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『スウィート・スウィート・メモリアル 』
クララ・グラディスla0188)&紅迅 斬華la2548)& アイセラ・サンライトハートla2722)&三代 梓la2064)&アルバ・フィオーレla0549


 クララ・グラディス(la0188)はその赤い宝石のような瞳を見開いた。
 見つめる先には一軒の喫茶店。黒とオレンジを基調とした装飾を施された店では、若い女性を中心とした客が楽しそうに飲食を楽しんでいる。
 その店先に掲げられたボード、その文面に、クララは釘付けとなっていた。

『☆ハロウィン限定☆南瓜のブリュレ! みんなでシェアハピしよう!』

 ハロウィン。そう、ハロウィンである。
 なんだかんだ暑かった夏が過ぎ、永遠に続くかと思われた残暑もようやく和らぎ、秋が深まってきたこの季節。読書の秋、スポーツの秋、そして何より、食欲の秋。
 天高く馬肥ゆるこの時節に、今や世界的イベントと化しているハロウィーン。本来は年越しのお祭りだったり悪霊払いの儀式だったり収穫祭だったりするらしいが、いつの間にかそれらの催事的要因は鳴りを潜め、飲めや歌えのお祭り騒ぎ的な側面が強い。

 そう、ハロウィンとは、仮装して南瓜を使ったお菓子を食べる日、みたいになっていると言っても過言ではない!!(※甚だ過言である)

 南瓜のブリュレ、たべたい……!!
 クララはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 非常に残念なことに、ライセンサーとして日々活動しているクララには、仮装を作っている暇はない。かといって年に一度使うか使わないかの仮装グッズを買うのはなんとなく気がひける。
 クララだって女の子。イベントごとには敏感だ。仮装で参加できないのならば、せめてハロウィンっぽいお菓子を食べて、お祭り気分に浸りたい。
 いや、まぁ、正直なところ別段ハロウィンにこだわっているわけではないのだが、それはそれとして限定のお菓子は心惹かれるので食べたいのである。

 ガラス越しの店内では、南瓜色のお菓子を前にキャッキャと楽しげに写真を撮る若い女子がたくさんいる。件のブリュレも続々とホールに出撃しており、かわいらしくデコレーションされたそれらは見た目でも人々を楽しませている。

 が、しかしである。

(……大きい……!!)

 そう。問題の南瓜ブリュレは、直径15センチはあろうかという大きさの容器に並々と満たされ、これでもかという量の生クリームと、贅沢なほどのクッキー、マカロン、マフィン等の焼き菓子で飾り付けられた、「分けっこ」前提のメニューだったのである!!

 クララはゴクリと生唾を飲み込んだ。

 あれは、ヤバい。今目の前の席で3人組の女子に供されたそれは、カロリーの暴力を振りかざして堂々と鎮座ましましている。大胆に飾られたジャック・オー・ランタンを模したアイシングクッキーが、浅はかな少女たちを嘲笑っているようにすら見えた。うら若き乙女たちの顔が心なし引きつっているように見えるのは気のせいではあるまい。アレは、3人で食べるには、少々、……否、かなり多い。

 クララはたらりと冷や汗を流した。
 そうして、決意をたたえた瞳で、スマートフォンの画面を睨みつけるのだった。





「キャーッ!! ステキです!! かわいい!! かわいい!!!!」

 クララ決意の日より少し後。
 秋晴れの空の下、テンション高めの黄色い声が響き渡った。興奮に頬を薔薇色に染めた紅迅 斬華(la2548)の歓喜の声である。

「うふふ、お呼ばれなんて嬉しいわ。楽しみねぇ」

 ホワホワとした笑顔でおっとり呟くのは、大きめの紙袋を提げたアルバ・フィオーレ(la0549)。周囲にふわふわ花が飛んでいそうな様子で、頬に手を当てて微笑む様は見るものまで幸せな気分にする。

