イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『September 8, 2019 - with Happy balloons』
エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001)&魂置 薙aa1688)&レイオンaa4200hero001)&春月aa4200)&皆月 若葉aa0778)&ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001)&ピピ・ストレッロaa0778hero002)&荒木 拓海aa1049)&メリッサ インガルズaa1049hero001)&三ッ也 槻右aa1163



 ケーキ入刀──の前に、新郎新婦2人は祝いの言葉を述べたいゲストに囲まれていた。
「エルさん綺麗! とっても素敵! 美人!」
 キラッキラに目を輝かせてそう告げるのは春月(aa4200)。赤いドレスをまとった彼女はいつも通りの雰囲気で、色気というよりは健康美といった言葉が似合う。傍らにはカメラを持ったレイオン(aa4200hero001)も一緒だ。編集した写真は後日渡す、という彼にエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)が嬉しそうな笑みを見せる。
「エルー!」
 そんな中、エルとラドシアス・ル・アヴィシニア(aa0778hero001)の元へ駆け寄り、花嫁へ抱き着いたのはピピ・ストレッロ(aa0778hero002)だ。ぎゅむーっと抱き着いたピピは顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。
「エル、すっごくきれいだったよ!!」
「ふふ、ありがとう」
 ぎゅっと受け止めたエルは嬉しそうな笑みを浮かべ、そんな彼女を見たピピもまた嬉しそうににこにこと笑った。
 そこへ。
「シェルも! シェルもお祝いするのー! 2人とも、おめでとう!」
 たたっと駆けてきたシェラザード(az0102hero001)が2人の前でにっこり笑って、彼女を見て苦笑いを浮かべた四月一日 志恵(az0102)もまたエルとラドシアスへ口を開く。
「お2人の幸せな姿が見られて、とても嬉しいです。本日はお招き頂きありがとうございます。……そして、本当に。おめでとうございます」
 こちらこそ、と告げるラドシアス。そんな風景も記念に残すべく、ビデオカメラを回しているのは荒木 拓海(aa1049)だ。
 自らも結婚しているからこそ今日この日、この式がどれだけ大切な節目となるかわかっている。だからこそ記録として残すべきだと思うのだ。
「拓海、代わるよ。ずっと撮ってるよね?」
「うん? ああ、それじゃあお願いしようかな」
 彼のパートナーである三ッ也 槻右(aa1163)がそう告げると、拓海は穏やかに微笑んでビデオカメラを渡す。それを構えた槻右はエルのドレス姿やエスコートするラドシアスを始めとして、参加者たちの表情をビデオに収めていった。
(幸せな姿を綺麗に……それに、皆の笑顔をいっぱい残さないと)
 こうして残されたものは、いつか見返した時に再び笑顔にしてくれるものだから。

