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『居酒屋・女子会の夜』
泉興京 桜子aa0936)&紫 征四郎aa0076)&時鳥 蛍aa1371

 紫 征四郎(aa0076)がお店の入り口の扉を開けると、落ち着いた内装と温かな間接照明が彼女を出迎えた。
「おお……いい雰囲気ですね、蛍」
 振り返り、後ろについて来ていた時鳥 蛍(aa1371)に笑いかけると、蛍も微笑んで「うん」と頷いた。
「桜子は先に来ているようなのです。私たちも入りましょう」

 店員に予約したものの名を告げると、二人はスムーズに奥へ案内された。
 半個室の座席が並んでいる一角へ入ると、奥の方に和服姿の女性が座っているのが見えた。その上品な居住まいはここが高級料亭であったとしても違和感の無いであろうもので、実は店員の間で密かに話題にされているほどであった──のだが。
「せーちゃん、蛍ちゃん! こっちであるぞ!」
 征四郎と蛍に気づくなり、和服美女は予備動作なしでばんと立ち上がり、ぶんぶんと手を振って二人を呼んだ。
 つまり彼女こそ泉興京 桜子(aa0936)である。
 口を開く前後のギャップに案内してきた店員が面食らっているのをよそに、征四郎と蛍は桜子がいる半個室へ入り、彼女の向かいにそれぞれ着席した。
「ふふー! 今日はお誘いくださってありがとう」
 店員が去ると、凛とした征四郎の表情もにわかに緩んだ。桜子と蛍に順に顔を向け、それからもう一度桜子をみる。
「桜子は幹事もありがとうです」
「……あ、ありがとう……です」
 蛍にも礼を言われて、桜子は得意げに胸を張った。
「むふふー! どうであろう! 中々良き店であろうて!」
「はい……あんまり、うるさくないですし……」
「かといって暗すぎず、いい雰囲気です。素敵なお店だと思うのです」
 誉められて、桜子はなお胸を張る。
「そうであろうそうであろう! 女子会コースで頼んであるが、お料理は追加も出来るとのこと。もちろんお酒も各種飲み放題であるそうじゃから遠慮はいらぬぞ!」
 もちろん味の方もバッチリであるぞ! と得意満面。ところどころ伝聞調になっているのは実際にお店の手配をしてくれたのが彼女より女子力アッパーな彼女の英雄だったりするのでお察しください。

「というわけでまずは乾杯のお酒を頼むとしよう。わしは最初から日本酒で行くぞ! ここはいろいろ取りそろえておるようじゃから飲み比べしたいと思ってな……」
「本当ですね、お酒もいろいろ種類がある……。私はカクテルにしましょうか。蛍はどうしますか?」
「わ、私は……とりあえず征四郎と同じので……」

 顔を突き合わせてメニュー表をのぞき込む三人。
 H.O.P.E.での戦いの日々から十数年。当時は幼かった三人も今ではみな二十歳を過ぎて、お酒も飲めるようになった。外見は年相応に成長し、(黙っていれば)どうみても良家の令嬢然としている桜子はもちろん、征四郎は背筋のぴんと伸びた凛々しい女性に、蛍も銀髪を長く伸ばし眼鏡を掛けて、柔和な雰囲気の女性となった。
 とはいえ、中身は外見ほどには変わっていない。今日は気の置けない友人だけの集まりだからなおさらだ。
 かつてとの大きな違いといえば、蛍がずっと自身の肉声で喋っているということだろうか。彼女もいまや、タブレットPCに頼らずに喋ることが出来るようになった。桜子ほどの大きな声は、いまでもなかなか出せないけれど。

   *

 三人の前にお酒が到着した。
「えーでは幹事からの挨拶である!」
 日本酒がなみなみ注がれたグラスを升ごと持った桜子がすっくと立ち上がる。
「皆さまお忙しい中お集まりくださり誠に有難う御座います」
 言いながら、同じくグラスを手にした二人(座ったまま)を少々大仰な仕草で見渡す。最後に大きく頷いて。

「とまあ堅苦しいのはこれで終了!
 ではーかんぱーい!」
「かんぱーい!」
「……か、かんぱーい……」

 勢いよく突き出されたグラスにグラスがそれぞれ合わさって、ガチカチンと固い音。
「ヒュー! ぷはー! うまーい!」
 ぐいっと飲むと、アルコールの刺激が喉から下へ染み渡っていく。桜子は盛大に息を吐き出してから、すとんと着席した。
「ふう……このカクテルもなかなか美味しいのです」
「この突き出しのお料理、なんでしょう……ちょっと苦みがあるけど、癖になる感じ……」
 征四郎と蛍も、それぞれにグラスの酒を胃に入れて一息つく。蛍は突き出しとして出されていた小鉢の料理を興味深く口に運んだ。
「さあ二人とも! じゃんじゃん食べて飲むが良い!」
 桜子はそう言ったが、テーブルにはお酒はともかく、料理はまだ突き出しとサラダくらいしか来ていない。
「桜子……早速ですが追加を頼んでも?」
「もちろんであるぞ! ……ちなみに何を?」
「それは……」
 征四郎はにっこり笑った。

