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『Hello new world!!』
アルバ・フィオーレla0549)&ケヴィンla0192




「VRシミュレーター?」
「そうなの。今だとお試し期間で男女ペア割が安いとかなんとかで」
「はぁ……それで俺と」

 グロリアスベースの片隅に新しいアミューズメントが出来たと聞いて、アルバ・フィオーレ(la0549)がケヴィン(la0192)を呼び出したのはとある土曜日のこと。
 アルバが案内するままに、ケヴィンも後に続いて街並みを歩く。まだ客足まばらな件のアミューズメントに入ってみれば、近未来を模したインテリアに独立シート型のシミュレーターがいくつも並んでいた。

 受付で案内嬢に問われるままに、質問事項が書かれたシートのチェックを埋めていく。とは言え項目はそう多くなく、ものの五分ほどで二人は並んだシミュレーターのブース内に座るように促される。二つのシミュレーターはいくつものケーブルで繋がれており、これで仮装世界間の同期を取るようであった。

「中、思ってたより広いのね」
「ま……リラックスできないとしんどいしな」

 アルバとケヴィンがそれぞれにシミュレーターへ乗り込み、脚を投げ出して思い思いにくつろぐ。ブース間は音声も共有されており、互いに向かい合っているかのように二人は会話することが出来た。ふんわりと身体を包み込むクッションが心地よく、涼しい空調とほのかなシトラスの香に誘われて程無く二人とも仮想空間へと意識を没入させる。



 ──。

 喧騒が鼓膜を叩いている。賑やかな酔客の声や重なり合う食器の音は人々の生気を感じさせる。これほどまでに騒々しい……五月蠅いのであればもっと前から意識していてもよさそうなものであったが。
 
 唐突にアルオはあり合わせの板を打ち付けたような安い椅子に座っている自分に気が付いた。意識と前後して、チャリンと音がして薄汚れたクローツィ銀貨が眼前に投げ出される。眼の端で数を数えると、相場よりは少し高い、言い値の通りの額が揃っているようだった。

「まいどあり、またよろしくね」

 取引さえ終わってしまえば相手に用はない。無造作に転がった銀貨を集めて数えなおし、腰に下げた革袋へとまとめて入れる。さて、用件も終わったことだし宿に帰るか──と思ったところで、件の相手が隣に椅子を寄せて来た。

「なぁ──どうだ。一晩。金は払うから」

 ──どうやら、取引の相手はそのテの輩だったようだ。随分と気前よく払うと思ったら、下心もあったらしい。
 細く絹のように整えられた金髪に、白磁の肌。少し憂いを帯びた表情はむくつけき男共の中に在って目を惹く存在であることは理解している。事実、過去にはそういった経験が無かったわけではない。

「やめとくよ。僕、そういうのはしないんだ」

 だが、既に足を洗ったのだ。健全にまっとうに、慎ましく。できれば面倒ごとには関わり合いになりたくなかった。だから男の誘いを断ろうとした。

「──!」

 だが、思った通りに事は進まなかった。素気無くあしらわれた男は気分を害したようで、何やらと横で喚いている。



(うるせぇなぁ)

 日課のラム酒を傾けながら、ケルヴィは背後の騒ぎの気配を追っていた。モンスターを退治して疲れた体に、アルコールを染み渡らせるこの時間が彼女の至福の時間。そのひと時を邪魔するものは好ましくない。とはいえ、酔客同士の喧嘩なぞは珍しくもなんともない。それにいちいち首を突っ込んでいては命がいくつあっても足りることはない。

 故に、今日の騒ぎにも我関せずを貫こうとして……愛用の葉巻をカットしようとしたのだが。

「手前ェ、金だけ取ってそれきりってのはないだろうが!?」

 顔を紅潮させた男が勢いよく立ち上がり、椅子を跳ね飛ばして腕まくりするのは捨て置けない。

「さっきから、煩いねぇ……折角の良い酒が台無しになるだろうが」

 気だるげにケルヴィは立ち上がると、チェイサーのグラスをひっつかみ──そのまま男の顔面へとスナップを利かせて水を叩きつけた。

「目ぇ、覚めたかい? 迷惑だよ。出ていきな」

 突然の闖入者に激高する男は、ケルヴィを女とみて甘く見たか掴みかかって押し倒そうとしてきた。だが、酔いも回って頭に血が上った男なぞは、普段からモンスター狩りを生業とするケルヴィにとっては脅威ですらない。伸ばしてきた腕を取ってぐいと引き寄せると、男はバランスを崩してたたらを踏む。思わず前に出た軸足を払って、そのまま身体を重力に任せて男諸共に倒れこんで腕を捻りあげる。

 勝負あり。

 完膚無きまでに叩きのめされメンツも失った男は、何やら悪態を吐いてはいたものの、ケルヴィのひと睨みで今度こそ酒場を去っていった。



「怪我とかは無いかい?」

「ラム、お代わりね!」とカウンターの奥に声を張って、ケルヴィはアルオの向かいに腰を下ろした。なるほど、確かにこいつはずいぶんな美青年だ。先ほどの男がご執心だったのも頷ける。
 給仕が新しいグラスを持ってくるまでの間、目の前の顔を眺めながらそんなことをふと思った。