 そうしてビデオを回していれば、とうとう新郎新婦がケーキ入刀を行うようで。
「……うわぁ♪」
 ゆっくりとケーキが切られていく様にピピが目を輝かせる。ゲストが見守る中、レイオンや槻右たちがその瞬間を逃さまいとカメラやビデオを構え──。
「シャッターチャンスシャッターチャンス!」
 ──春月がレイオンの背をバシバシと叩いていた。
 そんなに言うなら春月が撮ればいいと思ったことだろう。本人も撮りたいと思っていた。それはもうバシバシと。撮影機材は今どき便利なスマートフォンというものがある。
 だがしかし彼女は同時に知っていた──自らの撮影技術が底辺にあることを。自分が撮ろうものなら手ブレは必須、何なら何が移っているかわからないかもしれない。
 折角撮るのなら綺麗に撮りたいと、そんな思いにより英雄であるレイオンに一任しているのだ。
 レイオンがやんわりと春月を諫めつつカメラを構えなおす中、エルとラドシアスの手によって美しいケーキが切り分けられる。そして順番に並んだ──ずっとそわそわしていた参加者がやはり前に来るものだが──ゲストへ2人は取り分けた皿を渡していった。
「ありがと!」
 行っておいでと皆月 若葉(aa0778)に背中を押されたピピ。皿を受け取ると早速ケーキをぱくりと食べる。その表情はふにゃんと美味しさにとろけたそれで。
「ふふー美味しいね♪♪」
 若葉たちにも言ってくる! とピピは皿を持って踵を返す。この美味しさを早く共有したいのだと、その足早な姿が物語っていた。
「転ばないようにな」
「勿論だよっ!」
 その背へ声をかけるラドシアスに、ピピは肩越しに笑みを浮かべてみせて。そして顔を戻すと「ワカバー! ナギー!」と声を上げて2人の元へ向かっていった。その先では──。
 可愛らしいピピの姿をビデオに撮っていた槻右は、かけられた声に顔を向ける。
「ほら、次は2人で行って来たら? ビデオは私が収めておくから」
 レースの花柄が美しいミディアムドレスをまとうメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が槻右の手からビデオカメラを受け取る。
「なら、リサのケーキももらってくるよ」
 拓海はそう告げると槻右へ視線を向ける。愛しい人からの視線に槻右がはにかむと、2人は新郎新婦の元へ。その仲睦まじい後ろ姿もしっかりとビデオに収め、メリッサは視線とビデオカメラをゲストへケーキを振る舞う2人に向ける。
(ラドさん、何時もにも増してイケメンね)
 イケメンが正装するとイケメン度が増すのは道理。しかし、今の彼が格好良く輝いて見えるのはそれだけではないだろう、とメリッサはその隣へ視線を移した。
(エルさんは綺麗な人だけれど──今日は更に綺麗)
 ウェディングドレスはこれ以上なく彼女に似合っていて。何より幸せな今が彼女を美しく輝かせているのだとわかる。
「──リサ!」
 不意に呼ばれたメリッサは1つ目を瞬かせ、視線をそちらへ戻した。見れば挨拶を終えてケーキを受け取ってきた拓海と槻右がこちらへ近づいてくる。
「ケーキはもらってきたけれど、2人への挨拶がまだだろう?」
「ビデオカメラは僕たちが代わるから、行っておいでよ」
「そう? それじゃあお願いしようかしら」
 ビデオカメラを2人へ返し、新郎新婦の元へ行く。気づいたエルとラドシアスは表情を綻ばせた。