「唐揚げ! ポテト! 焼き鳥! 肉! あと肉、そして肉です!」
 この時のために征四郎はお昼ご飯を抜いてきていた!
「おお……やる気であるな、せーちゃん! よいぞ、わしも今日はとことんまで行くつもりであるからな! というわけで店員さーん!」
 女子三人とは思えない注文の量に店員が真顔になるのはこの直後。
 ……いや、女子三人だからこそなのだろうか。



 宴もたけなわ、酒も食事も彼女たちの前に現れては消えていく。

「む、この玉子焼きはダシがよく染みていて美味であるな! くふふ、酒にもよく合う……くー! 美味いのー!」
 桜子はすっかり上機嫌。名前のごとく頬を桜色に染め、意味もなく、しかし楽しそうに笑いを漏らしている。
「二人は飲み物の追加はあるであろうか?」
「唐揚げがなくなってしまいました……追加を頼みましょう。あとお酒も……蛍、あなたは飲んでいますか??」
「うん……」
「そんなことを言って、グラスが空ではないですか。あなたはすぐに遠慮をなさるので──」
 言いながら、征四郎は蛍のグラスへとお酒を注ぐ。
「あっおねーさーん!」
 桜子が通りがかった店員を呼びつけた。
「この日本酒お冷やでそれとこれとこれと」
 店員が目を白黒させるのも気にせず、矢継ぎ早に料理を指し示していく。ようやく終わったかと思えば、
「せーちゃんと蛍ちゃんは?」
 まだ終わってなかった。
「私は梅酒を……蛍は何か食べたいものはありますか?」
 遠慮はいらないのですよ、と念押しするように言われて、蛍はおずおずとメニューを示した。
「こ、これ……お願いします……」
「イカのワタ焼きか。渋くて良いチョイスであるなー、ふふ!」
「小鉢に入ってたの……美味しかったから……」
 実は結構苦い物が好みな蛍であった。ちなみにお酒も、最初は征四郎と同じカクテルなどを頼んでいたが今はビールになっている。
「ではそれとー……あとこれとこれも追加で。お願いしまーす!」
 何故か最後だけ標準語口調になった桜子に見送られ、店員は大量のオーダーと共に去っていった。

   *

「本当にうちの男共はデリカシーがなくて苦労するのです……」
 だいぶ酔いが回ってきたのか、焼き鳥を頬張りながら征四郎がそんなことを言った。実は十八で結婚し、すでに家庭を持つ身の彼女である。
「お、家庭の愚痴か? うむ、せっかくの機会じゃ、思う存分吐き出してすっきりするがよかろうて!」
「むー、桜子だって既婚者でしょうに……。何かないんですか、奥さんへの不満とか、愚痴とか……」
 征四郎は道連れを作らんと話を振ったが、桜子は太陽のごとき満面の笑みで答えた。
「ふははー! ぜんぜん無い! うちの嫁かわいすぎ! いとおしすぎ! 毎日毎日かわいすぎてな、スマホが写真と動画で破裂せんばかりであるぞ。見るか? 見るか!?」
 嬉々として取り出したスマホの画像フォルダには、お嫁さんのあんな姿やこんな姿(ばかり)が大量に収まっていた。桜子はひとつひとつ拡大表示しては、これはどこへいったときでのー、何をしたときでなーとジェスチャーつきで解説しては「……であまりにかわいすぎて撮らずにおれなかったのだ、うははははー!」と最後にはひとりで大笑いした。
「で、せーちゃんはほかにどんな愚痴を溜め込んでおるのかのう?」
「う……私だってそんなに愚痴ばかり溜まっているわけでは……基本的には円満ですし!」
 愚痴っぽくなってしまうのはお酒のせいもあるが、周囲の人物の影響もあるらしい。
「ほ、蛍はどうですか? お仕事の調子などは……」
 形勢不利を悟って話題を変えることに。二人のやりとりとゴーヤチャンプルーを肴にビールをくぴくぴ飲んでいた蛍は、急に話がこちらに向いたことにちょっとたじろぎつつも答えた。
「お仕事、がんばってます。最初は不安でしたが……まあまあ、人気のようで……」
「蛍ちゃんは養成学校の講師であったな?」
「はい、非常勤ですが……若いリンカーやアメイジングス向けに、主に戦闘面の実技と座学を……教えています」
 少し恥ずかしそうにうつむきながら近況を語る蛍。
「最初に蛍ちゃんの就職先を聞いたときはなかなか思い切ったと感心こそしたが、上手く行っておるのなら何よりであるな! ふふふ!」
「私は、蛍なら上手く行くと思っていましたよ? とっても心根の優しい……そして強い人、ですから」
 征四郎は蛍の肩に手をやって、我が事のように得意げに言った。
「でも、征四郎はよく……私を心配して連絡を……して、くれました」
「そ、それはまあ……親友、ですから」
 照れ隠しのようにグラスをあおる征四郎に、蛍は微笑んで「ありがとう」と言うのだった。