「ふふ、ありがと。お姉さん優しいんだね」
「優しいってガラじゃないよ。あいつが私の気に入らなかっただけ」

 トンと置かれた次の盃を、一気に煽るケルヴィ。その様子を眺めるアルオの口角が少し上がる。

「やっぱり優しいんだね。お姉さんのこと、僕、嫌いじゃないよ」

 人間は──嫌いだけど。と付け加えるアルオにもドリンクを勧めながら、ケルヴィは琥珀を傾ける。塩で炒ったナッツを口に放り込むと、香ばしい甘みと程よい塩気が口の中に広がった。

「なんだ、ずいぶんお世辞の上手い坊やじゃないか」

 遠慮してかドリンクに手を伸ばさないアルオの隣に寄って、手にグラスを握らせる。乾杯、と小声でささやいてから軽くグラスを鳴らすように重ねた。
 ケルヴィの勢いに負けたのか、アルオも乾杯に応じて喉を湿らせる。
 その様子がかわいらしくてケルヴィはわしわしとアルオの頭を引っ掻きまわす。見た目通りの艶やかな髪が指の間を抜けていく感触はとても心地よかった。

「──わぷ。やめてよ、お姉さん」

 小うるさそうに身じろぎする困り顔だが、本気の拒絶ではない。紅顔の……ありていに言えば好みのタイプの美青年のそんな仕草がもっと見たくて、ケルヴィの嗜虐心がむくむくと頭をもたげる。

「照れるなよ、少年。お姉さんが好きなだけ撫でてやんよぉ」

 わしゃわしゃと音がするほどに撫ぜられて、アルオの髪が鳥の巣になる。跳ねた髪を撫でつけながら、アルオが呟いた。

「少年じゃなくて──アルオ。俺は、アルオって言うんだ」
「なるほど。私はケルヴィ。よろしくな、アルオ」

 改めて名乗り交わし、二人は座りなおす。二人の前には湯気立ち上る料理が並んでいた。

「むぐ──。さっきのお姉さん、恰好よかったよ」

 幾分か気安くなったのか。この辺りでは高級品のバターを使って香草と焼き上げた魚のムニエルをパクつきながらアルオがそんなことを言った。味の濃い料理につられてエールも進む。

「へぇ〜。ふぅ〜ん? そうかそうか、カッコよかったか」

 先だって飲み始めていたケルヴィは、頬杖を突きながらその様子を見上げる。覗き込むようにアルオの顔を見ると、肘と肘に挟まれた双丘がぐい、と寄せられてその存在を主張する。身に着けた胸当てと肌着の隙間から覗く谷間に、アルオはどぎまぎと目をそらす。顔に朱が差しているのは酔いの所為だけではないだろう。

「ははっ。アルオは可愛いねぇ」
「子ども扱いするなよな。こう見えても俺は──」
「ん……俺は?」
「……いや、内緒。それより──」

 もう一回、撫でて? と椅子を寄せなおしてアルオが尋ねる。横並びであればケルヴィの刺激的な身体付きも気にならない……だろう。

「──!!」

 その様子に、辛抱堪らんとばかりにケルヴィはアルオをがっしりと脇に抱くと、何度も、何度もその頭を撫でるのだった。



 いつしか店の中も二人だけとなり、カウンターでは店主がグラスを拭き上げていた。

「随分飲んだね」
「ああ、楽しかったからな。アルオは飲み過ぎたんじゃないか?」
「バカにしないでよね──平気」

 気分よく酔った二人は、並んで酒場を後にした。うっすらと明るみ始めた空の向こうに、気の早い鳥が鳴いている。通りには人気がなく、澄んだ朝の空気が辺りを満たしていた。

「気が向いたら、声を掛けな。私はだいたいさっきの酒場にいるからさ」

 存外にアルオの事が気に入ったのか、何時もならば知った顔からしか仕事を受けないと噂されるケルヴィがそんな事を言う。

「ふふ、ありがと。お姉さん」

 それじゃ、これは秘密の約束だよ──。そう言ってアルオが軽く指を弾く。すると、飾り気無く実用重視でまとめられたケルヴィの髪に白くサザンカが一輪、花開いた。

 楽しかったよ。またね。

 ケルヴィが髪に差された花を手に取って見ると、視線を外したその一瞬に、声と共にアルオの姿は掻き消えるのだった。

「……飲み過ぎたかぁ?」

 だが、夢まぼろしではないことには手の中の花が朝露に香っていた。


 ウィーン──と、軽く座面が揺れて意識が湖の底から浮上する。アルバとケヴィンが目覚めると、二人がブースに入ってから30分ほどが過ぎていた。

「──これで、30分か」
「ずいぶんとハッキリした……長い夢見だった気がしますね!」

『普段とは違う自分!』のキャッチコピーに偽りなし。確かに二人は仮想空間で、もしもあったかもしれない世界を体験した。それにしても、最初から数えてもまだ一時間程度だ。休みをこのまま無為に潰すのも惜しい。どうしようか?

 表通りは太陽が眩しく、二人を祝福するように煌めいていた。日はまだ長い。

──了──

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度はご発注どうもありがとうございました、かもめです。
シナリオネタを膨らませて、こうしてご発注を頂けるのはありがたいことです。
とてもうれしく思っています。

場面設定の入りと名前の扱いは少し迷ったのですが、このような形にさせていただきました。
特に名前周りなどお気に召さない部分がありましたらリテイク要望にてお願いいたします。
それではまたの機会ありましたら、よろしくお願いいたします。
重ねてにはなりますがありがとうございました。
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グロリアスドライヴ
2019年10月15日

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