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『蒼焔は未だ燃え尽きず』
ネムリアス=レスティングスla1966

 ――ここはどこだろう――

 青い空の下で、ネムリアス=レスティングス(la1966)は思った。
 どうやら自分は寝転がっているようだ。
 顔を横に向けると、なだらかな起伏を描く草原が遠くまで続き、豊かな森がその向こうに見える。
 涼やかな風が心地良く、優しげでいてどこか物悲しい音楽がどこからか聞こえている。
 全てが自然で、調和が取れていて、とても穏やかだ。ずっとここにいたいとさえ思わせる。
 反対側に首を回すと、女性の顔がネムリアスの顔を覗き込み、彼に微笑みかけた。

 己の母のように慕った女性。
 ネムリアスは今、その女性に膝枕をされていたのだった。

 
 彼女の微笑みはネムリアスを無条件で許し、受け入れてくれているようで。
 ――ああ、全て終わったんだな――
 そんな思いが湧き上がる。
 俺は正しいことをした。
 コレで良かったんだ。
 『今度こそ』、本当に眠れる――。
 母と慕う人のぬくもりに包まれて、ネムリアスは目を閉じる。
 何もかも、終わったんだ。

 『貴方は優しい子だから、いつか幸せに』

 彼女の言葉が聞こえ、ネムリアスはハッと目を開けた。
 微笑んだ彼女はネムリアスを覗き込んだままだ。
 だけどネムリアスは気付いてしまう。彼女の微笑みが悲しげなことに。
 ああ、そうだ。
 あの言葉は、彼女の遺言だった。

 それにもかかわらず、ネムリアスは自分を許せずこの道を歩んだ。
 そこに後悔も未練もない――はずなのに、遺言が忘れられず心に残っている。
 こうして思い出してしまうのは、まだ迷っているから?
 それとも、遺言を蔑ろにしていることに罪悪感があるからだろうか。
 あるいはその両方かもしれない。
 答を求めるかのように彼女に手を伸ばすが、その手には何も触れず、何も掴むことはなかった。
 彼女の姿はかき消えてしまい、ネムリアスは一人取り残されていた。
 何故かあまり失望を感じないまま起き上がり、握った拳を開くネムリアス。
 やはり何もない。
 彼女の欠片も、答の断片も。
 そしてネムリアスは理解した。

 ――これは夢だ。
 まだ何も終わってなどいない。

 その瞬間、世界が崩れた。
 青空も草原もガラガラと壊れ、地面から黒い奔流が溢れた。
 穏やかだった世界が黒一色の闇の世界にとって代わる。
 幸せな夢を見る資格など自分にはないと戒めるかのように。
 彼女のいた温かなあの世界は、心の奥底でネムリアスが望んでいた世界。
 全てを終わらせて、安らかに眠りたいという願望。
 叶う訳がないと知っている、だからこその願望。
 そう、恩人を、無辜の人々を犠牲にしてきた自分が、安らかな最期を迎えようなどと望めるはずがないと、分かっている。
 心の平穏に向かう全てを拒絶して、ネムリアスは闇を見据えてしっかと立ち上がった。

「俺はこんな所で立ち止まっている場合じゃない」

 闇の中に蒼焔が燃え上がる。炎の色だけが、その世界で鮮やかに。
 炎を武器のように振るい、ネムリアスは己を取り巻く闇を切り裂いた。
 足を踏み出し、前へ進む。
 しかし闇は消えず、進んでいるのかも分からない。
 構わずネムリアスは闇を切り裂き続け、前に進み続けた。

「――っ!」
 ネムリアスは目覚めた。
 眼に広がる青空は夢の続きかと一瞬思ったが、重い体と最悪な気分が彼を現実に引き戻す。
(夢を見てたのか……)
 ひたひたと寄せる水を、横たわった身体の下に感じた。
「つっ……!!」
 少し動かすだけでも痛みが全身を苛む。だがどうにか上体を起こした。
 体を引きずりながら、波の届かない所まで移動する。
「どうやら、死にぞこなったようだな……」
 生きていることを確認するかのように愚痴っぽくつぶやいた。
 あのまま死んでいたら、彼女のいるあの穏やかな世界に行けたのだろうか。
 そんな思いがよぎったが、ネムリアスはその思いを頭から追い出した。
 感傷に浸ってどうする。願っても詮無いことを願うのは無意味だ。

 そこは見知らぬ浜辺で、燃え尽きた要塞の残骸があちこちに流れ着いていた。
 ふと、すぐ傍にいつも被っている仮面が落ちている。さすがに汚れていて所々欠けていたり傷が付いたりしていたが、間違いなく彼が着けていた仮面だった。
 失くしたと思っていたのに。
 あの爆発で壊れていなかったのも驚きだが、自分と同じ所に漂着したのも驚きだ。
 運命のなせる業かただの偶然か。
 まだ己は己自身で決めた道行きから逃れることはできないと、そういうことか。

(まだ、俺にはやらなければならないことがある)

 ネムリアスは仮面を拾い、よろめきながら立ち上がった。
 そして歩き出す。

 果たすべき復讐への道に向かって。

 己を憎み、母の言葉に苦悩し、本当は安らぎを求めていると知っても。
 友が命を賭けて止めてくれていたと知っても。
 それでも、己という存在と決着をつけるため、前に進む。
 生きている限り、自分はそれをしなければならない。
 今はまだ――、それが正しい道だと信じて。

 ネムリアスの足跡が、白い砂浜にどこまでも続いていた――。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご注文ありがとうございました!

今回は心情がメインで、上手くネムリアスさんの心の内を表現できていたらいいのですが。
気に入っていただけますように。

どこかご不満な部分や「なんか違う」と思われる部分がありましたら、些細なことでも構いません、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。

またご注文いただけたら嬉しいです。
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久遠由純 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年10月31日

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