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『あなたは私にどんなイタズラをしていただけるのですか?』
桜憐りるかka3748

 元々は秋の収穫を祝い、悪魔を追い払う祭りとして知られていた。
 この祭りがクリムゾンウェストへ伝えられ、広まるのに長い時間はかからなかった。特に祭りの主役である子供達は、仮装してお菓子をもらえるという特典に飛び付いた。

 ハロウィン。
 それは、非日常を満喫できる時間。
 それは、一種の夢。
 泡沫ではあるかもしれないが、その時間に子供達は思い思いの夢を見始める――。

「……よし、と」
 桜憐りるか(ka3748)は、自分に言い聞かせるように呟いた。
 要塞ノアーラ・クンタウ内にある要塞管理者の屋敷まで到達したりるか。その面持ちは自身の緊張が強く現れていた。
(……だ、大丈夫……大丈夫、だから)
 強く念じるほどに、りるかの緊張は強くなっていく。
 ハロウィンの時期に備えてりるかが用意してきた仮装。それに身を包んだりるかは、知り合いに見つからないよう息を殺して屋敷を訪れた。
 もし、知り合いに出会って写真でも撮られようものなら、恥ずかしさのあまり悶絶しかねない。
 りるかにとってあまりに危険なリスクを背負う理由。それは――。
「おや?」
 屋敷の前に立っていたりるかの背後から男性の声が聞こえる。
 振り返らずとも、りるかには分かる。
 その声の主がヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)である、と。
「あ、あの……こ、こんばんは」
「…………」
 りるかの挨拶を聞き流すかのように、ヴェルナーは沈黙を守る。
 その視線の先には、りるかの姿。何度も視線が上下している事が分かる。
 りるかが選択した衣装は、所謂西洋の魔女。三角帽に黒いマントというテンプレート的な魔女の衣装。さらに手には箒を握っている。
(み、見られてる……)
 りるかの衣装をヴェルナーがじっくりと見つめている。
 その事実が、りるかの体に羞恥を注ぎ込んでいく。
 だが、ここでりるかも退く訳にはいかない。邪神ファナティックブラッドを倒した時のような覚悟を胸にここまで来たのだから。
 意を決するりるか。
 精一杯の笑顔を浮かべ、お決まりの口上を述べる。
「……と、とりっく……おあ……と、とりーと……?」
 ハロウィンの決まり文句。
 ごちそうしてくれないと、イタズラするぞ。
 最初はりるかもハロウィンのお菓子を目当てに参加していた。しかし、仮装を準備する最中に気付いてしまった。
 ヴェルナーにハロウィンのお菓子をおねだりすればどうなるのか。もしかしたら、とても『甘い』時間を過ごせるかもしれない。
(夢、みたいな時間が……あるの、かも……)
 僅かばかりに体を震わせるりるか。
 ヴェルナーも時期を考えれば、自身にそのような問い掛けをされる可能性は理解していたはずだ。
 りるかからの問い掛けに対して、ヴェルナーは少しだけ楽しそうに呟いた。
「イタズラか、ごちそうか……。これは困る選択肢ですね」
 困る。
 ヴェルナーは、りるかに対してハッキリとそう言い放った。
 そもそも、この問いに対する答えはごちそうと相場が決まっている。誰もイタズラをされたくはないし、問い掛ける側もごちそう、つまりお菓子をもらうのが目的なのだ。
 だが、ヴェルナーはそこで『困る』と答えた。
 困惑の感情を一瞬だけ覗かせるりるか。
 その顔をヴェルナーは、見逃さない。
「ふふ、そうですねぇ。どちらにしようか迷ってしまいます。
 ……もしも、イタズラの方を選択したら……あなたは私にどんなイタズラをしていただけるのですか?」
「!」
 りるかにとっては予想外の返答だ。
 まさか、ヴェルナーがイタズラを選択するかもしれないとは。
 邸宅の壁に落書き?
 それとも屋敷に入って散らかしてみる?
 ――そういう事じゃない。
 もっと違う意味での『イタズラ』があるはずだ。
「え、えーと……えーと……」
 必死に考えるりるか。
 だが、焦れば焦るほど頭が回らない。
 古い機械であればとっくに煙が立ち上っているはずだ。
 ――ダメ。何も思い付かない。
 『ヴェルナー』に対して行えるイタズラ。そんなものがりるかにとって存在するのか。仕掛けてもすべて露見して、否、仕掛ける前にすべて見透かされる未来が脳裏に浮かぶだけだ。
 どうしよう。
 そう考えていたりるかの目に飛び込んでくるのは、いつも以上に笑顔を浮かべるヴェルナーだった。
「ヴェルナーさん……」
「これは失礼しました。普段と異なるりるかさんを前にして、少々意地悪したくなってしまいました。私のイタズラとお考え下さい」
 胸に手を当て、そっと頭を下げるヴェルナー。
 きっと狼狽するりるかの様子を見守りながら、楽しんでいたに違いない。
 だが、不思議とりるかに怒りの感情は浮かばない。
 辺境の部族会議大首長補佐を務めると同時に、帝国軍人としてノアーラ・クンタウを預かる将来有望なヴェルナー。そんなヴェルナーが子供のようなイタズラを行った。それがりるかにとって本当に日常の光景として思えたのだ。
 邪神ファナティックブラッドの脅威は、間違いなく去った。
 それをりるかは実感していたのだ。
「お詫びという訳ではありませんが、ごちそうの方を選択させて下さい。
 同盟商人から入手した新しい菓子が届いています。りるかさんがいらっしゃった時にお出ししようと思っていました」
 ヴェルナーはりるかを招き入れるように門扉を開く。
 金属の軋む音が響くと同時に、りるかは客人として邸宅へ足を踏み入れる。
「ありがとう、ございます」
 幸せそうなりるか。
 その顔には緊張が消え失せ、安堵が現れていた。
「では、ご案内します。魔女のお嬢様。
 あなたにイタズラされぬよう精一杯のお持てなしをさせていただきます」


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
近藤豊でございます。
この度は発注ありがとうございました。窓開けして数時間で発注が入ると考えていなかった為、完全に油断しておりました。今回はハロウィンという事でしたので、ヴェルナーの方は激務後の帰りに設定してりるかさんと遭遇する形式にさせていただきました。機会あればハロウィンの仮装もヴェルナーにさせられると面白いかなと考えております。その場合、字数が足りなくなりそうですが。

本編の方ももう少しで終わってしまいますが、まだヴェルナーの依頼を出す予定はございます。そちらもお待ちいただければ幸いです。

また機会があれば宜しくお願い致します。
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ファナティックブラッド
2019年10月15日

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