「2人とも、おめでとう」
「ああ、ありがとう」
「ビデオを撮っていたのだろう? 見返すのが楽しみだの」
 ちらり、とエルが視線を拓海たちの方へ向ける。メリッサは任せて頂戴、と軽くウィンクしてみせた。
 これでも写真は拓海を撮り続けているから慣れている。ビデオだって同様だろう。
「あの2人も張り切ってるし、とびきり幸せ一杯の動画にするわよ?」
 2人のことは、そして彼らの誓約者のことも前から知っている。既知の者だからこそ、こうして心から信頼し支え合える人を見つけられたことが素直に嬉しくて。
 だからこそ、彼らに喜んでもらえるような記録としたい。
「それじゃ、わたしは行くわね」
「ああ。この後も楽しんでいってくれ」
 手を振って見送るラドシアス。最後に、とやってきたのは若葉と薙の2人だった。ピピには早く! と急かされたようだが、他のゲストがケーキを受け取り終えるまでまっていたらしい。
 2人の目の前まで来た魂置 薙(aa1688)がやや緊張した面持ちで呼吸を整える。
「ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに!」
(良かった、言えた)
 ちゃんとお祝いの気持ちを伝えられるように──噛まずに、途切れずに言うため何度も練習した言葉。練習の成果が出たことに小さく安堵する。
「素敵な式だったよ、おめでとう」
「ああ、こちらこそ今日はありがとう」
 ケーキを渡すラドシアスの傍ら、エルが悪戯っぽく薙へ笑いかけてみせる。
「薙、目が赤いようだが?」
「えっ」
 慌てて目元へ手を当てる薙。「冗談だ」と告げられた言葉に頬を赤くした。もう、と拗ねてみせるも本気で怒ってないことなど一目瞭然で。何よりどうして目が充血しているのか、その理由に思い至っているからエルは「ありがとう」と薙に微笑む。
 そんな2人を優しく見守っていた若葉は、ラドシアスへ視線を向けた。
「俺たちで最後でしょ、2人も食べたら? ピピが「すっごくおいしい!」って言ってたよ」
「ああ、そうしようか」
「うむ」
 自分たちのために切り分けて、皿に盛る。そして食べようとして──エルははた、とその手を止めた。
 ファーストバイト、という言葉が結婚式にはある。新郎新婦が切り分けたケーキの一切れを互いに食べさせあい、その愛情の深さをアピールするというもの。──それにかこつけて自然に睦みあいたい、とも言う。
「ラド」
「……ん?」
 視線を向ければ、口元にケーキを寄せられて。目を丸くするもその意図はすぐ察せられる。
 これにはさしものラドシアスも照れた様子を見せ、けれど嬉しそうに微笑んでエルの差し出したフォークからケーキを食べる。
「……甘いな」
 この甘さはケーキ故か。それとも手ずから食べさせてもらったその雰囲気に感化されているのか。どちらにしても、少なからず人の想いを経て口に入ったケーキが美味しくないわけはなかった。
「では、俺からも……」
 お返しのケーキを嬉しそうに食べるエル。彼女を見て楽しそうに微笑むラドシアス。そんな2人を様子を、若葉や薙を始めとしたゲストの皆が温かく見守っていた。
 ケーキカットから始まって立食形式の食事も和やかに進み、志恵が「そろそろ」と新郎新婦に声をかける。
「ラド、エル、どこか行くの?」
 きょとん、と2人を見たピピにエルは微笑んで、「お色直しだ」と告げた。




