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『東方の月は明るく優しくて』
弓月・小太ka4679

「わあっ、すっごい。小太さん、あそこの木、全部おいでおいでしてる!」
 フラ・キャンディ(kz0121)が遠くを指差して興奮している。
「フラさん、あれはタケっていうんですよぉ」
 横を歩く弓月・小太(ka4679)はちょっとびっくりしていた。
「しなやかですからちょっとの風でもあんなになびくんです」
「へーっ。ボク、初めて見た」
 簡単な説明でもフラは新鮮な反応をする。
「里から出て一人でいろんなものを見たけど、やっぱり東方は違うんだね」
 小太、この言葉に反応してつないでいた手をきゅっと強く握った。
 そうして歩くうち、神社に着いた。
「わー。犬の像がある〜」
「狛犬っていうんですよぉ、フラさん」
「さっきくぐったのは?」
「鳥居ですねぇ」
「あっちの奥にもあるよ?」
「一の鳥居、二の鳥居といって、境内の参道にいくつかあるんですよぉ」
「それじゃ早速次に……」
「ち、ちょっと待ってください」
 手をつないで先を急ぐフラを止めた。
「どうしたの?」
「まずはここで手を洗うんですよお」
 今度は小太がこっちですぅとフラを連れて行く。
「へえっ、なんだか行儀がいいんだね」
「そういう場所ですからねぇ」
 ぱしゃぱしゃと柄杓を使い作法に従って手を洗うと、フラが周りを改めて見回した。
「もしかして……ここって精霊さんか何かがいるよね?」
「か、神様を祀ってますからぁ」
 そういえば神社の説明をしてなかった、と思った時だった。
 フラが一人で駆け出し、境内にたたずむ一本の古い大木の前に立って両手を胸の前で組み祈りを捧げるようにした。
「フラさん?」
「古い樹が穏やかに土地を育んでる……立派な場所だから、神様も居心地が良さそうだね」
 これを聞いて思わずフラの組んだ両手を優しく自分の両手で包み込んだ。
「小太さん?」
「フラさんにそういってもらえて、うれしいですよぉ」
 見つめ合う二人。
 しかし、その時間は長くなかった。
「あれ?」
 遠くで掃き掃除をしていた巫女に見つかったのだ。
「もしかして、小太?」
「ふ、ふわっ?」
 姉だ。久し振りに会ったのでびっくりしている。
「え? 小太さん……え、えっ?!」
 横ではフラはきょとんとしているばかりだ。

 それからはドタバタ。
 小太の実家は古くから続く神社だ。
「そ、その……この人はフラさんっていって……里の掟で一人旅に出てて戻ることが許されなくて、それで一緒に冒険してて……」
 改めて実家の敷居をまたぎ畳の間の座布団に座り、両親と二人の姉を前にフラを紹介する。
 しどろもどろのなのは家族がすぐに様子がおかしいと気付き身を改めて聞いているからだ。
「ボクのこと、いつも気に掛けてくれてるんです」
 フラはいつもの通り無邪気に、にっこり。
 ここで姉二人が可愛い彼女じゃない、隅に置けないわねーと探りを入れてきた。
 父は、「いつも」の言葉に反応してフラに注目している。
 母は、まあ、と両手を合わせてやはりフラの方に期待の視線。
 そう。
 期待されている。
(こ、このままではフラさんが質問攻めに遭いますよぉ)
 小太、意を決し頭を下げた。
「そ、その……フラさんは大切な人で……ずっと一緒にいると約束をした人で……」
 ちら、と視線を上げると全員の視線とぶつかった。
 途端に真っ赤になる小太。
 しかし、引かない。
 もう一度頭を下げ平伏して言い切った!
「お、お許しいただければ家族にお迎えしたい人ですっ」
「ボ、ボクも……小太さんと一緒にいたいですっ」
 フラも健気に見よう見まねで平伏した。

