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『またの日に、いつか見た月を。』
アルバ・フィオーレla0549)&紅迅 斬華la2548)&Sla0007)&雨崎 千羽矢la1885


「──ええ、はい。お待ちしてますね」

 チン、と軽やかな鈴の音を立てて受話器が受けに置かれる。アルバ・フィオーレ(la0549)は、自身が店長を務める生花店【一花一会〜fortuna〜】の店内をぐるりと見渡してほほ笑んだ。今日も店内の各所を彩る花々や草木は元気よく、燦燦と降り注ぐ太陽の光を一身に浴びている。窓の外で鳴いているのはスズメだろうか。
 長く続いた夏のひりつく熱さも和らぎ始めた初秋のある日。多忙なライセンサーとしての活動の隙間を縫って、今日は友人たちと親交を深めるための女子会が開かれるのだ。依頼に、本業に、その他活動にと忙しいライセンサーのスケジュールが合う日はそう多くない。今日一日をまるっとオフにしたアルバは友達と、友達の友達との交流を心待ちにしていた。

 さてと。ぼんやりもしていられないですよ?

 よしっと気合を入れて、彼女は準備を始める。中庭に設えられたテラスは小ぎれいにまとまってはいるものの、食事や飲み物を広げるにはいくらかばかりの掃除が必要だろう。
 皆さんがいらっしゃる前に見苦しくないようにしませんと。そう呟くと、アルバはクロスを水に浸して硬く絞ってからテーブルやチェアを拭き始めた。


「おみやげ……何がいいかなぁ」
 スーパーマーケットの棚の前。様々なPOPに彩られた陳列棚には、飴やスナック、駄菓子におつまみ。大量生産品だけではなく異国や異界の味すらも再現したお菓子の数々が所せましと並んでいた。ここグロリアスベースには国籍のみならず出身世界が異なる放浪者、そしてヴァルキュリアが暮らしている。必然、大衆の味方であるところのスーパーマーケットの品ぞろえも多岐に亘るのだ。

 そんな店内で、雨崎 千羽矢(la1885)は首を傾げて思案顔をする。初めましての人にお呼ばれする時、何が一体喜ばれるんだろう?

「千羽矢ちゃんがいいと思う物なら、何でも大丈夫ですよ♪」
 お姉さんが保証します! と紅迅 斬華(la2548)が胸を張る。その隣に、S(la0007)がスススっと寄ってきて何やらカゴにぽいぽいと放り込んだ。

 ぽいぽい。
 ガサガサ。
 ドサドサドサ!

「ちょ、ちょっとシルフィ!?」

 一気に重みを増した手持ちカゴを支えて、千羽矢がたたらを踏む。気が付けば山盛りのチョコバーにプロテインバー、その他食物繊維強化に……ドライフルーツが練りこまれたシリアルバーも混じっていた。

「安心安全の健康的な食品。意外と腹持ちもいいしお酒にも合う」

 そうじゃなくて、重いんだけど! と声を上げた千羽矢に対して、「余ったら持って帰るし」とSはすまし顔。二人のそんな様子を見て、斬華は思わず笑みを溢した。

「ふふ〜ん、シャルちゃんも、千羽矢ちゃんも欲しいものはもうありませんか?」

 なんでもお姉さんが買ってあげます! そう宣言すると斬華はガラゴロとカートを押してきて、千羽矢が持つ手持ちカゴをその荷台にぽんと乗せた。腕の重みから解放された千羽矢が息を吐いて腕をぷらぷらとさせる。

「そもそもですね。かよわい千羽矢ちゃんにカゴを持たせるのが間違いだと思うんですよね!」
「我先にと入っていったのは、千羽矢」
「──そうだっけ?」

 あーでもないこーでもないと三人でお喋りしながら、楽しい女子会へ向けた準備が進んでいく。普段から家族同然に行動を共にすることも多い千羽矢、S、斬華の三人だが、こうしてゆっくりと休暇を過ごすのは久しぶりのことだった。


 買い物を終えた三人が【一花一会〜fortuna〜】の門を叩いたのは、結局お昼も過ぎて三時前。

「アルバちゃーん、来ましたよ!」

 CLOSEDの木札が下げられた店の入り口からぐるりを回って、裏側の勝手口へ。トントンとドアを叩いて斬華が呼びかけると奥から足音が聞こえ、ややあってドアが開かれる。