 再び庭へ出てきた2人に、やはり真っ先に歓声を上げたのは春月だ。
「惚れそう! 輝いてる! 眩しい!」
「ふふ、なんだか照れてしまうの」
 語彙が少ないから、とその分ストレートに伝えられる春月の言葉にエルがはにかむ。その身にまとうのは深い青のドレスで、彼女の微笑みがより一層輝いて見えた。
「はっ、エルさん女神! 女神みたい!」
「ほら春月、それ以上は困ってしまうよ」
 レイオンの言葉にそうなの! と目を丸くした春月。だがすぐ気を取り直すようにエルとラドシアスをこっち、と誘う。その先ではゲストたちがバルーンリリースの準備をしながら待っていた。
「あ、来た」
 薙がやってくる2人に気づき、手を振る。そばにいた若葉も春月と2人の姿に気づくと同じように手を振った。
「エル! ラド!」
 そう声をかけられて、まず最初に視界へ飛び込むのはいくつもの風船。ふよよよ、と移動する風船はその下にいるピピの動きに合わせて揺れる。
「何色の風船がいい?」
 両手に沢山の風船を持つピピ。若葉に「飛ばしちゃわないようにね」と言われたピピは紐の輪っかになった部分を指に引っ掛け、握りこんで飛ばないようにしていた。
 それじゃあ、と選んだ2人は注意深く風船を受け取る。風船配達人ピピの仕事はまだ終わらないようで、次に声をかけたのはシェラザードだ。
「シェルね、青色がほしい!」
 ピピの周りでふよふよと浮く風船を眺め、ぴっと指さすシェラザード。その後ろから薙もまた風船を同じように眺める。
「じゃあ僕は、ピンクと紫の風船が、いいな」
「はい、どーぞ♪」
 薙に風船を渡すと「ありがと♪」とにっこり微笑まれ、にこにこ笑顔を返しながら他の人へも配り歩く。
「ピピさん、風船ありがとう!」
「どーいたしまして!」
 風船を受け取った槻右は拓海に「お願いできる?」とビデオカメラを交代してもらって風船を飛ばす準備。
 残り1つとなった風船と共に、ピピは元の場所へと戻った。
「みんな、準備OK?」
 若葉の声に「はーい」「もちろん」と声が上がる。中には風船を持った手を振る人もいて、紐で繋がった風船もぶんぶん振られる。
「ん、大丈夫そうだね。それじゃあ志恵さん、お願いします」
 待ったの声がかからないことを確認して、若葉は志恵を見た。風船を持った彼女は若葉の言葉に頷いて口を開く。
「それでは風船を──空へ」
 志恵の言葉と共に、彼女の手から風船が離れ。それを追うように皆の持っていた風船が空へ飛びたっていった。
((この先もずっとずっと、2人が幸せでありますように))
 そんな願いを託して風船を放す若葉と薙。その願いが同じであるのは、それぞれ誓約者と英雄の関係で──近しい距離で見ていたから、だろうか。その近くでピピが両手に握った紐をぱっと話す。
「遠くまで飛んでけー♪」
 離した風船へ向け、両手を大きく振るピピ。見送られる風船はどこか答えるように小さく左右へ揺れながら、ゆっくりと空へ浮上していた。
「レイオン、シャッターチャンスシャッターチャンス……ぐすっ」
 うえええ、と色気も何もなく子どものように泣き出した春月。式からケーキ、そしてバルーンリリースとなっていよいよ感極まってしまったらしい。バシバシとレイオンの背を叩いていた手は、いつの間にやら彼の服を掴んでいる。
「春月ほら、ハンカチ」
「うう、ありがと、」
 春月が受け取ったハンカチを目に押し当てる。空へ上がっていく風船と、それを見上げる皆を写真に収めるレイオンは横から聞こえた『ズビッ』という音を聞いていないことにした。
 ──今日は幸せな日だから。それくらいは仕方ない。
 次々と風船から手を放す招待客をラドシアスは一瞥し、小さく笑う。
 ここにあるのは自らが英雄として召喚され、戦いと生活の中で積み重ねて得てきた絆だ。こうして祝い事に集まってくれる人がいるのもその絆があってこそ。
 ──幸せだ。
 皆が笑いあうこの瞬間が。幸せに涙してくれる誰かがいることが。そばに愛しい人がいることが。
(この世界で得た絆が、幸せが──ずっと続くように)
 傍らにいるこの人と、ずっとそれを感じていられるように。ラドシアスの願いと共に風船は空へ飛び立つ。エルも風船を放して、ゆっくり上がっていくそれを見つめた。
 ──私は今、とても幸せだぞ。
 その言葉を向けるのは忘れてしまった──けれどどこかの世界にあったはずであろう故郷。そしてそこにきっといたに違いない大切な誰か。
 この空が、この世界のどこかがそこへ繋がっていると願って。そしてこの報せが届くようにと願いながら浮かんでいく風船を見上げる。
 皆の様子を撮っていた拓海は、槻右に「任せていいか?」とビデオカメラを渡すとメリッサに声をかけた。
「あら、どうしたの?」
「共鳴してくれないか? ジェットブーツで空から撮りたいんだ」
 英雄と共鳴しなければ使えない品。それを使用して空を飛び、槻右を抱えて撮ってもらおうということらしい。それを聞いたメリッサはくすくすと笑う。
「単に規佑さんを抱き上げたいんでしょう?」
「そこは否定はしないな」
 小さく肩を竦めて微笑む拓海。祝いたい気持ちは勿論あるけれど、愛しいパートナーとくっついていたい気持ちも勿論ある。
 メリッサと共鳴した拓海は槻右の元へ戻り、空を飛んで動画を撮りたい旨を告げた。槻右は快諾するものの──。
「わわっ」
 抱き上げられればやはり少なからず驚いて、拓海へその身を寄せる。そんな姿が愛らしくて、微笑んで「大丈夫だ」と声をかけながら拓海はゆっくり空を飛んだ。
 高く、高く。皆の姿が小さくなり、風船との距離が縮まっていく。
「どうだ? 綺麗に撮れそうか?」
 ビデオカメラを向けている槻右へ声をかける拓海。自らの飛び方のせいで手ブレが酷い、なんてことがあってはならない。用心しながら飛んでいるつもりだが、と心配げな拓海に槻右はにっこりと微笑んで見せた。
「うん! いい絵撮れたよ!」
 ビデオ見返せば──風船へ両手を振るピピや大泣きしている春月、笑顔を向ける皆と浮かんでいく風船がしっかり収められていることだろう。

