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『ハロウィンバトル!・2 』
水嶋・琴美8036



 水嶋・琴美(8036)は心の中でため息を吐いたが、ふと数メートル先の光景に気が移る。
黒づくめの服装をしている中年の男性が、口の開いたハンディバックを持っている若い女性に少しずつ近付いているのだ。
 女性は派手なコスプレイヤーに目を向けていて、自分が腕に抱えているハンディバックに気を付けていない。ハンディバックの口からは、財布らしきものがチラチラと出ているのだ。
(……これはまた、ベタな犯罪ですねぇ)
 琴美はスッと表情を引き締めると、再び足早で歩く。
 すると男性は女性とすれ違いざまに財布をスッと抜き取り、自分の上着のポケットへ入れる。
 しかしその男性と琴美がすれ違った後、琴美の手にはその財布があった。
(スリはいけませんが、女性にも隙があり過ぎますね)
 数メートル歩き、ハンディバックを持った女性の肩をポンポンっと軽く叩く。
「あの、コレあなたの財布ではありませんか? バックから落ちましたよ」
「えっ? あっ、すみません!」
 女性は自分のバックと財布を交互に見ると、琴美にペコペコと頭を下げながら受け取る。
「貴重品が入っているならば、自分の前にバックを持って抱えた方が良いですよ」
「はい、そうします」
 女性は少し落ち込みながらも、琴美に言われた通りバックを持って去って行く。
 後ろの方では、琴美の仲間達がさりげなくスリを連行していくのが目の隅に映る。
(コレも仕事です)
 ヤレヤレと肩を竦めながらも歩みを進める琴美の目の前で、次の事件が起きようとしていた。
 露出が激しい小悪魔コスプレをしている女性達の近くを、一人の若い男が近付いて行く。
 男は普通の服装をしているが、その手にはスマートフォンが握られていた。
 それだけならばハロウィンじゃなくてもどこにでもある光景の一部に見えるが、琴美の動体視力はスマホの画面を捕らえる。
(動画機能を使っているようですね)
 こういったイベントでは撮影は撮る者と撮られる者の間に合意があれば良しとされているが、一方がダメであれば許されざる行為となる。
 小悪魔のコスプレをしている女性達のミニスカートは少し前かがみになっただけでも、中身が見えそうなぐらいに短い。
(恐らく見せパンを穿いているんでしょうが、それでも勝手な盗撮は許されざる行為です)
 若い男は動画機能のままそれとなくスマホを下げると、女性達のすぐ側に寄る。
 女性達は各々スマホで自撮りを楽しんでいるので、背後に近付く男の存在に全く気付く様子はない。
「まったく……」
 呆れたため息を吐くのと同時に、琴美の手にはどこから取り出したのか細身のナイフが握られていた。
 琴美は一般人の目には捉えられない速さで、ナイフを男の手に向けて放つ。
「いたっ!」
「きゃっ!? すっすみません! うっかり手から飛んじゃいました!」
 琴美は少々わざとらしい慌てっぷりで、男と女性達の元へ駆け付ける。
 男の手に当たったのは模造ナイフで、刃など無いから当たればただ痛いだけ。なので男は思わずスマホを地面に落としてしまったが、慌てて拾い上げる。
「スマホ、大丈夫でしたか?」
 屈みながら心配そうに男に声をかけると、小悪魔コスプレをしている女性達が何事かと振り返った。
「あっああ……、大丈夫だ」
 男は気まずそうにスマホを上着の内ポケットに入れようとしたが、その手を琴美はガシッと掴む。
 見た目からは想像すらできないほどの強い力に、男はギョッとして琴美を見上げる。
「今回は見逃しますが、次はありませんからね?」
 女性達からは聞こえないほどの小さな声で忠告すると、にこっと微笑みながら琴美は手を離す。
 男は慌ててその場から立ち去った。
 女性達がポカーンとしている中、琴美は立ち上がって再び歩き出す。
(悪いことをしようとする人が百パーセント悪いと言えないのが、こういったイベントの問題ですね。被害者側にも問題があるように思います)
 声無くため息を吐きながらも、琴美はイベントを続ける街を歩く。


琴美はその後、ハロウィンイベントをそこそこ楽しみながら、時々は軽い事件を解決していた。
(慣れとは恐ろしいものですね。何だか普通に楽しくなってきました)
 お化けカボチャ柄のりんご飴をかじりながら、琴美はすっかり馴染んでいる。
 人外との戦闘に慣れている琴美からすれば、人間が起こす事件などお遊戯みたいなもの。
 今も少し離れた場所で酒で酔っ払った男達がケンカをはじめようとしているものの、念動力で風を起こして埃を巻き上げて中断させた。
(テロ組織の情報は今のところ、入ってきませんね。私が当たらないだけかもしれませんが……)
 今回は大勢の人間が関わっているので、琴美には最低限の情報しか入ってこない。
 混乱を抑える為ではあるが、一時間以上経っても何も起こらないのが逆に胸騒ぎを起こすのだ。
(このまま何も起こらない――というのは楽観的な考えですね。先読みの能力者の情報が間違うわけがありませんし)
 そしてその予感はすぐに的中する。
 イヤリング型の通信機から、仲間の連絡が入ったのだ。
 とある人物の特徴を聞いた琴美はりんご飴を食べ終えると棒をゴミ箱に入れて、目標へ向かって歩き出す。
(聞いたところによると、最悪の敵が現れたらしいですね。一般人に被害が及ぶ前に、何とか見つけなければ……!)
 少しだけ慌てながら周囲を見回し、注意深く目標を探す。
 すると広場で特徴と一致する人物を発見した。
 腰まで伸びた白髪を後ろで一つに結んでいる、20代から30代ほどの青年。丸メガネをかけていて、長身で細身。黒い神父の服装をしているが、胸元にかけているのは金の逆十字架。そしてその背には、人一人が入る棺桶を背負っている。
「……まさに【ゾンビ使い】そのものですね」
 【ゾンビ使い】は存在自体が危険視されており、テロ組織の者じゃなくても見過ごせない術師だ。
(さて、長距離や中距離攻撃では周囲の人に当たる可能性があります。イヤですけど、近付くしかないですね)
 心の中で盛大なため息を吐いた後、琴美は青年へ近付く。


<続く>



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご依頼していただきまして、まことにありがとうございます。
 ハロウィンならではのストーリーを、お楽しみください。


東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年11月11日

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