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『ハロウィンらしい仕事?・1』
芳乃・綺花8870

 とある秋の昼下がり。
 芳乃・綺花(8870@TK01)は高級住宅地の中にひっそりと存在する純喫茶店に一人で訪れて、秋限定のパフェと紅茶を楽しみながらも、険しい表情で書類に目を通していた。
「……今回の敵はポゼッショナーですか。あまり相手にはしたくないですね」
 書類は学校帰りに会社に寄った時に、上司から次の仕事だと言われて渡された。
 決行日までまだ日があったので、綺花は最近お気に入りになったこの純喫茶店に訪れたのだ。
 落ち着いた雰囲気のレトロなこの店は出されるメニュー全てが美味しいものの、学生の懐にダメージを与える値段なので、今のような時間帯に若い人は少ない。
 ある程度金銭的に余裕のある年齢達がそろうので、綺花のような学生服に身を包んだ若い女の子は少々浮いて見える。
 だがそれで騒がないのが、この店の良いところだ。変にナンパされないだけに、綺花の心のオアシスとなりつつある。
 ファーストフードやファミリーレストランへ一人で行くことなど躊躇わない綺花ではあるが、必ずと言っていいほど若い人達に声をかけられるのが悩みであった。
 しかも男だけならばキッパリ・スッパリ断れるのだが、何故か女の子達にまで「一緒に遊びに行かない?」と誘われると少々困る。
(女の子は下心無しに誘ってくださるので、断りにくいんですよね)
 その結果、若い人達がなかなか来れないようなこの店の常連となったのだ。
 そんな場所に仕事の書類を持ち込むのは、集中できる場所でもあるからだった。
 カウンター席もあるのだが、綺花は店内に客の姿が少ない時にはボックス席を使わせてもらっている。
 大きい木のテーブルは書類と頼んだメニューを載せるのにちょうど良かったし、大きなソファーは安心して身を預けられた。その上、この店のボックス席はパーテーションで区切られているので、他人の目に見られたくない物は隠せるのがまた良かった。
(さらに季節限定のパフェは絶品ですしね。……ああ、現実逃避している場合ではありませんでした)
 あたたかな紅茶を一口飲むと、ため息が出てしまう。
 新たな仕事の相手は、ポゼッショナー。【虚無の境界】という世界人類の滅亡をはかる狂信的なテロ組織に属する超常能力者のクラスの一つで、悪霊・悪魔・妖怪を自らに憑依させて、その力を自分の中に取り込んで戦う者のことを言う。
(しかも能力を発揮している時は、人の姿を保っていられず、異形の者と化してしまうのが特徴と言えるでしょう。まさに今の時期にピッタリかもしれません)
 もうすぐハロウィン。地獄の蓋が開き、悪しきモノ達が生きている人間に害を成す。
 悪しきモノ達はほとんどが異形であり、その姿を模倣する為に、街には仮装の準備をはじめている若者達の姿をちらほら見かける。
(まあ私のような超常能力者は、ポゼッショナーと人間の区別を間違えることはありませんが、それでもまぎれこまれたら厄介ですね)
 ハロウィンには人ならざるモノがうろつくが、その日が日なだけに、綺花達のような組織の人間は手を出すことは一切許されない。
 だが敵はそこを狙い目として、自分に憑かせる異形のモノを得て、人間に害を成そうとするのだろう。
 今回、綺花に与えられた仕事は、ハロウィンのイベントを利用して力を増そうとする【虚無の境界】に属するポゼッショナーと戦うこと――。
(仕事内容は非常にシンプルですけど……、よりにもよってハロウィン当日指定ってどういうおつもりでしょうかねぇ?)
 思わず心の中で嫌味を言ってしまう。
 上からの命令で、何故か仕事の決行日はハロウィン当日。敵の力が増し、強者になってしまう日に、戦えと言うのだ。
 しかも数多くのポゼッショナーが動くことを予想しているので、綺花の他にも声をかけられた仕事仲間は多い。
(私達を信用しているのか、それとも周囲への配慮を気にしているのか……。――後者ですね、絶対に)
 ハロウィンの日に敵が強くなるのは分かっていることだが、戦う姿をもし万が一、一般人に目撃されてもイベントだと思われる可能性が高い。
(最近の若い人達はイベント好きですし。まあ、人々に心配や不安を与える戦いをあえて見せて、戦闘イベントに偽装するという手も案外悪くはありませんね。さて、それでは私の仮装を決めましょうか)
 パフェと紅茶を全て平らげた綺花は、伝票を持って立ち上がった。


<続く>



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございました(ぺこり)。
 ハロウィンが近いので、それらしいストーリーにしてみました。
 続きをお楽しみください。


東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年10月02日

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