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『バンビとキャットのレッツクッキング☆ 〜本日のゲストは守護者様〜』
鬼塚 小毬ka5959)&鬼塚 陸ka0038)&未悠ka3199


 もはや恒例行事と言っても過言ではない。
「…………」
 ハンター専用の病院があることはまだしも、そこに長期重体者専用特別病室なんてものが出来ただなんて初耳だ。
 そびえ立つ白い建物の前で食材が詰まった袋をひっさげた金鹿(ka5959)は、険しい表情で扉を潜った。

「あれ? 金鹿?」

 気合いを入れて扉を抜けた先。笑顔の高瀬 未悠(ka3199)に声を掛けられ金鹿は目を瞬かせた。
「未悠さん!?」
「どうしたの? こんなところで……って、まさか、また……」
 小首を傾げた未悠だったが、金鹿の持っている荷物を見てピンと思い当たったらしい。
「……その『また』ですわ……」
 苦笑で応える金鹿に、笑顔のまま未悠のこめかみが音を立ててヒクつく。
「……丁度、ここに滋養強壮に良さそうな食材があるのよね……私もご一緒して良いかしら?」
 ……全く断れる雰囲気皆無な申し出に、金鹿は「もちろんですわ」と苦笑したまま頷いた。


 キヅカ・リク(ka0038)と書かれた病室。
「やあ! マリいらっしゃ……げえっ、未悠!?」
 最初に顔を見せた金鹿の後に未悠が続けば、リクの顔色は一気に青ざめた。
 さらに、手に持っている食材らしき何かを真っ先に発見してしまい、顔色は青を通り越して白くなる。
「リクさん!?」
 泡を吹いて倒れそうになったリクを見て金鹿は駆け寄るとその顔を覗き込む。
「リクさん!? しっかりなさってくださいまし?!」
「マリ……ごめんね……僕、もう駄目かも知れない……」
「な〜ぁ〜に、がっ、もうダメかも知れない……よっ!」
 未悠に頬をつねり上げられて「いひゃい、すみみゃへん、いひゃい」と涙目になるリクを見て、金鹿はおろおろと戸惑うばかり。
「意外に元気そうじゃ無い。安心したわ。今日のお夕飯は私たちが作ってあげるから、しっかり食べて早く良くなるのよ?」
 ウィンクなんかしちゃう未悠とそのウィンクを受けて仰け反るリク。
「待って!? お夕飯でるから、ここ病院だし?!」
「先ほど、看護師さんにお断りの連絡を入れさせて頂いたんですの。私たちで作ります、と申し上げましたら、“是非どうぞ”と」
「でじま!?」
「買って来た食材が無駄にならなくてよかったわー。彼、まだ病院食以外受け付けられない身体なんですって。もー、そういうことは早く教えて欲しかったわ」
(……絶対それ、未悠を傷付けない形で拒否ってるだけだと思う……!!)
 未だ入院中という未悠の想い人の狡猾とも言える根回しの良さにリクはぐぬぬと舌を巻く。
「しっかし、特別室ってホテルみたいよね。台所まであるし」
 食材の入った袋を振り廻さんばかりに鼻歌交じりでキッチンへ向かう未悠。
「リクさんはゆっくり休んでいて下さいましね?」
「マリ。お願いがあるんだ」
 未悠の後を追おうとした金鹿の手をとり、リクはいつも以上に真剣な眼差しで金鹿を見つめる。
「な、なんでしょう?」
「未悠の料理、つきっきりで指導してあげてね? 金鹿が目を離さなければまだ食べられるはずだから!!」
 小声で、しかし容赦のない言い方で金鹿に頼み込むリク。
 そんなリクを見て、金鹿はにっこりと微笑む。
「わかりましたわ。安心してお休み下さいまし」
 お布団をポンポンと宥めるように軽く叩いて金鹿もキッチンへと向かって行く。
 その後ろ姿を不安気に見送っていたリクは……金鹿が居てくれる安心の方が勝ち、いつの間にか眠りへと落ちたのだった。