「ほわー!! これはテンション上がるッスね!!」

 自慢の耳をぴるぴる震わせて喜色満面のアイセラ・サンライトハート(la2722)は、店のディスプレイを眺めて人懐っこさ全開の笑顔を振りまいた。初対面の者ばかりだが、それを思わせないテンションの高さだ。もちろん、初対面の挨拶はしっかりバッチリ終わらせている。

「梓さんは所用でちょっと遅れるらしいよ。先に始めててって話だから、もうお店に入っちゃおうか」

 連絡の入ったスマホを見て、クララは期待を隠しきれない表情で一同を見渡す。
 それは他の皆も同じこと。主催者であるクララの声に、喜色に覆われた返事が重なった。

「いらっしゃいませー!」
「「「「おおー」」」」

 まず店内に足を踏み入れた4人を出迎えたのは、ハロウィン調に装飾された、華やかな店内。制服のエプロンの上にハロウィンにちなんだワッペンをつけた店員さんに出迎えられて、お祭り気分は最高潮である。

「あの、5人で予約していたグラディスなんですが……」
「はい、グラディス様ですね。こちらのお席にどうぞ!」

 おずおずと申し出たクララに、若い女性店員が百点満点のスマイルで応えた。店員先導の元案内されたのは、6人がけの大テーブル。前後に仕切りが設けられており、周囲の視線が気にならない作りになっているそこにも、ハロウィンにちなんだ装飾がそこかしこに飾られている。
 4人の少女たちのテンションはまた上がった。若いテンションは天井知らずだ。

「予約してたんですね」
「うん、人気のお店だったから。ちゃんとブリュレも予約してるよ!」
「さすがクララちゃんです!」

 斬華が感心したように頷き、クララもどこか誇らしげに応える。
 このような集まりなどほとんど経験したことのない斬華は、ニコニコしながらもどこかソワソワと落ち着かない様子。

「いやぁ〜、こんな集まりに呼んでもらえるなんてカンゲキッスよ!!」

 大きな体を存分に活かして喜びを表現するアイセラは、隣に座ったアルバとにこにこ笑い合う。

「ふふふ、そうね。花の魔女としては、秋の彩りをふんだんに使ったこのディスプレイ、嬉しい限りなのよ」
「あ、確かに! このお店、お花とか綺麗な色の木の実とか、いっぱい使ってるッスね!!」

 アルバが見つめる先には、イミテーションの秋の実りや、秋の草花を用いたフラワーアレンジメントが、ジャック・オー・ランタンを模した入れ物や、コウモリや黒猫などのハロウィンっぽい意匠を施された容器に飾り付けられている。ブドウや栗、カボチャのイミテーションを見ながら「美味しそうだな」と顔に書いてあるアイセラも、手の込んだそれらに感心しきりの様子。

「そうなの! ここはね、食べ物ももちろん美味しいんだけど、見た目にもとってもこだわってるのよ!」

 クララは我が事のように誇らしげだ。斬華はそんなクララを「かわいいなぁ」などと考えているのが駄々漏れの表情で見つめている。
 と、その時。4人の少女たちが座ったテーブルに、近付いてくる人影がひとつ。

「お待たせいたしました。こちら、季節のアフタヌーンティーでございます」
「え? まだ注文してな……」

 あまりにも自然に差し出された紅茶を見、唖然としながらそれを持ってきた店員を見、クララはぽかっとまん丸に目を見開いた。

「あっ、梓さん?!」
「「「?!」」」
「ハァ〜イ、お嬢さんたち。ご機嫌麗しゅう」

 いたずらっぽい笑顔を浮かべてひらりと手を振ったのは、なんと古式ゆかしき奥ゆかしいメイド服に身を包んだ三代 梓(la2064)であった。

「えっ、なんで梓さんが!?」
「ふふっ、実はね、お店にちょっぴり無理を言って、代わってもらったの。あなたたちをびっくりさせたくってね」

 パチンと華麗にウィンクを決めて、梓は「ドッキリ大成功!」なんて言いながら朗らかに笑う。そのままメイド服の裾をつまんでカーテシーを披露すれば、少女たちは嬉しげに色めき立った。

