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『September 8, 2019 - with Oath』
ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001)&サーフィ アズリエルaa2518hero002)&aa2518hero001)&海神 藍aa2518)&エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001)&魂置 薙aa1688)&隠鬼 千aa1163hero002)&酉島 野乃aa1163hero001)&皆月 若葉aa0778)&レミア・フォン・Waa1049hero002



 澄み渡った青空の下。とあるゲストハウスの庭は華やかに、そして賑やかな声に彩られていた。
「新郎新婦が来たらこれで祝ってね」
 皆月 若葉(aa0778)が配るそれを四月一日 志恵(az0102)は受け取る。その表情は些か──いや、かなり緊張した面持ちだった。
「私が進行役なんて……こんな大役を任されて良かったんでしょうか」
 他にもっと適任がいたのでは、と言いたげな志恵に若葉がくすりと笑ってみせる。
 アットホームな雰囲気で行われるものだし、何より本日の主役2人が選んだのだ。彼女が進行役を務めたとして、誰かから否やが出ようはずもない。
 そう告げれば志恵の表情も些か柔らかくなる。頑張って、と応援の言葉をかけた若葉は、不意に聞こえた声へ振り返った。その表情は同時に破顔する。
「若葉……!」
「薙!」
 手を振って若葉の元へやってきた魂置 薙(aa1688)は、側にいた志恵に挨拶をして。その瞳は何かを探すように左右へ揺れ、薙はあれ? と目を瞬かせた。
 ──いつも志恵と共にいるあの少女がいない、と。
 視線を向けられた志恵はその意図を察し、柔らかな表情を浮かべる。
「シェルは準備中ですよ」
「準備?」
「うむ、レミアと共にじゃの」
 そう横から補足したのは洋装に身を包んだ酉島 野乃(aa1163hero001)。上品な花柄の刺繍された藍色ワンピースを纏う隠鬼 千(aa1163hero002)も一緒だ。
「フラワーガールとリングガール、だそうです」
 フラワーガールは花びらを撒く少女のこと。撒いた花びらはバージンロードを清めるという意味もあるらしい。リングガールはそのまま、リング(結婚指輪)を乗せたピローを運ぶ少女のことだ。
 予定では2人が共に出てきた後、新郎新婦が出てくるそうで。
「それはとても、楽しみだね」
「ええ。とはいっても、シェルが大丈夫か心配ですけれど。すぐはしゃぎますから」
 苦笑を浮かべる志恵。経験することのないような役目に彼女が失敗してしまわないか、心配しているとも言った表情だ。彼女の英雄との年齢差──外見ではあるが──を考えると、まるで母子のようである。
 手伝いますよ、という志恵に若葉がシャボン玉のストローを渡し、そこへ薙や野乃、千も声を上げればあっという間に配布は終わる。
「それでは、そろそろ声をかけてきますね。皆さんも準備をお願いします」
 はーいと返事をしながら動き始める皆を見て、志恵は束の間目を細め。くるりと踵を返すと、ゲストハウスの中へ向かった。




「エル、入るぞ」
 ノックをしてそう告げれば、室内から返事が聞こえる。ラドシアス・ル・アヴィシニア(aa0778hero001)はドアノブに手をかけ、一拍遅れてそこへ力を込めた。
 扉の隙間から優しい光が差し込む。それを追うように視線を向けると、ドレスを纏ったエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)が窓際に佇んでいた。その姿に息を呑んだのは──どちらも同じ。
 花の刺繍が施されたドレスは、陽の光にキラキラと煌めいて。美しい姿はまるで妖精のようだ。
 ラドシアスも純白の衣装に身を包み。その姿がエルに結婚式を挙げるのだ、と実感させる。
 何より──。
「綺麗だ……よく似合っている」
 先に我へ返ったラドシアスが笑みを浮かべる。愛する相手からの真っ直ぐな言葉がほんの少し恥ずかしくて、けれどそれ以上に嬉しくて。エルもまたはにかんだ。
「ふふ、ラドも。とても素敵だぞ」
 外へ出てしまえば、招待した皆が待っている。皆に祝われたい気持ちは勿論あるが、互いが互いだけを独り占めできるこの僅かな時間は今だけだ。
「ラド、こちらに」
 エルに手招きされて近づけば、窓の外から賑やかな声。よく知るそれらにラドシアスは小さく笑う。
「楽しそうな声だな」
「ああ。この後も楽しんでもらえたら良いのだがの」
 2人であれこれ考え、迷って。この結婚式はエル、ラドシアス、そして招待者の皆で作るものだが──それら全てを考案したのは自分たちだから、ほんの少し緊張する。
「エル」
 呼ばれて顔を向けると、ラドシアスが大丈夫だというように微笑んで頷いた。外から聞こえるは先ほどと変わらず楽しげで、そしてこれからを楽しみにする声だ。
「ああ」
 エルは彼へ向けて頷く。目の前のこの人と共に今日のことをずっと考えてきた。
 ──だから大丈夫。今日は楽しく、幸せな1日になる。
 不意にトントン、とノックの音。次いで聞こえてきたのは志恵の声だ。
「お2人とも、こちらにいらっしゃいますか? 準備がよろしければ、そろそろ始めたいと思うのですが」
 ラドシアスが扉越しに返事をしてエルへ向き直る。妖精のような最愛の妻へ、その手を差し出して。
「──では、行こうか」
 満面の笑みで告げられた言葉に、エルも同じ表情で返す。ふわりと掌を乗せた先は温かく、頼もしく。
「はい」
 2人は手を握りあって、扉の方へと向かった。

