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『娼婦として』
紫の花嫁・アリサ8884)&真紅の女王・美紅(8929)&黒の貴婦人・アルテミシア(8883)

「私の淫らな娼婦」

 白いシーツの中、黒の貴婦人・アルテミシア(8883)が自らの娼婦の名を呼んだ。

「はい、アルテミシア様」

 傍らに横たわっていた紫の花嫁・アリサ(8884)が体を起こすと2人は触れるだけのキスを交わす。

 自分の中で先程までの熱がくすぶっているのがアリサには分かった。

 アルテミシアの微笑みにまた愛してもらえるのかと思っていると、

「娼婦としての貴女を求めている貴婦人がいるのよ。会ってみないかしら」

 予想外の言葉だったが、主の言うことが自分に害をなしたことはない。

「かしこまりました」

「そう、じゃあ、準備なさい」

 頷くアリサにそう告げてアルテミシアは白い波の中から出て行った。

 言われるままに欲望の残滓を湯で清め、用意されたベビードールに袖を通しながらアリサは思う。

(他の方と……)

 自分が花嫁であると同時に娼婦であることは重々承知している。

 だがそれにはアルテミシアのという但し書きが付いている。

 娼婦として会うということは、唇や肌を重なることにもなるだろう。

(アルテミシア様以外とそんなことになるなんて……)

 知らず知らずのうちに口元に浮かぶのは笑み。

 鎮めたはずの体の熱がまた再燃するのが分かる。

「どんな方なのかしら……楽しみだわ」

  ***

「お待たせいたしました」

 姿を現したアリサを見てアルテミシアは満足そうに微笑んだ。

 言葉を交わさなくてもわかる。

 この花嫁はこれからの出会いに期待を膨らませている。

(変わったものね)

 それすら、いや、それが愛おしい。

 だからこそ。

「二重の契約が妨げにならぬよう、再び私の下に帰るまで、私との娼婦としての契りを破棄しましょう」

「かしこまりました」

 異論などないとばかりに即答するアリサの表情に不安や恐れといったネガティブな感情は見えない。

 その言葉に偽りもないように感じる。

(これだから、この子は面白いのよね)

 アルテミシアは内心でそう呟いた。

 アルテミシアと離れることを嫌がり、ひと時も離れたくないとついこの間まで言っていたというのに、今はほかの貴婦人との交わりに期待している。

(それでこそ私の花嫁、私の娼婦だわ)

「では、始めましょう」

 契りを破棄する儀式は滞りなく終わり、2人はにっこりとほほ笑んだ。

「客がいないのならば、娼婦は己の情欲に従わないとだめよ。娼婦とはそういうものだもの」

「わかっていますわ」

 先程までとは色の違う言葉に、アルテミシアは笑みを深くする。

 教えたわけではないが、なるほど、娼婦としての契りを破棄するということがそういうことなのか心得ているようだった。

「私の可愛い花嫁さん」

 そっと引き寄せ、腰に手を回すと、耳元でそう囁く。

 甘い息で返事をするアリサに唇を重ねると、熱い口づけが返ってくる。

 娼婦にするように熱く深い口づけに合わせてアルテミシアの指がアリサの熱を煽っていく。

「……っ、あっ……」

 甘い声を上げ、アリサが熱に身をゆだねようとすると、ぴたりと指が止まってしまった。

「アルテミシア様……」

 切なそうな声を上げその先をねだるアリサの口元を優しく指で押さえアルテミシアは待てをする。

「娼婦は対価を払う契りを結んだ相手以外に快楽を捧げてはだめよ」

 一瞬、はっとした表情をしたアリサは柔らかく微笑み、そっと主から離れると一礼した。

「ご指導ありがとうございます。では、契りをお求めの方の下に参ります」

 もう一度恭しく頭を下げると、居室を後にしていく姿をアルテミシアは黒い笑みを浮かべながら見送った。

  ***

「花嫁? 姫ではなくて?」

「ええ、とても素敵なのよ」

 少し前、アルテミシアは真紅の女王・美紅(8929)にアリサの話をしていた。

 姫ではなく花嫁をとったという言葉に多少驚いた美紅だったが、話を聞いていくうちに口元に笑みを浮かべていった。

「きっと、美紅も気に入ると思うわ」

「そう、それはとても興味があるわね」

 アルテミシアがそういう女性は多くはない。

 また、互いの趣味嗜好を把握しているからこそ、彼女がそういう女性に外れがないことも美紅には分かっていた。

「娼婦としてもとても素敵なのだけれどね、もっと素敵になると思うのよ……。どうかしら」

 含みのある言葉に美紅は頷く。

「……そう、それは楽しそうね」

 言葉にしなくてもその目を見ればアルテミシアが何を言おうとしていたのかは分かる。

(そういう趣向も面白い)

妖艶に微笑む美紅にアルテミシアが深く微笑む。

「そう言ってくれると思っていたわ。折角だから貴女と楽しみたいと思っているのよ」

「ええ、是非そうしましょう」

  ***

「よく来たわね、入ってちょうだい」

 程なくしてアリサは美紅の居室に通された。

 バラを思わせるような姿と香りの美紅に見つめられ、アリサは自分の中で期待が上がっていくのを感じていた。

(この方が私に会いたがっていた方……)

