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『栄光の奇跡 ナンバーワンホスト誕生秘話』
神取 アウィンla3388


「それはまさに運命の出会いでした」
 後に店長はそう語った。

 これはアウィン・ノルデン(la3388)がホストクラブ『伽羅』のスターになるまでの歩みを赤裸々に綴った物語である。


 オレンジ色のハロウィンカラーに染まった街角で、運命の歯車は静かに回り始めた。
「……ああ、どうしよう……」
 繁華街の一角、一軒の洒落た店の前で、男が落ち着きなく往復運動を繰り返している。
 何かを探すように往来を見つめては、首を振り、頭を抱え、また縋るような目を往来に向けるその姿からは、困っていることは容易に想像できた。
(何かを落としたというわけでもなさそうだがーー)
 その様子に目を留めたアウィンは、躊躇いもなく男に近付く。
 助けを求める声なき声に、気付いてしまったからには素通りなど出来ようはずもない。
 それがアウィンという人物の本質だった。

 その小一時間後。

「いやぁキミ良いねぇ! やっぱり僕の目に狂いはなかったよ!」
 男が嬉しそうに何度も何度も頷いている。
 アウィンが見つめる姿見の中には、押し付けるように手渡された「ユニフォーム」に着替えた自分がいた。
 少々派手めなシルバーグレイの高級スーツに白手袋、ゴールドのピンで襟元を留めた黒シャツに濃紺のタイ。
 後ろに撫で付けた髪は前だけが額に垂れ掛かり、銀縁眼鏡の奥から冷たく光る双眸が無表情に見返している。
「その蔑むような目つき! クールな物言い! 他人を突き放すようなオーラ! キミ、よくドS眼鏡とか鬼畜眼鏡とか言われない? 言われるよね!?」
 本人にそのつもりはないが、他人からそう見えることは自覚している。
 だが、どうしてこうなったのか。

 男が店長を務めるその店、それは『伽羅』という名のホストクラブだった。

(ホスト、クラブ……)
 それがどういった施設なのか、アウィンにも多少の知識はある。
(確か男性店員が女性客をもてなすサロンのようなもの、だったか)
 愛読する無料求人情報誌でも、ホスト募集の案件は少なくない。
 だが応募したことは一度もないし、自分に務まるとも考えていなかったのだが。
(人助けとあらば仕方があるまい)
 そう、これは人助けだ。
 この店ではつい先頃、一番の稼ぎ頭、所謂「スター」と呼ばれる存在が急病で入院してしまったのだという。
 年末に向けて寒さが深まり、人恋しくなるこの季節、この業界にとってはこれからがベストシーズンだ。
 それに先駆け、集客イベントの第一弾として今まさにハロウィンパーティが鳴り物入りで始まろうかというその矢先に見舞われた悲劇。
 人手が足りずに困っていると泣きつかれ、拝み倒されれば、首を横に振るという選択肢はなかった。
 たとえそれが「ドSキャラのホスト」というポジションであっても。

 そう、『伽羅』はホストのそれぞれにキャラとしての属性が付与された、キャラ付けホストクラブなのだ。
「キミ、名前は? アウィン? 贅沢な名前だねぇ……というのは冗談だけど、ここじゃ源氏名を名乗るのが普通だからね」
 僕が付けてあげると、店長は煌びやかな照明が輝く天井に目を向けるーーまるでそこに答えが書かれているとでも言うように。
「アウィン、ア、アー……、アダム! そう、キミはアダムだ!」
 早速手渡されたネームプレートに書かれた文字は「仇夢」、それでアダムと読ませるようだ。

