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『聖女の呪縛/アタッカーの意気』
柳生 楓aa3403)&東海林聖aa0203

「なあ。オレ思うんだけどよ」
 テントやキャンプ用品を詰め込んだ大容量バックパックを担ぐ東海林聖(aa0203)がげんなり、先を行く柳生 楓(aa3403)の、これまた大振りなバックパックへ言葉を投げれば、
「聞かないからね」
 楓は振り向きもせずに切って捨て、
「これ、大失敗なんじゃね?」
 それでもかまわず聖は押し通して、
「私が失敗したって認めない限りは失敗じゃないからーっ!!」
 それはもう全力で、楓が木霊を響かせた。


 ここはキャンプ場を有するとある山。シーズンオフ直前ながらハイキングコースはそこそこ以上に賑わっていた。
 そんな場所になぜ楓と聖がいるかといえば。
『なあ、せっかくだったら山とかでキャンプ飯しねェ? オレもちょっと足腰鍛えなおしてェなって思ってたとこだしよ』
 リュミドラ(az0141)を誘ってご飯を食べようという楓の話に乗った聖の閃きによる。

 入山口で落ち合った楓と聖に、後からするりと近づいてきたリュミドラは言い置いていったものだ。
『飯が食えればいいんだろ? だったらあたしは先に行く』
 山や森といった自然の迷路は“狼”の庭。
 あわてて後を追ったふたりを、それなり以上の大荷物を担いでいるはずのリュミドラは撒くことすらせず、ただただ置き去っていったのだった。
「街は人多いし、あんま得意じゃねェだろなって思ったんだよ」
 ほろりとつぶやく聖。
 楓からリュミドラ関連の相談をよく持ちかけられている聖だが、そもそも楓の“右手”と共にリュミドラを人間世界へ引きずり戻した“左手”が彼である。アルビノの狼姫への思い入れも、楓を妹のように思う気持ちも人一倍強いのだ。
 わかっているからこそ、楓はうなずいた。
「うん。ここも人が多いから逃げ出したんだと思う」
 戦場にあることが日常であるリュミドラは今、目に見えて尖っている。白い頬は削げ、赤瞳は異様な輝きを宿し、立ち振る舞いの端々から硝煙と暴力のにおいを放っていた。
 本当は戦場から引き剥がして、普通の暮らしを送らせたい。
 そんな言葉を飲み込んで、楓は小さく息をついた。
 それをすればリュミドラの心が死ぬ。愚神に代わって世界へ襲い来た新たなる脅威……イントルージョナーとの戦争があればこそ、彼女は失くしたものを顧みることなく生きていられるのだから。
「焦らねェで行こうぜ。急いだって追いつかねェし、だったらゆっくり行ってもいっしょだろ」
 戦いを忘れることなく張り詰め続けているリュミドラ。彼女の内に流れる時間は迅い。
 しかしここは戦場ならず、だからこそそれに合わせるんじゃなく、こちらのペースを保とう。
「ときどき聖って頭よさそうなこと言うよね」
「たまだからアタマよさそうに見えんだよ」
 楓は感心しつつ、自分はどうかと考えてみる。
 リュミドラとの付き合いの中で半歩引いて見ることが増えた分、生来の頑なさは和らいだんじゃないかとは思う。別に美徳の話じゃない。押し通すよりも引くほうが効率的だからだ。

 ……私がしたいことはすごく簡単なんだって、そう思い込んでた。
 敵から味方を守りたいから立ちはだかる。
 誰かを暗闇から引っぱり戻したいから手を伸べる。
 あきらめたくないなら歯を食いしばって立ち上がる。
 でも。
 あきらめないことしかできない楓がリュミドラを守り、引っぱり戻すには、いったいどうしたらいい?
 と、聖が楓の肩をかるく叩く。
「暗い顔してんじゃねェ。あいつがどうとかって問題か? ちがうよな。おまえがどうなりたくてどうしたいんだよって、シンプルな話だろ」
 その絶妙なタイミングと力加減がやけに腹立たしくて、楓はついつい。
「ときどき聖ってかっこよさそうなこと言うよね」
「たまに言うからかっこいいんだろ」
「ぜんぜんかっこよくないけど」
 はァ!? 思わず声をあげる聖を置いて、山道を登る足を速めた。

