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『幸せになるために』
クゥla0875


 見上げれば、青い空。
 どこまでも高く、雲ひとつなく、とびきり綺麗な青い空。
 クゥ(la0875)はガラス越しの空を見上げ、ほうっと息をついた。
 この溜息が何故飛び出すのかを、クゥはまだ知らない。

 上を見過ぎて首が痛くなってきたので、空から目を離してみる。
 図書館の閲覧室には、クゥの他にも人がいる。
 平日の昼間なのでぎっしりというほどではないが、あちらの机、こちらのソファと、皆が互いに程よい距離を取り、本を広げている。
 クゥはそんな中のひとりだった。
 目の前には何冊かの雑誌が積み上げられている。

 わからないことがあれば図書館に行く。
 クゥはこの世界で、とても為になることを知ったのだ。
 ぎっしりと本の詰まった大きな本棚がどこまでも続く大きな図書館は、ワクワクの詰まった宝箱だった。
 開館時間の間に読み切るのが難しい本は借りられるのだけど、1回に借りられる本は3冊だけなのだ(もっとも、クゥが大きな本を5冊も10冊も持って帰ることは難しいだろう)。
 だから図書館にいる間に、借りる本を決めなければならない。
 そのためには本を開かなければならない。
 そうして本を開いているうちに読みふけってしまい、結局クゥは図書館に来るたびに、ずっと本を読みふけっていることになる。


 今日も、クゥは調べ物があって図書館にやって来た。
 でもやっぱり、たくさんの本棚から面白そうな本が「こっちも見てごらんよ」「こんなこと知ってる?」などと誘いをかけてくるのだ。
「だめなのです。今日はどうしても、大事な大事な調べものがあるのですよ!」
 クゥは鉄の意志で、目的の本がある本棚まで、わき見をしないようにして頑張って歩いた。
 が、その努力は一瞬で無駄になってしまった。
 クゥが歩いていく正面に、雑誌の棚があったのだ。

 色とりどりの雑誌が、こちらに表紙を向けてずらりと並んでいる。
 特に女性向けの雑誌の表紙は、当然ながら女の子が思わず手を伸ばしたくなるようなグラビアだ。
 かわいいモデルさんの素敵な笑顔を見ていると、身につけているお洋服がついつい気になってしまう。
 だが今日のクゥは、そんなことでは心が揺らいだりしない。……はずだった。
 思わず足を止めてしまった理由は、モデルさんの笑顔ではなく、その横に書かれた見出しの文字。

『愛されメイクでHAPPYに!』
『ぜったい幸せになれる、10の法則って?』
『モテ女子がこっそり教えちゃいます! オトコゴコロのヒミツ』

 などなど。
 女性向けの雑誌のコーナーには何冊かよく似たグラビアの表紙が並んでいたが、見出しの文字もとても良く似ている。
 クゥは足を止めて、じっとその文字を見つめる。
(図書館では幸せになる方法も調べられるなんて、クゥは知りませんでした)

 クゥは幸せになりたい。
 理由は、大好きな人がクゥに幸せになってほしいと言ったからだ。
 でも幸せって何なのか、その人は教えてくれなかった。
 だからクゥはどうすれば幸せになれるのか、その方法を自分で見つけなければならない。
 だって、クゥ幸せになれば、あの人が喜んでくれるから。

 つまり幸せになる方法を知ることは、クゥにとって今日図書館に来た目的よりも、ずっと、ずーっと、大事なことなのだ。
 ふらふらと手を伸ばし、そこにある雑誌をあるだけ抱えて、閲覧室の机にちょこんと座る。
 広げた雑誌には、クゥの知らないことがたくさんたくさん書かれていた。
 クゥは息をするのもまばたきをするのも忘れるぐらい、雑誌を読みふける。


 目が痛くなるほど文字を読んで、頭を整理するために青い空を見上げた。
「そうだったんですね、クゥは知りませんでした」
 黒い瞳がキラキラと輝いている。
「人間は恋をした場合、女性からその気持ちを伝えてはいけないのですね」

 雑誌に書かれていた「幸せになる」ヒミツ。
 まず女の子は、自分をヤスウリしてはいけないのだそうだ。
 ちょっとタカネノハナっぽい女の子のほうが男性から大事にされて、幸せになれるのだそうだ。
 しかも男性は、オトコラシクナイと言われるとショックを受けるので、オトコラシク自分から告白したいものなのだそうだ。
 女の子から先に恋心を告白されると、男性にとっては恥をかいたことになるのだそうだ。

「クゥは今、人間です」
 あの人がそう望んだから。
「それからクゥは、幸せになりたいです」
 そうすればあの人が喜んでくれるから。
「だからクゥは待ちます! 男性に恥をかかせないように、大好きはクゥから先に伝えないようにします!」

 誰かがそれを聞いていたら、「ちょっと待って!」と言ったかもしれない。
 だがクゥは待つことに決めた。
 男性から大好きを伝えてもらって、幸せになるために。
 とはいっても、いつまで待てばいいのか、それはわからない。
 それまでクゥが待てるのかどうかも。


 雑誌に並んだ言葉は、けっこう無責任だったりする。
 同じ雑誌に、翌月は「幸せをゲットするには待ってちゃダメ! いい男は早い者勝ち!」なんて書いてあることだって珍しくないのだ。
 どれが本当で、どれが間違いなのか、それは誰にもわからない。
 でも知らないことを調べるために、図書館に来るように。
 青い空を見るために、顔を空に向けるように。
 自分で行動しなければ、手に入らないこともたくさんある。
 
 クゥはまだ、幸せになる本当の方法を知らない。
 本当のことを見つけ出すためには、本当じゃないこともたくさん知らないといけないからだ。
 だからクゥは今、いろんなことを知っていく途中。
 いつかほんとうに、幸せになるために。
 あの人がクゥに何を望んでいたのか、本当のことを知るために。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
またのご依頼、誠にありがとうございます。
難しい命題を抱えたクゥさんが、いつか答えを見つけられますようにと祈りつつ。
本よりも雑誌のほうがこういう内容にたどり着きやすいかと思いましたので、雑誌のみにしてみました。
アレンジ部分も含め、お気に召しましたら幸いです。
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グロリアスドライヴ
2019年09月24日

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