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『純白に赤を刻む(2)』
白鳥・瑞科8402

 白鳥・瑞科(8402)は、私室にて戦場へと向かうための準備を進めている。
 首から下を覆っている耐衝撃性のラバースーツに、特注の修道服が重なった。ボディラインをなぞるように、薄い生地が彼女の身体へと張り付く。両脇に入った深いスリットからは、ニーソックスを履いた彼女の長い美脚が覗いていた。
 肩に羽織るのは、聖女に相応しい純白のケープ。揃いの色のヴェールが瑞科の神聖さを一層高め、彼女の事をより魅力的に見せている。腰を絞り上げているコルセットには、腰回りを守るため軽量ながらも強度のある特殊な鉄が仕込まれていた。
 足元も油断せず、しっかりとした装備を。戦闘における軸である足に履くのは、ロングブーツだ。特殊な素材で作られているそれは、その丈夫さはもちろんの事、デザインにおいても瑞科のお眼鏡にかなう一級品である。
「さて、それではそろそろ向かいましょう。悪い方々には――裁きが必要ですわ」
 準備は整った。ロンググローブをはめた彼女の手が、最後に手に取ったのは一本の剣だ。
 穢れた魂を裁くのは、神ではない。「教会」のもと、神よりも力をつけたとまで言われている戦闘シスター。
 敵が今更悔い改め、懺悔したところでもはや手遅れだろう。そもそも、下賤な者の声に、彼女が耳を傾けるわけもない。
 今宵もまた、世界に悲鳴が響き渡る。聖女に裁かれる、悪しき者達の悲鳴が。

 ◆

 聖女の振るった剣が、また一体の敵を斬り捨てる。
 目的地である施設に近づけば近づく程、吹雪は荒れ狂い瑞科の視界を阻んだ。けれど、さして気にした様子もなく、彼女は自由に戦場を舞い、襲い来る敵を叩きのめし続ける。
 視界の悪い状況を利用し彼女に奇襲を加えようとしていた怪物達は、その都度返り討ちにあっていた。
 この程度の悪天候など、今まで傷一つ負わずに任務を成功に導いてきた瑞科にとっては、大した障害ではないのだろう。自信に満ち溢れた様子で歩く彼女の行く手を阻む事は、自然現象であろうとも叶わない。雪よりも純白なヴェールをたなびかせ、聖女はまた一体の敵を薙ぎ払った。
 しかし、次の瞬間、荒れ狂っていたはずの吹雪が一瞬だけ止む。暴風すらも怯ませる轟音が、耳をつんざいた。
 その巨体に見合わぬ速さで瑞科の背後へと駆けてきた大男が、彼女に向けて丸太のような腕を振り下ろす。暴力という名の純粋な凶器が、華奢な聖女の身体へと容赦なく振るわれた。
 だが、その攻撃を瑞科はしっかりと防いでみせる。その細腕のどこにそんな力が隠されていたのか、男の攻撃を剣で難なく受け止めた彼女は、余裕に溢れた笑みを崩さぬまま相手の事を睨みあげた。
 そして、そのまま敵の巨体を払いのける。彼女は瞬時に敵の攻撃を見切り、受け流すようにして自らにかかる衝撃を緩和していたのだ。
「あら、大きな図体の割に大した事ございませんのね」
 微笑と共に吐き出された瑞科の挑発に、敵は悔しげに吠えた。
 再び、相手の腕が振るわれる。人体実験により身体能力の強化された力強い一撃を、瑞科はまた何でもない様子で受け止めてみせた。
(怪物にもなりきれていない、半端ものですわね)
 罪もなき一般人ならまだ同情する余地はあるが、彼らは自らが希望して被験者になったのだとすでに調べはついている。世界を脅かす驚異になるために、自らの本来の身体すらも捨てた者達……そのような悪しき輩に、瑞科が優しくする必要はない。
 むしろ、彼女は冷ややかな瞳で敵を見やっていた。侮蔑の乗った視線が敵を射抜くと同時に、彼女の振るった剣が相手の身体を薙ぐ。
 怪物の怒声が、悲鳴へと変わる。巨体が倒れた大きな音が周囲に響き、雪原が揺れた。
 聖女はそんな相手へと見下した視線を向けたまま、呟く。
「あなた様に、救いは与えられませんわ。お眠りになりなさい」
 容赦のないその言葉は、すでに光を失っている相手には届かない。雪原に、赤色の花が咲く。悪しき魂のせいで白い雪が赤く穢れてしまった様を、瑞科はやはり冷ややかな瞳で見下ろしていた。

 この吹雪を起こしている者も、恐らくは実験の被験者だ。このまま野放しにしていれば、この冷気は瞬く間に世界中を包み込み、人々の平穏な日常は氷の中に閉ざされてしまう事だろう。
 世界を滅ぼせてしまえる程強大な敵が、この先で瑞科を待っている。
「これ以上の愚行は、たとえ神が許そうともわたくしが許しませんわ」
 だが、彼女が胸に秘めている闘志という名の炎は決して潰えない。
 荒れ狂う吹雪が強くなればなる程、瑞科の敵を必ず倒さなくてはならないという思いもまた強くなっていくのであった。


東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年11月11日

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