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『怪盗猫と白狼のスウィート・ハロウィンナイト』
高柳京四郎la0389)&テディ・ロジャーズla3698

 今夜は10月31日、ハロウィンの夜。
 「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」という魔法の呪文を唱えれば、お菓子がもらえる素敵な日。
 しかしここに、ただお菓子をもらうだけでは満足できないイタズラ娘が1人。

 星夜の下を、テディ・ロジャーズ(la3698)が歩いている。
 今夜の彼女は闇に溶けこむ怪盗テディ・ロニャーズ。黒猫の怪盗の仮装として、全身は黒のキャットスーツで包み、目には同色のアイマスクを付けている。猫耳と尻尾まで装着している気合いの入れようだ。
 厚底ブーツを履いた足が上機嫌にステップを踏み、その度に桃色のポニーテールと豊かな胸が軽く揺れた。
 片腕に提げているのは、大きなカボチャ型のバスケット。中には半分ほどお菓子が詰まっている。
 あちこちの家や店に忍びこみ、お菓子泥棒をしてきた成果だ。

 ふと、一軒の家がロニャーズの目に留まる。
 お化けの仮装をした子供達が玄関から尋ねると、人の良さそうな中年夫婦が扉を開け、ラッピングされたカラフルな包みのキャンディーを配っていた。
 ロニャーズの次のターゲットは決まった。目を細めて猫のように笑った彼女は、暗がりからそっと一軒家に忍び寄る。

 少し高い位置にある、カーテンの掛かっていない窓を発見。女性としては高い自分の身長を活かし、家の様子をこっそり窺う。
 リビングルームだ。
 部屋の電気は点いているが、夫婦の姿は見えない。
 そして机の上には、キャンディーが可愛くラッピングされた袋がいくつも置いてある。

 窓を触ると、鍵がかかっておらず簡単に開いた。
 あまり大きな窓ではないが、猫になった自分がくぐり抜けられないほどではない。
 ロニャーズはそう判断し、窓からするりと侵入する。

 抜き足差し足忍び足。
 机までたどり着くと、キャンディーの袋を1個手に取り、カボチャ型バスケットに入れる。
 静かに戻って窓に手をかけた彼女の背後で、扉が開く音。

「まあっ!?」

 夫婦の妻の方が、招かれざる客に驚いて声を上げた。
 ロニャーズは顔だけくるりと振り向き、イタズラっぽい笑顔を見せる。

「TRICK or TREAT? じゃなくてTRICK & TREATデス……Miaou♪」

 そのまま窓から華麗に脱出――しようとしたが、窓枠に足を取られ、外の地面に墜落。

「ミィ?!」

 ロニャーズが悲鳴を上げる。
 しかし幸いにも怪我はなく、追われる前に逃げていった。

「おやまあ、イタズラ好きの猫さんでしたねえ。お菓子が欲しいならいくらでもあげましたのに」

 家に残された夫婦は、元々ハロウィンのために用意していたお菓子を仮装した娘にあげるのは普通のことと認識したようだ。
 聞こえてきた悲鳴に心配をしたが、元気よく去って行った足音に安心し、その後は穏やかな夜を過ごした。



 こうしてお菓子泥棒を続け、ロニャーズのバスケットはお菓子で一杯になった。
 しかし、まだ足りない。それにまだ行っていない場所がある。
 それが、現在ロニャーズの前にあるお店。喫茶店『MOON』だ。

 正面から店内を覗くと、都合の良いことに客の姿はなかった。
 いるのはただ1人、店主の高柳京四郎(la0389)のみ。
 今日の彼は京四狼として、白い狼の仮装をしている。頭には白い狼の耳。背後には白いもふもふとした尻尾。手には肉球グローブまで填めている。
 灰色の紳士服を着た姿は様になっており、それに寒くなりだした秋の夜でも温かそうだ。

 さて、『MOON』にいる唯一の存在である京四狼は、椅子に座って目を閉じ、じっとしていた。
 客がいないので休んでいるのだろうか。寝ているのかもしれない。寝ているのならチャンスだとロニャーズは考える。

 京四狼の近くのテーブルに視線を移すと、美味しそうなカップケーキなどが銀のトレイに盛られてあった。
 まさにお菓子の山。
 あのカップケーキは彼の手作りなのだろうか。美味しそうだとロニャーズは思う。食べたい。

