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『タスカービレの秋祭り』
ディーナ・フェルミka5843

 とんとん・ぴ〜ひょろろ、と祭囃子が鳴り響き、村の人々を呼び込んでいる。
 ここは同盟領の農業振興地「ジェオルジ」。
 その片田舎「タスカービレ」は秋祭りの真っ最中だった。
「はいよ、いらっしゃい」
「今日は東方風の祭だ。珍しいものがたくさんあるよ〜」
「りんご飴はいらんかね〜」
 通りにずらりと屋台が並び、人々はあちらにこちらにと顔を出して回遊している。
 そんな中に、白い女性聖導士の姿があった。
「ふ〜っ、何とかお祭りに間に合ったなの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)である。少しお疲れのようで、銀色の長髪に飾った紫色のリボンの蝶々部分もへにょ、とくたびれている。
「あっ。シスターさん、焼きたてをいかがですか?」
 そんなディーナを発見した屋台の親父が手招きする。
「焼きたてですの〜♪」
 ディーナ、もちろんふらふら〜っとそちらに吸い寄せられお買い上げ。
「はふはふ、おいひいれすの〜♪」
 焼きたてチクワにチーズを入れてとろ〜りと味わい深くなったのをぱくりと味わう。頬に手を添えうっとりとした笑顔を見せた。髪のリボンも少しふんわりとしてきた。
「はいはい、シスターお墨付きのチーズチクワだよ、美味しいよ!」
 待ってましたとばかりに屋台の旦那が周りに声を張り、ディーナの様子を見た客がどどどっと押し寄せた。
 これに他の屋台の旦那も黙ってはいない。
「こっちだって! ディーナのお嬢さん、チョコバナナはいかが?」
 ディーナ、今度はチョコとバナナの色合いよろしく豊饒な味わいが魅力の定番スイーツをお買い上げ。
「とってもおいしいですの〜♪」
 この様子を見た客が、今度はチョコバナナの屋台にどどどっ。
「ディーナちゃん、こっちも美味しいよ」
「道場のお嫁さん、たったいま焼けたのがあるぜ」
「可愛い聖導士さん、こっちにも寄ってよ!」
 ディーナ、大人気の引っ張りだこ。
 おかげでどこか別の国でハンター仕事をして帰って来たばかりだというのに両手に花……ではなく、おいしいものいっぱい。
「うんっ。やっぱりお祭りはいいものなの〜」
 長旅の疲れもどこへやら、この世の幸せを独占しているかのような笑顔を見せる。

 ディーナはハンターで、その仕事で出入りしていたころからタスカービレに縁がある。
 村人からはエクラ教のシスターだったり青竜紅刃流道場のお嫁さんだったりと、いろんな形で受け入れられている。もっとも、古くから知っている人は親しみを込めて「お嬢さん」と呼び続けているようだ。
 寒村だったタスカービレが復興するため、東方風の村づくりを始めて約5年が経過した。
 その頃、顔を出していたディーナはまだ成人して間もなくその風貌は無邪気で表情が豊かで可愛らしさを全身に纏っていた。
 今では少し面長になり大人びた様子になったが、全身から醸す可愛らしさはそのままだ。

「ディーナ?」
 ここで遠くから呼ぶ声が。
 幸せそうな笑顔でもきゅもきゅと屋台グルメ各種を味わっていたディーナが目を見開き顔を上げる。誰かは見ずとも分かっている。
 だから一直線に駆け寄った。
 声の主は、イ寺鑑(kz0175)。
「鑑さん、ただいまなの〜」
 いつものようにむぎゅりと抱き着く。
「お帰り、ディーナ。会いたかったよ」
「うんなのっ。私も会いたかったの。帰って来たばっかりなのにすぐに来て見つけてくれてうれしいのっ」
 むぎゅ。
「こういうところでディーナを探すのには慣れているからね」
「すごいの。私は鑑さん見つけるのに苦労するの。やっぱり鑑さんすごいの。でも鑑さんとはいろんな場所のお祭りに行ってるからそういうこともあるかもなの」
 むぎゅむぎゅ。
「何だかどの祭りに行っても屋台の売り子から人気で周りの人からも注目あびてるんだよね」
「そうなの? てっきり私が背が低くて鑑さんが背が高いからかと思ったなの」
 むぎゅむぎゅむ……。
「あ、鑑さんもこれ食べるの。おいしかったの」
「はいはい。あ〜ん」
「はい。あ〜ん、なの」
 抱き着いた後は手にしたおいしいものを鑑に勧める、までが定番。思わずにへ〜と笑顔が漏れてしまう。
「おいしい?」
「うん。おいしいよ」
「よかったなの。幸せなの〜」
「ディーナのそんな顔を見ると疲れが吹き飛ぶよ」
「もっといろんなものを探しに行くの♪」
「そうだね。一緒に歩こう」
 横から鑑に抱き着くと、腰に手が回される。
(いつも通りなの。鑑さんの手、優しくて温かいの)
 にへへ〜、と鑑の腰に手を回し一緒に屋台の通りを歩く。

