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『繰繰 2』
水嶋・琴美8036

 準備となれば、まずは前の任務の痕跡を落とす事から。
 新たな任務を受けたその足で、水嶋琴美(8036)は特務統合機動課の施設内にある浴室へと向かう。

 次の新たな任務の為の行動。真面目に言えばそうなるのだが、湯浴みの一つもすれば普通に気持ち良くすっきりもする。一つ任務をこなせばそれだけでどうしてもそれなりの汚れは付いてしまう物。仄かな自分の汗や、現場の埃。そして敵の血の臭いなどと言った辺りは――幾ら指一本触れさせずに倒していたとしても、返り血の一滴すら浴びなかったとしても――倒した敵と同じ空間に居てしまう以上、ある程度付着してしまうのは仕方無い事になる。

 まぁ、その辺りが気になるのは忍びの習性、もあるかもしれないが。
 つまり、特別に術として使う用でも無いのなら(くノ一の場合、そう言った類な標的の籠絡方法もある)、なるべく自身は無臭で居たい訳である。
 隠密行動の為の最低限の嗜みと言うか。
 ……琴美の場合、くノ一らしい色気はそんな「匂い」と言った小道具を使わずとも見た目だけで間に合っている――間に合い過ぎていると言うか。

 ともあれ、浴室にて髪やその肢体についた不快な臭いや僅かな汚れを落とし、玉の肌に滴る水気を拭いて髪を乾かしてから――琴美は一糸纏わぬ豊満な肉体を、改めて戦闘服に包み直す事になる。
 勿論、先程まで着ていたのとは別の――但し、着慣れた同型の物を。



 現場では、同じだけの機能を持つ動き易い戦闘服は多数用意されている。それが有能な者の為の品であるなら尚更、不便無い様に取り揃えられている。つまり、課内のトップランカーである琴美はこの辺りの事で苦労した事は無い。

 最高の環境。

 思いつつ、琴美はそれらの服を身に着け始める。まず、下着――ああ、艶やかな肌を直に覆う事になるこの辺りの詳細は秘密としておいた方がいいかもしれない。そう、必要になった時に、必要な誰かが知ればいいだけの事。
 さておき、琴美の戦闘服である。
 有態に言ってしまえば、近代的な戦闘用スーツと前近代的な着物を改造し合わせた様な、わかりやすいくノ一スタイルになる。出る所は出て引っ込む所は引っ込んだ――魅惑的な琴美の肉体を強調する様、ぴったりと体にフィットする黒のインナーとスパッツ。その上に、着物の袖を半分程に短くし、腰に帯を巻いた形の上着と――ミニのプリーツスカートが合わせられている。足元は膝まである編み上げのロングブーツに、手にはグローブと言った、シンプルな物。

 つまり、服装の方では特別な素材を使ったりしている訳では無い訳だ。
 忍びとしての機能を考えれば、普通に動き易い服装であるだけでいい訳である。
 それでもくノ一らしさを演出するのは、まぁ、趣味と言う面が強いかもしれない――いや、敵に対するアイコンと言う理由もあったか。
 その手の輩がむしゃぶりつきたくなる様な姿態を演出するのもまた、くノ一ならでは……な所がある。そう、色仕掛けもまた仕事の内――とは言っても、琴美の場合わざわざ色仕掛けで標的を籠絡する必要など無いだけの戦闘力を持ってはいるのだが。

 まぁ、つまり――美しさをわざわざ隠す必要も無いでしょう? と言う理由が大きい。

 動くのに支障が無ければ、着物の襟元から覗くはちきれそうな胸をわざわざ無理に押さえ込む事も無い。
 はちきれそうな臀部が今にも見えてしまいそうな丈のプリーツスカートも、同じ。
 これらもインナーとスパッツ、帯でのサポートだけで、動くのに何の支障も無い。
 見た目がどれ程派手になろうが、任務遂行に支障さえ出なければ誰からも文句は言われない。