「はわー、すごい。ホンモノのメイドさんみたいッス!」
「みたい、じゃなくて本物のメイドさんよ」
「えっ、梓さん、メイドさんだったんですか?!」
「ええ、実はそうなのよ。びっくりした? 斬華ちゃん」
「それはもう!! もう、ほんっとに、びっくりしました!!」
「うふふふ、とっても賑やかね」

 女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものである。5人も集まればかしましいを通り越し、いっそやかましいほどである。まぁ、女性向けの喫茶店は大概このような調子であるので、浮いているわけでも他のお客に迷惑をかけているほどでもない。きゃっきゃと節度を保ってはしゃぎながら、初対面同士は簡単な自己紹介を、既知の間柄は挨拶を交わし、一通り騒いだ後。

「さぁさぁ、そろそろ今日のメインを頼みましょう」
「あっ、そうだね!!」

 いつの間にやらテキパキと給仕をしていた梓に促され、クララがハッとしてメニューを開く。
 一番目立つ場所には、件のブリュレが大々的に掲示されていた。
 デデン! と丸々1ページを用いて紹介されているそれは、看板メニューにふさわしく、ひときわ目を惹く。最近はやりの「ばえ」を前面に押し出したデザインは、なるほど、若い女性に人気そうだ。

「ひゃ〜、もう写真だけですっごいのが伝わってくるッスねぇ!」
「これはこれは……とっても楽しみなのだわ!」
「みんな、他に何かいるものはない?」
「私は大丈夫ですよ、クララちゃん」
「足りなかったら後から追加すればいいと思うわ」
「それもそうですね!」

 メニューを囲んで、あーだこーだと言いながら、それなりに時間をかけてページを捲る。結局頼むのは件のブリュレと、梓セレクトの紅茶のおかわりになった。

 大物は準備にも時間がかかる。注文したものが来るまでの間、5人は初対面が多いとは思えないほど会話に花を咲かせていた。

「へぇ、アルバさんは花屋を営んでらっしゃるのね」
「ええ! といっても、私の場合はどちらかといえば『花の魔女』と名乗った方がしっくり来るのだけれど。梓さんこそ、バーの経営者さんだなんてすごいのだわ!」
「そうなんですよ!! 梓さんはとってもかっこいい人なんです!!」
「あら、ありがと。斬華さんも素敵なお姉さんよ?」
「へ?! いや、そんな……!」
「あははは、斬華ちゃん、赤くなってるー!」
「はぇ!? も、もう! クララちゃん!! あっ、アイセラちゃん、お紅茶のおかわりは如何!?」
「えっボク!? えへへ、じゃあいただくッス!!」

 そうこうしているうちに、ついに待ちに待った本日のメインが、笑顔満面の店員さんにより運ばれてきた。

「お待たせいたしました!! 『ハロウィン限定! たっぷりカボチャのシェアはぴクレームブリュレ』です!」
「「「「「おお〜!!」」」」」

 カラカラと軽い音を立てて引き寄せられたワゴンの上に乗っていたのは、大きなココットにたっぷり入った南瓜のクレームブリュレ。上には白い生クリームがたっぷり盛られ、茶色いカラメルソースが彩りを添えている。
 小さなアイシングクッキーが生クリームを可愛らしく飾り付け、なんとクッキーで「HAPPY HALLOWEEN!」と文字が作られていた。ココットの周囲には、コウモリのスタンプが押されたマカロンや、栗や南瓜、さつまいもなどの秋の味覚をふんだんに使ったマフィンなどが配置され、食べ飽きない工夫が施されている。

「ふおおおお、これは、すごいッスねぇ!!」

 全身から「すごい」オーラを噴出させながらはしゃぐアイセラに、他の4人が追従して頷く。
 クララは一度実物を見ているのだが、目の前に出てきた迫力は、遠目に見た時とは段違いだ。量も、可愛さも、それを囲む楽しさも、想像していたよりずっとずっと上を行く。

