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『長い長いまどろみの終わり』
宵闇 風la3318

 洗濯物を抱えて歩いていた少女の横を、子供達が走り抜けていく。はしゃぐ彼らの事を、「走り回るなー! こらー!」という少女の注意の声が追いかけた。
 はーいと返事だけは素直な悪戯っ子達の駆けて行く背中を見て、「もー!」なんて肩をすくめながらも彼女は苦笑する。
 これが少女にとっての日常だ。宵闇 風(la3318)の毎日は、今日も穏やかに過ぎていく。
 姉ちゃんも一緒に遊ぼうよと誘う声に、くすくすと笑いながら「後でねー!」とこちらも相手に負けないくらい元気よく返し、風は家事の続きに戻った。親をなくした風だが、今はこうやって血は繋がっていなくとも家族と呼べる者達と楽しい日々を過ごしている。自分の事を保護し、ここまで育ててくれた孤児院の所長には感謝してもしきれない。
「おっとと、そろそろ地下に行かないとっ……! 護身術の時間!」
 時計を確認すれば、その所長との約束の時間が迫っていた。護身術の鍛錬もまた、彼女の日課の一つだ。

 ◆

「うぐぐ、やっぱり所長には敵わないー!」
 今回こそは完璧に見切ったと思ったのに、また一歩及ばなかった。
「いつも言いますけど、所長の動きは反則レベル! 人間超えてますよっ! 超人!」
 自分は、あといったいどれくらい鍛錬したら所長レベルの護身術を身につける事が出来るのだろう。考え始めると、途方に暮れてしまう。
 けれど、そんな風の心中を察したのか、所長は優しく微笑むと、風は筋が良いからすぐに追いつくと呟く。
「褒めても何も出ませんよーだ……」
 拗ねるように呟いた風の言葉は相手の耳にもしっかりと届いていたらしく、所長は声をあげて楽しそうに笑うのだった。

 護身術を教わった後は、家事の続きをして、子供達と一緒に遊んで、おやつを作ってみんなと食べて笑った。穏やかで平和な日々……けれど、退屈を感じた事は一度たりともない。
 こんな日がいつまでも続いてほしい、と願うのは贅沢な事だろうか。孤児院の地下にて、寝る支度を終えた風はそんな事を考えて少し笑う。
 お守りであるナイフを枕元に置き、少女は瞼を閉じた。柔らかな毛布の感触に、自然と笑みが深まる。布団の感触が心地よかったのもあるが、所長と子供達が風の布団を一生懸命干している姿を昼に偶然見かけた事を思い出したからだ。
(明日のおやつは、何を作ろうかな……?)
 そんな事を考えている内に、意識はまどろんでいく。気付いた時には、風は深い眠りの世界に誘われていた。

 ◆

 夢を見ていた。長い長い夢。どこかの世界で生きる、一人の少女の夢だ。
 知らないはずなのに、何故か懐かしい気持ちになる不思議な女の子だった。寂しくて苦しくて……それでも、まるで陽だまりの中にいるような温かさを風は感じる。
 希望の朝を迎えるために戦い続ける彼女の姿は、何故かいつの間にか自分自身の姿と重なっていた。武器を持って戦った事なんて風にはないのに、どうしてか今自分が敵を倒している事が当たり前の事のような錯覚に陥り、これが夢である事を風はしばし忘れてしまう。

 起きた後も、夢の余韻が抜けず、ぼんやりとしてしまった。
 ――けれど、耳をつんざいた轟音が、彼女を無理矢理現実へと引き戻す。
「え……?」
 思わず零れ落ちた声がかすれていた理由は、寝起きだからというだけではないだろう。
 轟音は、後を追うように何度も響き渡る。日常を壊す音と共に、施設が揺れている。
 まるで何かが、この孤児院を襲撃しているかのように。

