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『無人島奇譚・6』
海原・みなも1252

●水と闇
 海原・みなも(1252)は真っ暗なところに漂っていた。
(闇に飲まれたんでしたっけ?)
 闇がみなもや草間・武彦(NPCA001)を飲み込んでいったという記憶がよみがえる。
 その瞬間は覚えていても、今まで、どうなっていたかよくわからない。
(本と草間さん!)
 分厚く、重い古い本は腕の中にある。その内容は魔導書や何かの聖書などだろう。現状を解決し、導くものだと信じている。
 暗闇の中、目をつぶっているのかというほど見えない。そのため、目の前に武彦がいてもわからないし、抱えてるはずの本も見えていない。腕の感覚でそれはあるという認識をしているに過ぎなかった。
(これを読めば解決……読めないですね)
 現状を考えると悠長に考えられない。意志が重要ならば、余計なことは考えてはいけないかもしれない。
 それはあくまで推測である。その考えでいくと、みなもや武彦以上の願いがここにあることになる。
(今は……上も下もわからないですね……水の中と考えると穏やかになれそうです……)
 焦っても仕方がないため、体の力を抜き、本だけは落とさないように抱きしめ、揺蕩う。
 水の中、海の中……みなもの先祖は南方の人魚だ。その血を引くから、水は怖くなかった。
 今回、武彦の依頼で来たとき、自ら敵意を感じたこともあった。
 水といっても、人間と同じように色々あるのだろう。
(違うのはいいのです。でも、今、怖い……)

『怖いかな?』

 みなもは目を見開く。自分の声が耳に届いた気がしたのだ。
 周囲を見渡すが、闇しかない。
 みなもの周りにあるのは水のようにずっしりと重く、沈まないように支えてくれる闇である。

(怖い?)
『怖くないよ?』

 思考と意識が、別の何かと重なった。記憶がいくつか錯綜する。
 みなもは腹の底から恐怖が湧き、寒さが湧く。
 悲鳴がほとばしった。
 その悲鳴はみなもの耳に届いていなかった。闇と思われるものは音を伝えない。
 呆然とした瞬間、前に人がいるのが分かった。何も見えないはずだが、自分自身だと理解した。
『いい加減気づいてよ、あたし。もう、すべては終わっている。あなたが来た時には終わっていたんだよ?』
 みなもは言った。
 聞いていたみなもの思考が巡る。
 依頼を受けてからここまでにあったこと、違和感を洗い出そうとする。
 どこで終わっているのかという答えはわからない。
 海から感じた敵意や助言。
 漂っているだけの霧雨やもやなどの水たち。
 そこにヒントがあるような気はした。
「終わっている?」
『終わっているけど、始まりでもあるんだよ?』
 みなもは問い、みなもは答える。

