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『ぶらり食べ歩き実録レポート 〜お勧め十選行ってみた〜』
化野 鳥太郎la0108)&ケヴィンla0192

「高すぎないものなら奢るよ。ロシアの戦線のお疲れ様会って事で」
 そう言った事は覚えているし、なんならほんの数日前の事なのだけれど。
「前から一度食ってみたいと思ってたんだよ」
 そう言ってケヴィン(la0192)が出してきたのがやたら薄い本だったので、化野 鳥太郎(la0108)は言葉に詰まってしまったのだ。
『ベース、食べ歩きならここが美味しい! 〜現役ライセンサーが食べて選んだお店十選〜』
 決定的なのは、著者名のところに二人の共通の知人の名前が堂々と書いてあるところだろうか。
「え、何その反応。化野君が言ったんだよね?」
 軽率につられ過ぎた俺、はしゃぎ損? なんて、大袈裟につくられた表情が向けられる。これは揶揄われる前兆だ、失敗は出来ない。
「あ……違うよ。ケヴィンさんも同人誌買うんだと思って、驚いただけ」
 これで無難な答えになったはず……! 同人誌、って単語自体アウトかなって気づいたのは言った直後だ。
「化野君ちにもあるだろ?」
「え」
 もう一度固まるのは仕方ないと思う。でも同人誌は言って大丈夫だった、セーフ!
「こないだ嬉しそうに話してくれたんだよね」
 それで俺も気になっちゃってさぁ、と続けているケヴィンが見ていないのをいいことに鳥太郎は小さく息をはいた。成程同居人経由なら納得である。確かに知人の出した食べ歩き本を持ち帰って同居人に渡したのは自分なのだから。なお自分が関わっているけれど自分名義になっていない方は厳重に隠してある。大丈夫だ、問題ない。
「なるほどね。わざわざ買いに行ったんだ?」
 でも念には念を入れておこう。イベント会場まで行ったのか、それとも?
「いんや、最近は本屋で……委託? とやらから探してきた。化野君は違うの?」
「イベントに行った話は聞いてないんだ。知人の伝でちょっと売り子をね」
 内心でほっとしながら会話を続けていく。
「……ふぅーん?」
 見透かされているような気もするが、嘘はついていない、真実も話してはいないけれど。
「まあいいか、それで今日はここに行きたいんだよね」
 丁度このあたりの店が集まってるし。ケヴィンが頁を捲りだしたので、鳥太郎もどれと覗き込んだ。なにせこの同人誌は初見だったので。


●肉のまさもと

 今時珍しい商店街、その並びから少しばかり脇道に逸れた路地にその店はある。各種厳選された肉は毎日同じものが並んでいるわけではない。ショーケースがあまり大きくないというのが理由らしいが、客それぞれにオススメの食べ方なども教えてくれる様子を見るに、無意識なこだわりを感じさせる――(以下執筆者の主観が続く為省略)

「なるほど、惣菜が売ってるわけなんだね」
 路地に差し掛かった時点で、すぐに揚げ物の良い香りが漂ってくる。なるほどこれは立地なんて関係ないなと頷く鳥太郎を速足で置いていくケヴィン。
「これだけ匂いが強いなら、まさに揚げたてがあるはず!」
 その瞬間を買い上げる気満々なのである。
「でもそれ火傷しない? って、ケヴィンさん!」
 勢いをつけすぎたのか手から離れた同人誌が宙を舞う。慌てた鳥太郎がどうにかキャッチしたので事なきを得たけれども。
「あー大丈夫、折り癖は元からだしね」
「もう少し丁寧に扱ってあげて……?」
 あんたそういうところ突然過ぎないか、とたしなめる視線を向けてみるが、肝心のケヴィンは既に惣菜選びに夢中だ。視線なんて気付かないし、多分声色も気にしてなんていないのだろう。
「じゃ化野君持ってて。すいまっせーん、季節のコロッケと、そのまさに揚げたてのメンチカツ!」
 店員の返事に話が続かないことを察した鳥太郎。自身もお勧め品と銘打たれている一品を頼むのだった。

