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『夢中になったらダメなのに。』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 その日。

 別世界よりこの東京に異空間転移して来た紫色の翼を持つ竜族、と言う本性を持ち、こちらの世界では基本的に人の姿で人の中に居る事を選んでなんでも屋さんをしているファルス・ティレイラ(3733)に。
 神聖都学園怪奇探検クラブ副部長にして本名秘密、天下無敵の女子高生でもあるオカルトアイドル、芸名SHIZUKU(NPCA004)からのちょっとした打診があった。

 言わずもがな、怪奇現象の調査依頼――と言うか、怪奇現象調査のお手伝い、の依頼である。
 いや、依頼と言うより、一緒に行こー、と軽ーく誘われたと言う方が近かったかもしれない。
 ……まぁ、どちらにしても、やる事は同じなのだが。
 好奇心旺盛なティレイラにしてみれば、断る理由は何も無い。

 そんな訳で。
 早速お手伝いの目的地へ出向く道すがら、調査内容についての話を聞いてみる。



「人食い洋館の噂?」
「そう。事前に物件自体をざっくり調べてみた分には今時良くある「何だかんだあって持ち主不明になっちゃって処分が出来ない単なる空き家」で、つまり社会的にはただの廃屋なんだけど……」

 何だかそれだけでは済まなくなっている、らしい。
 当の物件自体は雰囲気満点でいかにも何かありそうな古めかしい洋館。その時点で廃墟探索――無断で――と言うちょっとした迷惑行為を働いた廃墟好きのお騒がせなチームが複数居たのだが、それらチームの誰も洋館から帰って来なかった、と言うのが噂の始まり。その時点で疑いの余地が無い曰くが一つ付いてしまった為、更なる探検調査を物見遊山で不用意に行う輩が続々と増え――そんな後から探検調査に出向いた輩もまた悉く帰って来なかった、と言う更なる曰くまで付いてしまった、らしい。
 それも、その筋で拡散された「とある動画」が完全にヤバかった。洋館に行って今もなお帰って来ない某氏が探索の最中ずーっとスマートフォンで動画サイトに生中継していた物らしく、撮影者及び同行者の物と思しき慌てた様な悲鳴や怒号が画面外から拾われ、何か突発的な事態が起きた様でカメラレンズも位置が定まらず、更にはその動きもあらぬ方向に一気に引き摺られる様な異様な動き方だったりもし――最後、映り込んでいた蔓の様な物や人の手指と思しき物があろう事か青銅の如き金属質の何かに変わりつつある様をばっちりと撮影、したかと思うと撮影媒体自体に何か強い負荷が掛かった様にレンズが罅入り、暗転――と言う流れの動画である。
 この時点で、世論は二分した。単なる悪戯か創作の類であると言う意見と、ヤバい位の本物と言う意見。表向きには前者の意見が圧して行き、後者の意見は際物扱いされ、胡散臭いオカルトの棚に放り込まれて――SHIZUKUの様な「本職」が乗り出す領域に分類される事になった訳だ。

 そしてその現場である洋館が、今二人の目の前にあるここである。

「うわー……ホントに何かそれっぽい雰囲気の洋館……建物全体から発してるっぽい魔力も凄いし」
「え、やっぱりそうなんだ。んじゃこれ本当に本物なんだね……! カメラよーしマイクよーし。腕が鳴る鳴る……じゃあティレイラちゃん、何かあったら宜しくね?」
「ん……多分、何とかなる……と思うけど。……うん。私だってお姉さまの弟子なんだし、この位何とかなるなる。大丈夫。SHIZUKUさんの事だって絶対守れる! ……筈!」

 うん、と思いっきり自分に言い聞かせる様にしてティレイラは頷く。頼むよー、とSHIZUKUからぱむと背中を叩かれ、よし、とばかりに気合いも入る。
 見る限り、初っ端から要警戒レベルの魔力具合だが、頑張らなければと改めて思う。



 警戒しながらSHIZUKUと二人で洋館の中へと乗り込んでみる。

 外観から見た雰囲気通りに、中もまた雰囲気満点だった。……と言うかこの洋館が普通に活用されていた頃からそのままなのだろう、古めかしくも朽ち掛けている調度やら什器の類が結構残っている。壁や窓枠、灯りに扉等も結構金額掛かってるだろうなーと思しき古色蒼然とした絢爛な装飾で覆われており、これまた雰囲気満点だ。