 本がうごめく。それは周囲の闇と同じ色となるが、うねり、みなもを絡め取った。

 自分の先祖、海にぽつんと浮かぶ島の状況などが脳裏に浮かぶ。
 どこで間違ったのか?
 水のごとく流れるはずの時間。
 流れず溜った水のような島とその周囲。

「あたしがここに来たのは必然?」
『そう、偶然ではない』
「そして……草間さんは……」
『あたしが望んだからここにいるの』

 みなもは自問自答していく。終わっていたとしても、欲することはある。
 だから、みなもは一歩踏み出した。

●いかにすべきか
 武彦はあの無人島の頂上にいると理解した。
 世界は暗い。光も闇も黒一色の濃淡で描かれる世界。本来なら現実ではないと拒否したくなる。
「ちっ」
 武彦は状況を整理するとともに、頭をバリバリと掻く。手ごろな段差に座り、ポケットから煙草を取り出して咥えたが放り捨てた。
「湿気てる」
 自分の髪の毛や服を触る。特に湿ってはいない。
「意志の力がどうの、と言ったところで、単独では駄目か……」
 島で調べたことは多くの人間が関わっている証拠を残していた。失踪した人たちの思いも様々であり、まとまりがないが共通している部分は、戻りたいということだろう。
「その戻りたい、がどこに向かうかだな……利用すれば、変なところに行きつくだろうなぁ」
 武彦をここに導いたヒトはこの島で武彦とみなもが動くことでまとまる意識を欲していたのかもしれないと推測を新たにした。
「俺に情報を与えた奴らが本当を言っていたとは限らない、それに対して俺がとった行動は……」
 武彦は考える。夢という形で影響を与え続けている何かには気づいている。だからこそ、考え行動をとり、この島から異界の物を排除しようと行動していた。
 しかし、相手の方が上手で、武彦がそうすることを想定して情報を与えていたかもしれない。
 その結果が今である。
「逃げるにしても、道を探すのは……」
「駄目です、草間さん! あきらめては」
 みなもが目の前にいた。
「おまっ……? どこにいたんだ? あれはどうしたか?」
 武彦は急にいたみなもに驚いたが、何かを察したらしく無表情になる。武彦の手はズボンの後ろに伸びる。
「気づいたら、ここにいました」
「なるほど、俺もそうだ」
「あれとはこれですか?」
 みなもの空の右手をパッと開く。何もないが、彼女の回りに威圧的な力が生じた。一瞬のことであるが、それが、魔導書として姿を現した何かだと判断できる。
「大丈夫です、草間さんは助けます! あたし、間違ってました。そうです、水なんですよね!」
「何が間違っているんだ」
「草間さんに頼ってばかりではいけなかったんです。だから、ここの霧を使えば、すべてを排除できます」
 みなもは微笑む。武彦は彼女が何を考えているのかとらえられない。
「あたしが最初から頑張れば、草間さんは困らなかったんです」
 みなもは軽やかに歩く、武彦の回りを。
「だから、こうすればいいんですよね」
 みなもは両手を天に掲げる。
 霧は晴れるが、色は戻らない。
 武彦は海で霧などの水が壁となって島を取り囲んでいるのを見た。。
「あたしたちを害するモノが来ても安心です!」
 みなもが手を動かすと近くの木の枝が落ちる。
 武彦は水を刃物のようにしたのだろうと想像した。みなもがみなものままではないと感じ取る。
 みなもは年齢にしては背が高く、どこか大人びた雰囲気はあった。それでも、思考や行動は年相応と武彦は考えていた。そのみなもはあでやかに微笑んでいる。
 唇がぬらっとして妙に赤い。
 血色がいいならそれでいいが、顔色はあまりよくはない。それなのに、唇だけあの赤は異様だ。
「それで俺はどうするんだ?」
「あたしと一緒にいればいいんです」
 みなもは武彦との距離を詰めた。武彦の肩に手を乗せ、首の後ろに両手を回し、抱き着くようなしぐさ。

 カチリ。

 武彦はズボンの後ろに差してあった銃を引き抜き、みなもの腹に当てた。
 人にはこの状況からの打破は難しい。
「すまなかった……」
 引き金に掛ける指は動かない。
「草間さん? このような物は役に立ちませんよ」
(血も水か)
 武彦はすべて遅かったと気づく。みなものテリトリーなのだ、ここは。
 誰かのために情報を残すにしても、みなもから逃げるには力が入らなかった。 
 何かがみなもを取り込んでしまった現在、対抗できる味方はない。
「草間さん、一緒にここで夢をみましょう?」
 抗おうとした武彦はやめた。そうすることである程度行動が可能になる。
「すまないな……」
 リボルバーの銃口を自身に向けたが、何も起こらない。
「火は出ませんよ?」
 みなもは至極当然という顔をした。

 逃げられない。
 終わりは始まる。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございます。
 闇堕ちとか名状しがたきなんとかなみなもvs草間? あっさり、草間さん敗北。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年09月20日

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