 じゅわっ、は齧りついた衣の油がもたらす歯触り。
 じゅわり、は噛みしめた肉から溢れ出る肉汁。
 はふはふ、と熱くて暴れる肉を少しずつ口の中で転がし味を広げてから。
 ごっくん、とまだあたたかいままに喉を転がり落ちていく。
「あ、美味しい」
 シンプルな言葉が零れ落ちる。挽肉はあらびきなだけでなく大きめの肉の欠片も入っていて食感が面白いし、塩胡椒の下味も完璧だ。
「メンチカツはキャベツがうまいよね」
 溢れる肉汁にみずっぼさを感じないから、キャベツにもきっと手がくわえられているのだろう、素人の鳥太郎にはわからないけれど。
(お肉も良心的な値段だったしね)
 そちらも目は通しておけて収穫だったと思う。家事を担ってくれている同居人にはぜひ教えておこう。時々このキャベツメンチも買ってきてくれるかもしれないし。
「それも美味そうだが」
「なら一口食べる?」
 差し出してみたが腕ごと押し戻された。
「肉屋なら肉が食いたいよな」
「? ステーキってこと?」
 メンチカツは衣がついているしね、と聞けば肩を竦めるケヴィン。
「ガツンと肉! って感じられたらいーんだよ。ここのは肉感つよくていいなってこと」
「確かに、食べ応えがあるよねえ。コロッケの方は?」
 口の端についた自家製ソースを舐める様子に食べ終わっていることに気付いて聞いてみる」
「あー今男爵が旬だとかですっごいシンプル。これはこれでソースが映えるっていうやつ?」
 意外と甘味があるのなー、なんて答えにうぬぬと唸るしかない。
「やっぱり戻って追加を」
「いやまだ次があるんだけど?」
「でも揚げたて……」
「っだー! 帰りに寄ればいいだろーがっ」
「……そっか、それもそうだね」


●クレープショップ「大甘」

 移動店舗とも呼ばれる大型キッチンカーのおかげで、その店は神出鬼没……なんてこともなく、曜日や時間帯、時にイベントに合わせてその店は所在地を変える。中で食べる席も勿論あるが、天気の良い日なら是非、併設されたオープンカフェでゆっくりとその味を堪能することをお勧めする。景観の良い公園なら尚更デートスポットに――(略)

「わぁ……!」
 明らかに目を輝かせている鳥太郎の様子はあまり気にしないことにする。
(甘いもの好きなんだっけ? まあ驕る側が楽しいならいいことか)
 そういう自分はとメニューに目を走らせるが、どうにも甘いものという気分にならない。ここに来ること自体は決めていたのだが、どうしてか……
(あれか、2個じゃ足りない?)
 歩いて消化されてしまったのか、それとも予想より油物が軽くいけてしまっていたからなのか、ケヴィンの身体はまだデザートの気分ではないと訴えているらしい。
「おっ、いいのがあるじゃない」
 視界に映るのはおかずクレープの文字である。カレーチーズやらピザソーセージなんて、皮を焼きながら調理するホットクレープもあるらしい。カフェなのにつまみじゃないか、なんて邪な思考が頭をよぎる。
「さっきはお勧め選ばなかったし……よし、これでいこうか」
 さて注文を、と顔を上げれば、既に鳥太郎が店員に念入りに確認を取り始めている。
「どれだけ楽しみなのあの人」
 堪えきれない笑い声が少し漏れたのだが、どうやら気付かれずに済みそうである。

 昼時だからか、客はそう多くない。オープンカフェの一席に陣取った二人の前には、完成したばかりのクレープ達が並んでいる。
「ほんとすごい」
 受け取ってすぐに零れた言葉が、今もまだ鳥太郎の思考を支配している。
「ほぼケーキじゃん……!」
 皮を焼くところからずっとそわそわしながら見ていたのだから、種明かしもなにも全てわかっている筈ではあるのだが。それでも手際に見惚れたり仕上がりの美しさに感動したりで、先ほどから席に着いているのに手は全く伸びていない。
 カシャッ!
 シャッター音に我に返ってケヴィンを見れば、スマホのカメラレンズが向けられていた。
「えっ! ……え?」
「日常の一コマ?」
「えっなんで俺……?」
「ちゃんとケーキ“も”撮ったから大丈夫」
 珈琲片手に言いながら、さっとスマホをしまうケヴィン。
「あとで送っとくから。土産話にいいんじゃない」
「え、ありがとう?」
「でさあ、溶けたら味変わっちゃうんじゃない?」
 アイスなんだろ、と示されて。浮かんだ疑問が吹っ飛ぶ鳥太郎。
「そうだった!」
 というわけでさっそくフォークを差し入れる。手でつかんで食べてもいいのだが、あまりにもケーキという見た目過ぎて丁寧に扱いたくなったのだ。
 そっと一口分を削り取った断面は、バニラアイスを中心に、まるでミルフィーユのように層を形成している。差し色でありアクセントでもあるブルーベリーソースも目に鮮やかだ。
「……いただきます」
 少し時間を置いたからか、しっとりクレープ生地に溶けたアイスが染みこんでいる。クリームの甘みも重なりまさに頬が蕩けていく……!
「へぇ、柑橘果汁じゃなくて刻んだ皮入りねぇ、確かにさっぱりしてる」
 ツナマヨに添えられたスライス玉葱とレタスのシャキシャキ音を響かせながら、ケヴィンの口元にも薄く笑みが浮かんでいた。