 飛び立った時と同じようにゆっくりと地上へ戻ってきた拓海は、不安を与えぬようそっと槻右をその腕から降ろす。そして共鳴を解くと、メリッサがふわりと地へ降り立った。
「どう? 満足いくものだったかしら?」
「ああ」
「うん!」
 メリッサの問いかけに頷き微笑む拓海と槻右。良かった、と笑みを浮かべるメリッサの耳に音楽が流れてくる。
「ダンスの時間だって!」
 春月がはしゃいだように告げる。いいや、実際にはしゃいでいるのだ。大好きな踊りができるのだから。でも──。
(やっぱ最初と最後は新郎新婦のダンスをニマニマ観ていたいな!)
 だって結婚式は新郎新婦のものだもの!
 そう視線を向けられたエルとラドシアスはと言えば、丁度ダンスに誘われ誘っているところだった。
「一曲、踊っていただけますか?」
「ええ、喜んで」
 差し出した手にエルのそれが重なる。踏み出した1歩は堂々としたそれで、エルの動きにぴったりと合わせたラドシアスのリードは見事なものだ。優雅に、そして引き付ける踊りがゲストたちを見惚れさせる。
 そんな姿は勿論、新婦であるエルの心にも鮮やかに焼き付いて。
(ふふ、また『好き』が増えてしまうの)
 一体いくつ増えるのだろう──そんな悩みとも言えぬ悩みも幸せで。
 踊り終えたエルとラドシアスが一礼し。春月が「一緒に踊ろう!」とエルへ声をかけにやってくる。ボールルームダンスのようなものなら男性のステップもできる、と息巻く春月と快く頷いたエルを見送って、ラドシアスは脇に寄ると皆の様子を観察し始めた。
 2人の踊りを見たゲストたちが今度は自分たちも、と誰かを誘って踊り始める。
「はい、2人でいってらっしゃい」
 ビデオは任せて頂戴、と再び構えるのはメリッサ。拓海は槻右の方を向くと手を差し出した。
「規佑、踊ってくれるか?」
「喜んで!」
 照れ笑いと共に重ねられた手。2人は音楽に身を任せてステップを刻み始める。
「僕と、踊っていただけますか?」
 そう手を出したのは薙で、目を瞬かせたのは若葉だ。
「喜んで……だけど、俺、ダンスは初めてだよ」
「任せて。リードするから」
 確りと頷く薙に誘われ、若葉はダンスの輪へ。事前に基本のステップは覚えてきたものの、動きがぎこちなくなってしまうのは仕方ないだろう。だって──。
(当たり前だけど……近いっ!)
 大好きな人がこんなに近くにいては、心臓が爆発してしまうかもしれない。そんな照れと緊張が身を固くするというのに、薙はと言えばダンスはエル仕込み。堂々とした姿が格好良く、これがまた若葉を見惚れさせる。
「若葉。もっと、体寄せて?」
 合わせやすくなるから、と引き寄せるとドキドキという心拍音が伝わってくる。待って、という言葉と共に若葉の額が薙の肩にくっつけられ、深呼吸している様子がうかがい知れた。
(可愛い、若葉)
 くすりと笑っている薙など露知らず。目を閉じていた若葉はひたすら心を静めるべく『落ち着け俺』と唱えていて。
 暫しして心の余裕が生まれた若葉は「お待たせ」と顔を上げた。そして再び薙のリードに合わせてステップを踏めば、いつしか呼吸も揃ってきて。
