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『魔法の誘惑、時にはそのまま』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

●魔法と人形の店
 シリューナ・リュクテイア(3785)はファルス・ティレイラ(3733)を伴って魔法の人形や関連商品を売る知人の店にやってきた。
 店構えは落ち着いた石造りに青い窓枠や扉が映える。欧州の建築を思い起こさせる。
 扉を開けると、小さな鐘が鳴り来客を告げる。
 店内は狭く、照明を落としているため、薄暗い。壁や棚、テーブルは木製であり、ところどころにある敷布は重厚で、落ち着いた色調が多かった。
 人形はカウンターの近く棚に座り、客を迎える。
 カウンターの前にあるテーブルにはアクセサリーがある。テーブルの上に小箱やアクセサリーを掛ける什器にそれらは並んでいる。ディスプレイとして凝っており、見ているだけでも楽しいし、触りたくなる雰囲気もある。
 入口の近くに、大きめの品が並んでいる。服や鞄などがかけられた洋服掛けがある。
 シリューナにとっては見慣れた光景である。商品の入れ替わりや店主が今何に力を入れているのかなどに目が向いた。
 一方でティレイラは興味を引かれ、きょろきょろと店内を見ている。
 シリューナは女店主と挨拶を交わす。
「ティレ、私は話をしてくるから、ここにいなさいね」
「はい、お姉さま」
 シリューナは気もそぞろ。
「店の物は自由に触っていいですよ」
 店主はいう。
「ありがとうございます」
 ティレイラは店主に向かって頭を下げた。
 シリューナは店主とともに、奥の部屋に入る。事務所であり、店主などの休憩室になる場所だ。
 そこは店内の延長と言って過言ではない。店のような飾りはないが、家具類はまさに欧州の古い家のようだった。
 シリューナは店主に勧められた椅子に座る。
 ここから雑談が始まる。その雑談も、天気などについて語るだけではない。
 魔法のことに関わってくる。
 本題は新しい魔法の道具についての情報交換だ。
 店主が茶の準備を終え、椅子に座ったところで、その情報交換は始まる。
 深刻な話は重々しく、良い話は華やかに。
 雑談の延長で話は進む。互いに持つ話は異なるだけでなく、共通の物もある。話は広がり、終わらない。
 湯を沸かし、茶を淹れ直すのだった。