「ねえ、小太さん?」
「ど、どうしましたぁ?」
 その後、着物に着替えたフラを故郷の町巡りに連れて出た。
 一緒に歩いているとフラが聞いていきた。
「小太さんのお姉さんたちが言ってた『後は若い二人にお任せましょう』って、どういう意味?」
「ふ、ふわっ?!」
(よ、よりによってそれですかぁ?)
 ど、どう説明したら、とわたわた。
 そこへ周りから声がかかった。
「あら、小太ちゃん? 大きくなって」
「あらまあ、お宮さんの……ちょっと寄ってらっしゃい」
 そんなこんなで、近所の人に挨拶しつつお団子を食べたり反物屋や土産屋をのぞいてみたりと観光した。
「これが小太さんの過ごしてた町なんだね〜。ボク、気に入っちゃった♪」
 お昼にうどんを食べつつフラがにこにこ。
「そ、それは良かったですよぉ。……その、昔は酷いことばかりしてた友達もフラさんを見ると態度が変わってましたねぇ」
「そうなの? いい人ばっかりだったよ?」
「む、昔は僕が今以上に引っ込み思案だったから……」
 気弱だったこと、よく虐められていたこと、そして姉たちが仕返ししていたことを話した。ほかの人には絶対に話さない、懐かしい記憶。
「あ。だからお姉さんたちに頭が上がらない感じだったんだね」
「え?! わ、分かるんですかぁ?」
 小太、図星。フラは笑う。
「うん。ボクも頭が上がらなかった人はいるからね」
「こ、今度それを話してくださいよぉ。こういうのはおあいこですからぁ」
 弾む会話。
 内面のわだかまりを話し、それを受け入れてくれる。
 うどんの出汁のようにほっこりした安心感。
(フラさんに来てもらって本当に良かったですよぉ)
 上げた顔に、満足感。
 隣でフラも笑みをたたえている。

 夜は実家に泊まった。
 姉たちに風呂は一緒じゃないのか、それとも昔みたいに姉と入るのかとからかわれもしたが、普通に過ごした。
 そして、窓辺で二人きり。
 並んで見上げれば、満月が明るかった。。
「夕食、どうでしたかぁ?」
「うん。美味しかったよ。お味噌汁が特に良かった♪」
 思わずきゅっと手を握り締める。
「……ありがとう」
 改めて呟くフラ。
「ボクね、里ではほかの子どもたちからは『百年目のエルフ』だからって、敬遠されてたんだ」
 月を見上げてフラが言う。
「一人で大人に呼ばれて厳しく指導されてたから……一緒に遊ぶ時間も少なかったし。……その中でこっそり会ってくれる子もいて……」
 あるいは握った手の、決して一人にさせないよ、という気持ちが伝わったか。
「ボクもそうなりたい、誰かを気遣っていたいって思ってたけど……自分勝手でダメだったみたい」
 少し涙目。
 小太、顔を近付けフラの目尻ににじんだ涙を指先で優しく拭いてやる。月は明るい。
「フラさん……」
「でも、もういいかなって」
 こちらを見上げるフラ。近い。すっと両腕の中に納まった。浴衣の布地の感触と柔らかい肌。月は明るい。
 再び見上げるフラ。表情は明るい。
「だって、小太さんがいるんだもん」
 小さな顎を少し上げる。吐息をつくようにすぼめられる淡い唇。月は明るい。
「小太さんがいる……ボクも、小太さんを一人ぼっちにさせないから」
 腕の中で伸びあがる感触。体にフラの胸の膨らみを感じる。身を預けるように擦り上がり顔がさらに近くなる。湯上りの香り。フラの吐息。
 月に雲がかかった。
 その時。
「フラさん……」
「……ん、ん」
 抱き締めながらの、キス。
 小太から。
 そしてフラからも。
 薄闇の中、右に左に顔が入れ替わる。
 やがて雲が行く。
 キスの余韻に、フラが腰を落ち着けて吐息をついた。
「フラさん」
 そこでもう一度声をかけた。
 上目遣いで期待するフラ。
「改めて……これからも、その、ずっとよろしくですぅ」
 はっきりした言葉と、抱き締めながらのキス。喜び求めるように抱き着くフラ。
 月は、明るい。


   おしまい




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
弓月・小太さま

 いつもお世話さまになっております。
 フラちゃんを連れての里帰りは、シナリオで小太さんが約束されてましたね。
 序盤の描写がやや長くなり迷いましたが、フラちゃんきっと神社気に入るよな〜とか思ってそのままです。
 でもって、フラちゃんてばすっかりキスが気に入ったようですね。きっとねこれまで甘える人がいなかったからその反動でしょう。小太さんはおしとやかなキスを望みそうですが、フラちゃんはちゅっちゅとおねだりなのです(
 ではでは、素敵な一夜をお過ごしください。

 この度はご発注、ありがとうございました♪
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2019年11月05日

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