 が。

 思いつつ歩いていると、何か、ちょっとした違和感を感じた。感じた時点で、ティレイラはその正体を探る――壁の大作レリーフだ。他に比べて、妙に新しく見える。装飾的な彫刻が施されているテーブルの脚辺りも同じで、妙に新しい感じがした。……どちらも刻み込まれているのは人を象った装飾である。
 何だろう? 古い装飾と新しい装飾が一緒にあるって不思議だなあ。……実は誰かがこっそり住んでて少しずつ新調したりしてるのかな、ってそれもそれでこんな魔力発してる感じの場所だと――危ない人が居るからこそこうなってるって事なのかもしれないよね!? 警戒しないとっ。
 そんな風に気を引き締めている間にも、SHIZUKUはずんずんと恐れ気も無く先に行く。……ってちょっともう少し警戒してっ!!

 ここ、結構危なそうだからっ!



 興味深げに恐れ気も無く周囲を見て回り、SHIZUKUは次の部屋へ次の部屋へと移動する。その筋の番組御用達な怪奇レポーター宜しくマイクに実況を語りまくり、今こんな感じでーすとカメラでの自撮りも織り交ぜ、慣れた調子で進んで行く――ティレイラもそこに何とか付いて行く。
 が。
 結構奥の方の部屋に差し掛かった所で。

 するり、と蔓の様な何かが――まるで意志ある様にその部屋の奥から何本も伸びて来た。目の当たりにした時点で、え、と思う――その蔓の様な物がするするうねうねと中空を進み、まるでSHIZUKUを狙い捕らえる様な怪しい動きを見せた所で、警戒していたティレイラの方が先に動いていた。
 一足飛びにSHIZUKUの前に出つつ、手の中に魔力の刃を生成。ていっ、とばかりにその刃を振るい、中空を不穏に蠢くその蔓をぶっつり切断した。その時にはもう紫の翼に尻尾、角を生やした半人半竜の姿に変わっている――自身の魔力を一段階解放、取り敢えずの本気スタイルでこの謎の蔓から逃れるべくまだ何が起こったか要領を得ていないSHIZUKUの身を引っ手繰り、そのまま一気に移動。一番近い窓を目指し、ええいとばかりにそこから外へと直接飛び出そうとしたが――……

 ……――間に合わなかった。
 窓に辿り着く前に、新たに伸びて来た蔓にティレイラが絡め取られるのが先だった。……元々、ちょっと切った位では一時的な時間稼ぎにしかならないとは思っていたが――それにしても次が来るのが早過ぎた。靴の先と尻尾に触れられた時点で反射的にヤバい、と思う――思った時にはもう確りと触れられた箇所から一気に巻き付いていて――予想外な位にぐいっと力強く引っ張られたかと思うと、ばんっ、とそのまま容赦無く床に叩き付けられていた。
 ティレイラは衝撃と痛みに息を呑む。SHIZUKUから手が離れてしまった――と思ったら、その時にはもうSHIZUKUの方にも新たに蔓が絡み付いていた。えっちょっと待って何これっ、とSHIZUKUもその段で漸く今置かれている状況を認識する。しまったと思うが、どうしようも無い――いやそもそも、ティレイラ自身もまた捕らえられてしまっている上、床に強か叩き付けられた衝撃からまだ復帰し切れていない。
 と言うより、復帰を待つ余裕も無く、絡み付く蔓から魔力が流れ込んで来る。痺れる様な感覚がじわじわと身体に侵食、あっこれ絶対ヤバい奴だ、と思い何とかしようと魔力での抵抗を試みるが――侵食してくる魔力の圧の方がどうしても強かった。と言うかSHIZUKUの方も何とかしなきゃと焦る余り、却って集中が足りなかったとも言えるかもしれない。……今回、何かあったら対処する為にこそティレイラは同行を頼まれていた訳で、なのに守れなかったとなると、自分が情けない。うわーんどうしようっ、と泣き言が頭に浮かぶが、勿論それでどうなる物でも無い。
 むしろ、集中が乱れる分、侵食される速度が上がるだけ。程無く身体中の感覚も無くなり、意識も途切れてしまう。

 ……結果、そこには。



 他方、シリューナ・リュクテイア(3785)の営む魔法薬屋。

 同族にして可愛い妹の様な物でもある魔法の弟子に申し付けたい用件を少々思い付き、そう言えばティレは何処に行ったんだったっけ? と店の主はふと思う。
 が、そう言えば今日はSHIZUKUの手伝いに行ったって話だったわね、とすぐに思い出し、だったら用件を申し付ける事も出来ない訳で、帰って来たらその時にしようとごくごく普通に思い直す。