 一方キッチン。
 足り無いものがあれば貸し出しますという事だったが、必要最低限の食器や道具は揃っているようだ。
「さてと。じゃぁまず洗って切りますか」
 腕まくりをする未悠と頷く金鹿。
 未悠が食材を洗い、金鹿が食材を手頃に切る……という分担になったのだが。
「……えぇっと……このお魚は……?」
 見た事の無いスライム状のぬめり気を放つ魚を前に、金鹿は思わず出した手を引っ込めた。
「あぁ、それ。深海魚ですって」
「しんかいぎょ」
「とても滋養があるんですって。あ、そのぬめりは排水溝に流すと詰まっちゃうらしいから、ゴミ箱に捨ててね。あと、歯が凄いから触らないように気を付けてね」
「あ、ハイ」
 一体何処から手に入れたのか。問うタイミングを逃した金鹿は結局無言のまま言われたとおりに処理をする。
 暫く黙々と各々の作業に集中していた2人だが、未悠が全ての食材を洗い終わった事で、会話が再開した。
「こうして並んでお料理するのって、楽しいんですのね。
 療養中のリクさんを除け者のようにしてしまって申し訳ない気はしますけれど……大怪我の反省くらいはしていただきませんと」
 そう言ってハート型に切り抜いた人参を鍋へと投入する金鹿。
「ホントよね! リクったらいい加減にして欲しいわ。
 毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回っ!!!
 一体どれだけ重傷になれば気が済むのかしら?」
 プリプリと怒りながら包丁を使って行く未悠。
「――正直なところ、為すべきことがあると判断されてのことですから怪我自体はいいんですのよ。
 でも、それに慣れ切ってしまったかのような態度は腹が立ちますわ。
 心配くらい、させてくださってもいいじゃありませんのよ」
 金鹿の鍋を回す手が止まる。
 それを見た未悠は大きく頷き、優しい笑みを浮かべる。
「そうよね。金鹿ちゃんがどんな想いで送り出して待ってくれているか……あの鈍感、絶対分かってないんだわ」
「普段は此方が恥ずかしくなるくらい明け透けに物を仰いますのに、どうしてこういう時ばかり……
 私そんなに頼り甲斐なく見えますかしら。本当に、業腹ですわ」
 金鹿の横でまな板が割れるのでは無いかというような大きな音と共に南瓜(生)が叩き斬られた。
 金鹿が持参したレシピ本が飛び上がって床に落ちた。
「わ・か・る。凄く頑張ってるのは分かるわ。私じゃ思いつかないような作戦を考えて、みんなの意見まとめて、凄いなって思う。だけど、結局1番身体張ってて誰よりも前に立つのよ! もっとこっち頼ってくれても良いじゃ無い?! あんたが命賭けなくて良いように私たちだって頑張ってるのに!!」
 一息で言い切って、大きく肩で息をしている未悠を見て、金鹿は呆気にとられた後、くすくすと笑った。
「今日、未悠さんとお逢い出来て良かったですわ。
 こうやって愚痴が言えて、ちょっとスッキリしましたもの」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいわ。
 ……あのね、リクは金鹿に甘えてるのよ。たまに会っても貴女の話ばかりしてるわ。
 ふふっ、愛されてるわね」
「……え? 本当です、の……?」
 未悠の思いがけない言葉に、金鹿は目を丸くして頬を染めた。
「ところで、ちょっと気になった事があるんだけど……」
「はい? なんでしょう?」
「“普段は恥ずかしくなるくらい明け透けに物を言う”って、具体的に何をどんな風に言われたのかなーって」
「!? そ、それは……」
 ボンッ、と一気に顔を真っ赤にした金鹿が俯き、頻回に鍋を掻き回す。
「えぇっとですね……あれは……」
 思い出して、更に耳まで真っ赤に染まる金鹿。
 その横顔を見て未悠は目を細め微笑んだ。


 料理も終盤に差し掛かった頃。
「……あら、とてもきれいな赤ですわね」
「それ、抗菌作用があるんですって」
 ……知る人がいればそれは激辛香辛料の元だとすぐ分かるのだが……既に粉状になっているものしか見た事の無い金鹿は知らないまま、飾りとして小さくハート型に刻むとパラパラと煮物に振りかけた。
「よーし、でーきた♪ ね、金鹿、リク起こしてあげて」
「はい、わかりましたわ」
「もちろん、お目覚めはキッスよね?」
「!? し、しませんよ!?」
 頬を染めながら否定して、リクの元へと駆け寄って……その寝顔を見つめる。
 “キス”何て言われた物だから、何となく唇に目がいってしまって慌てて首を横に振る。
「リクさん、ご飯が出来ましたよ、起きて下さい」
 優しく肩を揺すって声を掛ける。
「うーん……」
「リクさん、ほら、起きて」
「……目覚めのチュー」
「起きてるじゃありませんか!」
 ぺしんと肩を叩いて「もう」と頬を膨らませる金鹿と、その表情を見て笑うリク。
 こういう2人を見ていると、本当に愛し愛されているのだなと分かって未悠の口元は自然と綻ぶ。
「ベッドにテーブル置く? それともテーブルまで来られる?」
「あー、まだベッドなんだ」
「OK。じゃそっち持って行ってあげる」
 金鹿が左右のベッド柵に板を置いてテーブルにすると、そこに未悠が次々と料理を運んでくる。
 その数、5品。
 炊き込みごはん、汁物、野菜炒めのような物、玉子焼き的な何か、それと煮物。
「和食だー!」
「東方の料理はリクさんの故郷の料理と似ていると以前伺いましたので、作ってみましたの」
「……えーと、ちなみに……どれがマリが作った奴?」
「……全部、2人の共同作業です☆」
 未悠に耳を引っ張られて「痛いよ、ねーさん!」なんてやっているリクを見て、金鹿はくすくすと声を上げて笑う。
「さぁ、折角の料理が冷める前に、どうぞ?」
 金鹿の笑顔に、リクもほわりと微笑み返して「では、いただきまーす」と炊き込みご飯に手を付けた。

 ブフォッ!!!!