 扉を出てきた美しい新郎新婦に、志恵は目を瞬かせて「まあ」と思わず声を上げた。
「……皆さんより先に見ることができるのは、進行役を承った者の特権ですね」
 ほうと息をついた志恵の側にはリングピローを持ったシェラザード(az0102hero001)と、花弁の入ったカゴを腕にかけたレミア・フォン・W(aa1049hero002)も一緒だ。
 シェラザードは出てきた2人の姿にぽかん、と目も口も開いて、次の瞬間その瞳を輝かせる。
「すごいっきれいきれいっ! おヨメさんとおムコさん!」
「シェル、手の中の大事なものを落とさないように」
 はしゃいだシェラザードに志恵はすかさず釘を刺し。動きは大人しくなったシェラザードがキラキラした表情で2人ににっこり笑顔を向ける。レミアはそんなやりとりに小さく笑うと、エルたちの方へと向き直った。
「エル……とても綺麗。ラドと並んでるともっときれいに成るね」
 胸の下で切り替えのついたチュールワンピースを纏って、レミアは自分も幸せそうな表情を浮かべる。2人がウェディングの始まる前から幸せな空気を出していて、そんな幸せのお裾分けを受け取っている気分だ。
 そんなレミアといつも一緒にいるぬいぐるみ『ヤナミ』は長いリボンで可愛らしく巻いて、ウエストポーチのように腰にくっついている。以前よりも喋れるようになり、表情も柔らかくなったが──大切な役目のこの時、ヤナミの存在を近くで感じていたくて。
 きっとこの子(ヤナミ)がいれば失敗なんてするはずもなく、この2人を祝うことができる。だから──。
「エルも、ラドも。たくさん、幸せになって。そうしたら……私も、嬉しい」
 彼らは大好きな人たちの1人で、兄のような、そして姉のような人。2人が共になることを喜ばないわけがなかった。だからこそ心よりの祝福を贈りたい。レミアの『フラワーガールという1つの大役を無事にこなさなければ』という思いは強かった。
「しあわせ、たくさんになるように……頑張って、お花をまかないと」
「うむ、よろしく頼むぞ」
 むん、と気合を入れるレミア。エルの言葉に頷き、志恵を見上げると「行きましょうか」と返される。
「よーしっ、れっつごー! 皆待ってるのっ」
 シェラザードがあっち、と外へ顔を向け。その隣にレミアは並んで、後ろにラドシアスとエルが付く。