「……楽しく、なってきた?」
「うん。いいね、こういうの」
 でしょ? と薙は若葉へ微笑みかける。そこへ不意に聞こえてきたのはピピの元気な声だ。
「シェルもシエも一緒におどろっ!」
「くるくるーなのっ!」
「えっ、ええっ、くるくる!?」
 ピピに誘われたシェラザードがにこにこくるくる回り始め、手を繋いでいた志恵も目を白黒させながら回り始める。踊り方など関係ない、楽しく踊れるならそれで良いのだ。
「く……ふふっ。2人とも、楽しいですか?」
 単純な踊りに志恵が思わず笑い始めて、シェラザードとピピに問う。2人からは間髪入れず「うんっ!」とやはり元気な声が返ってきた。
 一方、春月とエルのダンスは先ほどの新郎新婦が披露したダンスとは一転した雰囲気だ。対照的な色のドレスが鮮やかに翻る。
「また一段とキレが増したの!」
「ふふ、まだまだだよ!」
 笑みを見せあう2人は互いを高め合うように、それが苦でなく楽しいと感じながら賑やかに踊る。ステップを刻みながらカメラを構えるレイオンの前まで来ると、2人はそろってポーズを決めた。
 カシャ、とすかさずシャッターを切ったレイオンが笑みを見せる。
「レイオン、エルさん、ありがとー! とっても楽しかった!」
「ふふ、こちらも楽しかったぞ」
 感謝の言葉を口にして、エルはラドシアスの元へ。そして春月はと言えば──。
(別の人とも踊りたいし、というか気合で全員と踊る……なんなら1人でも踊る……!)
 踊ることにこれ以上ないほど燃えていた。踊り終えた拓海と槻右を見てすかさず「お父さーん!」と拓海を呼ぶ。
「次一緒に踊ろ!」
 槻右はその次に! という言葉に槻右は微笑みを浮かべて頷く。妹のように思う彼女だが、安心するくらいいつも通りに猪突猛進ダンスガールである。
 拓海相手なら激しいダンスでも着いてくる、という信頼のもと春月は止まらない。そしてその信頼に答えるように拓海は春月と共にダンスのステップを刻む。2人のダンスをビデオに収めていた槻右はほう、とため息を零した。
(躍動感のある映像になって、すごい)
 素敵だ、と思っている間にそのダンスは終わり。ビデオカメラを渡した槻右は春月に誘われるまま庭の真ん中でダンスを踊る。
「あ、踊りながらあっち行こ! レイオンのとこ!」
「ん、いいよ」
 春月が視線を向け、槻右が頷いて徐々に移動する。レイオンの前で踊り終えた春月は、レイオンの腕をがっしと掴んだ。
「さあ、次はレイオンの番! 踊ろう!」
 きょとんという表情を束の間浮かべたレイオンは、「ちょっと待ってね」とカメラをテーブルに置くと改めて春月の手を取る。そんな2人を見送った槻右が視線を巡らせれば、メリッサに声をかける拓海の姿があって。
「リサも踊るだろう?」
「勿論。リードは任せたわよ?」
 手を重ねる2人からビデオカメラを受け取った槻右。皆の踊る様が、幸せそうな様子が動画に着々と収められていく。
(これと、レイオンさんの撮った写真と──それに、思い出)
 どれもこの先まで残るかけがえのない宝物だ。

