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『ハロウィンらしい仕事?・4』
芳乃・綺花8870

「女性達にばかり戦わせて、自分は高みの見物というはいただけませんね!」
 芳乃・綺花(8870@TK01)は地を蹴り、襲い掛かってきた女性の頭の上を身をひねってクルリっと避けると、そのままの勢いで吸血鬼に斬りかかった。
「彼女達が喜んでやってくれているんだよ」
「それはあなたの能力で従わせているだけでしょう?」
「フフッ、そう言うキミも良いね。ぜひとも眷属にしてみたい」
「お断りします。私は自分で仕える人を決めますので」
 再び刀と爪の攻防戦がはじまる。だが最初と比べて、お互いに威力は見て分かるほど落ちていた。
 綺花は吸血鬼の眷属と化した女性達の相手をして体力を失っており、吸血鬼は眷属を誕生させる為に力を使ったからだ。
 先程よりは消耗しているものの、綺花は退魔士、吸血鬼はポゼッショナーとしての経験を積んでいる為に、攻撃のキレは相変わらず鋭い。
 一瞬の隙が命取りになることを、お互いに気付いている。
(吸血鬼の弱点と言われる物はいろいろとありますが、この状態では用意ができませんね。さて、どうすべきか……)

 ――だがその時、意外なことが起こる。
 
 街の中で時を告げる鐘の音が鳴り響き、思わず二人は動きを止めた。
 すると街の至る所に置いてあるアンティークのモニュメントから、水が流れ始めたのだ。
「ひっ!?」
 吸血鬼が流れる水を見て、おびえて固まる。
 その隙を、綺花は見逃さなかった。
「隙ありです!」
 その場から大きく飛び上がり、長身の吸血鬼を頭から真っ直ぐに斬り割いた。
「ぐっおおおお!」
 吸血鬼は断末魔の叫びを上げながら黒い煙と化し、消滅していく。
 その光景を見ていた人々は見せ物が終わったと思ったらしく、歓声と拍手を綺花に惜しげもなく送った。
「どうもどうも♪」
 綺花は顔に作り笑みを貼り付かせながら、手を振り返す。
 吸血鬼の眷属にされた女性達は正気に戻り、無事に起き上がって立っていた。
(ヤレヤレ……、精神的に疲れる仕事ですね。でも水のおかげで助かりました)
 吸血鬼の弱点の一つに『流水』があるのを、綺花は思い出す。
 自らの邪気を洗い流す流水を見て、吸血鬼になったポゼッショナーがおびえるのも無理はなかった。
(しかしこの街にああいう仕掛けのモニュメントが置いてあることを知らなかったんですから、彼は他所から来たんでしょうね。前もって行く場所の調査はしておくべきです)
 実はハロウィンイベントがこの街で行われたのも、組織が裏から手を回したからだ。
 街の至る所に【虚無の境界】メンバーを倒す道具や仕掛けがあり、そのおかげで戦闘が楽になる。
(さて、次の戦いに行きましょうか)


 ――その後も、綺花はポゼッショナーを次々と狩っていく。
 だがその姿を見た人々はイベントだと思い、全くおびえずに逆に喜ぶばかり。
 休憩時、綺花は屋台でホットアップルサイダーを買って、近くのベンチに座りながら飲む。
「んっ……。はじめて飲みましたけど、美味しい飲み物ですね」
 リンゴジュース・リンゴ・ナツメグ・黒砂糖・生姜でできた飲み物で、スパイシーで飲みやすく、肌寒くなってきた体内をポカポカとあたためてくれる。
「材料はここら辺でも買えるようですし、今度自分で作ってみますか」
 疲れた身体に染み渡り、綺花はほうっ……とため息を吐く。
 顔を上げれば、コスプレをしながら楽しんでいる人々の姿が眼に映る。
 綺花があれほど戦いを繰り広げたのにも関わらず浮かれているのだが、それを非難する気は綺花には無い。
(逆にイベントとして楽しんでもらった方が、良いですよね。私達の仕事は人々の平和と安全を裏から守ることであり、表に出るものではありませんから)
 少しだけしんみりした綺花の近くで、小学生の女の子の団体が近付いてきた。妖精や人気キャラクターの仮装をしている女の子達は楽しそうに歩いてくるものの、その前に一人の不審な男が立ち塞がる。
「きっキミたち、可愛いね。お菓子をあげるから、写真を……」
「どういうトリックオアトリートですか?」
 ギラリっと刃を男の首筋に当てながら、綺花は冷たい笑みを向けた。
「ひぃっ……!」
「はあ……。こういう輩がいるから、こういう日の仕事になったんですかね」
 綺花は女の子達に向かって、にっこりと微笑みかける。
「さあ、早く行ってください。この人の相手は私がしますので」
 女の子達は元気に「はーいっ!」と返事をして、街中へ歩いて行く。
 その姿を見送った後、改めて変質者に冷たい笑顔を向けた。
「さあ、変態狩りをはじめましょうか」


<終わり>




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、まことにありがとうございました(ぺこり)。
 楽しんで読んでいただければ、幸いです。


東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年10月02日

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