「写真よりずっとかわいいのだわ〜!」
「これは……うん、他のものを頼まなくてよかったよ」
「そうッスか? これくらいペロッと食べれるッスよ!」
「アイセラちゃんはいっぱい食べるんですねぇ。足りなかったら言ってください、注文しますから!」
「うんうん、とりあえず、いただきましょ!」

 さりげない梓の采配によって全員に取り皿が行き渡った。
 いざ、ハロウィン限定パンプキンブリュレ、実食である。

 オレンジのブリュレをスプーンで掬えば、白い生クリームと輝くカラメルソースが滴らんばかりについてくる。少し硬めのブリュレは形を崩すことなく、スプーンの上で食べられるその時を今か今かと待っている。
 ほぅ、と誰ともなく息を吐く。麗しの乙女たちは誘われるようにふるりと揺れるそれを口へと運び。

「「「「「んん〜〜!!」」」」」

 頬を抑えて感嘆の声を響かせた。

「おいしい!」
「本当に! 甘すぎず、固すぎず、やわらかすぎず、これぞ絶妙ね! カラメルの程よい苦味がいいアクセントだわ〜」
「カボチャの風味が口の中に広がる……! はぁ、これぞ至福なのだわぁ……」
「!! これ、マフィンにつけて食べてもめちゃくちゃおいしいッス!!」
「ほんとだ! おいしいですねぇ。あ、アイセラちゃん、ほっぺたにクリームがついてますよ」
「んむ?」

 スイーツを目の前にした女子のやることは一つ。
 ひたすらスイーツと他愛ない会話を堪能する。これに尽きる。
 しばしとりとめのない雑談に花を咲かせていた一行だったが、あれだけ大量にあったブリュレに終わりが見えてきた頃、口の端にクリームを引っ付けたアイセラがこテリと首を傾げた。

「そういえば、この後はどうするッスか?」
「このあと、ですか?」
「ッス、まだまだ時間はたっぷりあるッスから、この後どこか行ったりするのかなぁって」

 斬華に口元を拭われるまま、されるがままのアイセラがニコニコ笑う。この時間がもっとずっと続けばいいと、声にせずとも表情が語っていた。

「……全然考えてなかった……」

 ブリュレを食べることが楽しみすぎて、それしか考えていなかったクララが呆然と呟く。隙をついて斬華がクララのカップに紅茶を注いでいた。至福なのがわかるニコニコ笑顔である。

「あ、なら、クララちゃんがよかったらなんだけど、私、クララちゃんのお唄が聴きたいのだわ」

 ほんわか笑顔のアルバは、妙案を思いついたとばかりに両手を合わせる。
 不意打ちで水を向けられたクララはわたわたと慌てて意味もなく両手を上下させている。

「えっ?! アルバさん!?」
「ああ、それはいいねぇ」
「梓さんまで……!!」
「いいですねぇ!! 私も聴きたいです、クララちゃんの唄!」
「斬華ちゃんまで……!!」
「ごめんなさい、嫌だったらやめるのだわ」
「そ、そんなことないけど……」

 クララとて、自身の誇りである唄を請われるのは嫌ではない。嫌ではないのだが、それを「友達」の前で披露するのは、なんというかこう、くすぐったいというか、気恥ずかしいというか、むず痒いというか。

「なら決まりッスね!! この後は、クララちゃんの唄の鑑賞会ッス!!」

 そんなクララの絶妙な乙女心を知ってか知らずか、アイセラが「楽しみッス!」なんて言いながら今後の予定を決定してしまった。
 ちょっぴり強引なそれも、なんとなく心地いいような気がして、クララは照れ臭そうに笑った。

 わいわい、きゃらきゃら、おいしいスイーツと楽しい話題で、時間は瞬く間に過ぎてゆく。
 女の子たちの甘い時間は、まだまだ続きそうである。


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グロリアスドライヴ
2019年10月21日

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