「ど、どうしましたの?! リクさん!?」
「……コレ、何……? 何を炊いたの……?」
 物凄い勢いでご飯を吐き出したリクが、渋い顔で汁物に手を伸ばす。

 ゴッフォッ!!!!!

 物凄い勢いで咳き込み始めたリクを前にオロオロとする金鹿。
 一方で冷静な様子でポットからお茶を注いでリクの前に差し出す未悠は満面の笑みだ。
「天誅ね」
「み〜ゆ〜!?」
 咳き込みながら未悠を睨め付ければ、未悠は余裕綽々とした笑みを浮かべ金鹿を抱き込んだ。
 急な状況に目を白黒させる金鹿の頬に触れ唇を触れそうな程近くに寄せ。
「あんまり心配させると盗っちゃうわよ?」
 目を細め、微笑む様は猫科というより狐の狡猾さを彷彿とさせた。
「未悠!?」「み、未悠さんっ!?」
 慌てて動こうとして「イタタ」と身を屈めるリクとそれを見た金鹿は反射的にリクへと飛び出す。
 そんな2人を満足そうに見て、未悠は背を向けた。
「じゃ、私帰るわ。後はお二人で、どーぞごゆっくり♪」
 ひらりと手を振って、あっさりと未悠は扉の外へと姿を消した。

「……嵐か」
 未悠の去った扉を見つめ、リクはぼそりと呟いたのだった。


 妖しげな……というより、未悠が持ち込んだと思われる食材を避けた結果、炒め物と煮物は何とか食べられる事が判明したため、金鹿はそれらを器用に避けた物をリクの前に再度出した。
「……だから見ててねってお願いしたのに」
 一口食べて、一瞬眉間にしわを寄せた物の、そのまま咀嚼していくリクを見て、金鹿は「ごめんなさい」と唇で紡ぐ。
「しかし、炊き込みとスープは一体何を入れたらあんな渋柿と正●丸みたいな味になるの……?」
「未悠さん、深海魚と滋養強壮効果のある薬草だっておっしゃってましたわ」
「……何で味見しないのかなぁあああ? 他人に出す前に味見ようよ、ホントにさあ!」
「……ごめんなさい」
「あ、いや、マリを責めているわけじゃないから……」
 何となく気まずくなってリクは食事に集中する。
 重たい沈黙に支配された部屋の中、リクの咀嚼音だけが空虚に響く。
「……うん、でも激辛ハートさえなければこれは本当に美味しい」
 煮物を頬張りながらリクが金鹿に微笑めば、金鹿はパッと顔を上げて目尻を落とした。
「本当ですか? 良かったですわ」
「だから、また今度作ってよ」
「はい、いつでも……何なら毎日作って差し上げますわ!」
 満面の笑顔で言われて、リクは思わず「え」と両目を瞬かせた。
 そんなリクの反応の意味が分からず、金鹿はきょとんとリクを見返した後……自分の発言に気付いて爪先から髪の先まで朱に染まった。
「あ、いえ!? そそそそんなっ、深い意味では!?」
 真っ赤に染まったまま慌てふためく金鹿を見て、リクは思わず拭きだした。
 笑い過ぎて「いてっ」とか言いながら笑っているリクを見て、金鹿は徐々にクールダウンして頬を膨らませる。
「そんなに笑う事ないじゃありませんの」
「いや、ゴメン。あんまりにもマリが可愛くて」
「もう……そんな言葉じゃごまかされませんのよ」
「……うん、でもマリが僕の好物作ってくれるようになったら、僕は嬉しいな」
 微笑むリクに、“仕方ありませんわね”と心の中で呟いて。
「……善処いたしますわ」
 金鹿もまた微笑み返したのだった。


 病室の窓から、小さくなっていく金鹿を見送った後。
 リクは未だ包帯の取れぬ己の手を見る。
「分かってる。マリにも未悠にも……いつも心配掛けてばっかりだって、分かってる」
 良心が痛まないわけじゃない。
 あぁやって本気で怒って心配してくれる彼女達に甘えている、その自覚もある。
 ただそれでもこの守護者としてのマスティマのパイロットとしての力で何かが掴めるのなら、この程度の傷で留まってはいられない。
 それはこの世界で力を得た者の責任でもあるが、それ以上に自分の我が儘である自覚の方が強い。

 空を見上げれば一番星。
 だが、リクは星へは手を伸ばさない。
 星には祈らない。

 ただ徐々に夜の帳が下りるのを静かに睨むように見つめ続けた。




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃


【ka5959/金鹿/バンビ】
【ka3199/高瀬 未悠/キャット】
【ka0038/キヅカ・リク/守護者と書いてかんじゃと読む】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃

 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 大変お待たせしてしまって申し訳ありませんでした。
 このノベルを書く際のBGMはブラームスのハンガリー舞曲 第5番でした。
 3人が楽しそうにしている感じが伝わったなら幸いです。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
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2019年10月15日

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