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『ハロウィンバトル!・1』
水嶋・琴美8036

 水嶋・琴美(8036)は夜の街をいつもの戦闘服を着て歩いている。
(はあ……。こんな日にまでお仕事とは、ウチの組織はいろんな意味でブラックですね。しかも大勢の一般人がいる中で、戦闘服姿というのは一種の羞恥プレイでしょうか?)
 今夜はハロウィンということもあり、街には仮装している若い人々が笑顔でイベントを楽しんでいた。
 そんな中、いつもなら目立つ琴美の戦闘服はコスプレとして見られ、逆にイベントに溶け込んでいる。
 黒のラバースーツに身を包み、その上からプリーツスカートを履く。両手には編み上げのグローブ、両足は膝まであるロングブーツに足を通す。
 普段の夜の街ならば周囲にいる人々の視線を一身に集めるだろうが、今夜ばかりは例外であった。
(しかし日本のハロウィンは多種多様ですね。アニメや映画のコスプレもあれば、職業の制服もありますし。まあ見ていて飽きませんが、時々見かけるとんでもなく露出の激しい衣装は眼に毒ですね)
 若い女性達がはしゃぎながら着ている衣装は、未成年の琴美には少々刺激が強過ぎる。 
 しかも彼女達は楽しそうであるが、琴美は暗雲を背負っていた。
(今夜の依頼はハロウィンイベントに紛れ込んでいるテロ組織の組員達を一掃すること――でしたね)
 テロ組織に敵対する者達の中には、先読みの能力を持つ者もいる。その者達からの情報提供により、今夜の仕事は決まった。
 世界人類の滅亡をはかる狂信的なテロ組織は様々な術師と繋がり、とんでもない能力者を生み出している。
 彼らは姿形まで異形になってしまうこともあり、いつもなら一般人の目の前には決して現れない。悪目立ちをしてしまうからだ。
 目立てば琴美達のような者に狩られてしまう為に、闇夜に紛れて活動することが多い。
 だが今夜は異形でも目立たない特別なイベントが行われる日、暴れるにはちょうど良すぎるイベントなのだ。
(だからと言って、イベントを中止すれば一般人の楽しみを奪うことになりますからね。私のような者達が、逆に暗躍する日だなんて皮肉です)
 しかも厄介なことに、指名手配書が出ていないテロリストも現れるそうだ。顔も能力も分からない敵を相手にするほど、面倒なことはない。
(とりあえず一般人に害を与える者を何とかすれば良いだけなんですけど……。それってテロリスト以外の者の相手もしなきゃいけないんでしょうか?)
 街には警備隊が配置されているとはいえ、この人の多さでは手が回らないだろう。
(まあテロ組織ばかりが私達の敵ではありませんしね。純粋にハロウィンイベントを楽しんでいる一般人を守るのも、仕事の一つでしょう)
 琴美は一人で動いているように見えるが、実は仲間達もコスプレをして人ごみの中に紛れ込んでいた。
 その中には調査に優れている者や、幻覚などを人に見せる能力者がいる。いざという時、琴美の動きを人々に不審に思われない為のサポートが付いているのだ。
(さすがに武器が敵に当たって血がブッシューと飛び散ったら、匂いと感触で本物とバレる可能性がありますからね。ありがたいサポートです)
 この人の多さでは近距離の戦いが求められる。最低限・最小限の動きで敵を仕留めなければならない。
(はあ……。まあただうろついているだけでは不審がられるので、時々はお店で何かを買ったり飲んだり食べたりして良いというのが救いですね。獲物を狩る為にうろついているだけなんて、敵と同じ目的になってしまいますし)
 その分の資金も提供されているので、琴美は周囲をキョロキョロと見回す。
「ハロウィンの食べ物って見た目はちょっと派手なものが多いんですけど、美味しそうなんですよね」
 お化けカボチャ柄やガイコツ柄もあれば、魔女の指と呼ばれるお菓子や目玉を模したお菓子もある。
 今の時期限定でしか見られない食べ物や飲み物を見て、ついつい年相応の好奇心が疼いてしまう。
「あっ、パンプキンスープが美味しそうです。お化けカボチャの小さなパイが浮いているのが良いですね」
 屋台で売られているパンプキンスープを買うと、近くのテーブルとイスのセットに座る。
 琴美の耳には金色の三日月型のイヤリングがあるが、実は通信機。スープを味わいながらも、仲間の連絡に耳を傾けていた。
(今のところは問題無しですか。今回の敵はできれば血がブッシューとかは遠慮したいですね。素直に灰にでもなっていただければ、後始末が楽なんですけど)
 パンプキンスープを味わう楽しそうな表情とは裏腹に、考えていることは仕事のことのみ。
 時折歩いている人々が琴美を見てポッと顔を赤らめるので、琴美は営業スマイルを浮かべて軽く手を振る。
(はあ……。でも問題は敵以外にもあるんですよね)
 パンプキンスープを飲み終えた後、食器を屋台に返して歩き出した琴美に、デジカメやスマホ片手に若いコスプレイヤーが近寄って来た。
「あっあの、一緒に写真を撮ってもらえませんか?」
(ああ、また……)
 心の中でガックリと肩を落とす。
ハロウィンイベントが行われている街を歩き出した時から、大きな悩みを抱えていたのだ。
 それは自分がハロウィンイベントに参加しているコスプレイヤーに見られるのは計画の内だから良いものの、一般人はそんな琴美の姿を見ては一緒に記念写真を撮って欲しいと寄ってくる。
 なので、あらかじめ用意していた断りの言葉を言った。
「すみません。これからお友達と会う約束がありまして、急いでいますので失礼します」
 笑顔で丁寧に言いながら、少し足早にその場を去るのだ。
 一般人では追いつけないほどの足の速さを誇る琴美は、一定の距離を取った後は普通の歩みに戻る。
(これで5組め……。男性1組、女性3組、子供1組。みなさん、純粋に言ってくれているので心が痛みますね)
 琴美よりも露出が激しいコスプレをしている女性が多いので、単純に一緒に写真に映りたいという気持ちから言ってくれているのが分かる。
 だが仕事としてここにいる琴美が、一般人の写真に映るわけにはいかない。


<続く>



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名をしていただきまして、ありがとうございます。
 ハロウィンならではのストーリーを、お楽しみください。



東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年11月11日

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