 そんなこんなで結構経ち。

「……」

 少々、気になる位の時間が経っていた。そもそももう夜中である。確かSHIZUKUの依頼は怪奇現象の噂がある場所の現地調査とか何とかで、現象自体は昼夜問わずみたいだから安全の為昼間の内に終わらせる様な事を言っていた筈なのだが――何故かまだ音沙汰が無い。帰って来ない。

 流石にそろそろ捜しに行った方がいいかしら、と思う。
 幾ら本性が別世界の竜族だと言ったって、ティレはまだまだ十五歳の女の子な訳なのだから。



 シリューナは感知し慣れたティレの魔力の痕跡を辿り、追跡する。取り敢えず、徒歩圏内――この辺りかと思った場所を見渡すと――いや、見渡すまでも無く、妖しげな魔力を放つ洋館がすぐ側にある事に気が付いていた。魔力の具合からしてここまでとなると、怪奇現象の一つや二つ起こしていておかしくない。そしてそもそも、可愛いティレの魔力の痕跡がその中に続いているとなれば間違いない。

 ここである。

 が、何が起きているかを判断するのはまだ早い。今の時点でも幾つか可能性の予想は付くが――何にしても、魔力の発生源を探すのが先だ。それさえ見付ければはっきりする――洋館へと踏み入り、取り敢えず魔力の濃い場所を目指して進む。
 洋館の内装を飾るのは、人を象った様な装飾が多い。と言うか――それら装飾こそが怪奇現象の結果であるとシリューナはすぐに気が付いた。古めかしく人型とも限らない方の装飾は元々あった物の様だが、新しく見える方の人型装飾は悉く封印魔法の結果である。まるで侵入者を手当たり次第に封印して回っている様な……。

 思いながらも、魔力の発生源を探す。漂う流れや濃淡からして、恐らく、最奥。その途中で、ティレとSHIZUKUの姿も捜す。
 廊下に出る。火を入れれば荘厳に廊下を照らすだろう燭台が一定間隔で置かれている。これらもまた、封印魔法の産物――と。

 一つ一つ確かめながら見て行く中、一際輝きを感じる品があった。何故かと思えば、思った時にはもうその理由を完全に理解している――輝きを感じたその燭台は、ティレイラがSHIZUKUと一緒に封印されている当の品だったから。ちょっと澄ました様なポーズを取りながら二人で協力し、火を入れる皿を掲げ持っている美しい形。質感は光沢ある金属製で、触れてみるとその造形と感触に溜息が出る程の出来――魔力状態を確かめる為にまず手で触れた訳なのだが、つい、このまま鑑賞してしまいたい衝動に駆られる。

 ああ、素敵。
 自分の領域では無い場所で、こんな事をしている訳には行かないのに。
 貴方があんまり美しくて、可愛らしいから。
 夢中になってはダメなのに。
 こんな場所で、気を抜いてしまう訳には行かないのに。

 シリューナが手で触れた時点で、当初の目的通りこの造形を為した封印魔法、魔力状態の確認は済んでいる。洋館に漂う魔力で封印されている事は確実だが、然程ややこしい術式を使われてはいない――即ち根源たる魔力を消滅させればすぐ元に戻るだろうが、どうしてもその前に「趣味」の方が頭を擡げる。

 ……このまま放っておいて鑑賞を続けるのは危険だとわかっているのだが。
 それでも、この場所が「危険で無くなる様に対処」してしまえば――同時に、この造形は二度と拝めない事にもなる訳なので。

 壮絶なジレンマがシリューナを襲う。
 対処する前に、元に戻す前にこの珍しい姿を堪能せねば、と殆ど使命感にも近い思いで造形を目に焼き付ける。
 周囲の光を反射する光沢面のきめ細かさも極上である。手を滑らせ、触れれば触れる程――その素晴らしさに離れ難くなる。どうしようもなく気が昂ぶってしまう。

 ……ああもう本当に、どうしたらいいのかしら!

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。お待たせしました。

 内容ですが……魔力の正体についての言及がなかったりと何か解決してるのかしてないのか謎な感じになってしまったのですが、如何だったでしょうか。
(シリューナ様の事ですから最終的には何とかしてしまうとは思いますけれども……)
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
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東京怪談
2019年10月07日

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