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『ハロウィンバトル!・3』
水嶋・琴美8036

「こんばんは。良いハロウィンですね」
「……ん? ボクに話しかけているのかい?」
「ええ、もちろん。――【ゾンビ使い】さん」
 水嶋・琴美(8036)が微笑みと共に語り掛けると、青年はニコッと人懐っこい笑みを返す。
「キミは優秀だねぇ。ボクのコレクションの一つにしたいぐらいに美しいし」
「ありがとうございます。ですが遠慮させていただきます」
 会話をしながらも、琴美の両手には銀製のナイフが握られる。そして青年へ向けて振り下ろした――が、当たらなかった。
 青年が背を向けた為に、ナイフは棺桶に当たって弾かれたからだ。
「あいにくとボクは戦闘向きじゃないんだ。キミの相手はこのコがするよ」
 棺桶はギギギッ……と軋んだ音を立てながら開き、中身が広場の眩しい街灯に照らされて浮かび上がる。
 そこに入っていたのは、琴美と同じぐらいの身長の者。コウモリのような黒い二枚の羽で全身を覆い隠していたが、棺桶の扉が開かれたことによってバサッと風を起こしながら羽を広げて飛び出て来た。
『ギィッ……ギギギギギィ!』
「……何ですか、コレ」
 突然現れた者で、琴美の思考は停止寸前にまでなる。
 金色のウェーブした長髪が美しい十代後半ぐらいの美少女の顔には、魔物の証のような赤紫色のギラめいた爬虫類の両目。大きく裂けた口からは、生えそろった犬歯が見える。そして首から下は緑色のトカゲの胴体、両手と両足にはそれぞれ5本の指から巨大で鋭い凶器のような爪が生えていた。興奮しているのか、一メートルほどの尻尾が地面をバシンッバシンッと叩いている。
(あっ、思い出しました。【ゾンビ使い】は何も人間をゾンビにするだけではなく、魔物の一部を取って付けるということもできるんでしたね)
 意識が遠のきそうになるのを必死に堪えて、琴美は現実に戻る。
 コウモリの羽を背に持った人面トカゲなど見たことも聞いたこともなかったが、ゾンビと言うよりキメラと言った方が正しいのかもしれないと琴美は思う。
「可愛いだろう? ここまで成長させるのに手間も時間もお金もかかったんだ。はじめて人前に出るんで興奮しているよ。キミの良い遊び相手になると良いね」
 青年はまるで他人事のように言うと、空になった棺桶を地面に置く。
「そうですね。まずは私の相手をしてもらいましょうか」
 周囲にいる人間をむやみに攻撃されるよりも、まずは自分と戦えば被害は少ないだろうと琴美は考えた。
「そうだね。それじゃああのおねえさんに遊んでもらいなさい」
 青年が人面トカゲの肩をポンっと叩くと、すぐに琴美に両手の爪を向けて走って来る。
「結構素早いですね!」
 琴美は両手のナイフを持ち直すと、そのまま人面トカゲへ向けて放つ。
 しかしナイフは爪によって弾かれてしまい、地面に落ちた。
 間近に迫って来た人面トカゲを、琴美はロンググローブの踵を地面に強く打ち付けて銀のナイフをつま先に生やして蹴り上げる。
「はあっ!」
『ギャッ!』
 琴美の蹴りは、人面トカゲの顔を切り裂いた。魔物に殺傷効果がある銀のナイフの攻撃を受けて、人面トカゲの傷は紫色の血と白い煙を出す。
(人間の部分を傷付けるのは、いささか心が痛みますね――っと!)
 心でそう思いながらも、続いてもう片方の足に同じように銀のナイフを生やして蹴りをする。
『ウギャアッ!』
 今度は首を切り裂くと、人面トカゲは後ろに傾く。
 仲間が幻覚を周囲の人々に見せているので騒ぎにはならないが、それでも琴美は不快さを感じている。
「死んだ人間の一部を使ってゾンビにするとは……。良い趣味とは言えませんね」
「ボクは生まれつき備わった能力を使っているに過ぎないよ。ある意味、キミと同じだと思うけどね」
「救いがないあなたと一緒にしないでくれます?」
 街路樹に寄りかかりながら戦いを眺めている青年を睨み付ける。
 青年がさっき言った通り、このゾンビは生まれてはじめて琴美のような能力者と戦っているのだろう。
 恐ろしい外見はしているものの、操られているだけの存在だと思うと不憫でならない。
 ――しかしそんな同情をしている間に、ケガが見る見るうちに治っていく。
(近距離戦では致命傷を与えられませんね。――やはり頭を潰すか、肉体全部を破壊しなければ)
 【ゾンビ使い】は1体しか使役できないものの、その分、一般的なゾンビよりも強化されている。
 こちらは一撃必殺の技を出さなければ消耗戦になり、体力がある琴美は時間が経つにつれて不利になっていく。
 新たな銀のナイフを両手で持ち、ロンググローブの二本のナイフと合わせて、4本の銀の刃を振るう。
 しかし急所の頭は強化されているようで、銀の刃が当たるとトカゲのウロコが出現してすぐに完治するので傷一つ付かない。
「美しいね。銀の刃の残光が舞い散り、まるで戦の踊りのようだ」
「それはどうも!」
 いくら切り裂いてもすぐに回復する。底が見えない回復力は、琴美の背筋に冷たい汗を流す。
 だがその時、通信機から連絡が入った。仲間から、準備が整った――とのこと。
 仲間がカウントダウンをはじめたので、琴美はそれとなく人面トカゲから距離を取る。
 そしてゼロになった時、空に数多くの花火が打ち上がった。突然のことだったので、誰もがそちらに意識を向ける。
――そう、前もって仲間から知らされていた琴美以外は。
 琴美は人々の視線が花火へ向かう中、静かに地面を蹴って飛び上がり腕を伸ばす。ヒュンっと風を切る音がしたかと思うと、次の瞬間には琴美の手に全身銀の槍が握られていた。
 槍頭が三角錐状で、長さは1メートルほど。琴美は落下の勢いを加えて、人面トカゲの頭めがけて槍を振り下ろした。
「やあっ!」
 ドスッと刺さった槍頭は脳の半ばで止まるも、そこでボンっと爆発が起きる。
 人面トカゲの頭は爆発して無くなり、そのまま肉体は後ろに倒れると同時に黒いモヤとなって消滅していく。
「はあ……。助かりました」
 仲間が特注して作った槍は、対ゾンビ用の武器だ。しかし槍頭は普通の人間にうっかりでも当たれば傷付ける為に所持することは不可能だったが、琴美がゾンビと対決しているのを知ってすぐに取り寄せてくれた。
 ゾンビが消滅していくのを見届けた後、琴美は青年の存在を思い出す。
「はっ!? あの青年は?」
 慌てて街路樹に視線を向けてもすでに時遅く、青年の姿はどこにも無かった。それどころか棺桶までも消えている。
「〜〜っ! 戦闘向きじゃないと言ったわりには、お早い逃亡でしたね」
 痛むこめかみを指でグリグリと押しながらも、夜空を彩る花火に視線を向けた。
「――弔いの花火は日本ならではです。……こういう夜も、悪くはないのかもしれません」
 少しだけ切なげに笑いながら、琴美は再び人の中を歩き出す。


【終わり】



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 このたびはご指名していただきまして、まことにありがとうございました。
 ハロウィンならではのストーリーはいかがでしたでしょうか?
 いろいろな事件が起こりましたが、それも含めて楽しんでいただければ幸いです。



東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2019年11月11日

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