 中腹を過ぎてもリュミドラの姿はまるで見えなくて。
 楓と聖はスマホに映しだした地図を見つつ、どこにいるかの予想をする。
「魚とかとれる川縁にいるんじゃねェ?」
「火はキャンプ場でしか使えないから、さすがにそのルールは破らないはず。でもレーションなら、場所なんて関係ないんだよね」
 米軍始め、多くの国の軍でヒートパック式の戦闘糧食が主流となっている。これならいくらかの水があればほとんどのメニューが食べられるから、どこにいてもおかしくはないのだ。
「人がいねェとこなんてもう、ただの山奥ってことだもんなァ」
 聖のぼやきを聞きながら、楓は考える。リュミドラが行きそうなポイントは。リュミドラが食べそうなものは。リュミドラが考えるだろうことは。
 いや、そうじゃない。そんなことはどうだっていい。
 大事なのは私がリュミドラさんをどう思うかだ。
「そんなの決まってる」
 スマホの電源を落とし、楓はそのままバックザックのポケットへ突っ込んだ。
「なんか思いついたのか?」
 聖にかぶりを振ってみせてから、うなずく。
「なんにも思いつかないけどそれでいい。考えるな、感じろってやつ」
 ただ感じればいい。リュミドラのことを。自分がリュミドラに対して抱いている思いを。それがきっと、正しい道へ導いてくれる。
 見守るとか、ごちゃごちゃ考えてるからだめなんだ。私はあのときからなんにも成長してない。だったらあのときみたいに行くしかない。
 それを教えてくれた聖を返り見れば、特になにも考えていない――と断言できるのは、楓にしてはめずらしいほど近しい仲の聖だからだ――顔が待っていて。
 楓はそっと前へ向きなおる。
「なんだよ、なんかやなこと考えてただろ?」
「聖はほんとにぜんぜんかっこよくないなって」
 唐突な楓のディスに、聖はわけもわからないまま絶句するのだった。


 楓は迷うことなく山を登り続け、聖はその斜め後ろに従って進み続けた。
 たとえ口ではなにを言おうと、楓は聖がついてきてくれることを疑わなかったし、聖は楓がリュミドラのことに関して誤るなど思っていなかったから。
 そしてふたりはキャンプ場に着き、片隅で小さな焚き火にあたっているリュミドラを発見したのだ。

「飯はだいたいできてる」
 焚き火ではなく、その横に置いたごついカセットコンロへかけた鍋を、リュミドラが顎の先で示す。
「なんだ、焚き火あるんだからそっちで料理しようぜ」
 バックパックを下ろしながら言った聖にかぶりを振って。
「焚き火は暖を取る用だ。……鍋を焦すと掃除に手間がかかる」
 無駄を嫌うのは常在戦場の心からか、それとも単純に性格なのか。
 楓は鍋の中身が焦げついていないかを確かめ、「カレー、鶏肉派なんですね」と語りかけた。
「誰がチームメンバーに入っても、これなら宗教の禁忌に障らないからな」
 応えたリュミドラは一拍置いて言葉を継ぐ。
「夜までに着けば御の字だと思ってた」
「そんなに待たせませんよ」
 前置きして、
「あなたが私たちを置いて、勝手にご飯を食べるような真似するはずないですから」
 強く言い切った。
「ほんとはちょっと疑ってたけどな。レーションならどこでも食べられるしーとかってよ」
 あっさりばらしておいて、聖は非常食でもあるチョコレートクッキーの包みを楓に放る。
「まだ夕飯って時間じゃねェし、ちょっと茶でも飲もうぜ」

