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『みんなでお仕事』
暁 蓮la3889)&楪 樹la3891)&天道昴la3888)&篁 悠la3890


「はい、天道です」

 天道昴(la3888)のスマホが鳴ったのは、ちょうど彼がバイトから帰ろうとしていた時だった。

「あ、昴。これからちょっと事務所来れるか?」

 電話の相手はマネージャーの暁 蓮(la3889)。

「ちょうどバイトが終わったところだ。後、30分くらいで行けると思う」

(急にどうしたんだ?)

 そんなことを思いながらも昴は足を事務所のほうへと向けるのだった。

  ***

「うーん、こっちの方がいいと思うんだけどなぁ……。あ、お疲れ!」

「そうか? 俺はこっちのほうがいいと思うが。ん、今日はどうした?」
 事務所の扉を昴が開けると、楪 樹(la3891)と篁 悠(ka3890)が資料らしき紙を見ながら何やら話をしているところだった。

「お疲れ様、蓮さんは?」

「あぁ、すぐ来ると思うよ。あ、昴はどっちがいいと思う?」

「何のはな……あぁ、デザインの話か」

 ずいっと出された2枚の紙に昴は目を落とす。

「僕は右の方がいいと思うんだけど、悠は左の方がいいっていうんだ」

「うーん……相手方に2枚とも出して好きな方を選んでもらったらどうだ」

「あったま良い! その手があったね。じゃあそうしようっと」

 高木プロダクション。

 昴がモデルとして所属しているメディア企業はまだまだ小さい会社だが、デザイナーの樹やカメラマンの悠、他にもいろいろな分野のスタッフのそろったこの業界では珍しい総合会社だ。

 最近はそれぞれの腕が認められ徐々に仕事も増えてきている。

「お、来たな。樹と悠もちょっとこっち来いよ」

 何やら数冊の雑誌らしきものを片手にやってきた蓮が3人を呼び集める。

「俺様達にちょっとでかい仕事だぜ」

 そう言いながら手に持っていた雑誌を机に広げる。

「フリーペーパー?」

 樹がさっそくぺらぺらとめくる。

 中にはとある地域のショップやイベントなんかの情報が書かれていた。

「今度これがリニューアルするらしくてさ。その、表紙の仕事がうちに来たわけよ。表紙のデザインからモデル、写真まで全部おまかせだとさ。評判が良けりゃこの後も全部表紙の仕事はこっちに回してくれるって話だ」