 そういう事だ。

 ……するするとインナーに袖を通し、スパッツに脚を通す。きつくなる豊満な部分も上下問わずに確りホールド、ん、とばかりに思わず軽く声が出る位の締め付けで安定させてから、上着の着物を羽織りスカートをひらりと身に着ける。着物の身頃を合わせ、きゅ、と慣れた手付きできつく帯を巻く――それで自然と胸が強調されるのも御愛嬌。次は編み上げの膝丈ロングブーツを確りと履いて――最後にグローブをはめる事で、琴美の戦闘スタイルは完成する。

 では。これより新たな任務に参りましょう。



 任務の場所は、ちょっとした高層ビル。とある心霊犯罪組織の表の顔である企業が持つビルとの事で、そこの親玉は――まぁ、普通にそこの取締役なのだが、そいつ自体は特段戦闘要員ではなくむしろ情報面での化物であり、中々尻尾を見せない厄介な輩であるらしい。それでいてじわじわと表社会に根を張り、今となっては簡単に潰してしまう訳にも行かない状況になっているとの事で――琴美の今日の狙いも、その取締役と言う訳では無い。

 問題は、その手下。
 その企業体を裏から護る暴力装置、工作員のトップに、化物レベルの剛腕が居るらしい。
 琴美の同僚が苦戦していると言うのは、どうやらそいつ、なのである。
 組織の牙城を崩す為、その厄介な工作員を無力化する為に琴美の同僚が何度も送り込まれたが、悉くが返り討ち。そいつを何とか出来さえすれば、この組織を穏当に潰す算段も付くだろう――と言う段階にはなっているらしいのだが。
 肝心の「そいつを何とかする」のがどうやら一番の難題であり、琴美に御鉢が回って来た、と言う事らしい。

 今現在、琴美は既にビル自体には侵入している――要するに敵方の隠密に速やかに出て来て欲しい訳なので、琴美の方では隠密裏に行くより派手に挑発する手段を選択。……ビルの中に入った後ならばそうしても構わないと上の言質は取ってある。
 即ち、監視カメラの死角を選び進むのでは無く、向かう先の監視カメラを悉く破壊して進み、むしろこちらの居場所を知らしめる手段を取った訳だ。表社会に食い込んでいる企業の形を取る以上、何も知らずに働く堅気の社員が紛れ込んでいる場合もあるかもしれない。が、そういう相手ならこの状況を見ればまず逃げるし、関わり合いになる事も避けたがる筈。罷り間違って警察に通報する様な正義感のある者も居るかもしれないが、それもそれでこの企業に外部から干渉する為の格好の口実になるだろうから問題無い。そして、もし直接こちらに向かって来る様なのが居たら、それはここに居て妥当な駆除対象と言う訳だ。

 さておき、こういうトラブルが起こった場合に組織の為の暴力装置としてまず出てくるのは――手応えの欠片も無い下っ端の下っ端と相場は決まっている。
 だがその下っ端は狙う相手に繋がる一番手っ取り早い糸の端でもあるので、ただ潰すのでは無く利用する。こちらの動きはほんの一挙動。相手にしてみれば何をされたかもわからないだろう瞬間の動きで、致命的な動脈をするりと撫で斬り切断する。勿論、躊躇は無い。こんな組織の暴力装置の下っ端で居るのはただの自業自得――駆除されて当然なのだから。
 ただ、絶命は必至だがそうなるまでに時間が掛かる斬り方をしている。侵入者の私がこの程度の輩でどうにかされる程度のただの無謀な雑魚では無い、と未だ隠れている連中に確り知らせて貰う必要がある――わざと助けを呼ばせ、その最中を見計らい、きちんと殺し直す――通信相手に良く聴こえる様に、今度は何をされたか下っ端自身でもよくわかる様に――この世の物とも思えぬ断末魔を絞り出させる。

 ……訪問を知らせる呼び鈴は、こんな物でいいかしら?


東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年10月02日

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