「へぇ、仇夢かぁ。ドSキャラにピッタリなカンジだね!」
 ひょっこりと顔を出した童顔の青年が人懐こく話しかけてくる。
 彼は「弟キャラ」の先輩ホストだ。
「そっか、これが初めてなんだ? ね、ちょっとやってみてよ」
 屈託のない笑顔で言われ、アウィンーーいや、仇夢は頭の中で台詞を組み立てる。
 ホストクラブでは客のことは姫と呼ぶのだと店長に聞いた。
 自分の中にドS要素は欠片もないが、世間が自分に抱くイメージならば多少の心当たりがある。
「……姫、貴女にはもう二度と顔を見せるなとお伝えした筈ですが(眼鏡キラーン!」
「うっひゃぁ!」
 弟君は背筋を這い上がる寒気に身を震わせる。
「敬語なのに言ってることは超失礼って、そのギャップがもうたまんない!」
 この子の辞書には慇懃無礼という言葉が載っていないようだが、それはさておき。
「しかし、これでは客に対して失礼ではないだろうか。怒ってそのまま帰ってしまうのではないか?」
「だーいじょぶ、姫達もここがどういう店かわかって来るんだし、むしろ期待に応えないほうが失礼ってカンジ?」
「ふむ、そういうものか」
 それでも気は咎めるが、それもサービスの一環ならば致し方なし。


 そして迎えた本番。
「……、…………」
 ドSキャラは黙って立っているだけでも絵になった。
 実は頭まっしろでフリーズしているだけとは誰も思わない。
「黙りなさい。貴女に拒否権などあると思っているのです?」
 注文を間違えてもドSキャラならそれで許される。
 万が一にも文句を言われようものなら、必殺の「これはお仕置きが必要ですね」攻撃で全てを解決するのがドSキャラ。
 最初は型通りの問答が目立っていたが、慣れてくるに連れてアドリブも決まるようになってくる。
「トリックオアトリート? 菓子を寄越せと言うなら、まずは姫。貴女がそれに足るものであるという価値を、私に証明して見せるべきでしょう」
 店内の体感温度が二度下がった。
「何もない? 呆れた御仁だ、己が無価値な存在であると自ら公言なさるとは」
 極限まで落とした低い声と、スーパークールな眼差し、加えて超美形。
 それは美形に罵られたいという願望を持つ姫達にとって、まさに理想の具現だった。
 仇夢は心の中で必死に土下座を繰り返し、キリキリと差し込む胃の痛みに耐えながらドSキャラを演じ続ける。
 そして遂にーー

「すごいよキミ、入店初日で売上ナンバーワンとかどんだけ持ってるの!」
 有頂天の店長は仇夢の両手をがっしと掴み、情熱のタンゴでも踊り出しそうな勢いで顔を近付けた。
「キミには是非ともこのまま正式に……!」
「いや、このイベント期間中だけという契約だっただろう」
 慣れない演技で疲れが出たのか、キリキリ痛む胃のせいか、突っぱねた仇夢の態度は演技ではないのにドSっぽい。
 もしや天然ドSが開花してしまった……わけではないと思いたいが。
「それにこれが終わる頃には入院している彼も戻れるのだろう?」
 そうなれば同じドSキャラ同士、客の奪い合いが起きることは避けられないーーたとえ仇夢の方に争う気がないとしても。
「まあ、そうなんだけどねぇ……」
 店長は名残惜しそうにしていたが、元々そういう契約だ。
「安心しろ、契約満了までは全力を尽くす」
 たとえこの胃に大穴が開こうとも。


 ところがーー
 クリスマスイベントの会場にも、仇夢の姿はあった。
「私はこの名の通り、夢に咲く仇花。姫よ、泡沫の夢に溺れてはいけない」
 のめり込みすぎて散財しかかる客に、仇夢は優しく声をかける。
 それは彼の本来の姿。
 もう胃痛に苦しむこともない。
 だが姫達の目には、眼鏡の奥に光る瞳は全てを突き放すように冷たく輝いて見えた。

 世話好きで人当たりの良いお人好し、だがその影に潜む自覚のない天然ドS。
 そのギャップは多くの姫をトリコにしてやまない。

 かくして、ここに史上最強の「オカンキャラ」ホストが誕生したのだったーー



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

いつもお世話になっております。
この度はご依頼ありがとうございました。

短期バイトだけでは勿体ないので、もう少しだけ続けてもらうことになりました。
お楽しみいただければ幸いです。
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グロリアスドライヴ
2019年10月28日

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