 焚き火のまわりにシュラフマットを敷き、腰を下ろした3人は、聖が彼女にもらったという小沱茶――圧縮成形して固めた茶葉。小沱茶はごく小さく固めたものを指す――を飲みつつ、クッキーをかじる。
「イントルージョナーか。愚神とかとやっぱちがうのか?」
 聖のようなエージェントは、優先して生き残りの愚神群へあてられる。だからこそまだ戦ったことはなく、それゆえの素朴な疑問だった。
「形はそれぞれだけど、AGWでなくても殺せるからな。そういう意味じゃ雑魚だ。おかげであたしみたいな傭兵も引く手数多ってやつさ」
 ライヴス式アンチマテリアルライフル“ラスコヴィーチェ”を通常の火薬式に造り替えて戦場を貫く“白狼”の戦記は、軍事系のサイトではかなりメジャーな話題としてあげられている。
 楓は山登りで疲れたふくらはぎをさすりつつ茶をひと口含み。
「前衛もしているんですよね、リュミドラさん」
 スナイピングを得手とするリュミドラも、戦場によっては徹するばかりではいられまい。それこそエージェントとの戦いでは半ば以上、近接格闘を演じてきているのだ。
「魔法使いは感知魔法使ってスナイパーからあぶり出しに来る。そうじゃなくても戦場全部燃やす大魔法もあるしな。腕が6本ある骸骨剣士が相手だと弾が素通りするし、近代戦装備の兵士もあっさりぶった斬られるからフォーメーションも応変になるだろ」
 リュミドラはきっと、どんな敵を相手にしても危なげなく戦っているのだろう。
 しかしだからといって、次もそのとおりに切り抜けられるとは限らないのだ。
「私がいっしょにいられたら」
 ……楓の唇からこぼれ落ちた言葉は途中で途切れ、半ば以上が胸の底へ落下した。彼女が本当にそれを望むなら、英雄はいっしょに来てくれるだろう。でも、それはさせられない。彼女には心を重ね合わせた相手がいるのだから。だからといって楓ひとりで戦場へ出ても、何秒稼げるかすら怪しいところだ。
「愚神のほうが片づいたらオレらも行くしよ。それまで世界の平和の半分、頼んだぜ」
「来るな。あたしの仕事が減る」
 聖のサムズアップを払い退け、リュミドラは浮かない顔の楓から視線をずらした。

 夕食ではリュミドラのカレーライスと楓の肉巻きおにぎり、聖の焼きそばの共演による炭水化物祭が催された。
 その後、焚き火の前でコーヒーをすするリュミドラのとなりにそっと、楓が腰を下ろす。
「私、あなたを追いかけて戦場へ行くつもりはないですから」
 リュミドラはコンロにかけた湯のポットとインスタントコーヒーのスティックを示した。楓がコーヒーを作り終えるのを待ち、ぽつり。
「そのまま忘れたらいい」
「1秒だって忘れませんけど」
 言葉尻へかぶせられた即答に苦い顔を向け、リュミドラは息をついた。
「うざい」
 そうですね。私はあなたにとってうざったい存在で。それはあのときからまるで変わらない。
 だから開きなおります。あのときのように、撃たれてもちぎられても前へ踏み出して。
「人の心配をうざいなんてひと言で済ませないでください」
 リュミドラの手を掴み、楓は両手で包み込んだ。
 引かれたなら反射的に振りほどけもしただろうが、これではリュミドラも反応ができない。
 それを確かめて、楓は静かに言葉を継ぐ。
「あなたが大切なんです。でも、私の家はあなたにとって水の中といっしょで、息ができないところだって知っていますから。だからせめて」
 うざかろうとなんだろうと、もう見守るだけの大人は演じたくない。
「月に一度、私のところへ無事を知らせに来てください」
 だから前に踏み込んで、力いっぱいの妥協を叩きつけた。
 これは私が大切なあなたを守るために、どんなにうざくても私を振りほどけないあなたの情へかけた呪いです――
 対してリュミドラはげんなりした顔をして、楓の手が為す枷から自分の手を引き抜いた。
「おまえはあたしの嫁か」
「え? ごめんなさい。私、お付き合いしてる人がいますので」
 なんとも言いようのない沈黙。
 その果てにリュミドラが渋々と。
「たまには来てやるさ。前みたいに押しかけられると困るからな」

 ふたりのやりとりをテントの影から見ていた聖は、気配を隠したままずりずりと頭を引っ込めた。
 素直過ぎる女の子同士が押しつけ合ったら、そりゃ我が強いほうが勝つよなァ。でもよ、こうやってちょっとずつ詰め寄ってけたら上出来だぜ。
 そんなわけで、オレができることはジャマになんねェことくらいだよな。
「聖の考えてるかっこよさげで頭よさげなことくらい、すぐわかるんだからね」
 首根っこを楓に掴まれ、引きずり出される聖。え、マジ!? オレ、完璧に気配消してたはずなのに!
 リュミドラは観念した顔を左右に振り振り、唇の動きだけで聖へ告げた。
 おまえも道連れだ。
 リュミドラに密告されたのだと悟った聖は苦笑する。
 聖女の素直はまわりの誰をも放っておかない。
 ま、それが楓なんだから、オレはこれからも肝に銘じて付き合うさ。イヤイヤじゃなくて喜んでよ!


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2019年11月05日

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