった船だ! 最後まで付き合ってやる!」
 ソア――トール(az0131)は乗っていた馬から飛び降りると、右手に持った斧を目の前の異形へ擲つ。稲妻を纏った刃は、異形に突き刺さった瞬間弾けた。闇で形作られた肉体が弾け飛び、地面へと沈んでいく。彼は荒野を駆け抜けながら右手を正面へと突き出す。宙を舞った斧がその掌に収まった。彼は身を翻し、雷鳴響かせる斧で次々に異形の首を撥ね飛ばしていく。
「あの無愛想でひ弱いガキが、随分と頼もしくなったもんだ」
 トール目掛けて異形の群れが集っていく。青藍は部下の騎兵と共に一斉に突撃、矢を番えて異形の急所を次々に撃ち抜いた。
「あんたはもう若くないんだ。一人で先走って無理すんなよ」
「はん、言うじゃねえかよ。てめえこそ尻尾巻いて逃げんじゃねえぞ?」
「まさか。王子様が戦ってるんだ。私だけ逃げる訳にいかないだろ」
 青藍は飛び掛かってきた異形を剣で切り払うと、仙寿とあけびを追って馬を走らせた。空へ掲げて弓を引くと、鏃に白い輝きを纏わせる。
「当たれっ!」
 放たれた矢は空の彼方へ飛び、光の雨となって仙寿達に立ちはだかる魔獣の山を押し潰した。あけびは目を丸くして振り返る。
「セーラ!」
「あんまり先走んないでよ。今は六万の兵士を率いてるんだからね! ほら、ご命令を!」
 青藍は仙寿の傍らに馬を並べ、力強く肩を叩く。仙寿は頷くと、右翼に向かって朗々と叫んだ。
「クルス隊! 前へ出ろ! その新型兵器の威力、俺達に見せてくれ!」
「委細承知!」
 クルス――仁科 恭佳(az0091)は叫ぶと、ローブを翻して兵士達に振り返る。彼らは十門のカノン砲を数人がかりで押し出し、その砲口を押し寄せる敵の群れへ向けた。
「さあ、纏めてぶっ飛ばしますよ! 魔力充填!」
 恭佳は両手を目の前に突き出し、素早く魔法陣を描いていく。背後ではローブを纏った兵士達がカノン砲に手を翳す。カノン砲にびっしりと刻まれた魔法陣が燐光を放った。恭佳は火花を散らす魔法陣を前に、半身になって構える。
「息を揃えてー……発射!」
 恭佳は鋭く右手を振り抜く。彼女の魔法陣から、カノン砲から巨大な光弾が放たれる。蟲のように這い寄ってくる混沌の軍勢のど真ん中に着弾、敵を虫けらのように吹き飛ばしていく。敵の体勢が崩れた所に、イザベラ率いる赤備えの騎士団が飛び出した。
「機を逃すな! 一気に敵の右翼を殲滅するぞ! 続け!」
 力強く叫ぶ彼女だが、背後に僅かな重みを感じて振り返る。恭佳が横乗りでちゃっかりと乗り込んでいた。
「おいお前、何をしている! 降りないか!」
「へへっ。いいじゃないですか。ちょっとあの竜のところまで乗せてくださいよ。私だってアディーエの友達なんですから。最後の戦いくらい、もう一度アディーエ達と一緒に臨みたいんですよ。どうせ私の隊のやる事なんてどかどか砲弾撃ち込むだけなんですから」
「……仕方ない。くれぐれも王子に面倒かけるような真似だけはするなよ、クルス」
「わかってますよぉ、何処の天才に向かってそんな事を言うんですか?」
 イザベラは槍を振り回して寄せる混沌の軍勢を切り伏せ、恭佳の首根っこを掴む。
「ほら、行け!」
 力任せに彼女は恭佳を空へと投げ上げた。恭佳はローブを広げると、ふわりと浮かんで仙寿の傍らまで飛んでいく。
「アディーエさーん! 助太刀に来ましたー!」
 敵を切り伏せながら、仙寿は空の恭佳を見上げる。いつでも傍若無人な彼女に、仙寿は苦笑するしかない。
「全く、お前はいつでも持ち場も守るって事をしないんだな……」
「こんな晴れ舞台に私だけ後方へ留め置くなんて嫌ですよお。皆で一緒に旅した仲じゃないですか?」
「それはそうだが……立場を弁える事を少しは覚えろ」
「まあまあ」
 恭佳は素早く仙寿達の前に飛び出し、魔法陣を展開する。彼方から放たれた魔力の塊を受け止め弾き返すと、彼女は強気に笑ってみせた。
「ほら、最後の戦いには、ちゃんと私がいた方がいいですよね?」
 仮面をつけた竜が、翼を広げて吼える。仙寿とあけび、それから青藍は一斉に馬を飛び降り、銘々武器を構えた。敵から敵へ飛び移り、首を撥ね飛ばしながらトールも彼の傍らに飛んできた。
「結局最後にゃこの面子か。面白いもんだ」