 さあ、主役の登場だ。


 一方──ガーデンウェディング式場。出されたテーブルの上には料理が並び、そこかしこにガーデンを華やかにする小物が飾られている。空を見上げれば、ガーランドやリボンが彩りを加えていた。
 初秋と言うこともあってか、ゲストハウスの庭に生える木々はまだ緑が多い。けれども少しずつ色づき始めた葉もあるようで、そのグラデーションもまた装飾の一部のようだ。
 大勢で撮ったら写真映えしそうな装飾が多い中、教会のように一方向へベンチが設置された場所がある。そこばかりは神聖なる白を他の場所より多く使い、木々の間に垂らされた幾重もの布がまるでヴェールのように美しい。そこへ集まった参加者たちは、配られたシャボン玉のストローを持って待機していた。
 やがて志恵が戻ってきてゲストハウスから最も近い場所に立ち、始まりを告げる。
「ここで悲哀に彩られた歌は不要ですね」
 そう告げた禮(aa2518hero001)は椅子に腰かけ、そばにあったハープを構える。調律もばっちり、準備は万端だ。足元のペダルを踏み、調をこれから引く曲へと合わせる。
(ゆっくりと、静かに歌いましょう)
 本日の曲目は、決まっているようで決まっていない。リクエストがあれば奏でることも可能だろうが、基本的には星にまつわるタイトルの曲を用意している。今から奏でるものから、近代的なそれまで。
 主役2人にとって、星にはたくさんの思い出があるようだから──今回は星をテーマとして曲を探してきたのだ。
「それじゃあ私は、禮の演奏に花を添えようかな」
 禮の傍らでヴァイオリンを構えたのは海神 藍(aa2518)。趣味としていた菓子作りがきっかけでウェディングケーキを作るまでになるとは思わなかったが、それも無事に完成している。つまるところ、手が空いているのだ。
 視覚の華やかさはフラワーガールとバブルシャワーが十分に担っている。ならば、こちらは聴覚に彩りを加えるとしよう。
 静かに響き渡り始める演奏は讃美歌のそれ。千がほう、とため息をついた。若葉もまた禮の澄んだ歌声に聞き入り、2人の音楽をよく聴こうと無意識に視線を伏せる。
 そして、ほどなくして。
「出てきたようじゃの」
「レミア頑張って!」
 野乃の言葉に千がこっそりと、小さく応援の声を上げた。
 最初に外へ出てきたのはフラワーガールであるレミアと、リングガールを務めるシェラザード。志恵の心配していた彼女も粛々と、両手でリングピローを持って歩き始める。その隣を行くレミアがカゴから一掴みの花弁を握り、道へ撒けばその後ろから本日の主役2人が姿を見せた。
 同時にふわり、ふぅわりとシャボン玉が飛ぶ。招待客たちが吹いて飛ばすそれは光を通し、様々な色をその膜に映した。
(実際にこうして見ると……)
(……綺麗だな)
 空へ浮かんでいくシャボン玉と、緑に撒かれる鮮やかな花弁。
 その光景を見た新郎新婦2人は目配せして、くすりと笑い。バブルシャワーの道へゆっくりと歩を進めた。
 ラドシアスは傍らのエルをエスコートしながら──エルはエスコートされながら、参加者1人ずつへ笑顔を見せながら歩んでいく。
「わぁエル様きれいですっ! おめでとうございます!」
 絵になる美男美女の夫婦に千が笑顔を送り、答えるようにエルが微笑みを返す。そのすぐそばに一生懸命シャボン玉を吹く薙と若葉を見つけた。

 ふううぅぅぅぅ。
 ふううぅぅぅぅ。

 まるでシャボン玉に囲い込まれてしまいそうなくらい、大量のシャボン玉だ。それらが精一杯祝おうとする2人の気持ちを伝えてくる。不意にエルと視線が合った若葉は、シャボン玉を吹きながら片手をパタパタと嬉しそうに揺らした。
「若葉……と、薙か」
「ああ。……泣きそうになっておるの」
 こそっと耳打ちしあう新郎新婦。ラドシアスは若葉へ向かって笑みを返すが、エルの視線は若葉の隣──一生懸命吹いている薙へ向けられている。その目尻に光るものが見えた気がしたが、あれは気のせいではないだろう。
(今からそれでは、この後が心配だの?)
 内心そう呟くも、その実言っているほど心配していない。薙にもエル同様、幸せにしてくれる人がいるのだから。

 ──彼との家に引っ越した時、開いたアルバムを思い出す。
 心の中にある記憶との答え合わせをする写真たち。幼かった薙。魘される夜から幸せそうな寝顔へ変わったとき。友人たちとの関わりが増えて笑うようになった。笑顔が増えた。そこへ知人や友人たち、大切な人の笑顔も加わった。そこにはもちろん、薙の恋人である人も。
 時間が経つにつれ、人と人が関わるにつれ。薙は強くなり、エルのみに支えられることもなくなった。

