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『DIVE.01 -Embodiment- みなもの場合』
海原・みなも1252

 海原・みなも(1252)はいつのもように『ネットカフェ・ユビキタス』に遊びに来ただけという偶然であった。たがしかし、店長から能力者のみの依頼の内容を聞かされたからには、参加せざるを得ない状況だ。
「まぁ、アルバイトとでも思って、やってみて。ミカゲがいるから、いつも通りで大丈夫よ」
「は、はい。頑張ります!」
「みなもちゃんが作ったユニットのデータあるでしょ。アレをそのまま自分のアバターとして使えるからね。ぜひ体感してみて」
「はい。では……行ってきます!」
「いってらっしゃい」
 クインツァイトのその言葉が合図となったかのように、みなもの意識が遠くなる。
 右手に収めていた疑似ケーブルが彼女のこめかみに軽く当たった瞬間、『ダイブ』は開始されるのだ。そして、数秒後。
「――ようこそ、みなも様」
 みなもの良く知る声が届いた。それに釣られるようにして瞳を開くと、目の前には一人の少女が立っていた。
 ミカゲである。
「ミカゲさん、こんにちは。お久しぶりです」
「本日は能力者向けのミッションにご参加くださりありがとうございます。早速ですが、向かいましょうか」
「はい……!」
 ミカゲはみなもに小さく微笑みながら、そう言った。だが、急いでいるのか少しだけ焦りも見える。
 みなもはそんな彼女を見やりつつ、前へと進んだ。少し歩くと情景が変わり、露店が続く道なりになった。
「えっと、お祭り……なんですよね? じゃあ、それっぽい服装にしたほうがウイルスも寄ってくるんじゃないかなって思ったんですけど……」
「……なるほど。そうかもしれません。みなも様、さすがです」
 小さな手をきゅっと握りしめて、みなもがそう言うと、ミカゲは心底感心したような顔をしてそう言った。素の表情を見せる事は滅多にない彼女だが、相手がみなもであるからなのだろうか。
「では、こちらでデータを少し弄りますね……お待ちを……」
 ミカゲはそう言いながら、目の前に半透明のモニターを呼び出す。そして左手で器用に画面をスライドさせてから、【execution】と口で紡ぐ。
 すると、みなもの服装が一瞬にして変わり、可愛らしい浴衣姿となった。
「わ、かわいい……」
「みなも様は水の青をベースに、薄いピンクの朝顔をイメージしました。とても良くお似合いです」
 ミカゲは少し得意げにそんな言葉を続けた。みなもを友人として好いている事もあり、いつもより多言にもなる。
「あ、装備とかはそのままでもいいんですね」
「はい。みなも様のユニットデータからメイン武器の銃を装備させて頂いてます」
 以前に少々ここでの行動をミカゲから教わっていたみなもは、そう言いながら自分のユニットデータを呼び出して装備欄を見た。現在装備しているライフルは、『MI_NAMO』として遊んでいた時に報酬としてもらったものだ。武器の横に弾の種類などもあり、その場にあったものをある程度選べるようにもなっている。
「……ええと、今回の敵はウイルスですよね。だったら、銃の弾とか……駆除するものに変更したりとか、出来ますか?」
「可能です。電脳世界ですので…そういうものに特化したアイテムは幅広く展開していますよ」
「そうなんですね……じゃあこれ、セットしておきます」
 みなもは数ある弾の中から、アンチウイルス効能があるものを選んで、自らでそれをセットした。
 傍らで見守っていたミカゲは、その判断に嬉しそうに微笑んでいる。
「では、進んでみましょう。この大通りを歩いて頂くだけで、ある程度は割り出せるかと思います」
「クインさんが『隔離』と言ってましたけど、このエリアだけほんとに人がいませんね……」
 カラン、とみなもの履いている下駄が音を立てた。
 露店に人はいるが、客の姿が無い。それが少しの寂しさと不気味さを醸し出していて、異様だと思えた。
「あ、あれ……大きい金魚がいます……!」