●試着
 ティレイラは店内をまずぐるりと歩き、人形や宝飾品などを見て回った。
 店に入ったときに目に入った指輪を手に取る。貴石は決して大きくはないが、目を引く輝きがあった。
「これは、リングの台が凝っているのね」
 一見すると太目の台だが、手に取ると、細かい模様が彫られているのが見えた。
 ティレイラは次にペンダントを手に取った。そのペンダントはずっしりとしている。
「これは魔法がかかっています……? まさか、重く感じるような魔法だったり……」
 そのようなことを思いたくなるぐらいずっしりとしている。
 試しにつけてみると、思いの外重さが気にならなかった。
「まさか……そういう、魔法?」
 ティレイラは置く。
「ここの店、魔法の人形が主なのですよね」
 ティレイラは棚の前に立つ。
「可愛いです」
 褒めたところ「ありがとう」と言われている気がした。
 人形たちには何かしらの魔法が関わっている。どういったものは明記されていないが、販売しても問題がないものが並んでいるはずだ。
 人形本体の素材は陶器や木など違いはある。大きさも子供が抱き締められるものから、子どもくらいの大きさがあるものまである。
 着ている服はそれぞれに似合っている。ドレスやどこかの民族衣装など様々だ。
 共通しているのは、手入れが行き届き、愛されてここにいるということだ。
「素敵」
 うっとりとして見つめると人形たちが何か言っている気がした。
 ふと、ティレイラは気付いた。入口に合った服は、人形と同じものもあったということに。
「人形とおそろいですね」
 一着手に取り、前に当ててみる。
 棚にある人形の一体と同じドレスだ。
「このドレスは私には小さい……」
 ドレスをハンガー掛けに戻した。
 シリューナが入った事務所とは別の扉がある。
 開けてみると、中は倉庫兼作業場のようになっていた。
 そこにも人形やドレス、アクセサリーなど様々置いてあった。
「ここも、きれい……布の匂いや花の匂いがします」
 生の花ではなく精油や香水などだ。棚にそれらが並んでいる。
 見て回るとテーブルの上に、ドレスをまとった人形がある。一メートルはないけれども、人形としては大きいと感じる。人形自体は陶器でできており、纏うドレスや宝石を使ったアクセサリーは精巧である。
 椅子に置いてあるドレスとテーブルの箱にアクセサリーがあること気づいた。ドレスの色を見てピンとくる。人形と同じものだろうということに。
「これは試着してもいいかな?」
 ドレスは直し途中という様子も見えないし、アクセサリー類も展示できそうな状態であった。
「着てみると、このお人形さんのような素敵なレディに近づけるかしら?」
 褒めたくなるほど、人形は美しい。少女のような大人のようなそれは淑女だ。
 早速ティレイラは試着してみる。
 ドレスはサイズがぴったりであった。さらりとした手触りや、少し動くと重なり合った布が動くさまが軽やかかつ優雅である。鏡を見て、髪を後ろにまとめ、だんご状にした。
 そうすると耳や首元がはっきりするし、ドレスに合う。首飾りとイヤリングをつける。
「本当にこの子とおそろいなんですね」
 人形と鏡に映る自分の姿を見比べた。
「私もレディかしら?」
 ティレイラは微笑み、ドレスの裾をつまみ、お辞儀をする。
 ドレスにもつけられている小さな貴石が煌めく。
 扇を持った貴婦人のようなポーズやダンスをするようなポーズなどとる。袖が揺れ、光が舞う。鏡の中を見ながら自分自身にどきどきする。ふわりふわりと白く、穏やかな光が散るような気がした。
 それはあくまで自身がつけている物と光源の都合だと考えていた。
 人形はただ立っているだけだった。それでも美しいのは、やはりドレスや宝飾品の精緻さだ。
 自身で試しても、思う、きれいだと。
 人形と同じ、人間と同じ、どちらも一緒、美しい……ということをたたえるように光が舞う。
 ふわりふわりと浮かぶ白い光、これはドレスにつけられた宝石が光を反射しているだけではない。魔力の輝きでもあるのだ。
 つまり、何かしらの魔法が発動してしまっている。
 魔法が動いているが、自身に集中しているティレイラは気付けない。
「はあ……お姉さまに……も見せたいかも……」
 うっとりと恋する乙女のように、手を胸の前で軽く組む。祈るように、そして、願うように。
 ティレイラは鏡に映る自分に魅了されるまま、白い光の中、陶器の人形になっていた。