「いらっしゃい、お待ちしてました」
「うん、今日はよろしく」

 アルバと既に知った仲のSも気安く話しかけると、よいしょと買い込んだ荷物を中へと運び込む。その後ろで……千羽矢は一歩下がって視線を泳がせて。

「えっと……雨崎 千羽矢、です。初めまして」
「ふふっ、こちらこそ。初めまして? 【一花一会〜fortuna〜】の店主、アルバです」
 今日は来ていただいて嬉しいわ──とほほ笑んで、アルバが千羽矢を案内する。誘われるままに勝手口から中へ入ると、ふんわりと甘い花の香りと、香ばしい小麦の焼ける匂いが千羽矢を包んだ。

「──わぁ!」

 初めて見る花屋の裏側に、千羽矢は好奇心を隠せない。生活空間と作業場を兼ねたスペースには食器や雑貨に交じって園芸用具が並べられた整理棚が置かれている。切り花やリースの仕掛け品や、少し弱ってしまった鉢植えも並べられており、自身の小屋とは、また随分と違った様相だった。

「皆さんが来てくださるって聞いたから、少し張り切ってしまったのよ」
「これ、ぜんぶアルバちゃんが?」
「すごい……」
「女子力のかたまりなのですよ〜!?」

 キッチンテーブルには乗り切らずに作業台の隅から隅まで──それに冷蔵庫にも仕込みがいくつか。焼きたてのクッキーはオーソドックスなプレーンにチョコチップ、ココナッツやバナナ、ラズベリーなど見た目にも楽しく、形もバリエーション豊かに盛り付けられている。ちょっと背伸びしてアペタイザーにはカナッペやテリーヌ、ハムを寄せてみたり特製のハーブを添えて。バケットをカットして並べれば午後のティータイムから夜半までを語り明かすためのオードブルが準備されていた。

「さあ、準備も整いましたし、みんなで中庭へどうぞ!」

 家主の声に誘われて、客人三人もめいめいが手に買ったおみやげや、オードブルを運んで準備は万端。


「それじゃ」
「「「「かんぱーい!!」」」」

 四つの声が重なってカチリ、とグラスが鳴る。ドリンクを手に取った四人は喉を湿らすと、ずらりと並べられた料理やお菓子に手を伸ばす。中庭は外から見るよりも広く、ガーデンテーブルにチェアのセットの他にシートが敷かれて思い思いにくつろげるだけのスペースがあった。テーブルには料理の盛り付けられた大小の皿が湯気を立てており、レジャーシートには買い込んだお菓子が山を作っている。

「温かいうちにどうぞ、召し上がってくださいね」

 トングでトマトのパスタを掴んで、アルバが人数分に取り分ける。地植えのバジルを数束摘み取り、水で軽く洗ってから揉んで香りを立てるとパスタの上へと振りかけた。

「ずいぶんと色々なハーブがあるんだな」

 その様子をSが覗き込んでいる。シンプルなインテリアを好むSとしては、ロハス風の自然を取り込んだ【一花一会〜fortuna〜】の調度などが物珍しいらしい。庭にはバジルの他にもミントやセージ、マロウなど名前も知らないほどのハーブが直植え、鉢植え取り交ぜて勢いよく葉を伸ばしていた。

「近頃は卓上鉢とかに植えてあるものが人気なの」
「なるほど〜。これは摘んでもまた生えてくるんです?」
「ええ、きちんとお日さまに当てて……水は少しでいいのよ」

 ふんふんなるほどと相槌を打つ千羽矢の姿は、すっかり気心知れた友人のようで。

 昼間の籠った熱気も次第に和らいで、空の端から茜色が差し始める。暗くなりゆくに従って、満月の輝きが一層の光を増すようだった。

「晴れてよかった」
「ホントですよ〜 このところ台風とかもありましたし!」
「夏場はお花とかも弱りがちだから、これからは良い季節なの」
「いざとなったらお姉さんが雲くらい刈り取ってあげます♪」

 中庭は日差しを取り入れるサンルームになっており、開け放たれた小窓から風が通って心地よい。天井からは月が淡い光のカーテンを下し始めていた。幻想的な雰囲気にたくさんのお菓子、居心地のよい空間の中でゆったりと……だがあっという間に時間が過ぎていく。