「すごいじゃん! で、今回のテーマは?」

 目を輝かせながら樹が蓮に尋ねる。

「いや、今回は初回だから特集記事とかにこだわらず好きにやってくれってことだったぜ」

「ん、ターゲット層としては地元民、女性って感じか。それなら、女性モデルの方がよくないか?」

 ページをめくっていた昴が口元に手を当てながらそういうと蓮は不敵に笑う。

「昴、分かってねーな。女をターゲットにする雑誌が全部女を表紙に持ってきてるわけでもねーだろ。それに……」

「だからって、意味もなく男を持ってきているわけじゃないだろ」

 口をはさんだのは悠だった。

 女性雑誌の中には男性モデルや男性アイドルを表紙に持ってきている雑誌も多い。

 だが、それは雑誌内で対談やインタビューをしているからであることが多い。

「大丈夫だって。女はみんなイケメンが好きだろ?」

「安直だな」

 昴と悠が苦笑している横で何かをずっと考えていた樹が口を開く。

「でも、そういうの面白いと思うよ。今までとおんなじ感じの、どこにでもあるフリーペーパーより少し変わってたほうが手に取ってもらいやすいだろうし」

「樹は分かってんな。そういうことだよ」

「ってことで、昴のスケジュール確認したら4人でロケ行くぞ」

「あぁ、それで俺が呼ばれたのか。分かった」

 合点がいったという表情で、スマホを操作しバイトが休みの日を確認する昴。

「そうだな……この日なら大丈夫だ」

「よし、じゃあ樹と悠は前日入りしてデザイン案とか写真撮るのによさげな場所とか見つけといてくれ」

「ん」

「分かった! じゃあ、この辺のペーパーはもらっていくね。あと、企画書も頂戴」

  ***

 ロケ当日。

 駅に降り立った昴は辺りを見渡す。

「いい街だな」

 けして都会ではないが、駅から見える街並みは整備され、なかなかに活気もある。

「樹と悠が来るまでに少し時間があるな。あそこのカフェにでも入ってよーぜ」

 時計に目を落とした蓮がそう言って小洒落た感じのカフェを指さすと2人は歩き出した。

 昔ながらの喫茶店の雰囲気を色濃く残したそのカフェのテラス席に座ると、店長と思しき初老の男性がレモンの薄切りが浮かんだ水を持ってやってきた。

「いらっしゃいませ。観光ですか?」

「そんなところだな。俺様は珈琲」

「あー、じゃあ俺は……おすすめってなにかあるか?」

「おすすめですか……でしたらカフェオレなんてどうでしょう?」

「じゃあ、それを」

「かしこまりました」

「ブラックじゃなくていいのか?」

 蓮が不思議そうに昴に尋ねる。

 蓮の記憶では昴はいつも珈琲にミルクは入れていない。

「始めていくカフェではその店のおすすめを飲むようにしてるんだ。おすすめってことは力を入れてる商品だからな」

「へぇー」

 程なくして2人の前に珈琲と空っぽの口の広いカップが置かれた。

「カフェオレじゃなかったのかよ」

 訝し気に見やる蓮に店長は口の細い珈琲ポットを2つ持ってきて同時にカップへ注ぎ始めた。

 ポットから流れ落ちる黒と白が空中で合わさりカップの中に見る見るうちに茶色の液体が溜まっていく。。

 そして、あっという間に泡の立ったカフェオレが出来上がった。

「当店ではお客様の目の前でカフェオレをお作りしてるんですよ」

 店長はにこやかに説明すると一礼して戻っていった。

「すげぇな」

「おすすめというだけあるな」

 興味津々といった様子でカップを眺める蓮。

 真っ白なテーブルクロスにも、ソーサーにもシミは一つない。

 つまり、店長は1滴もはねさせることなくカフェオレを作ったことになる。

 相当の技術だと頷きながら昴はカフェオレに口をつけた。

「ん、うまいな」

 空気をしっかりと含んだカフェオレは口当たりが柔らかい。

「あ、おまたせー!」

 この分ならケーキや軽食も期待できそうだと話していると、樹が手を振りながらやってきた。

 後ろには機材を持った悠の姿も見える。

「お、来たな。ここのカフェオレ、凄いんだぜ」

 興奮したように言う蓮に、頷きながら当然のようにカフェオレを注文する2人。

「ここのカフェオレは地元じゃ有名なんだ」

 そう言いながらカメラの用意をした悠は、取材であることを説明しカフェオレができていく様を連射で撮っていく。

「昨日、いろんなお店とかまわって写真とか撮ってもらったんだけど、ここだけ休みで撮れなかったんだよね。ここ待ち合わせにしてくれて助かっちゃった。ん、美味しい。あ、それでね、今回なんだけど……」

