▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『特別な今日に大切な明日を誓う』
泉興京 桜子aa0936)&ルーシャンaa0784

●side桜子
 泉興京 桜子(aa0936)である!
 わし今こう、アレなんじゃが、世俗ではなんと云うのであったか……いや、みなまで言うな、わしとてもう三十路だぞ? 立派な淑女だぞ? その程度、びしっと言い切ってくれるわ!
 わし、うっきうきである!!
 どうだ、絶叫も小躍りもせぬ自制心、まさに淑女の鏡ではないか。そうでなくてはな、えすこぉとなどできんゆえな。……いや、本来ならばとうに着いておらねばならぬ待ち合わせ場所に、少々いや、そこそこ遅れておるのだが。
 いやいや、聞く者誰もが号泣必至な深いわけがあるのだ!
 しかし、わしはそれを唱えるつもりなぞない。剣士たるもの、潔くあらねばならぬ。いざとなればこの腹かっさばいて腸を捧げ、詫びを――
「るーしゃん!」

●sideルーシャン
 私――ルーシャン(aa0784)は、慣れてるの。
 なにに? それは、待つことに。
 生まれたときからずっと待ってたもの。つまらないって気がつかないように、なんにも考えないようにしてぼんやり、待ってた。あの炎の中から跳び出した後も、ずっとずっとずぅっと。
 でもね。今はちゃんとわかってるの。
 私を連れ出してくれた英雄じゃなくて、私をもふもふ包んでくれるぬいぐるみでも、絵本の中の王子様でもなくて……すごく強くてすごくかっこよくて、でもすごくかわいらしいお姫様を待ってたんだなって。
 だから私はあなたを待つの。
 心の準備をして、いちばんの笑顔でお迎えできるように――
「桜子ちゃん」

●side桜子
「すまぬぅ! るーしゃんが出かけたのを確かめて早回りせんと踏み出したそのとき、長襦袢と紬の色味の合わせ、おかしくないかとか、季節的にどうなのだとか、るーしゃんに恥をかかせてしまうのではないかとか! つい箪笥の前に戻ってしもうて!」
 潔さのカケラもない勢いで言うたわ、謝罪と弁解。家人に見られておったら、それこそ腹を切って贖えと詰め寄られたやもしれぬ。
 しかしわしに死んでおる暇などない!
 るーしゃんの笑みがほころぶ花のようでかわいいゆえ。そんな例えでは表わせぬほどに、とんでもなくかわいいゆえ。これはまさに三国一どころか世界一、太陽系一、銀河一、ええい、まだ足りぬ!
 やっぱりるーしゃんは宇宙一かわいいよ!
 好き好き大好きやっぱ好きぃ!
 ……ああ、いかん! つい己が口調すら忘れ果て、ガチ恋口上を唱えてしもうた! 心を澄まし、呼び覚ませ。淑女にして紳士たる凜然を!
「遅れたこと、本当にすまなんだ。そしてこれだけは言わせてくれ。今日の装い、実にるーしゃんを美しく引き立てておるぞ」

●sideルーシャン
 勝負服のニットソーワンピース、桜子ちゃんに褒めてもらえてよかったぁ。
 でも私より桜子ちゃんだよ。紅葉色の着物に黒くて長い髪の毛がふわっと踊って、本当にお姫様みたいに綺麗。
 信じられないよね。私たち、結婚してもう10年になるんだよ?
 同じ家に住んでて、お互いにその、全部知ってて、それなのに出逢う度に初々しくて。
 ――桜子ちゃんはいつも、私のために一生懸命がんばってくれる。
 私、ちゃんとお返しできてるのかな? ちょっとだけ、不安になるの。もらうばっかりでなんにもあげられてないんじゃないかなって。
 でも、そんなこと桜子ちゃんに言えないし、私だって絶対言わない。桜子ちゃんが悲しい気持ちになるのはいやだから。
 それに、決めたの。
 今日は久しぶりのお出かけだから、思いっきり楽しませてあげなくちゃ。
「桜子ちゃん。私ね、見てみたいお店があるの」

●side桜子
 しょっぴんぐもぉるは広大だな。しかもなんだ、この人出は。少しでも気を抜けば容易く飲まれてしまう。
「るーしゃん、しかとわしの手を握り締め、けして離すでないぞ」
 あああ、わしかっこよいな!? るーしゃんも惚れなおすな!?
 と、浮かれておるときではない。目ざす雑貨屋までるーしゃんを導かねばならぬのだからなほおほほほぅ! るーしゃん、わしの手をきゅっと! きゅっと握り締めるとかなにそれ超かわいくね!? わしが生まれてきた理由、それはるーしゃんと出逢うためぇ!