「どうやら当たりのようです」
 みなもが一歩先へ出る形で数歩あるいたところで、何かを見つけて指をそちらへと向けた。その先には、明らかに大きい金魚がいる。ひらひらと尾びれを揺らして愛らしいが、宙に浮いている。どう見ても怪しい。
 呆気に取られていると、その金魚はその場で一旦姿を消し、水笛の店から小鳥が飛び出してきた。変容型と言っていたが、それを目の当たりにした瞬間でもあった。
「あ、そうか……時間経過……! でも、あれで間違いないですよね?」
「はい……相手も私たちに気づいたようです……飛ばれてしまうと、厄介です」
「大丈夫です、この距離なら……!」
 みなもはその場で武器を取り出し、小鳥に向かってそれを向けた。
 そして躊躇いもなく、引き金を引く。
 緑色の淡い光の尾を引くような軌道で、弾は放たれた。そしてそれは逸れることもなく、小鳥へとヒットする。
「あ、散らばるんですね……良かったんでしょうか?」
「はい、大丈夫です。みなも様、また腕を上げましたね。見事でした」
 ミカゲが右手を前に掲げつつ、静かにそう言った。
 そしてみなもが撃ち落とした小鳥――ウイルスは『駆除』された。
「意外とあっさり……でも、これも隔離のおかげなんですよね。この通り、かなり先まであるみたいです」
「……そうなのです。ゲーム内が季節イベント中ですので、エリアごとお祭り風景なものですから……みなも様が来てくださって、本当に助かりました。ありがとうございます」
 ミカゲはそう言った後、みなもの前で深々と頭を下げた。
 それを見たみなもは、焦りながらも『顔を上げてください』と言う。
「あたしも最初は、遊びに来させてもらっただけなんです。だから苦とも思いませんでしたし……少し、楽しかったです」
「そう言って頂けると、少し安心しました……。――『お父様』、隔離を解除してください」
 ミカゲが僅かに上空を見上げながら、静かにそう言った。
 するとすぐに耳慣れた声が降りてくる。
『はーい、わかったわ。みなもちゃん、協力してくれてありがとね。そのままお祭りムードを少し味わって帰ってきてね』
「クインさんの声……『外』から見ててくれたんですね」
 頭上に降りかかってくる声に顔を上げながらそう言ったみなもは、それでも今を受け止めて、小さく笑った。不思議な体験はこれまでいくつもしてきた。目に見える事だけが真実ではないのだと、彼女も理解しているからこそ、受け止めも早い。
 くるりと辺りを見回していると、周囲の空気が一変した。一瞬だけ小さな電子音がしたかと思えば、目の前には人が溢れてきたのだ。
「わ……こんなに、人がいっぱい……! ミカゲさん、はぐれないように、手を繋ぎましょう!」
「は、はい……」
 喧騒の中、みなもは自然とミカゲの手を取った。
 そしてクインツァイトが言ったように、この場を楽しむことに気持ちを入れ替える。
「お店の物は、食べられるんですか?」
「はい。現実世界と同じように、全て体験して頂けます」
「わぁっ、そうなんですね! 実はさっきからあのクレープ屋さんが気になってたんです。ミカゲさん、行きましょう!」
「……はい、そうですね」
 みなもとミカゲは、そんな会話をしつつ前へと進んだ。
 ミカゲはその行動に、戸惑っているようであった。しかし、その表情は柔らかい。
 肩越しに少女のそんな様子を見つつ、みなもも笑顔となった。そして二人は、しばしのボーナスタイムを楽しむのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 ライターの涼月です。
 この度はウェブゲーム『Embodiment』にご参加くださりありがとうございました!
 少しでも楽しんで頂けますと幸いです。

 またの機会がございましたら、よろしくお願いします!
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年09月27日

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