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『小虎と久志』
杉 小虎la3711)& 狭間 久志la0848

●最初の出会い
 SALF東京支部。狭間 久志(la0848)は受注タイプの任務掲示板を眺めていた。そこには急を要しないと判断された任務が並んでいる。市民がナイトメアをどこぞで目撃しただの、偵察任務が山奥にナイトメアを発見しただの、そうした任務が主だ。大半の任務は誰かが引き受けて持っていくのだが、一つだけすっかり放置されたままの依頼があった。
「湾の洞窟でナイトメアを見た……か」
 報告者は年端もいかぬ子供だった。その悪戯だと思われているのか、数日経った今でさえ誰も引き受けないという状態になっている。いずれは誰かが指名を受けて片づけに行くのだろうが、ただ見逃すのも忍びない。彼が任務詳細を読み込んでいると、そこへ杉 小虎(la3711)がやってくる。
「狭間師匠、おはようございますわ」
 久志の姿を認めるなり、小虎は真っ直ぐ駆け寄ってくる。思わず久志は眉を顰めた。
「し、師匠……」
 見た目こそ同年代でも、確かに中身は親と子のような歳の違いである。師匠と呼ばれても不思議ではないのだが、久志は自分がそんなガラであるとは思っていないから、どうにもこそばゆい気持ちになる。
「前も言ってるが、師匠だの先生だの、そういうのは俺のガラじゃないからやめてくれ」
「しかし、狭間師匠は間違いなく有力なライセンサーのお一人ですわ。そしてその戦い方はわたくしの目指すところの戦い方に相似しているのです。ですから、師匠は師匠なのですわ」
「はあ、そうかい」
 小虎の熱意の籠った眼差し。しかし、それをどれだけ向けられても久志は困ってしまう一方だ。彼はちらりと眼を逸らしてしまった。このままではコミュニケーションもままならない。小虎は久志の気を引こうと、自分も掲示板へと眼を向けた。
「この依頼、通報は何日もだというのに、反応は無しのつぶてなのですわね」
「そういう依頼はたまにある。俺達のタイミングが合わなかったり、あまり依頼を引き受けることが有益と思われなかったり、理由は様々にあるがね」
 好機である。小虎はすかさず久志に尋ねた。
「しかしナイトメアが出没しているという噂が本当なら、放置し続けるなどあってはならない事ですわ。狭間師、この依頼、二人で引き受けませんこと?」
「今度は師ときたか……」
 久志は携帯を取り出す。カレンダーの予定表は空っぽだ。先日の依頼でも特に怪我はしなかった。そして何より、目の前の子はどうにも危なっかしい。放っておいても勝手に突っ走ってしまいそうだ。
(今日のところは面倒を見といてやるか……)
 久志にとって、引き受けない理由はなかった。
「わかった。今日は付き合ってやる」
「ええ、お願いいたしますわ」
 笑みを浮かべた小虎は、恭しく久志へ頭を垂れるのであった。

●見かけによらず
 そんなわけで任務を引き受けた二人。準備もそこそこに、彼女達は北陸の海岸沿いの洞窟へとやってきた。切り立った断崖の陰に、小さな洞窟がぽっかりと口を開けている。小虎は崖上の集落を見上げた。
「あそこからナイトメアの姿を確認した、という事でしょうか?」
「おそらくはそうだろうな。……で、どうする、杉」
「どうする、とは?」
 小虎が首を傾げると、久志は洞窟を顎でしゃくった。
「お前が主導で引き受けた依頼だろ? お前がやりやすいようにやればいい」
 師匠扱いはされたくないが、何だかんだでライセンサーとして一日の長があるのは久志に違いない。小虎にやりたいようにやらせて、自分はそのバックアップに回る。それが最善であるように思われた。
「なるほど。そういうことでしたら、わたくしがまず先行して洞窟へ入り、索敵を行うことといたしますわ」
「その心は?」
「単純です。IMDの出力は明らかに狭間師の方が上。それならば、狭間師が戦場を自由に動き、イニシアティブを取れるようにする方がよいでしょう。そのためにも、わたくしが敵と正面から対峙して、敵の隙を作り出すのですわ」
 小虎は槌を担いで胸を張る。確かに合理的な戦術だ。久志も武器を取り出した。
「わかった。お前がそうするってんなら、任せてみよう」
「感謝いたしますわ。……では!」
 防寒着を翻した小虎は、さっそく洞窟へと飛び込んだ。