 最後にもう1度、と新郎新婦が踊り始める。嬉しそうにニヤけた表情の春月が観ている中、槻右はさりげなくビデオカメラと共に彼らのそばへ。息の合った美しいダンスをビデオに収め、踊りの終わった2人へ槻右ははにかんだ。
「言葉では伝えきれないけれど、幸せそうで嬉しい」
 そう、伝えきれない。言葉にできないほど、ラドシアスもエルも幸せ一杯といった表情で、仕草で。
 おめでとうという槻右の言葉に、2人は満面の笑顔でありがとうの言葉を告げた。




「若葉」
「薙」
 呼ばれた2人は同時に振り返る。その先では今日の主役たちが微笑みあっていた。
「エルルと、ラドさん?」
「2人ともどうしたの──」
 何か用事があっただろうか、と首を傾げ。向かった2人へ差し出されたのはエルの持っていた華やかなブーケ。薙と若葉は思わず目を丸くし、そのブーケを見つめた。
 欧米の結婚式には、花嫁が後ろを向いてブーケをゲストへ投げるブーケトスというものがある。そのブーケを受け取った者が次の花嫁になれる、というものだ。これは投げたものではないけれど、花嫁から未婚者に渡された者には違いない。だから──。
「次は2人の番だの」
 エルの言葉は間違いなく、そういう意味で。
「ありがとう。大切にします」
「ありがとう。僕も、大切にする」
 2人で一緒に受け取ったブーケ。空いている片手を握り合い。若葉と薙は微笑みあう。エルはそんな2人を見て微笑みながら、けれど薙が離れていくことに一抹の寂しさはあって。
 それでも彼の幸せのために、彼らの幸せのために。そして何より自らとラドシアスとの幸せのために、前へ進むのだ。
「2人の幸せを心から願っている」
「俺たちも2人のように、手を取り合って幸せな家庭を築くよ。ね、薙?」
 うん、と頷いた薙はまた涙を滲ませていた。苦笑する若葉にまたハンカチを借りて、涙をぬぐった薙はラドシアスの方を向く。
「エルルを、よろしくお願いします」
「ああ。薙も……色々手がかかるだろうが若葉をよろしくな」
 ラドシアスの言葉に苦笑いを浮かべる若葉、くすりと笑う薙。そんな彼らへ、遠くから春月の「おーい!」と元気な声が届く。
「最後に記念撮影しよーよ! レイオンが撮ってくれるってー!」
 ぶんぶんと両手を大きく振る彼女に、4人は顔を見合わせて微笑みあう。
「皆、行こう」
「うん!」
「エル、掴まれ」
「ああ」
 先を行く薙と若葉、ラドシアスにエスコートされて向かうエル。ゲストたちの元へ向かうと、ガーデンの一角が先ほどまでとは異なる配置になっていた。
「来た来た! こっちだよー!」
 春月は踊り足りなかったのか──きっと彼女はいつだって踊り足りないのだろうけれど──1人くるくると踊っている。その後ろでは庭に用意されたテーブルを避け、椅子を並べるゲスト一同の姿があった。
「さ、新郎新婦はこっちよ」
「ワカバとナギが持ってるブーケ、エルが持ってたのと一緒ー♪」
「お、本当だ」
「おめでとう、かな?」
「おめでとうございます、でいいんじゃないでしょうか?」
「シエ、こっちの準備バッチリなのっ!」
 口々に祝いの言葉を述べられる中、シェラザードがドヤ顔で志恵へ手を振る。そのそばではカメラを設置し終えたレイオンも一緒だ。
「主役は前列の真ん中ですね」
「あ、じゃあワカバとナギはこっち?」
 志恵の言葉にピピがその隣を指さして。その周りに背丈の低いゲストがぴょこぴょこと座っていく。その後ろには長身な者を始めとした大人たちが。槻右は写らないテーブルにビデオカメラを置き、拓海へ手を伸ばす。その手を繋いだ拓海は、パートナーと共に皆の並ぶ場所へ立った。
「それじゃあ、いくよ」
 レイオンがカメラを操作し、タイマーを起動する。「こっちこっち!」と大きく手を振って招く春月のそばへ駆けていって、「急に踊りだしちゃだめだからね」と釘をさす。

 ピ、ピ、ピ、ピ──。

 ──カシャ。




 それは思い出の1ページ。
 1枚、1枚。心の中にある思い出と寸分違わず写されたそれ。

 ──その記憶と記録でいつか、答え合わせをしよう。
 ──この時はこうだった、こんなことがあったのだ、と。

 隣にいるこの人と。いつか傍にいるであろう子どもたちと。
 大切な誓約者と、その家族と。
 この時共にいた、かけがえのない友人たちと。

 2019年9月8日。
 それは何かが『終わり』を告げた日で。
 そして何かが『始まり』を告げた日だ。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 お問い合わせありがとうございます。大変失礼致しました。
 申請された箇所の手直しとともに、全体を今一度見直しさせて頂きました。
 今度こそ幸せをちゃんと形にできたかと……大丈夫でしょうか。何か気になる点がございましたら、再びお問い合わせ頂ければ幸いです。
 それでは改めて──この度はご発注、ありがとうございました!!
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2019年11月19日

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