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『交錯する死線』
ケヴィンla0192)&Sla0007

 引き金を引く。戦場に咲く花の色は、いつだって赤い。今しがた鮮血の花を咲かせた敵が、ケヴィン(la0192)の視線の先でゆっくりと倒れていった。
 ケヴィンが現在手伝っている外人傭兵部隊の仲間の声が、通信越しに彼の鼓膜をなぞる。ヴィラン組織との抗争任務についての情報を交換し合うその声をBGMに、男は次の標的に狙いを定めた。
 命を撃ち抜くたびに、この世界にくる前の戦場を駆けていた頃の感覚を思い出す。敵に弾丸を食らわせ、こちらに向かって放たれる弾丸は避ける。一手でも間違えば、自分の方が命を落としてしまうやり取り。けれど、不思議と心は凪いでいた。いっそ、部屋でのんびりとコーヒーを口にしている時よりも、気分が落ち着くような気さえする。
 襲いくる銃弾を、近くにいた敵組織の男を盾にする事で防ぐ。男の息があったら礼の一つでも言っていたかもしれないが、生憎と死体に話しかける趣味はない。ケヴィンは物言わぬ死体を捨て、黙々と武器を構え直す。
 敵が撃ってきてくれたおかげで、相手の位置を把握する事が出来た。蜘蛛の名を持つ機銃から放たれた弾丸が、未だ自分が捕らえられている事に気付いていない獲物の体を正確に撃ち抜く。
 敵が現代兵器しか使ってこない事が通信で分かったので、シールドを起動し安全を確保した。任務は順調に進んでいる。今のところは、全て予定通りだ。
 ……不意に、爆発音が響く。瞬時にケヴィンは、それが手榴弾によるものだと察した。それも、音は一回きりではない。後を追うのように、また爆発音。敵組織には、随分と派手な戦いを好む者がいるらしい。
 しかし、次に部隊の者から入ってきた通信により、ケヴィンはその爆発が敵によるものではない事を知った。動揺している仲間の声からして、手榴弾を戦場へとばら撒いているのは味方ですらないらしい。
 どうやらこの戦場には、部隊と敵組織以外の何者かが存在しているようだ。
(単独の乱入者ねえ)
 その上、今のところの情報では、乱入者に仲間らしき存在は確認出来ていないという。敵のヴィラン組織と何らかの因縁のある者か。それとも、狙っているのはこちらの部隊の方だろうか。
 その人物の特徴を、確認する。今のところ判明している、大まかな外見の特徴とその攻撃スタイルをとりあえず頭に叩き込み、任務に集中し直そうとした時、不意にケヴィンの脳裏に何かがよぎったような気がした。
(今の特徴……。どこかで観たような……)
 もう少し考えれば、思い出せるに違いない。だが、ケヴィンは気にしない事に決めて機銃を構え直した。
「誰だか知らんが、好都合だ。……今のうちに、さっさと終わらせよう」
 自分は、自分の仕事をするだけだ。このアクシデントは、ケヴィンにとっては僥倖と言えた。
 混乱に乗じれば、目的が遂行しやすくなる。ヴィラン組織との抗争ではない、もう一つの方の目的が――。
 遠くから、再び派手な音がする。しかし、ケヴィンはもはやそちらに一瞥すらくれず、行動を開始するのだった。

 ◆

 少女が撃ち抜いた事で、戦場に積み上がっている屍の数がまた一つ増える。
 S(la0007)にとって、今回受けた仕事はさして難しいものではない。……慣れていた。「敵の全滅」だなんて、そんな依頼には。
 今しがた倒したばかりの敵が落としたナイフを蹴り飛ばして、Sを狙い撃とうとしていた別の敵の武器を弾いてみせる。その隙に一気に相手との距離を詰めてしまえば、後はただ手に持った武器を振るうだけだ。
 Sは機械的とも言える程、最適な行動を取り続けた。相手を無力化するために必要な最短ルートを常に選び、それを実行に移す。それを繰り返していけば、敵は必然的にいなくなり、彼女の今回の仕事は終わりを告げる。
(……建物の中で、息を潜めている者が二人)
 幾つもの死体に囲まれながらも、少女は冷静に周囲の様子を伺う。近くにあった建物から気配がしたため、Sは武器を構え直し近付いていった。
 彼女の振り上げた足が、人間離れした斥力で建物の石壁を蹴破る。それを合図にするかのように、彼女に向かい銃弾が放たれた。
 けれど、予測していた攻撃を避けるなど容易い事だ。銃撃を避けたSは、一息で相手との距離を詰める。振るったナイフから、確かに敵の命を抉った感覚が伝わってくる。
 遠くから、時折戦う音がする。派手な戦いをするSに比べたら、静かな音。けれど、聞き慣れた争いの音には違いない。
 この任務を受けたのは、Sただ一人のはずだ。つまるところ、この戦場には自分と敵以外の何かが存在する。戦いに慣れている、何者かが。
 元々、今回の任務は恨みからのものだった。敵は、別の者からも恨みを買っていたのかもしれない。
「……まぁ、敵対するなら殲滅、しないのなら捨て置くだけだ」
 表情を変えぬまま、少女は呟く。敵ではないならどうでもいい。敵なら殺す。シンプルで分かりやすい話だ。
 思考していた時間は、一分にも満たない。彼女の背後から不意打ちを狙い攻撃しようとしてきた敵に向かい、少女は手榴弾を投げる。
 積み上がる死体。眼前に横たわる、敵。手を伸ばせば触れられる距離に確かに存在する、死。
 死に囲まれながら、Sはただ、思う。
(……楽しい)
 普段はめったに変化する事のない彼女の表情が、僅かに変わる。その口元は、小さく笑みを携えていた。
 敵の苦悶の悲鳴を、Sの放った手榴弾が破裂する音がかき消す。たとえ聞いたとしても、Sがその言葉に反応を返す事はないだろう。今回の任務に、相手との対話は必要がない。
 Sのする事は、ただ敵である全てを殺す、それだけ。たったそれだけの、楽しいお仕事。
 戦場で、何人もの人を殺す。それは、彼女にとって楽しいことだった。だから笑う。自分は楽しいことをしているのだから、そういった表情を浮かべるのは自然な事のはずだった。
 笑みを浮かべながら、黒服を纏った少女は戦場を駆け抜ける。小柄な体躯には不釣り合いな物騒な武器を手にして、また一つの命を撃ち抜き、笑う。
(だってこんなに、楽しいことなのだから)
 楽しい。そう、もう一度Sは思った。思わなければ、どうしてか立っていられないような気がしてならなかった。