 慌てて表へと出た風の前に広がっていた光景は、どこか見覚えのある地獄であった。
 本当の妹や弟のように可愛がっていた子供達が、何故かみんな倒れている。そして、その中央に佇むのは……ナイトメア。
 風の両親の命を奪った、侵略者。生きる悪夢。
 助けにきてくれたらしきライセンサーが、慌てた様子で仲間と話している。こんなに危険度が高い相手だとは聞いていないとか、自分達では対処しきれないとか、そういった類の事を言っているようだが、風の耳には何一つ入ってはこない。
「どうして」
 呆然とした様子の少女の唇から、ようやく言葉が一つ零れ落ちた。こんな姿見ていたくないと思うのに、どうしてもナイトメアから目を離す事が出来ず、まるで睨むように風は相手の事を見つめる。
 ナイトメアが周囲にいた者へと襲いかかる。その構えは、風のよく知るものだ。毎日のように見てきた技。それは本来なら、風や子供達を守るためのものだったはずなのに。
「どうしてなの――所長!」
 慟哭。少女があげた悲鳴には、悲哀と怒気が入り混じっていた。所長がいるのに孤児院が襲われるなんてありえない……そう最初は風も思った。だから、襲撃に気付いた時彼女は真っ先に、所長の姿を探したのだ。
 けれど、最初から全ては違っていた。所長がいれば孤児院は大丈夫? むしろ、逆だ。所長がいたからこそ、この孤児院は今襲われている。
 風とナイトメアの目が合う。ナイトメアは……所長は、笑みを浮かべていた。子供達が倒れ、傷ついているというのに。この日を待っていたのだとばかりに、所長は声をあげて笑う。
 それは紛れもなく、怪物の笑声。嗚呼、恐らく……所長は、ただこれを見たかっただけなのだ。気ままに風を育て、そして一番彼女を壊す可能性のある悲劇をこうして作り上げた。風達の命は、所長の手のひらの上で気まぐれに転がされていたに過ぎない。
 残酷な真実に気付いてしまった瞬間、風は思わずその場へとくずおれる。もしかして、自分は未だ夢を見続けているのだろうか。だとしたら、自分にとっての希望の朝は、いつ訪れるのだろう。
 交戦していたライセンサーが、苦しげな声をあげる。攻撃を受けたせいで、手に持っていた銃が弾き飛ばされた。
 銃は勢いのまま地面をしばらく転がり、静止する。……ちょうど、風の眼前で。
 まるで誘われるように、風はそれへと手を伸ばしていた。銃の感触が、何故かひどく手になじむ。
 絶望を撃ち抜くために、風は引き金に指をかける。そんな風を見て、所長は……怪物は、いっそう楽しげな笑みを浮かべた。
 銃声が響く。それを合図に、風の日常は終わりを告げるのであった。

 ◆

 気付けば、そこにはただ一人、風だけが残されていた。
 孤児院はボロボロに朽ち果て、見る影もない。けれど、風は生きている。風だけが、この残酷な現実の中で……息をしている。
 最後にフッと笑ったナイトメアの顔は、いつも風を褒める時に浮かべる笑顔と似ていて、それがますます風の心を苦しめた。
 あの笑顔を浮かべたのも、相手にとっては気まぐれだったのだろうか。風を拾い、育てた時のように。
 気まぐれに人の命を、心を弄ぶ存在……ナイトメア。自分にそれを倒す力が、もしあるというのならば――。
 風は今朝見た夢の事を思い出しながら、未だ手の中にある銃を握り直す。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「いってきます、みんな。……所長」
 崩れた施設に向けて、打ち壊された日常に向けて、風は最後に一度だけ振り返って告げた。
 まだ見ぬ未来に向かって、風は歩き始める。朝焼けと共に、風の夢のような日常は終わり、ライセンサーとしての新しい日々が始まるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
風さんの日常の終わり、そして新しい日々の始まりのお話……このような感じとなりましたがいかがでしたでしょうか。
お気に召すものになっていましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
この度はご依頼誠にありがとうございました。また機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします!
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グロリアスドライヴ
2019年11月06日

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