「お姉さん、実家から柿を送ってきたのでどうかなと思って持ってきました♪」

 良く熟れてとろりと果肉が零れる様子はまるでルビーか琥珀のよう。そんな甘柿をピックに刺して、斬華は日本酒を飲み進めていた。喉の奥でしっかりと主張する柿の甘さを、すっきりとした純米酒の吟醸香が洗い流してくれる。甘すぎず、辛すぎず。ふんわりとアルコールを含んで華開いた果実の風味が口から胸いっぱいに広がっていく。まずは毒見とばかりに一口食べた斬華の様子を見て、アルバもカクテルを脇に置いてピックに手を伸ばす。

「ふふ、いい塩梅に熟しているのね? 大切に育てられたのが目に浮かびます」

 花の精に連なる由縁を持つアルバは差し出された柿を味わいながら、目を細める。果樹は花屋では扱うことが少ないとは言え、丹精込めて育て上げられた植物への愛情を感じると自然とうれしくなる。

「ほら、シルフィも食べよ?」
「そうね」

 ぐいっと突き出されたピックを無下にも出来ず、Sは千羽矢が言うままに柿をもぐもぐと口へ運ぶ。あまり飲み過ぎないようには気を付けていたが、心地が良い雰囲気に当てられてかグラスもいくつか空けてしまっていた。ほんのりと身体の奥に熱を感じながら、けだるく千羽矢に寄り掛かると顔が近い。
 普段はあまり態度に出さないように心がけているが、今日の短い間くらいはいいんじゃないか。そんな事を想いながら見上げると、いつしか月は天頂に輝いていた。

(おぉ、これは──?)

 噛めば噛むほど味が出るするめを噛みしめながら、千羽矢は脚の上の重みを感じていた。何時もは少し素っ気ないところのあるシルフィが……近い。動揺を映して、お猪口の中の満月が揺れる。どぎまぎするのを誤魔化すように視線をアルバに送ってみるが、にっこりとほほ笑まれてしまった。

「千羽矢ちゃん、聞いてますか〜?」

 その横では斬華が上機嫌で笑っている。悪酔いはしていないようだが顔には朱が差しており、声のトーンもいつもより一段ばかり高いようだ。

「お姉さん、首なら何でも良いってわけじゃないんです!」

 彼女が力説するには刃を突き立てたときの手ごたえと、斬り落とすまでの滑らかさが大事らしい。その意味でマンティスは硬い甲殻を叩き割る感触が最初にあって、そこを超えるとポロっと首が落ちる。それが堪らない──と言っていたような。千羽矢はふわふわとした意識のまま、Sの長く艶やかな髪を梳く。少しくすぐったそうにSは身じろぎするが、起き上がらないところを見ると拒絶するつもりもないのだろう。

「そういえば」

 アルバさんってお花屋さんを開く前は何を? 問いかけようとすると、すぐ隣にアルバの顔があった。

「ふぇっ!?」

 予想外の距離に驚く千羽矢。眼を瞬かせる彼女の頬を、アルバは指の腹でつんつんと突いてきた。

「えと──アルバ、さん?」

 お酒は結構強いようだし、酔ってる風にも見えなかったけど──。と視線をめぐらすと、テーブルの上に半ば空きかけとなったコーヒーリキュールの瓶が見えた。牛乳と混ぜてカクテルにするそのリキュールは、甘さとコーヒーの風味もあって飲みやすい。だから……つい飲み過ぎてしまったのだろうか?


 あぁ、とても幸せ──。夢見心地の中でアルバは想う。こうして、穏やかな時間を過ごしていることが。人の子と交わり、一人のアルバとして此処に在ることが。掛け替えのない事なのだと。その気持ちはとめどなく、取り留めなく模糊として掴みどころがないけれど。
 今日、友人が来てくれたことが。友人が増えたことが。共にあることが嬉しい。だからかつての選択は間違っていなかったのだろう。

 困り顔でこちらを見返してくる千羽矢さんの柔らかなふくれっ面をむにむにと手混ぜながら、彼女はそう思った。

 空には月が美しい。暖かなブランケットに包まれて、四人はいつしか誰からともなく寄り添って座る。まだ夜は長い。火照った身体を夜風に晒して、少女たちは語らう。

 またの日に、いつか見たこの月を夢見て。

──了──

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは、かもめです。
この度はご発注どうもありがとうございました。

皆様の素敵な一日が描けていましたでしょうか。
縁と縁がつながって、新しい関係になって。素敵ですね。
リテイク要望などございましたらOMC公式フォームよりご連絡ください。
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かもめ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年10月09日

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