●sideルーシャン
 けして離すでないぞ。って、桜子ちゃんはもう、桜子ちゃんなんだから!
 だめなの。桜子ちゃんがかっこよくてかわいくて、力が抜けちゃいそう。
 ちょっとだけ力、入れても大丈夫だよね? だって人がいっぱいで、手が離れちゃいそうだから。
 あ。桜子ちゃん、ぐるぐるしてる。
 私、実は魔女なのかも。王様のことたぶらかしちゃう悪い魔女。
 ううん、ちがうよね。それに桜子ちゃんは(歳はともかく)お姫様だし、たぶらかされちゃったりしない、よね? 顔は真っ赤だし、足とかばたばたしてるけど。
 だから――私が手を握っても大丈夫だよね。
 ごめんなさい。桜子ちゃんがぐるぐるしてくれるの、うれしくて。たぶらかしちゃおうかなって。
 うん。もう一回ごめんなさい。たぶらかすの、やめたくないから。

●side桜子
 あれこれ冷やかしておったせいで、雑貨屋へ着くのが遅くなってしもうた。
 しかし服屋は魔窟だな。どれもこれもるーしゃんに着せてみたくさせられる。しかしすきにぃというやつはいかん! あれほどぴったりぴっちりるーしゃんを際立たせては、拐かせと叫んでおるようなものだ。
 いや、させぬよ。るーしゃんを二度と鳥籠に閉じ込めるなど、たとえ神えだろうとな。
「参ろうか」
 るーしゃんの手を引き、わしは店内へと踏み入った。もちろん、罠の類がないかを確かめつつな。油断はせぬよ。わしはるーしゃんの騎士。いざとなればこの身を張っへふほぉ!

●sideルーシャン
 楽しい! やっぱり片手より両手で手を握るほうが破壊力高いみたい。
 って、桜子ちゃんのことたぶらかしてる場合じゃないよ私。
 いろいろ眺めて、迷うふりをして、見つけるの。
 そのために何日も調べて、在庫の確認もしてもらって、他のお客さんの目につかない場所で取り置きしておいていただけますかってお願いしたんだから。
「――これ、桜子ちゃんにすごく似合うと思うの」
 わざとらしくならないよう気をつけて、私が雑貨の奥から取り上げたのはバレッタ。銀細工なら、着物の柄や色が変わってもつけられるから。それに銀は桜子ちゃんの黒髪にいちばん似合う色だし、なにより羽ばたく小鳥がモチーフなんだよ?
「るーしゃん、これは……」
「プレゼントさせて。こういうのって一期一会、でしょ?」
 私たちが出逢ってからもう、20年より30年のほうが近いくらいだよね。お互いに女の子じゃなくて女の人になった。でも、私にとって桜子ちゃんはいつだって、いつまでも出逢ったときと同じお姫様だから。
 誰よりも大切で愛しい永遠の姫君を、私の心で飾らせて、護らせて。

●side桜子
 しまった、贈るより先に贈られてしもうた!
 せっかくわしが調べ上げ、入念に仕込みを頼んで贈り物を仕込んでもろうた店に、るーしゃんが来たいと言ってくれた奇跡的展開であったものを。
 いや、ここは幸運と思うべきであろうよ。なぜなら――
「るーしゃん。わしもたった今、まったくの偶然ながらに見つけてしもうたのだが」
 完璧な演技でわしが雑貨の奥から抜き出したのは、金細工の髪飾りだ。純金といきたかったところだが、あれは曲がるからな。18金で手を打った。
「金はるーしゃんの紫の髪によう映える。しかも桜をあしらった代物だ。まるでわしの分身(わけみ)さながらではないか!」
 ああ、つい口にしてしもうた。
 出逢うてすでに四半世紀ともなるのに、わしはまるで変われぬな。るーしゃんはかわいいばかりの童女から、なんとも美しい佳人へと姿を変えたというに。
 まあ、よい。わしはわしのまま誓おう。
 宇宙一かわいく美しい我が姫君を、わしの想いで飾り、護る。

●sideルーシャン
 バレッタを贈り合うなんて思ってなかったの。
 せっかくサプライズしようと思ってたのに、これじゃ私のほうがいっぱいうれしい。それはだめ。
「るーしゃん、よさげな茶屋があるぞ。ちと休んでいくか」
 歩き通しだからな。そう言ってくれた桜子ちゃんが凜々しくて……私はうなずくのが精いっぱい。
 確かにずっと歩いてたし、冷たいもの、飲みたいし。
 それにここでしかできないサプライズ、あるものね。