「ぐすっ……私……そんなつもり、ないのに……戦闘実技になると生徒から『怖い』って思われるみたいでぇ……ぐすぐす」
「蛍、飲み過ぎでは……?」
 前触れもなく泣きだした蛍に征四郎はぎょっとした。飲み会開始から二時間あまりが経過し、三人ともすっかりアルコールが回っている。
「いや、逆である! 飲みが足りぬぞ蛍ちゃん、わしが注いでやる故がんがん飲むがよい!」
「うう……桜子さんありがとうございます……」
 ぐすぐす、ぐびぐび。
「ああもう……気分が悪くなったらすぐ言うのですよ?」
 そんな征四郎も頬はすっかり紅潮し、じっとしていても体が左右に揺れるようになっていた。
「ふふふ、いい気分であるのー……うふふ、ふふふふふ!」
 桜子はもはや何もなくともけらけらと笑っている。
 そこへ店員さんがやってきた。
「お? おおーもうそんな時間かーふふ! みなのものラストオーダーである! くいのないようほしいものをもーすがよいぞ!」
 桜子はかなり呂律が回っていない。
「ぐすっ……ウイスキー……ロックで……」
「蛍!? あ、私はもう、烏龍茶で……」
「わしはこれをたのむ! これで日本酒リストはせいはになるがゆえ! ではおねがいしまーすー……」
 ぐらぐらしながらオーダーを告げる様子に苦笑いを浮かべながら店員は去っていった。
「ふぅ、少し飲み過ぎました……桜子もそろそろ止めておいた方がいいのでは?」
「いやである! げんかいをこえるのであるーふふーふふふ」
「越えちゃダメですよ!?」
 一応たしなめはしたものの。征四郎はふっと相好を崩し、梅酒のグラスに残っていた氷をからからと回しながら天井を見上げた。
「今日はいい夜なのです……」
「征四郎……?」
 机に半ば突っ伏していた蛍が顔を上げた。
「私たちが出会って、友達になって……リンカーとして戦って……あれから、長い年月が経ちましたけれど、今はこうして、蛍や桜子と楽しく飲める……」
 天井を見上げたまま、征四郎は夢を見ているかのようにぼんやりと語った。
「私は、嬉しいのですよー……」
「……うん……」
「ふふふ……」
 騒がしかった席に、つかの間の静かな時間が流れた。
 その間三人が見ていた光景はもしかしたら、同じあの日のものだったのかも知れない。



 会計を終えて店を出ると、夜風がぴゅうと三人を出迎えた。
「うはー! ほてった体に風がきもちいいであるなー!」
「あっとと……」
 桜子に寄りかかられて、征四郎の足もふらつく。
「征四郎……大丈夫……?」
「お酒はあまり強くないので……私も結構酔ってるみたいですね」
 蛍に心配されて、征四郎ははにかんで答えた。
「……桜子さん、改めて今日は……幹事、ありがとう、ございました……」
 少し先に立った蛍が、振り返って礼を言う。桜子は征四郎に寄りかかったまま、かなりふにゃけた笑顔を返した。
「ふふふー、ふたりが楽しんでくれたならなによりであるぞー……」
 そのままかっくりと下を向く。
「……もしかして、寝て……」
「なんてなー!!」
 と思ったらぐわっと顔を上げた。驚いた蛍の顔を見てけらけらと笑う。
「というわけでー……次は蛍ちゃんが幹事であるからな!」
「……私、ですか……?」
 何がというわけなのかはともかく、突然指名されて蛍はきょとんとした。
「うむ! 大勢であつまるのもよいが、三人だけでこうしてしっとり飲むのもすてがたいゆえ! これからも定期的にやりたいです!」
「ふふ。確かに、今日は楽しかったですから……蛍、どうですか?」
 征四郎にも尋ねられ、蛍は少し考えて。
「……じゃあ……私の次は、征四郎が……幹事……だね……」
「そう……ですね。では、私もいいお店を探しておくことにするのです」
「決まりであるなー!」
 桜子が、今度は征四郎と蛍にまとめて抱きついた。
「では、帰るとしよう。今日は皆さまお疲れさまでした! それから……」

「これからもよろしく!」





「桜子、ひとりで帰れますか? かなりふらついてますが……」
「もちろんであるー、かわいい嫁が帰りを待っているからなーたたた……」
「あっ、こ、こっち車道です、から……」
 女子三人は最後まで仲睦まじく、夜の町を帰宅の途についてゆくのだった。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました! 居酒屋女子会の一幕をお届けいたします。
出来るだけキャラクターに違和感が出ないよう努めましたが……さていかがでしょうか。
三人がいつまでもよき友達であり続けられますように。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
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嶋本圭太郎 クリエイターズルームへ
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2019年11月05日

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