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『それはまるで夢のような』
Gacruxka2726

 ――この感覚には、何となく覚えがある。
 ぼんやりと覚醒していく頭をぶんぶん横に振り、Gacrux(ka2726)はふと我に返る。頭を振るのと同じように、本来あるべきはずのないもの――猫のような耳としっぽがゆらゆら揺れるのを感じ取ったからだ。
 いつぞや見た、ユグディラのごとき己の姿と、多くのユグディラたちとの宴会。
 それは闘いの果てなく続く中においてひどく牧歌的で、穏やかな一日だったのを記憶している。
 あれは夢だったのか、はたまた真実だったのか。
 Gacrux自身ももうはっきりと断言できぬほどに、リアリティを伴っていたけれど、あれは――今はもうない場所での出来事であったようでもあったし、何とも曖昧なもので、手につかめばそのままさらさらとこぼれ落ちる砂のように形をとらえることが出来ない。
 しかし、そんな風に頭を巡らせてばかりでも始まらない。まずは自分の姿を水鏡でその姿がユグディラとそう変わらないものになっていることを確認すると、スモックとズボン、とんがり帽子という衣装に身を包み、身繕いをしてからぱたぱたと【いつもの場所】へ向かう。
 いつもの場所というのも、知るはずないような、当たり前のような、ほんのり霞がかった知識で向かうのだが、目的地に到着してみれば
「遅いぞー、新入り!」
 そう言いながら出迎えてくれたユグディラたちに肘で軽く小突かれた。
「ごめんなさい、ちょっとぼうっとしてたみたいで」
 そう頭を小さく下げると、
「まあ大丈夫さ、今日は木の実取りに行くぞー!」
「「おー!」」
 そんな風に柔らかな時間がはじまっていく。
 
 今は秋、実りの季節。幻獣たちの住む森も木の実やきのこ、他のさまざまな森の恵みでいっぱいだ。
 それをトングで拾いながら、背中の籠をいっぱいにしていく。冬になれば少なくなる食べ物を集めるのも大事な仕事だ。
 と、えっほえっほ、という声が聞こえてきた。
 声のする方を見てみれば、神輿を担いだユグディラたちが近づいてくる。
 更にその神輿の上には、(自称)幻獣王のチューダ(kz0173)もいた。チューダの神輿は自分たちの近くで止まると、ふふん、と嬉しそうに胸を反らせてみせる。……でっぷりしたお腹が強調されて、それはそれで威厳を感じさせるような気がした。
「おお、今年も森の実りはどっさりでありますな! けっこうけっこう! せっかくだし、我輩もご相伴にあずかりたいのであります! みんなで秋の味覚狩り、明日はそれを使った料理たっぷりのお祭りにするのであります!!」
 チューダは嬉しそうにいいながら、よだれをこぼしてみせる。もっとも、食い気がたっぷりなのはユグディラたちも変わらないから、みんなも飛び上がって
「「ありまぁーすっ!!」」
 嬉しそうに言いながらさっそく更なる実りをとりに向かった。Gacruxも、慌ててついていった。
 
「わ、こんな畑もあるんですね」
 Gacruxは目をきらきらさせる。そこにはりっぱな芋畑が広がっていた。引っこ抜けば、立派に実を太らせた芋がぞくぞく現れた。でも幻獣は人間よりものんきな生き物、あきてくれば地面にころころと自分たちが転がる。チューダはそれを見とがめて、声をかけた。
「おお、立派ないも……って、みんなも動くであります」
「でも俺たちよりハムスターの方が穴掘り上手じゃないかー?」
「そうだそうだー、チューダ様も掘ってー」
 ユグディラたちはのんきにそう言う。言われたチューダも負けられじと地面を掘ってもらうけれど、どうも余計なことしかしないのはチューダだからだろうか? とはいえ穴掘り名人のユキウサギも手伝ってくれた甲斐もあり、たっぷりと収穫は出来たのであった。
 
 川には鮭が遡上してくるらしい。様子を見に行けば、なるほど確かにりっぱな魚影がちらちらと見える。すでに捕まえた鮭もりっぱなものだ。
(美味しそう……)
 そうぼんやり思うも、近くにいた幻獣たちは木で出来たヘルメットで武装をしていた。何事かと思っていると、ザブンと言う音とともに怒った鮭が川から飛びはね、まるで散弾銃のようにイクラを放ってくる。
 思わず叫ぼうとする口の中にイクラが飛び込んできて、ついそのままもぐもぐ、うん、絶品。Gacruxは木のバケツに放たれたイクラをうまく拾い集めていった。
「新入り、なかなかやるな」
(これでもハンターで、鍛えてますからね)
 周囲の面々の言葉に、彼はそっと胸の中で応えた。


 そして翌日。
 料理上手な面々が腕を振るい、森の真ん中で大宴会だ。
 石焼き芋は割ってみればほくほくと湯気が上がる。蜜がたっぷりでもっちりと甘く、はふはふ言いながら食べるのが通というもの。
 大粒のイクラはきらきら輝き、まるで宝石だ。それがどっさりのったイクラ丼は贅沢きわまりないけれど、口に入れればほっぺたが落ちるほどおいしいから、ついついたっぷり食べてしまう。
 栗とさつまいもで作った甘い甘いモンブラン。
 山ぶどうを使った混じりっけなしの新鮮なジュースは、葉っぱのコップに注いでたっぷりいただきます。
 みんなみんな、秋の実りに感謝しながら、おなかいっぱいになるまでたっぷりたっぷりおなかに入れて。チューダは頬袋もたっぷり膨らませて。
 夕方になって毬栗の殻をひょいと渡され、Gacruxはちいさく首をかしげると、
「これにドングリを入れて、棒にくっつけて振れば楽器になるんだよ」
 流石先輩、祭りの作法には詳しい様子。これでマラカスを作ると言うことらしい。
 Gacruxも言われたとおりにマラカスをこしらえると、軽くシャカシャカと鳴らしてみる。その音を鳴らしながら、たき火を中心にして円を作り、ユグディラたちは踊り出す。一周外にはユキウサギ、他の幻獣たちもやんややんやの大喝采。
 チューダも満足そうに料理を食い散らかしているし、ああ、気がついてみれば果実酒なども振る舞われている。陽も落ちてきたからと言うことらしい。まさしく無礼講だ。

 誰も彼もが愉快に笑う。
 誰も彼もが幸せそうに笑う。
 でも、Gacruxの心の隅っこには、寂しそうな色があったかもしれない。
 だって――きっとこれは夢だから。
 でも、しあわせな夢だから。楽しい夢だから。
 今は笑おう、笑って楽しもう。
 しあわせな時間を、受け入れよう。
 
 ……またこの時間を楽しみたい、そう思いながら。
 

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
遅くなりましたが、発注ありがとうございました。
先だっての依頼を受けての、ということでしたので、ユグディラたちとin幻獣の森、というスタイルで書かせてもらいました。
こんな様子をきっと可愛らしいというのでしょうね。
PCさん自身はさまざまな経緯を経てのエピローグを迎えていると思いますが、もし幻獣だったなら……きっと穏やかな日常で楽しく過ごしたのでしょうか。
楽しんでもらえたなら幸いです。
では、重ねてありがとうございました。
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2019年10月18日

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