●side桜子
 けなげにうなずくるーしゃんに魂持ってかれそうになったがぐっと我慢。わしは彼女を連れて茶屋の一席へ。
「わたくしにはアイスコーヒーを。るーしゃんは?」
「クリームソーダをいただけますか」
 くりぃむそぉだっ! あのもわもわ白くてしゅわしゅわで緑の! なんというかわいらしいものをかわいらしい声でかわいらしくかわいいっ!

●sideルーシャン
 桜子ちゃんがもうクラクラしてる!? まだこれからなのに――って、本当に私、性格悪くなったかも。
 うん、でもいいの。今日は私も全力でいくんだから。
 運ばれてきたクリームソーダを味わいながら桜子ちゃんとお話して、間合とタイミングを測って、今!
「桜子ちゃんもひと口」
 柄の長いスプーンに取ったソフトクリームを桜子ちゃんの口元に伸ばす。私だってエージェントだもの。攻め込むチャンスは見逃さない。

●side桜子
 これはアレか!? うれしはずかしの「あーん」だな!?
 とはいえさすがに衆人環視の内、衝動のまま食らいつくのはさすがに甘ぁい!
 って、わし衝動のままに食らいついておったぁ!
 ふん、いいのだ。誰が見ていようとも、わしはもう、そなたにどうしようもないほど惚れて惚れて惚れ抜いておるからな。
 るーしゃんもわしの一途、思い知るがいい。

●sideルーシャン
 ものすごくいい笑顔で食べられちゃった!
 うれしくさせるどころか私のほうがうれしいの。私、本当に桜子ちゃんに愛されてるんだなってわかったから。
 ううん、最初からわかってた。でも、私が同じだけのものを返せてないんじゃないかって不安で……そうなんだよね。結局、それなんだ。
 でも。
 不安に思うんじゃなくて笑おう。
 桜子ちゃんがくれる全部をしっかり受け取って、ありがとうって伝えよう。

●side桜子/ルーシャン
 早めのディナーを済ませたわしとルーシャンは、東京湾が見える公園にいた。夜の灯が海の黒にキラキラまたたいて、得も言われぬ風情を醸し出す。
 夜景に見入るるーしゃんに、わしは胸の内で安堵の息をついた。やはり下見も済ませておいてよかったな。
 ――ここでなければならなかった。
 親しんできた書とはまるでちがう書を必死にめくり、思い決めた。
 ゆえにためらうことなく、わしは長腰掛に腰を下ろしたるーしゃんの前に跪く。
「桜子ちゃん! 着物、裾が――」
「るーしゃん」
 跪いたままるーしゃんの左手を左手で取れば、その薬指に結婚指輪が見えて……わしは自然に次の言葉を紡ぎ出していた。
「今日という日は10回めの結婚記念日だ。ゆえにこそ、あらためて乞う。これより先、二世の先までも共にあってくれぬか?」

 結婚記念日、私だって忘れてないよ。忘れられるはずがないもの。桜子ちゃんと、ずっといっしょにいられる証をもらえた日なんだから。
 でも、毎日が記念日にしたくなるくらい楽しくてうれしくて。だから今日、記念日だからって特別にしなくてもいいのかなって……結果的に間違いだったけど。
 桜子ちゃんの左手の薬指には結婚指輪がある。見なくてもわかるの。今日、ずっと繋いでいてくれたのは左手だから。
 今こそ返そう。あの日の誓いを今も結んでくれている桜子ちゃんに、私のありがとうを。それから。
「桜子ちゃんは私を、本当の意味で鳥籠から連れ出してくれて、はばたく喜びを教えてくれた。私の幸せは、誰よりもなによりも大切なあなたを導いて飛べること。たとえ死に分かたれても、次の世界できっと見つけ出すから」
 私の精いっぱいの大好きを!
「私とずっとずっと、いっしょにいて」

「桜子ちゃん」
 わしの左手をるーしゃんが包む。
「るーしゃん」
 私の左手を桜子ちゃんが包む。
 果たして誓いは成されて。
 わしは最愛のるーしゃんと明日へ踏み出すのである。
 私は最愛の桜子ちゃんと明日へ踏み出すの。


パーティノベル この商品を注文する
電気石八生 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2019年10月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.