(そう思うとほんの少し……そう、寂しくはあるが。私のそばには──)
 エルが顔を向ければ、エスコートしてくれるラドシアスが「どうした?」というように小さく首を傾げてみせて。「いいや、」と小さくこぼしながらエルは幸せそうな笑みを見せる。
 大切な人が、ここにもいる。薙が大切でないわけではないけれど、同じくらい、いやそれ以上に──一生を共にしたいと思う人。楽しいこと、大変なこと。それらを共に乗り越えてくれる人。この人と一緒なら不安はない。
 エルの表情に「そうか」と笑みで返したラドシアスは、聞こえてきた野乃の声に視線を向けた。
「おめでとう! おめでとうじゃの!」
 ラドシアスの浮かべた柔らかな表情に、野乃は幸せ気分ふわふわ心地。
 だって、常に寡黙だったラドシアスがあの表情だ。もちろんこれまでだって不幸せ、不幸のどん底というわけではなかっただろう。しかしどれだけ今が、そしてこれからが幸せなのかは計り知れないけれど──とても幸せなのだ、ということはとても伝わってくる。
 禮と藍の音楽に誘われ、進んだ先で待っていたのは白い祭服に身を包んだサーフィ アズリエル(aa2518hero002)。青みがかったような緑の双眸が2人の姿を認め、柔和な表情となる。
 招待客一同が並べられたベンチに座ったことを確認すると、サーフィはよく通る声を響かせた。
「この結婚に異議のある方は今、御申し出ください。今後の口出しはなりません」
 その言葉に誰もが口をつぐみ、束の間の静寂が辺りに満ちる。
 当然だ。ここにいる誰1人として、2人が結ばれることを望まぬ者などいないのだから。サーフィもそれをわかってのことか、さしたる間を置かずに「……居りませんね?」と確認した。
「それでは。サーフィ・アズリエルが誓いの儀式を執り行わせていただきます」
 宣言したサーフィはまずラドシアスの方へと向く。そして彼へ問う言葉を述べた。
 エルを妻とし、夫婦とする。健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも──彼女を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、死が2人を分かつとも真心を尽くすこと。
「誓います」
 問われたそれに淀みなく答えたラド。ひとつ頷いたサーフィが今度はエルに向き直る。
「エル様、あなたはラドシアス様を夫とし、星の導きにより夫婦となろうとしています。
 あなたは、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、死が2人を分かつとも真心を尽くすことを誓いますか?」
 当然だ、というようにエルも「誓います」と意思のこもった言葉を紡いだ。
 2人の誓いが終われば、シェラザードから結婚指輪をそれぞれが受け取る。ラドシアスはエルの手へ壊れ物のように触れると、その薬指にそっと指輪を嵌めた。2人で選んだ指輪をようやくこうして嵌めることができた、とエルはそれを嬉しそうに見下ろす。
「次は私の番だの。ラド」
「ああ」
 差し出された手に下から自らのそれを重ねると、やはり男性の手なのだなと思う。自分とは指の太さも手のひら全体の大きさも違う。
(これからはずっと、共にある手。共にある人)
 彼と一緒になるのだ──本日すでに何回目かになろうその実感と共に。エルは指輪をラドシアスへそっと嵌めた。
 そんな2人を、特にエルを見て再び感極まっていた薙はほろほろと涙を零していた。横から黙って渡されたハンカチに、薙は若葉へ向けて小さく「ありがと」と告げる。
 若葉の優しさがありがたい。今日この瞬間ばかりは何をしても泣いてしまっていただろうから。
(だってあんなに幸せそうなエルル、初めて見た。ラドさんのあんな笑顔も、見たことない)
 互いに想いあい、愛しているのだと見ればわかる。それは出会った当初のエルとは全然違って、薙の幸せを考えることから自らの幸せを考えるようになったこと、そして幸せを見つけたことが薙は心底嬉しかった。
 嬉しくて、嬉しくて。ほんの少しの寂しさは変わらずあるけれど、それでもエルの幸せな姿が嬉しくて仕方ないから──溢れて、涙と共に零れ落ちる。
(おめでとう、エルル)
 心の底から、ありったけの感謝を込めて。
 指輪の交換を果たした2人の手に自らのそれを乗せ、サーフィが言葉を紡ぐ。
「皆さん、お2人の上に神々の祝福と加護を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお2人を、神々が慈しみ深く守り、助けてくださるよう祈りましょう」
 静かな祈りがガーデンへ満ちる、その中で、エルはラドシアスの声に顔を上げた。
「エル」
 すぐそこには、愛しい人のそれがあって。日の光が降り注ぎ、2人を暖かく照らしている。
「ラド」
 エルが目を閉じると同時、唇に柔らかいものが触れる。慣れ親しんだ温度と、匂いと。
(これからも、共に)
 何度も交わした、これから先も交わすであろう言葉を思いながら、2人はそっと唇を放す。そして互いの瞳を見ると、幸せそうに微笑みあった。
 その姿に、ベンチへ座る者の中に思う者たちもいて。
(僕らだって──)
(──いつかは)
 そう思って互いを見た若葉と薙は、ばっちりと視線が合う。一瞬目を丸くして、同時に小さくくすりと笑って。薙の瞳はまだ赤いけれど、涙はもう──少なくとも今は──止まったようだ。
「……考えることは一緒だね」
「うん。嬉しい」
 いつか一緒に、共になろう。あの2人のように、この先ずっと幸せでいる誓いをしよう。
 そっと、さりげなく──互いに近い方の手を握る。陽の光に照らされて、若葉と薙が左薬指につけているブルーサファイアの指輪がきらりと光った。
「遍く神の祝福を、謳われぬ神の加護を。その路に宵闇が訪れようとも、その空に、星々の煌きのあらんことを」
 サーフィの言葉と共に、参加者たちが笑顔で拍手を送る。
 今、この瞬間。誓いの儀式の結びと、新たな夫婦の門出が宣言されたのだ。




