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『枯死の季節(4)』
芳乃・綺花8870

 枯れ葉が舞う。公園内に、少し早い枯死の季節が訪れる。
 巨木に宿った悪霊は断末魔の代わりに大きく揺れ、そしてゆっくりと倒れていった。
 敗れた悪霊は、ただ消えていく。その欠片一つ残す事は許されずに、地獄へと落ちていくのだ。

 厄災とも言える悪霊に襲われていた公園は、ようやく平穏を取り戻す。
 自然が美しいと評判の公園だったはずだが、もはやその面影はない。今までこの公園を巣食っていた植物は、全てあの悪霊だったのだろう。悪霊は一つの公園をまるまる支配し、虎視眈々と世界を侵略する機会を伺っていたのだ。
 けれど、その計画は失敗に終わった。世界は救われた。自然が消えた公園に咲く、ただ一輪の花……その名の通り花の如き美しさを持つ少女、芳乃・綺花(8870)の手によって。
「存外、呆気なく終わってしまいましたね」
 世界を脅かす悪辣を倒したというのに、彼女の様子は普段とさして変わらない。その自信に満ちた表情は崩れる事はなく、悪霊を見下す態度も相変わらずだ。
 むしろ、強い相手と戦えると期待していた分だけ、敵の弱さに落胆しているようだった。「肩慣らしにもなりませんでした」と呆れたように肩をすくめ、彼女は上司にひとまず任務を成功させたという簡単な報告を済ませる。

 変わり果てた公園。しかし、所詮あの自然は悪霊の化けた仮初の美しさだったのだ。
 見た目は寂しくはなったものの、公園の中は本来の姿を取り戻したせいか見る者をどこか安心させる穏やかな空気が満たしていた。
 失踪事件も、もう起こる事はない。かえって、この公園を利用する者は増える事だろう。緑がなくなった分、新しく植えようという話も、きっとその内誰かの口から出てくるかもしれない。
「大した相手ではありませんでしたが、一応災厄の悪辣を倒した事について上司にしっかりと報告しなくてはなりませんね。私はひとまず、拠点に帰る事にいたしましょう」
 そう独りごちてから、少女は駆け出す。疾駆する彼女の姿は、すぐに公園から見えなくなってしまった。後にあるのは、彼女の残り香だけだ。
 やがてはその香りすらも消え、少し早い枯死の季節が訪れた公園には、何も残らない。
 それでも、決して散らない花というものは存在する。他でもない、綺花自身の事だ。
 圧倒的な力を持つ女子高生退魔士は、これからも悪を徹底的に見下し、蹂躙し、倒していくに違いないと彼女自身も含め綺花を知る誰もが思っていた。
 どれだけ強大な敵が現れても、綺花という花を枯らす事は叶わない。それどころか、彼女の魅惑的な身体に触れる事は誰にも出来ないだろう、と。
「次の任務では、いったいどんな敵と戦えるのでしょうか。楽しみですね」
 この先も、自分は退魔士として戦場で気高く咲き誇り続ける事を、綺花は改めて誓うのだった。

 ◆

 彼女のいなくなった、誰もいないはずの公園で影が蠢く。まるで生きているかのように不気味に震えたその影は、綺花の背を追うように公園から抜け出していった。
 綺花でも感知しきれない程に巧妙にその気配を消し、本当の災厄は彼女の事を監視している。
 走る少女は、任務を達成した高揚感に浸り、いつも以上に楽しげな笑みを浮かべていた。
 無垢で美しい少女は、まだ知らない。自分にも、今回戦った悪霊のように一方的に蹂躙され惨めに朽ちていく可能性があるななんて、少女は想像した事すらなかった。
 未だかつて傷一つ負う事なく勝利し続けてきた彼女が、苦戦や敗北を予期出来るはずがない。だから、彼女が自分の力を信じているのも――過信しているのも、無理もない話であった。
 自分は決して負ける事はないのだ、と。枯死の季節など、自分には無縁のものだ。そう綺花は思っている。
 いずれ訪れる自分の最期に、散りゆく花は何を思うのだろうか。完璧なはずの少女は、叩きのめされた時にいったいどのような表情を浮かべ、どういった悲鳴をあげるのだろう。
 這い寄る影は、彼女の惨めな最期に思いを馳せ、その影を楽しげに揺らした後、すっと消えていった。
 綺花は、未だその存在に気付いていない。その影の正体も、自分を狙う者の強さも、その数も。何一つ知らないまま、パッと花の咲いたような明るい笑顔を浮かべ、彼女は明日も明後日も戦場を舞い続ける。
 いずれ訪れる、彼女にとっての枯死の季節まで――。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
今回の綺花さんのご活躍、このようなお話になりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら、幸いです。
何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼誠にありがとうございました。お声掛けいただけて、大変光栄です……!
また機会がありましたら、その時は是非よろしくお願いいたします!
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しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年09月24日

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