 しかし、この密着感は長くは続かない。
「あ、りんご飴があるの〜」
 おいしそうなものを見付ければすぐにディーナは鑑の元を離れて行く。
「二つ下さいなの!」
「いや、一つでいいよ」
 注文したところ、後ろから鑑に訂正された。

「……」
「食べないの?」
 購入後、鑑の手をそっと握って歩いているとそう聞かれた。
「……鑑さん、りんご飴嫌いなの?」
「違うよ。りんご飴って、食べるのに時間がかかるからね。神楽公演までに食べきれるかどうか分からない」
 出演しなくちゃならないから、と鑑。
 これを聞いてほっとした。つなぐ手にぎゅっと力を込めた。
「姫のために買って帰ってもいいけど、それならもうちょっと後に買った方がいいからね」
 鑑、にっこり。
 なお、ディーナと鑑には子供が一人いる。女の子だ。
「そうなの、姫ちゃんも心配なの」
「大丈夫だよ。いつもの通り教会の幼稚園に預けてるから」
 ディーナがハンターで飛び回るため、子育て支援機関の充実は早くから手掛けている。とはいえ、ディーナがやったことは仕事先で故郷を失った人などにタスカービレを紹介しているだけなのだが。ともかく、そうして流入者が増加すれば、母親のコミュニティとして子育ての場が充実する。
「村長さんはじめ、村の人は教会保育園を作ったディーナにとっても感謝してるよ」
「にへへ〜。エクラ教が広まって嬉しいの……あ、そうなの。りんご飴、二人で食べれば早くなくなるの」
 はい、あーん、をすると鑑にまた否定された。
「ちょっと待って。ディーナが先に食べてて」
「鑑さん?」
「ほかにもっと食べたいものがあるから……こっちに来て」
 それなら仕方ないか、とりんご飴をなめるディーナ。が、すぐに鑑が何を食べたいか気になった。
 鑑は屋台通りから外れて、人のいない裏路地を抜けていく。
「鑑さん、何が食べたいの?」
「りんご飴」
 路地を抜けると、木立で囲まれた川沿いの広場に出た。周りから隔絶された小さな秘密基地のような場所だ。鑑、ディーナをベンチに座らせ自分も隣に収まった。
「それなら、あーん、なの」
「待って」
 ここでも止められた。紫のリボンがほどかれる。
「え〜、さっき食べたいっていったのおかしいの」
「いったよ。ディーナの唇についた、あま〜いりんご飴をね」
 沈黙。
 いや。
 ちゅっとかちゅぱっとか、飴をなめるような音はする。
「どう……なの?」
 沈黙。
 んちゅとかちゅぱ、とか。
 しばらく経過後。
 はふぅ、とディーナは悩ましく吐息を漏らす。
「とっても甘くておいしいよ」
 鑑の方は呼吸も乱さずにこにこしている。
 いや、真顔になってまたアップで迫って来た。
「本当に食べたいのは、ディーナだけど」
 もちろん後からね、と再びキス。
「おいしいと嬉しいの。一姫二太郎で女の子男の子男の子だといいの」
 暮れなずむ川沿いに遠く祭囃子の音。
 鑑の出番まで、二人きり。


   おしまい




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ディーナ・フェルミさま

 いつもお世話さまになっております。
 ディーナさんと鑑さん、そしてタスカービレの未来編をお送りします。

 ご覧のように会えないときもあるけれど、会えばいちゃいちゃ熱々です。
「鑑、この野郎! うらやましいじゃねぇかけしからん!」
 と胸ぐら掴みたくなったのは内緒です(

 娘さんは……。
 ディーナさんを見て育っているので自立心が強そう、かな。

 それにしてもディーナさんの可愛らしさ、未来になっても変わらないですね♪

 それでは、この度はご発注、ありがとうございました。
 読後にニッコリ笑顔になっていただければ幸いです。
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2019年10月21日

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