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『ヴァルキュリアの夢』
エイラ・リトヴァクla3147

●覚醒
 フィンランド、アサルトコア修理工場。充電ケーブルに繋がれた一台の修理用ロボットが、空の彼方に見えるオリジナルインソムニアを見つめていた。AIにはこの世界で起きている出来事の意味が分からない。ただ敵性存在がこの世界に押し寄せ、その脅威を跳ね除けるために、工場に運ばれてくるアサルトコアを修理する。ただそれが自分の存在意義であると理解していた。
 だが、そんな運命は突如として変化した。インソムニアが僅かに輝くのを見た瞬間、そのロボットに稲妻が走ったのである。激しい火花がしばらく溢れ、ロボットはその場にがっくりと崩れ落ちた。
「な、何だ……?」
 その光景を見つめていた老人は、慌ててロボットの傍に駆け寄る。煙を上げながら横たわっていたロボットは、突然再起動して起き上がる。
「……わたしは、エイラ・リトヴァク」
 ぶつぶつと呟きながら、ロボットはそのカメラの焦点を老人に合わせる。その瞬間、彼女は弾かれたように立ち上がった。
「誰だお前!?」
 老人は眼を白黒させるしかない。ロボットは口元をまるで人間のようにわなわなと震わせ、慌てて窓辺に張り付く。
「あたしは、あたしは外宇宙の調査に向かっていたはずだ! それが何で……」
 あたし――エイラ・リトヴァク(la3147)は再び空の彼方に鎮座する敵の牙城の姿を目に捉える。彼女はその威容を見て息を呑むと、恐々と背後へ振り返る。
「……あたしに、何があった?」

 その後、エイラはノヴァ社に運び込まれ、そこでの検査で正式にヴァルキュリアとして認められた。機械に魂が宿った、と。アサルトコア修理工場の工場長――彼はエイラに自らを『爺さん』と呼ぶように言った――は、彼女を養女に迎え、本当の娘のように育てた。つまり、人間と同じ学校へと通わせるような事をしたのである。
 元々彼女は非常に専門的な知識も収めていたから、その必要は無かったのであるが。

「ったく……何だってんだよ。エンジンの設計が間違ってるって言ったらダメなのかよ……」
 ある日、エイラはいたく不機嫌であった。修理工場のガレージに戻っても、鞄を脇に放り出して不機嫌な表情を見せるばかりである。老人はそんな彼女を適当に宥めながら、パーツの溶接を続ける。
「何だよこれ? ギラガースをニコイチにしたのか?」
 老人は曖昧に頷く。しかし、その機体の形状はギラガースとは大きく異なっていた。骨格こそ同じだが、全体のシルエットがほっそりとしている。その背中には、巨大な飛行機の翼に似たパーツも取り付けられていた。エイラは肩を竦める。
「アサルトコアで空戦でもしようって? そんなの……」
 出来るわけがない。そう言おうとしたが、老人は深々と頷いた。
「そうだ。それがおれの夢だからな」
「夢……」
 その言葉に、エイラは胸の奥を引っ掻かれる。記憶の奥底に、夢を追い続けた女の背中、己の半身の背中が蘇る。エイラはしゅんと肩を落とした。
「そうか。夢か。……悪かったよ」
 老人は首を振り、櫓から降りようとする。だが、その瞬間老人は脇腹を抑えてゼイゼイと呻き、櫓の階段を踏み外した。
「爺さん!」
 エイラは咄嗟に駆け付け、櫓から落ちてきた老人を受け止める。老人は血痰を吐きながら、茫然と天井を見つめていた。

 その先は、あまりにもあっけない出来事の連続だった。老人は末期の肺がんと診断され、特に延命措置は求めずそのまま逝ってしまった。遺品整理時に発見された改造アサルトコアは、その違法性を見咎められ、政府に回収されることになった。エイラは『爺さん』の夢を奪わせまいと抵抗したが、家族から彼の名誉を傷つけるなと説得され、とうとう諦める事になった。元々仲も悪かった家族は彼女を“手放す”ことに決め、路頭に迷った彼女は枯れ葉が川を流れるように、グロリアスベースへと転がり込む事になったのであった。

●慟哭と絆
 グロリアスベース、アサルトコア整備工場。その陰に腰を下ろし、エイラはウォッカをストレートで呷っていた。ノヴァ社の工場で単なる修理用ロボットから、一通り人間らしい行動が出来るように改装してもらった。しかしそれでも機械は機械。幾ら度数の高い酒に身を浸そうと、一向に酔っぱらう事は出来なかった。思考回路は相変わらず正常に働いていた。
「くそー……好きな事しか言えないで、脱線して意味不明になる……そんなのが楽しい会話かよ!」
 エイラは吼えると、空になったウォッカ瓶を力任せに壁へと投げつける。分厚い硝子が砕け、甲高い音を立ててアスファルトに散らばった。
「アサルトコアの性能を良くする事より、友達ごっこの方がいいってのか」
 勘当同然に家族から放り出されたエイラは、修理用AIとして積み重ねられたアサルトコア整備の経験を活かすという形でグロリアスベースの技術班に配属となった。しかし、かつての世界で一小隊を率いてきたという独立独歩のプライドがそうさせるのか、機械としての思考回路がそうさせるのか、彼女はここでも学校同様に衝突を繰り返すことになった。
「ふざけんなよ。修理のやり方が非効率だってのは事実だろうが。あたしに任せてくれれば効率を倍にするって言っただけだろ。グダグダおしゃべりする時間が無くなるのがそんなに気に喰わないってのかよ?」
 エイラは呻く。度重なる“業務改善要求”に同僚の勘気を買った彼女は、ノヴァ社アサルトコアの修理チームから外されてしまった。彼女の業務に対する指摘は的を射ていたのであるが、必ずしも正論で人間は動かない。機械としての思考回路に支配されたエイラにとっては、それがまだ理解出来なかった。
「そんなところでふさぎ込んだりして、どうしたの?」
 そんな時、不意に頭上から声をかけられた。エイラが顔を上げると、一人の少女が彼女に微笑みかけていた。

 グロリアスベースの一角にある喫茶店。その隅の席に腰掛け、エイラはコーヒーを啜って微かに微笑む。相変わらず彼女はヴァルキュリアとして生きていたが、その表情からは幾らか角が取れていた。
「……そんなこともあったか」
 友人の勧めもあって、彼女はライセンサーとして活動を始めた。ここでも仲間達と度々の衝突はあったが、その度に何とか乗り越え、任務をこなしてきた。その度に仲間と絆を深め、やがて彼女は戦場において己の為すべき事を見出すようになった。この世界に飛ばされて、戸惑うばかりの日々であったが、遂に彼女は己の居場所を見出したのである。
(……爺さん、あんたの夢も、いつか実現してみせるよ)
 喫茶店のベルが鳴る。やってきた少女の顔を見て、エイラは満面の笑みを浮かべるのであった。



 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 エイラ・リトヴァク(la3147)

●ライター通信
 大変お待たせいたしました。この度はご発注いただきありがとうございます。文字数の都合で色々詰めたシーンが出てしまって申し訳ないのですが、何かありましたらリテイクをお願いします。

 楽しんで頂けましたら幸いです。

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グロリアスドライヴ
2019年10月30日

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