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『戦いの先に見ゆる、無残な自身の“もしもの”想い』
白鳥・瑞科8402

 夜の繁華街、一歩路地に踏み入れば闇の広がる別世界である。
 ある者は愛引きを、ある者は束と等価交換を、ある者は強欲のあまり力任せに奪う……そんな人の心がむき出しになっている場所なのだろうか?
 強欲、怨み、嫉妬等の強い負の感情が、誰もが本の世界でしか知らないケモノを生み出す。
「あらあら、下品極まりない性の塊ですわね。ですが――」
 タン、と地面を軽く蹴って白鳥・瑞科(8402)は、丈の短いマントの裾を翻しながら艶めかしい四肢は宙を舞いケモノの鼻先に足先で軽く蹴って更に飛び上がる。
「ガウッ!!」
 バクッ! と狼の様な頭部から伸びるマズルが開閉されるも空を喰らい、瑞科は柔らかな太ももの肉がニーソに乗った太ももがナイフをぶら下げたベルトの隙間から覗かせながらケモノの背後に着地すると、両手に握られているナイフで切り裂いた。
 街灯がパッと紅く染まり、ぬるりと粘液のある液体はゆっくりと電球を雨風から守るカバーを伝い柱を赤黒くなってゆく。
「鈍い事ですわね。まぁ、人の負の思いは無限に湧き出るのですから、アナタの様な存在が消えないのでしょうね」
 ピッタリとボディスーツの様な上着に教会の装飾が施され、長い杖を谷間に挟ませて美しい装飾が施されたプリーツスカートから伸びる白い足は、異性だけではなく同性でさえ視線を向けてしまう程の美しさだ。
 夜の狭い路地、ブーツの音を響かせながら瑞科は眼前にいる巨大なケモノを見上げると、口を開けて血に濡れた牙をむき出しにしながら肌寒い夜だからだろう。
 吐き出される白い息は、熱した鉄を水にいれたかの様に吐き出されると咆哮を上げた。
「やっぱりケモノ、見るところが違いますわね」
 獲物として見るケモノの碧眼は瑞科の豊満な身体に向けられており、本能のままに吠えると首輪がぬるりと艶めかしい色の触手が放たれた。
 シュッ、とケモノの視界から消えたかと思った瞬間――落下する衝撃で揺れる胸部が見えて思わず見とれてしまったが、プリーツスカートが多少捲れようが気にせずに真新しいナイフを手にする。
 視界には太ももの間から見えるお尻の肉、ハッと正気に戻ったケモノだったが白刃が闇夜に残像を残して煌めくと触手はなます切りにされてしまった。
「その力、その欲望……人々から集めて力を蓄えてもわたくしの前では、虫を潰すのに等しい位の力しかないようですわね」
 着地してカン、と杖を地面に突き立てポールダンスの要領でくるりと回ってケモノの方へ向くと、艶やかな朱色の唇を動かしながら余裕のある妖艶な笑みを浮かべながら呟いた。
「何、だとォォォォ!! お前にこの爪を突き立て、やわ肌を握りつぶして貫いてやりたい位にオレは、興奮しておる!」
 ガルルル、と唸りながら興奮して身体に熱が帯びてきたのだろう、先程よりも吐かれる息の量は多く湯気は真冬だと勘違いする程に白く広範囲に広がって空へと消える。
「“教会”が手こずっていると聞いていたのに……あぁ、とても残念ですわ」
 タンッ、と地面を蹴って弾丸の様に駈け出した瑞科は、ケモノが振るう巨大な爪をいとも容易く手にしている杖で受け流しながら懐に入る。
 リィン、杖に仕込まれた鈴が音色を闇色の路地に響くと――巨大なケモノの身体を穿つ。
「ほら、ね?」
 杖をゆっくりと左右に捻りながら引き抜き、痛みに悶えるケモノは地面に倒れると瑞科はその姿をただただ見下しながら言った。
 ヒュッ、と力強く杖を振って血を弾き飛ばすと、ピッと路地の壁に赤黒いシミが作られるとゆっくりと地面に向かって垂れる。
「うぅ……ッ!!」
 気に食わない、壊したい、服従させたい、ケモノにそう思わせる程の恍惚の表情を浮かべる瑞科をギロリと睨む。
 だが、実力の差は歴然であり――勝てぬと分かっていても本能が『そうしろ』と言わんばかりに血が耳でゴウゴウと音を立てながら、満身創痍の身体を動かす。
「……ぐっ、がぁぁぁぁ!!」
「ですから、もう決着は付いているのですわよ?」
 ケモノが咆哮した瞬間、目と鼻の先にある作られた彫刻の女神の様に整った瑞科の顔へ目掛けて手を伸ばす、が。
 届く前にだらり、と力無く下げられるとケモノの巨大な身体がゆっくりと横たわると、燃えて灰となって夜の帳で覆われた空へとバラバラになりながら舞い上がった。
「任務完了。わたくしを満足させられる程の存在はまだ――いえ、一生出会う事はないでしょうね」
 踵を返すと瑞科は、真夜中なのに騒がしい夜の繁華街を通って“教会”へ帰還する。