 そっと、そうっと、音を立てないように細心の注意を払って入り口の扉を開ける。
 京四狼は目を閉じたままだ。
 本当に寝ているのかもしれない。ロニャーズは正面から大胆に盗むことにして、店内に侵入。

 ロニャーズの鼓動が高まる。
 音を立てて京四狼を起こしたら一巻の終わりだ。
 美味しいお菓子まで距離は遠くない。
 京四狼に見つからないように、起こさないように――。

 そうやってお菓子と京四狼にばかり意識を取られていたのがまずかった。

 ロニャーズの体が客用のテーブルの1つにぶつかる。
 静かに歩こうとしてつま先立ちしていたロニャーズはバランスを崩した。

「ニャッ?!」

 尻餅をつき、バスケットが手から離れる。
 バスケットは大きな音を立てて床に落ち、コロコロと転がって盗んだお菓子をぶちまけた。

「No!」

 慌ててバスケットを取り、お菓子を拾い集める。
 お菓子は包装されている物ばかりであったため、食べられなくなった物はなさそうだ。
 ロニャーズはほっとする。

「大丈夫かい?」

「fineデス。……?!」

 差し出された手を取り、ロニャーズは立ち上がった。
 肉球の付いた白いもこもこした手だ。
 ロニャーズが視線を上げると、苦笑いしている京四狼と目が合う。

「おや、これは可愛い泥棒さんだねぇ? そのお菓子もどこかから盗んできたのかい?」

 実は京四狼、最初から起きていた。
 ロニャーズが自分に声をかけることもなく、黙って店内に入って来たので静観していると、どうもお菓子を盗もうとしていた様子。
 これはお仕置きが必要だ。

「OMG……」

 ロニャーズは逃げようにも、腕を痛くない程度にがっちり掴まれているため逃げられない。

「こんなにいっぱい盗んできて……それじゃあ、この用意していたお菓子はいらないかなぁ?」

 片手でロニャーズを確保したまま、あくまで穏やかな所作で、京四狼はお菓子を載せた銀のトレイを反対の手で持ち上げる。
 お菓子の中でもカップケーキは、お化けやカボチャの形のチョコレートが飾られており一際美味しそうだ。

「ミィーッ! WOLF・KEI!!!」

 ロニャーズの目はお菓子に釘付けだ。

「そのお菓子……よこせクダサイ!!」

 カップケーキにかぶり付きたくて、ロニャーズは必死に腕を伸ばす。
 しかし、京四狼がロニャーズからは手が届かないよう銀のトレイを離しているため、その甘さを味わうことはできない。
 こんなに近くにあるのに、あまりにも遠い。

「まったく、この泥棒猫ならぬ怪盗猫さんは……ふふふ」

 京四狼は優しく微笑んだ。
 ロニャーズがお菓子泥棒を反省するまで、もうしばらくはお預けだ。



「――sorryデス。お菓子を泥棒してごめんなさい」

「うん。明日ちゃんと、盗んできた所の人にも謝るんだよ?」

「ハイ……」

 いくらか時間が経過して落ち着いたロニャーズは、心からの反省の言葉を口にした。
 京四狼が手を離しても、お菓子を奪おうとする様子も逃げようとする様子もない。
 がっくりと頭を垂れている。

 京四狼はロニャーズに、椅子に座るよう促した。
 まだ俯いたままのロニャーズの前に、お菓子が山盛りになった銀のトレイを置く。
 はっと彼女は顔を上げた。

「いいんデスか?」

「『用意していた』と言っただろう?」

 おずおずとカップケーキに手を伸ばし、ひとかじり。甘い。美味しい!
 むしゃむしゃとあっという間にカップケーキ1つを平らげた。

 京四狼は穏やかにロニャーズを眺めながら、自分もゆっくりとカップケーキを食べている。

「お菓子をいっぱい食べたら、もう悪戯はしてはダメだよ?」

「ハイ!」

 笑顔が戻ったロニャーズの顔を見て、京四狼も嬉しそうに微笑んだ。

 今夜はハロウィン。
 美味しいお菓子で笑顔になれる、素敵な日なのだ。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 この度はハロウィンノベルのご発注、誠にありがとうございました。
 トリックとトリートに満ちた、美味しく素敵なハロウィンの夜をお届けします。
 でも、悪戯はほどほどに。優しい狼さんにお仕置きされてしまいますからね。
イベントノベル(パーティ) -
錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年10月28日

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