 アディーエ、エーディン。セーラにクルスにソア。因果に引き寄せられて集まった旅の仲間。騎士と異形が入り乱れて争う戦場の中、五人は竜へ対峙した。
「……行くぞ、エーディン。みんな!」
 仙寿は刀を霞に構えると、真正面から竜へ向かって突進する。竜は鎌首をもたげ、縦にも裂けた口蓋を開いて魔力の塊を吐き出す。仙寿は横っ飛びで躱すと、そのまま荒野を転げて体勢を立て直し、刀を構え直して竜へ突っ込む。
「エーディン!」
「任せて!」
 あけびは魔法陣が刻まれた絹の外套を振り回す。淡い紫の光を放ち、仙寿の身体を包み込む。あけびの力を受けた仙寿の刃は、何にも勝る剛剣と化す。分厚くびっしりと生え揃った黒い鱗を、仙寿は一刀で断ち切った。黒い瘴気が噴き出し仙寿に襲い掛かる。瘴気をしこたま吸い込んだ仙寿は、咳き込んでその場に膝をつく。
「ぐぁっ……」
 竜は枯れ木を震わすおどろおどろしい声を上げ、その腕で仙寿を薙ぎ払おうとする。
「おい坊主! ぼさっとしてんじゃねえよ!」
 トールは叫び、斧を天へ投げ上げる。風のように駆け抜けると、仙寿の傍らに立って真正面から竜の腕を受け止めた。全身の筋肉が脈動し、トールは力任せに竜の腕を押しのける。
「はん……温いな!」
 言い捨てたトールは、天から降って来た斧の柄を素早く掴み、竜の腕に叩きつけた。鱗が砕けて飛び散り、再び瘴気が噴き出す。トールは仙寿の外套を掴むと、素早く飛び退く。
「大丈夫か、坊主」
「心配いらない。この程度の瘴気で、くたばったりしねえって」
 黒く澱んだ唾を吐き出し、仙寿は立ち上がって刀を構え直す。竜は後足で立ち上がると、のろのろとその太い尻尾を振り回す。仙寿はその一撃を跳び越えると、そのまま尻尾に乗って背中を駆け上がっていく。
「エーディン!」
「オーケー、受け取って!」
 あけびは闇の狭間から差し込む光を浴びつつ軽快に踊る。その手で描いた魔法陣から放たれた光が、彼に幻影の翼を与える。暴れる竜の頭上を軽々飛び回った仙寿は、その仮面を一刀で断ち割った。剥がれ落ちた仮面の奥から、触手がうねるおぞましい顔が剥き出しになる。伸びた触手が仙寿の足を捉えようとするが、仙寿は素早く刀を振るって切り払う。ぎょろぎょろと蠢く一つ眼が、天使のように跳び回る仙寿の姿を映した。
「当たれっ!」
 竜の足元から走り込んだ青藍が、素早く矢を放つ。仙寿へ伸びる触手の隙間をすり抜け、竜の眼をぶち抜いた。竜は絶叫すると、魔力の塊を辺りへ吐き散らす。湧き出す闇は地を引き裂く。直撃を喰らった仙寿達は一斉に吹き飛ばされ、荒野に投げ出された。
「ぐぁっ」
「世界ヲ無ニ。無ニ……!」
 竜の叫びに呼応するように、異形の軍勢が勢いづく。地に伏せるあけびは、歯を食いしばって土塊に爪を立てる。全身に走る痛みをこらえて、彼女は立ち上がった。
「そんなことさせない! この世界で昔何があったのかなんて知らないけど、今この世界で生きている人達の希望を奪わせたりなんか、絶対させない!」
 あけびは全身に魔力を浸し、天を仰いで舞い踊る。挿し込んだ光が、倒れる仲間達の傷を癒す。仙寿も歯を食いしばって起き上がると、あけびと共に並び立った。仲間達も立ち上がり、その脇を固める。
「こんなもん、長引かせるだけ不利だ。とっとと首落とすぞ」
「私達が引き付ける! 止めはアディーエに任せるよ!」
「最後は盟主様がバシッと決めてくださいよ!」
 トールが斧を振るって正面から竜の爪を受け止め、刀を抜き放った青藍が左の翼に食らいつく。恭佳も魔法陣から鎖を放ち、右の翼を縛り上げる。纏わりつく三人を竜は全身を振るって払い除けた。しかし、三人が齎した時間は、仙寿とあけびにとって十分過ぎるくらいのものだった。
「行くぞ、エーディン!」
「うん。これで戦いを終わらせよう、アディーエ!」
 二人の掲げた刃が共鳴し光を放つ。仙寿の背中に白翼の幻影が、あけびの周囲に花弁の幻影が漂った。あけびが真っ先に跳び上がると、触手が己を包み込むのも構わず、ぎょろつく竜の眼に刃を突き立てた。大量の瘴気が溢れ出し、竜の身体を包む鱗が融け始める。
「はぁっ!」
 仙寿は脇に構えた刃を、一気に振り抜く。歪んだ鱗ごと、竜の首を刎ね落とした。