 あぁ、もし強力な相手が出たらどうされるのかしら?

 また、つまらない戦いで心を満たすかの様に“もしも”の事を考え始めた。

「あら〜まぁまぁ、可愛いわ、憎いわ、飼いたいわ」
 瑞科よりも劣るが、それなりに男性が振りかえるであろう美少女の姿をした存在は、小さな身に不つり合いな程に豊満な体形であった。
 いつもの自分より劣った相手であろうと、油断していた所に少女は白くて細い瑞科の四肢を凍らせた。
「ぐっ……」
 冷たさから痛みに変わり、そして青白く変色した指先は手袋で見えないがまるで四肢を切断されたかの様に感覚を失ってしまっている。
「素敵でしょ? 良いでしょ? お姉さんを愛してあげる」
 少女の唇が瑞科の唇に触れると、舌に細かなトゲが付いているかの様な感触がして思わず唇をキュッと噛み締める。
 執拗に舐める少女の姿をした存在は、まるで人の身体を分かっているかの様に涎で濡れた部分に指先で優しく撫でると、熱を帯びた吐息と痛いハズなのに快楽を感じてしまう。
 決して、裸にさせるとか服を破るなんて下品な事をしない少女は、ピッチリとした服の上から与える刺激は痛みと初めて知る喜びの様な感覚である。
「知っているのよ。私ね、痛みを与えながら、嬉しい事をすると堕ちるのよ?」
 少女の小さな手では掴めない程の果実を潰さんとする程の力で握り締めながら言うと、猫が毛づくろいするかの様にペロペロと舐める。
「んん……ッ!」
 痛い、痛い、痛い!
 ミンチの肉を潰すかの様に指の間から零れる肉、痛さに言葉にならぬ呻き声を漏らすと同時にフッと痛みの中にある“喜び”が襲ってきて堕ちそうになる。
「まぁ、だらしない……けど、その顔は好きよ」
 少女が手鏡を瑞科に向けると、鏡に映った彼女の顔は痛いハズなのにだらしなく涎が口の端から垂らしながら口元は笑みを作っていた。
 胸が終われば腹部、次は臀部……と拷問だけならまだしも少女は、鞭を与えながら一滴の甘い蜜を与えてくるので痛いのにたった一滴の蜜に瑞科の心は支配されてゆく。
(あ、あぁ……痛い、痛い、痛い……あぁっ!!! この甘い感覚が、最高ですわぁ……)
 痛みに声を漏らしながらも瑞科は、甘い感覚に溺れて少女の姿をした存在の手の中で堕ちる。

 もっと、もっと! と、叫びたいのを我慢して、言ってしまえば終わりだと本能で察しているから――……


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
またノミネートを発注していただきありがとうございます。
戦闘は好きなので、楽しく書かせていただきました。
今回の“もしも”は、少し趣向を変えさせていただきました。
単純な痛みでの蹂躙ではなく、鞭と鞭と飴みたいな瑞科の魅力である部分をメインにしております。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
東京怪談ノベル(シングル) -
紅玉 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年10月30日

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