 そう言いながら樹は話を始めた。

  ***


 2人がやってくる前日。

 悠と樹の2人はアイディア出しと下見を兼ねて街を散策していた。

「じゃあ、次はこの辺か?」

「うん、そうだね。すみませーん」

 店の人に話を聞こうと樹が中に入っていく。

 その間、悠はファインダー越しに品物や街並みを眺めていた。

 そんな時、ふと、店先に置かれたかごに目を引かれる。

 手を広げたくらいの大きさのそれを手に取って見ていると、

「どうしたの?」

 話が終わったのか樹と店員の女性が出て来た。

「あぁ、このかごが少し気になってな」

「それ、いいでしょう。この街の伝統工芸品なんですよ」

 そう言って女性はかごの説明を始める。

 彼女の話によると、街には民芸品や工芸品を扱う店がいくつもあり、そういったものを専門に扱うイベントがあったりもするらしい。

「この街には昔から手仕事が溶け込んでる気がするんですよね」

「溶け込んでる……そうだ、それだよ!」

「それ?」

 首をかしげる店員と悠を置いてけぼりにしたまま樹は何度も頷くと、持ち歩いていたノートにデザイン画を描いていく。

「っと、こんな感じがいいと思うんだよ!」

 ノートを悠が覗き込むと、名産品をたくさんのせたかごを持った昴のバックに工芸品や民芸品がタイル状に配置されている。

「街のいいところを詰め込んでお届けする。って感じでさ、ちょっと媚びすぎかな?」

「いや、いいんじゃないか。先方はこっちに任せるって言ったんだしな」

「だよねぇ! あ、このかごって借りられないかな?表紙に使いたいんだよね」

 かごをもってずずいっと迫る樹に店員は苦笑して

「分かりました。素敵な表紙にしてくださいね」

 と、かごを樹に手渡した。

「名産品なら、少し行ったところにそういうのを扱う店がたくさんある通りがあります。あそこなら工芸品や民芸品を扱ってるお店がありますし、観光スポットとしても有名なので写真を撮るにはちょうどいいところだと思いますよ」

「え? どこどこ」

「今がここで……このあたりですね」

「へぇ、本当に近くじゃん。じゃあ小物系は今日のうちに撮っちゃおうよ」

 悠が観光案内所でもらった地図を広げると女性は地図にペンで印をつけてくれる。

「助かる」

「いえ、実はうちの店にもそのフリーペーパー置いてたんですよ。出来上がりを凄い楽しみにしてます」

 微笑む店員に2人は大きく頷いた。

「期待には応えられるようにするさ」

「うん! 任せてよ」

 店員の見送りを受けながら2人は教えられた通りに向かう。

「すごい、タイムスリップしたみたい!」

 通りの端に書いてある説明には、江戸時代の長屋街を再現したと書かれていた。

 少し歩いただけでも、古道具屋や駄菓子屋などが目に飛び込んでくる。

「これは、凄いな」

 悠も仕事とは関係ない店先でも自然とカメラを構えてしまう。

「あ、これ美味しそう」

「うちのは地物だからね。美味しいよ〜」

 表紙用の写真を撮りながら2人は名産品を買い込んでいくのだった。

  ***

「ん、いいんじゃねえか」

 話を聞いていた蓮が頷く。

「でしょ! のせるものもいっぱい買ったんだよ」

「いい写真もたくさん撮れたしな」

 そう言って自慢げにバッグをたたく樹と満足そうに写真を見せる悠。

「でも、それなら俺は来なくてもよかったんじゃないか?」

 ふと湧いた疑問を昴が口にすると、2人が『あ。』という顔で固まった。

「連絡してくれればバイト行けたんだが」

「いや、急だったし、ほら、かごも返さなきゃだからこっちで撮ればいいかなって……」

 尻すぼみに小さくなっていく樹の声に昴は

(テンション上がりすぎて連絡忘れたんだな)

 と内心で結論付けた。

「まあ、いいじゃねぇか。ここでしか撮れねぇ写真もあるだろうし、背景使わねぇからってここで撮っちゃいけねぇわけじゃねぇだろ」

 昴のため息を蓮が笑い飛ばす。

「蓮の言うとおりだ。現場の空気が違えば同じ構図でも写真は全く違うものになるしな」

 悠もフォローなのか、本心なのかそう言って頷いた。

「まあ、別に来たくなかったわけじゃないからな。これから定期での仕事になるならどういうところか知っておきたかったし……」

「でしょ!」

「だが、今度は連絡してくれ」

 昴の言葉に樹がうんうんと頷くが、そう続く言葉にはーい、とうなだれるのだった。

 後日、4人が表紙を手がけたフリーペーパーはネットでもちょっとした評判になったらしく、市内のみならず市外からの問い合わせが何件も来たのだと蓮へ連絡が入った。

 問い合わせの多くは、表紙のデザイン性やモデルについて。

 このフリーペーパーをきっかけに高木プロダクションへの仕事は徐々に増えていくことになるのだが、それはまた別のお話。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la3889 / 暁 蓮 / 男性 / 30歳(外見) / みんなのお兄ちゃん 】

【 la3891 / 楪 樹 / 男性 / 22歳(外見) / みんなのムードメーカー 】

【 la3888 / 天道昴 / 男性 / 22歳(外見) / みんなの清涼剤 】

【 la3890 / 篁 悠 / 男性 / 24歳(外見) / みんなの相談役 
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年10月17日

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