●フレッシュスープ『Vegetable valley』

 石窯を思わせるレンガ調の建物。遠目からでも見つけられる鮮やかな色調の店舗前を通りがかれば焼きたてパンの香ばしい香りが漂ってくる。これはオーナーを同じくするパン屋が隣に立っているからだ。どちらの店にもつながっているイートインスペースを利用すれば、簡単にバランスの取れた食事を楽しめるだろう――(略)

「折角だし食べ歩きがいいかなあ」
 さっき休憩もしちゃったしね、と提案する鳥太郎の理由は今日ずっと考えていたことで。
「歩きながら食べると余計美味しく感じるのは何でだろね?」
 クレープは空いているからと座ってしまったが、あれはそれだけじっくり楽しみたかったからだ。コロッケの追加を考えていた身ではあるけれど……今思うに、多分。最初に食べたメンチカツほどの感動は得られない気がしているのである。
「さぁね、美味しければいいんじゃない」
「あんた変なとこでスイッチ切れるよね」
「それより頼むんでしょー? ほらほら、俺もう決めたから。この玉葱と玉蜀黍のスープ、パンのセットで」
「ほんと食い意地張ってるよね……」
「驕りだしーぃ?」
「確かに言いだしたの俺だし、買ってくるけども」
 さて自分は、とメニューに目を走らせて、まだ残る“夏”の文字に目を留めた。

「あっちに公園もあるらしいよぉ」
 散歩コースもあるって、とみつけた案内を示しながらカップ入りのスープを受け取るケヴィン。
「ほんと? じゃあ適当なとこで座れそうだね」
「……食べ歩きって……?」
 言葉通りに取ったからこその提案だったのだが。軽く首を傾げてみるも、同じように首を傾げられてしまう。
(あっこれ伝わってない……けど、まあ困らないし?)
 目的の食べ物はしっかり確保できているわけなので。
「ケヴィンさん?」
 行かないの、と店を出ようとした鳥太郎が振り返る。答えがないから問題ないと判断したのだろう。
「いいやー、今日の財布君のご要望のままにー?」
 あえて茶化す流れも悪くない、なにせ反応が面白かったりするわけなので。
「なにそれ俺今お大尽なの?」
「違いないんじゃない」
 あ、でもちょっと待ってと呼び留めて、まだ熱いカップの中身を一口味見するケヴィン。野菜の甘味を最大限引き出した、その売り文句通りだ。
「んー……まあ、これくらいならいいか」
「どうしたの」
「甘すぎたら珈琲も追加してもらおうかと」
「えっしっかり集る気だ」
「そりゃそうでしょ。化野君は確かめなくていいの?」
「そうだね……ん、ちょっと辛めだ。美味しい……」
「それ最後の方喉休め欲しくなる奴じゃない?」
「でも野菜とか入ってるし大丈夫かなって」
 夏野菜のカレースープと書かれていた通り、大振りの茄子やピーマンが顔をのぞかせている。改めて店を出ながら公園への道を歩いていく。道を覚えたケヴィンの先導だ。
「もし買うとしても牛乳かなあ、無かったんだよねあの店」
「あー、辛いの和らげてくれるんだっけ? もういっそコンビニ寄ればぁ?」
 その辺適当に探せばあるでしょ、と気楽に返す。
「そうだね、後からでもいいかも」
 咽て苦しい思いをする、なんてお約束があるのは、もう少し後のことである――。


●お土産セット

「結局全部買うの……って、言っても食べるの化野君だよね?」
「たまには楽させたいな、とか?」
「にしては量多いよね」
「!……ケヴィンさん、今日うちに泊まりに」
「いや―ご馳走さまー? じゃぁねー」
「あっ!?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

【化野 鳥太郎/男/37歳/人間/天罰戦士/順調に冷凍庫のストックが増えました】
【ケヴィン/男/37歳/放浪者/羽翼狙手/残り7店舗は別日に一人で制覇達成】
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2019年09月27日

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