 一方、美紅はアリサの全身を舐めるように眺めていた。

(確かに逸品だわ。アルテミシアが花嫁に迎え、娼婦としても褒めるだけのことはある。……これは、思っていた以上に楽しめそうだわ)

「さあ、契りましょうか」

「かしこまりました」

(これからこの方と契るんだわ)

 美紅の言葉に、アリサは体の芯が厚くなるのを感じながら、跪く。

 そこに躊躇いはない。

 それどころか、その言葉を待っていたかのような気持ちにすらなった。

 まっすぐ美紅に視線を合わせ、契りの言葉を口にしていく。

 美紅にはアリサの言葉に、戸惑いや迷いは感じられない。

 ただ、悦びに対する期待だけが伝わってくる。

(本当に、面白い子)

 契りの言葉を聞きながら、美紅は内心でそう呟く。

 アルテミシアの話では、他人と契るのは初めてだということだったが、とてもそうは思えない。

 アリサは契りの言葉を言い進めていくにつれ、悦びの予感が自分の中から湧き上がってくるのを感じていた。

 アルテミシアの時とは違う悦びに出会えるのではないかという期待と予感が、さざ波のように足元へ寄せてくる。

 頭を下げ、ドレスの裾に口づけると、美紅から立つように指示される。

 言われるままに立ち上がると、胸元をきつく吸われる。

 唇を離した後、跡の代わりについていたのは紅薔薇の紋。

「これで、貴女は私だけの娼婦よ。私のものに相応しい服に着替えてちょうだい」

「かしこまりました」

 恭しい返事に美紅がパチンと指を鳴らすと、アリサの服が、深紅のドレスに変わる。

 大きく開いた胸元は開花した花をイメージさせ、フィッシュテールのスカートは後ろに長いトレーンを引いている。

 前を見れば、かなり短い裾から白く細い脚が色っぽく、その奥にある薔薇の園への期待感を煽る。

 歩けば、園が淫らに誘っているように見えるだろう。

 まさに高級娼婦の姿にふさわしい姿だと賛辞しながら美紅はアリサを手招く。

「この髪が元に戻るまで私に仕えなさい」

 そう言いながら、アリサの髪に櫛を入れると、黒く長かった髪が赤のベリーショートへと変わったではないか。

 元の髪の名残といえば、サイドに入った一房の黒いメッシュ位だろう。

 だが、それにもアリサは驚かない。

「かしこまりました。私、アリサは貴女にこの愛を注ぎ、身も心も捧げることを誓います」

(あぁ……)

 目の前の貴婦人に相応しい姿になっていくにつれ、快楽がじわりじわりと身体を蝕んでいくようだった。

 胸元の薔薇が早く悦びを教えてくれと疼いているように感じられる。

 ティアラや指輪といった宝飾品を美紅の物へ帰ることには、アリサの顔に施されていたメイクはふしだらさを帯びた派手な物になっていた。

「どうかしら」

「ありがとうございます」

 最高級の娼婦がそこにはいた。

 それ以外に表現する言葉がないほどに完璧な娼婦である。

「奉仕、出来るわね」

「はい」

 アリサは静かにかしずくと美紅の靴先に口づけた。

 そのまま丁寧に靴を脱がすと、足にもう一度口づけ。

 そして、差し出された指に次々と口づけると、そのまま咥え甘える様な熱っぽい視線を向ける。

 くすっと、微笑む客に嬉しそうに微笑むと、その唇は耳へと移動する。

 耳朶を食むように唇を寄せ

「お慕いしております」

 甘い言葉とともに熱っぽい吐息を吹きかける。

 耳を刺激しながら己の手を美紅の胸に押し当て、優しく動かしながら、美紅の肌が朱を帯びてきたのを確認すると、指先に緩急をつけさらに刺激していく。

 その後も、耳から脳へ染み込ませるように淫らな言葉と甘い息を吐きながら時折触れるだけのキスをしていたアリサだったが、我慢できなくなったように、1度だけ深く口づけた。

「もっと強請ってもいいのよ?」

 美紅の言葉にアリサは何度も深く熱く唇を重ねる。

 互いの熱を交換するように何度も何度も。

 合間に漏れるのは甘い吐息と愛の言葉。

 それに続くように衣擦れの音、そして水音が部屋に響いていく。

「いい子ね、愛してあげるわ」

(やっと、与えてもらえる)

 お預けを食らっていた子供のように目を輝かすアリサに美紅は艶っぽく笑った。

  ***

 それはアルテミシアのそれとはまったく違うものだった。

 愛するというよりも犯すという言葉が合うような激しく情熱的な愛にアリサはすぐに夢中になった。

(どうして今まで知らなかったのかしら。こんなにも気持ちいいのに)

 アルテミシアだけで、いや、アルテミシアだけがいいだなんてどうして思っていたのだろう。

 貴婦人の数だけ愛し方があり、その数だけ悦びがある。

 それに沈溺することが娼婦の喜びであり悦びなのに。

「……っ!!」

 そこまで思い至った瞬間与えられた電撃のような快楽に、甘い悲鳴が上がる。

 ただ声を上げることしかできないままに強い快楽の波に溺れアリサは何も考えることができなくなっていった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 新たな覚醒 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / 新たな遊び 】

【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 新たな企み 】
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2019年10月01日

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