 誓いが終われば、場所を移してウェディングケーキの入刀──だが、その前に。
「さあ、どうぞ」
「うむ」
「はい」
 志恵に促され、野乃と千がエルとラドシアスの元へ向かう。その手に持ったものは背へ隠し、野乃と千は2人の前へ立った。
「すまぬ、少しばかり屈んで欲しいのだの」
「ラド様も屈んで頂いて宜しいですか?」
 2人の言葉にエルとラドシアスは顔を見合わせ、ゆっくりと屈んだ。ほどなくして2人の頭上からかさり、と軽い何かが乗せられる音がする。エルとラドシアスは互いを見て、目を瞬かせた。
「……花冠が乗っているな」
「エルもだぞ」
 互いのそれは見えるものの、自らのそれは見えぬもので。千が「色違いで、お揃いですよ」と2人に告げた。
 ラドシアスの腕に支えられながら頭を下げたエルには黄と緑の花冠を。ラドシアスの頭にはエルと色違いな、橙と藍の花冠を。
 顔を上げた2人に野乃と千はにっこりと微笑む。
「ラド様はエル様にとって、きっと誰よりも頼れる王様なのですね。
 気高く優しい貴方へ、心よりの祝福と、エル様と共に歩む永劫の幸せをお祈りします!」
 ご結婚おめでとうございます! という千の言葉にラドシアスは微笑んで。その様子をこれまた嬉しそうに見ていたエルは、野乃に声をかけられ視線を向けた。
「エル殿は強く美しい御人じゃの、ラド殿は斯様な妃殿を得て幸せ者だの」
 その言葉にエルは少し照れたような、けれど幸せそうな笑みを浮かべる。ラドシアスがそれを微笑ましく見つめているのに気づくと、ちらりと視線を向けて目元を和らげた。
「ラド殿と共に苦境をも切り裂く強き華よ、前途の幸が八千代にあらん事をお祈り申し上げる。おめでとう!」
 ありがとう、という言葉と共に周囲から拍手が沸き起こる。見渡せば、薙は借りたハンカチをしきりに目元へ当てていて。
(──幸せだの)
 これまでの、今の、これからの一瞬一瞬で、幸せを噛みしめる。
「それではお2人とも、あちらへどうぞ」
 志恵の言葉を聞き、藍がこちらへというように手で道を示す。ケーキの前まで来た一同は「わぁ……!」と感嘆の声を上げた。
 明るい日差しの下で行われているガーデンウェディングだというのに──まるで、そこだけ静謐な夜が佇んでいるかのようだった。
「これは……見事だな」
「本当に、素晴らしい出来だの」
 頼んだことに間違いはなかった。エルが感謝を込めて藍に目礼し、ラドシアスもまた感謝の意を示す。
「綺麗……!」
 薙が感嘆するのも納得で、そこに広がるのは静謐な夜──そして満点の星空だ。
 滑らかにグラサージュされた黒いチョコレート。その上には粉砂糖の天の川が流れ、細かなアラザンや金箔銀箔がきらきらと無数の星のように煌めいている。それらを引き立たせるのはケーキの周囲に置かれた、色鮮やかなフルーツの飾り切りだ。
(願わくば……そう、子供が独り立ちするまで幸せで生きていてほしいね)
 ケーキの前へ立つ2人を見て、藍はそう思う。
 宵闇に囚われることもあるだろう。それでも星を、一条の幸福を見失わないように。常に幸福の絶えぬ家庭となるようにと願ってしまう。それは──藍にとって、叶わなかった願いだから。
(まあ、今は2人、妹がいるけどね)
 ガーデン内にいる2人の少女へ視線を向けた藍。彼女らが待つ場所には他の招待者たちもいて、特に少女たちが集まって何やらこそこそと話しているようだった。