 洞窟は車庫のように単純な構造だった。しかし日光は殆ど届かず、中は薄暗い。小虎は腰にランタンをぶら下げ、槌を両手に構えたまま辺りをじっと見渡した。
「さあナイトメア。この杉小虎がお相手致しますわ。どこからでもかかっていらっしゃいな」
 彼女の叫びが洞窟の中に木霊する。帰ってきたのはナイトメアの叫び――ではなく、年端もいかぬ少女のすすり泣きの声だった。小虎は思わず息を呑む。
「誰かいるのですか?」
 帰ってくるのは泣き声だけ。小虎は眉を決すると、ランタンを掲げて奥へと足を踏み入れた。すると洞窟の奥にうずくまっている少女の姿が見えた。小虎は槌を背中に担ぎ、そっと彼女の側へ駆け寄る。
「あの、大丈夫ですか?」
 跪いて少女の顔を覗き込む。少女はすすり泣いたまま動かない。
「ふむ……」
 手をこまねいていると、急に背後で足音が響いた。小虎は振り返って槌を構える。蟷螂型のナイトメアが顎をカチカチと鳴らし、その鎌を高々と振り上げた。
「させませんわ」
 小虎は半身になって鎌の一撃を躱す。そのまま小虎は身を翻し、その横っ面に槌を叩きつけた。
「少女を誘い込んだのか、かどわかしたのかは知りませんが……成敗いたしますわ!」
 意気込む小虎。カマキリ一体程度ならばどうという事はない。自分が正面から攻撃を引き受けている間に、久志が背後から仕留めて終わりである。
「さあ、来るのですわ。この子には指一本触れさせ――」
 しかしその時、背中に焼き鏝を当てられたような熱が走った。
「なっ……!」
 完全なる不意打ち。IMDのシールドも機能せず、ダガーナイフの一閃がバッサリ小虎の背中を切り裂いた。態勢を崩した彼女は、思わずその場に膝をつく。振り返ると、ナイフの先から血を滴らせ、虚ろな目をした少女が小虎をじっと見降ろしている。
「そんな」
 まさに背後からの一撃。よもや少女に裏切られるとは思わず、小虎は動揺を隠せない。そこへカマキリも覆い被さるように襲い掛かった。挟み撃ちの攻撃をシールドで受け止めるが、彼女はじりじりと押されていく。
「くっ……」
「おい、杉!」
 その時、洞窟の暗闇から久志が飛び出した。刀を抜き放つと、振り返ったカマキリの喉元めがけて鋭く刃を振り抜いた。カマキリの首がぐらりと傾ぎ、岩の上にどうと落ちる。そのまま肉体も蹴倒し、久志はそのまま少女の下へと迫った。
「止まれ、コイツ!」
 久志は少女の手を捻り上げ、手刀でナイフを叩き落とす。それでも少女は喚いて暴れる。久志は顔をしかめると、無理矢理少女をねじ伏せた。ぼさぼさの髪の毛を掻き上げ、うなじの様子を確かめる。
「……ナイトメアに寄生されている様子は無し、か」
 彼は素早く服の襟を引っ張り、少女を締め落とす。ぐったりと動かなくなった彼女を見降ろし、ようやく久志は息を吐いた。
「大丈夫か?」
 槌を手放し、小虎はこくりと頷く。
「……助けられてしまいましたわね、狭間様」
 そのまま立ち上がろうとする。溢れた血がコートを濡らし、背中の傷がひりと傷んだ。

●新たなる縁
 気を失ったまま、少女は救急車へと運ばれていく。久志に背中の傷の手当てをしてもらいながら、小虎はぽつりと尋ねた。
「あの子はこれからどうなるのでしょうか?」
「まあ、ナイトメアに寄生されていたわけじゃないからな。メンタルケアを受ければ、もしかしたら日常生活に復帰できるかもな」
「彼女の両親は?」
「あの少女がナイトメアと結託なんて真似をしたのは、おそらく親の影響によるところが大きいだろう。親もレヴェルの可能性が高いから……そいつらの捜索もしないとな。……終わったぞ。後で医務室にちゃんと行けよ」
「ええ。そう致しますわ」
 背中に大判の絆創膏を貼られた小虎は、血まみれのシャツを着直し、久志から受け取ったコートを羽織る。今日はずっと世話を焼かれっぱなしだ。吹き付ける潮風を浴びて、彼女は深々と溜め息をついた。
「狭間様、どうすればよいのでしょう?」
「何をだ?」
「今日のようなことを繰り返していては、いつまでも強くはなれませんわ。……今よりIMDの力を高めるには、いったいどのようにすればよいのでしょう?」
「どのように?」
 だしぬけに尋ねられた久志は、ただ肩を竦めた。
「IMDの力を高めるったって、想像力がどうしたら強くなるかなんてのは、自分にゃわからん。思いの強さなんて、口じゃどうとでも言えるもんだしな」
「ふむ……」
 今日の一件が少々応えたのか、普段の高飛車な態度もすっかり鳴りを潜めている。久志は腰を落とし、小虎と真っ直ぐ向かい合った。
「だから、現実を受け入れて、自分に出来る事をできる範囲でやるべきだし、それが出来る強さの方が俺は信頼できる。……俺には教えられるものなんてのは無いが、あるとお前が思うなら、見て得るくらいは勝手にしろ」
 ぶっきらぼうな物言いでも、彼は彼なりに気配りしていた。そしてその思いは、小虎にも伝わっていた。
「……見取り稽古というわけですね。ぜひそうさせていただきますわ」
 小虎はすくと立ち上がる。
「改めてご挨拶申し上げます。わたくし、かくかくしかじかの家門の末席に名を連ねます、杉小虎と申します。これからよろしくお願い申し上げますわ」
 恭しく頭を下げると、彼女は職員達を追って道路を駆け登った。その背中を、久志は訝しげな顔で追いかける。
「……まさか杉って、あの杉か……?」
 多少戦国時代について知識を蓄えていた久志は、小虎が一廉の家の娘であると気づいてしまった。小さくなる背中を見つめて、彼は今日一番の溜め息をついた。
「……これ、1、2カ月程度で終わりそうな話じゃねーな……」
 しかしすぐに破顔する。目標に直向きな姿を見るのは、悪い気分ではない。

 かくして、狭間久志と杉小虎の奇妙な師弟関係が完成したのであった。



 終わり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
杉 小虎(la3711)
狭間 久志(la0848)

●ライター通信
 いつもお世話になっております。影絵企我です。二人の師弟関係のスタートを彩るに相応しいノベルになっていればうれしいです。何か問題などありましたらリテイクをお願いします。

 ではまた、ご縁がありましたらよろしくお願いします。

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2019年11月11日

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