 ◆

 金属質な義手が、目当てのものを手に取る。ビンゴだな、とケヴィンは思った。予め入手していた情報を元に、辿り着いた建物の中に隠されていたのは一枚のディスク。
 この中には、敵の物資ルートが記されている。ケヴィンが今回引き受けていた任務は、ヴィラン組織との抗争だけではなかった。このディスクを奪取する依頼も、彼は同時に引き受けていたのだ。
 目的のものは問題なく手に入れる事に成功した。あまり時間をかけて、こちらの任務には関係のない仲間に猜疑心を与えるのは得策ではない。
 ケヴィンはチームの元へと戻ろうと踵を返そうとし、振り返ると同時に……そこに居た人影に向かい武器を突きつけた。
 目よりも先に、銃口が合う。まずは慎重に相手の動きを伺ってから、その顔を見てようやくケヴィンは思い出した。先程、一瞬だけ脳裏によぎった姿がいっきに鮮明なものに変わる。
 通信で聞いた乱入者の情報。亜麻色の髪に銀の瞳、黒い衣服を身にまとった、白い肌の少女。
(ああ、こいつか……――)
 その相手の顔に、ケヴィンは覚えがあった。恐らく相手も、ケヴィンの事を知っているだろう。
 もしここが、街や本部だったならすれ違い様に会釈ぐらいはしたかもしれない。同じ依頼を引き受けていたら、作戦を提案し合う事もあるだろう。
 けれど、ケヴィンも……その眼前にいるSも、口を開かない。今は普段とは状況が違っていた。お互いがいつもとは違う仕事でここに居る事など、わざわざ聞かなくとも纏っている雰囲気から察する事が出来る。戦場にいる、敵組織とは違う存在。その正体が、恐らくお互いなのだろう、という事も。
 自分も相手も、今は"SALF"としてここに立っているわけではない。だから、今この状況において何よりも重要なのは――。
「YESか、NOかだ」
 先に口を開いたのは、Sの方だった。感情を忘れた銀色の瞳は揺らぐ事なく真っ直ぐにケヴィンを、目の前に居る仕事の障害になり得る存在を見ている。
「お前は敵か?」
 もしここでケヴィンが首を縦に振れば、迷う事なく少女の指はその引き金を引くだろう。先程までと同じように、何の躊躇いもなく。
「さあね。あんたが俺の邪魔をするかどうかで決めるさ」
 呆気からんと、ケヴィンは答える。しばしの沈黙の後、響き渡るのは――二発分の銃声。
 ケヴィンとSは、ほぼ同時に引き金を引いていた。しかし、先程までお互いに向いていたはずの銃口は、今は揃って建物の出入り口の方へと向けられている。倒れた敵組織の男の身体には、二発分の銃槍がまるで揃いの模様のように刻まれていた。
 こっそりと自分達へと忍び寄ろうとしていた男を撃ち抜いた二人は、どちらともなく銃を下ろす。
 Sは倒れた敵へと駆け寄ると、男の持っていた武器を手に取った。使えそうな武器だったので、利用するつもりなのだろう。
 戦場にある全てのものを利用するのは、ケヴィンも同じだ。今目の前にいるこの少女すらも、事実ケヴィンは利用しようとしている。自分の任務の邪魔にならないのなら、ここで見逃して撒き餌になってもらう方がよっぽど効率が良い。
 Sもまた、ケヴィンの事をもう気に留めてはいないらしかった。彼女の任務は敵の殲滅だ。敵ではないのなら、わざわざ害する必要はない。時間を無駄に使うだけだ。
 互いにとって、戦うよりも戦わない方が利益がある。銃をおろした理由は、それだけで十分だった。
 戦場で奇しくも顔を合わせた二人の戦士は、何事もなかったかのように各々の仕事へと戻る。何食わぬ顔で他チームと合流しケヴィンは任務を続け、Sもまた敵の屍を積み上げて笑みを浮かべる。
 数分にも満たない邂逅は終わり、再び彼らは"日常"へと戻った。血と煙に溢れた、戦場へと。

 互いの仕事からして、相手とはまたいつかこうして、戦場ですれ違う事があるかもしれない。
 もっとも、次の仕事でも相手が敵対しない立場とは限らない。もし相手が敵として立ち塞がる時がきたら、恐らく自分は――。
 ケヴィンの機銃がヴィラン組織の男を撃ち抜く音と、Sの手榴弾が破裂する音が重なる。
 偶然の邂逅の事など、今行っている仕事には不必要なのだからもはや二人の頭の中にはない。ただ目の前にある仕事を片付けるために、彼らは戦場で引き金にかけた指を動かすのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
違う目的を胸に戦場を駆けるお二方の邂逅。このようなお話となりましたが、いかがでしたでしょうか。
お二方のお気に召すお話になっていましたら、幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、この度は誠にありがとうございました。また機会がありましたら、その時は是非よろしくお願いいたします!
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2019年10月18日

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