●抵抗するなんてもったいない
 シリューナと店主の話は外が暗くなる閉店後まで続いていた。二人は時計を見てさすがに慌てた。
「ごめんなさいね、ついつい。興味深い話だったわ」
 店主も同じことを言う。
 それよりも、ティレイラが待ちくたびれている可能性を危惧した。
「帰るわよ、ティレ。……ティレ?」
 店内にはいないが、扉が開いているのを見て、そこにいるということはわかった。
「ティレ、勝手に入ると駄目よ。店といっても倉庫よ、ここ」
シリューナがのぞく。姿見の前に人間の等身大の人形があった。
「あらぁ!」
 シリューナはその人形を見て目を輝かせて近づく。彼女好みのオブジェだった。
「どうかしたの……あらぁ!」
 同じ驚きの言葉でも、店主の響きは別だった。
「これ、素敵ね! ただ、ティレに似ているわね」
「本人ですわ」
 店主は自身の額に手を当てた。店主が状況を推測し、説明する。
 ティレイラが着ているドレス、アクセサリーと同じものをまとった人形を見せた。
 人形とアクセサリーにそれぞれ違った魔法がかかっているという。その上、人形には意思に近いものがあり、衣類を着ている人の思いと共鳴してこうなるという。
「つまり、人形の素敵さにあこがれると、そのまま人形になってしまう、ということね」
 シリューナは理解した。
 もう一つが、アクセサリーにかけられている魔法だ。イヤリングは魅了の魔力がかけられているという。
「ああ、意味が分かったわ。さっきからあるこの働きかけね」
 シリューナは人形となったティレイラを見つけてから、ずっと魔法に対する抵抗を行っていたのだ。微力な魔力であり、簡単に屈することはない。
 しかし、敵意はないとはいえ、どのような意味があるかわからない魔法を受け入れるのは愚の骨頂だ。
「つまり、これは、ティレが『見て』と言っているのね」
 シリューナは解釈し、微笑した。
「いくら話すのが長かったとはいえ、人形化するのは早いわよね? あなたの店でそんな危険な物を扱うの?」
 店主が魔法の道具の扱いが慎重なのを知っているからこそ驚いた。
「偶然が重なると早くなるんです」
 店主は理論を説明する。
 人形に対するあこがれの気持ちが、強ければ強いほど早く人形化する。
 魅了の魔法は鏡にも反射する。つまり、自身の姿に魅了されていく可能性がある。
「……ティレ、つまり、自分の写った姿がこの美しい人形に似ているために、魅了され、また、同じになりたいと願ったということね」
 魔法の相乗効果は恐ろしい結果になりかねない。
「そうですわ……、え? シリューナさん!?」
 店主はシリューナの行動に目を見開いた。
 シリューナは抵抗をやめ、魔法の求めに応じているのだ。全身全霊、気持ちで、ティレイラを見ることにしたのだ。
「自分の姿に見とれ、そして、レディを夢見て、この姿なのね」
 ティレイラは社交界に出向いたお嬢様が、知り合いにあいさつでもするかのようなしぐさの途中だ。その途中というのがまた、物語の先を想像させ、また、ティレイラの愛らしさを倍増させる。
 可愛らしいだけでなく、美しい煌めきを持つ。
 ティレイラを眺めていたシリューナは、ティレイラの表情にも合点がいった。
「……被害? ……オブジェにされたとしても、このような表情はなかなか見ないわね」
 何らかのオブジェ化されるティレイラはおおむね、恐怖や怯え、悲しみなどに彩られていることが多い。
 今回は、うっとりとした表情だ。
「愛らしいし、恋する乙女のようね」
 シリューナはティレイラの頬に手を添える。陶器独特の冷たさが来る。しかし、良質な陶器を思い起こさせるようなぬくもりと柔らかさ、手に吸いつくような愛着がある。
「ああっ、何てきれいなの。この、なめらかさ、陶器の硬質さにある柔らかさ。なんというバランスなのかしら」
 そのまま、抱きしめる。腕の中のティレイラはひんやりとして冷たい。シリューナはそれを苦とはは感じない。
 むしろ、腕の中のティレイラが恥じらいで震えたかのように感じる。
 回した手は髪をアップにしてあらわになっている首から背に、背から素肌が見える腕に移動する。
 陶器の腕は普段と変わらないにも関わらず、ちょっとした衝撃にも折れてしまいそうなはかなさ、きゃしゃさがある。
 軽く組んだ手にシリューナは自身の両手を載せ、包み込むように握る。そして、身をかがめ、ティレイラの表情を見上げる。
「ああ、こんな姿を見たら、その場の異性はすべて跪くし、乙女たちは嫉妬の嵐になるわね」
 手を放し、後ろに回る。
 後ろから抱きしめる。髪の毛は硬質であるため、少し居心地は悪い。それでも、頬が当たるティレイラの耳元の陶器が触れるとぞくぞくした。

 ティレイラの鑑賞をするシリューナ。
 店主はシリューナが魔力の抵抗をやめていると理解した。
 いつまでこれが続くのか、魔力を抑える魔法を使うのはどうするか、タイミングに困っていた。
 シリューナがティレイラの鑑賞をやめるのは、深夜だった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございます。
 ドレス姿、きっと可愛らしいだろうということで、べた褒めしました。
 えとー、そういうことですよね!
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2019年10月28日

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