 ──入刀が終われば、ケーキは全員に配られる。それをそわそわしている者も少なからずいて。

 レミアとシェラザードは自らの役目を終えると野乃や千たちの元へ戻っていた。女子が好むは甘いもの、しかもこれからそれが出されるとあっては落ち着けという方が難しいやつだろう。
「ケーキ……」
 さりげなく、しかし虎視眈々と狙う瞳。野乃の脳内では理性と本能と言うべきそれが戦っている。
「……我慢ですよ」
「う、うむ」
(我慢、我慢するのじゃ)
 接戦だったと思われるそのせめぎあいは千の言葉もあってか、僅かに理性が勝利したようで。失礼があってはならない、本日の主役はあの2人、と野乃は千のそばでじっとしていた。
 その千はと言えば。
(なんて贅沢な時間なんでしょう)
 バブルシャワーも、演奏も、ケーキも。全てがまるで魔法のようだと千は思う。けれど現実だというのだから驚きだ。主役の2人が、そして招かれた誰もが、心を込めて今日という日を大切で楽しい1日にしようとした結果が詰め込まれている。
「ね、ね。あの2人、何かお喋りしてるのっ」
「ほんとう……なにか、楽しいことみたい」
 シェラザードの言葉にレミアは頷いて、視線を向けあい囁く2人を見て目元を和らげる。ほんの少し遠目ではあるけれど、ケーキの前に立つ2人が顔を寄せて微笑みあう姿はよく見えた。
「思い出すな……」
「ああ、そうだの」
 ケーキを見下ろしながら、新郎新婦はそろってこれまでの思い出を思い返していた。偶然か必然か──2人の思い出には夜空が多い。満点の星空を眺めたこともあれば、星の下でクリスマスを過ごしたこともある。あの時に見た星の、光の輝きが、ケーキの中に描かれた満点の星々と重なるよう。
 時間はあっという間で、けれど1つ1つが大切で大事な記憶だ。
「お2人とも」
 不意に声をかけたのは禮だ。もっと話しかけやすかったのはこの後だろうが、折角ならケーキを食べる前に──もっと言うなら、ケーキを切る前に言っておきたかったから。
「わたし、こんなでですけど故郷では神としても歌われているんです。戦いと守護と、それからケーキの」
「戦いと、守護と……」
「……ケーキ?」
 前者2つが揃うのはああ成程と言えるだろうが、そこへ何故ケーキが入ったのだろうか。
 思わず目を瞬かせるラドシアスとエル。そんな2人にすごいでしょう、とくすくす笑う禮は「だから」と続けて。
「我が権能にかけて、お2人に。ひとかけらのケーキも分け合って楽しめるような、そんなささやかで、幸せで──たいせつな日常を、お祈りしておきますね」
 これから来たるであろう、積み重なっていく1日。なんでもない日常というべきもの。
 今2人で過ごすそれが、いつかは幼く元気な声たちにも囲まれることだろう。幼かったそれらが独り立ちもするだろう。全てが2人にとってかけがえなく大切な日常で──そこに小さくささやかな幸せが満ちていますように。
 神として歌われるのは遠く、こことは世界を異とする場所。けれどその神がここにおり、自ら祈りをささげるのだ。その祈りは少なからず未来へ届くだろう。
「……ありがとう」
 他の世界の神より、何より大切な知人に心からの祝福を贈られる。幸せをかみしめた2人は、周囲を見て笑顔をほころばせた。
 禮だけでなく、まだまだ祝いたいというものは多いようで──。

 ──September 8, 2019 - with Happy balloons Continue.


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 大変お待たせ致しました。
 続編も合わせて楽しんで頂ければ幸いです。祝福されるお2人に、そして祝福する皆さんに幸あれ。
 イメージと違う等、何かございましたらお気軽にお問い合わせください。
 この度はご発注、ありがとうございました!
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2019年11月11日

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