 その瞬間、鋭い雷鳴が鳴り響いた。空の闇が暗雲へと変わり、土砂降りの雨が降る。どす黒い瘴気の沼から這い出した仙寿とあけびは、力無くその場に並んで倒れ込んだ。天を仰ぐと、降り注ぐ雨の狭間から、眩い太陽が輝いていた。
「やったな」
「うん……」
 降り注ぐ雨は、異形達の身体を融かし、洗い流していく。仙寿は安堵の溜め息を洩らし、あけびにそっと囁いた。
「これからも俺の傍にいて、俺の事を支えてくれ。いいだろ」
「……うん。いるよ。ずっと一緒に」
 二人は手を貸し合って起き上がる。泥の中を踏み分け、イザベラが二人の元へ駆けつけた。
「見ろ。混沌の軍勢が消滅しているぞ。我々の勝ちだ」
 泥から起き上がった仲間達も、仙寿に向かって小さく頷く。彼は笑みを浮かべて応えた。
「ああ。勝ったんだ」




 このヘルツ会戦を経て、世界は人類の手に取り戻されたのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●キャスト一覧
 アディーエ:日暮仙寿
 エーディン:不知火あけび
 セーラ:澪河青藍
 クルス:仁科恭佳
 ソア:トール
 イサベル:イザベラ=クレイ

●あとがき
 影絵です。この度はご発注いただきありがとうございます。
 今回はノベルでしか出来ない全員共闘バトルとさせていただきました。今回は世界観を統一するために、セリフ中の呼び名は洋名に統一してます。地の文の方は適当に置き換えてくださいな。楽しんで頂ければ幸いです。

 ではまた、ご縁がありましたら。
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2019年09月20日

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